第六章 待ち受ける戦い
第六章 待ち受ける戦い
「………ゾウス、カトラ、ゼフィス」
マークが静かに言った。
「事は急を要す。俺達に出来ること………それは刹那とファロンを止めることだ」
「しかし、手掛かりも痕跡もなにも無い以上、分かれて出来るだけ早く見つけるのが妥当だろう。
連絡は精霊から教わった意識を相手に伝えるテレパシー、トゥントと言うものを使う。
ファロンが裏切ってからも俺達についてきてくれる仲間にもやり方は伝えたし、もう全員が使えるはずだ。
一人で情報を集めるのも良いし、他の仲間と一緒に情報を集めるというのも良い。
それと緊急集結用には精霊がくれた集結用の道具、トレーションを使う。一回しか使えないからあくまで緊急用だ、分かったな?
トレーションを使えば俺のいる場所へ瞬間移動することが出来るから何かあったら俺から全員へ伝達する」
マークはトゥントを使って仲間全員に言った。
「あと、腕に自信がある者は今すぐにトレーションを使え」
マークが最後にそう付け加えると十六人がトレーションしてきた。
「これだけだな―――――では、全員刹那の情報を集めろ!何かあったら必ずトゥントしろ!」
マークの号令のあとトゥントで全員が「はっ」と言ったのが聞こえた。
「よし、ゼフィス達も俺についてこい。奴は俺達の仲間を何人か引き連れて、基地や拠点を作っているはず。
刹那だけが脅威なわけではない、その他の敵の勢力も恐ろしい物だ。
俺はそれを叩くつもりなんだ。だから戦力は多い方が良い」
そう言った後にマークはハッとしたようにまたトゥントをした。
「一つ言い忘れたが、この中にファロンのスパイが居てもおかしくない。不審に思った場合は俺に連絡するように」
誰からも返事はなかった。だが、全員それはマークに言われる前から分かっていたからだろう。
「さぁ、まずは………大きい勢力から叩くぞ」
「大きな勢力か………思いつくのはディスの軍とテンのデスハーツですね」
男が自分の顎髭を触りながら言った。
「ああ、しかしデスハーツは人数が多すぎる。この20人で行っても分が悪い………つまり、最初はディスだな」
「そのことだがマーク、デスハーツは幻影の町ファリオを襲う計画を立てているらしい」
ゼフィスが仲間から届いた手紙を出した。
「何故そんなことが分かった?」
マークが不思議そうに訊いた。
「………それが、マルス達を見張っていた者からの連絡でな。ファリオにマルスとテンが居るのを確認したらしい」
「それが本当だとしたら奴等は必ずぶち当たっているだろうな。―――――共に戦えれば………いいのだが」
そう言うマークの顔は真剣な顔をしていた。
「………方角は同じだぜ?」
ゾウスが地図を広げて言った。
「なら………行くか、奴らの元へ」
「さてと、最初の任務だ。これから俺達は………マルスの元へ行き、共にテン達を倒す。ゼフィス、見張りに"今からここへマークが来る。
それまでこの町に居ろ"と伝えさせろ。そして俺達はファリオまで走って行く」
「は、走る?ここからファリオまで………ざっと54キロはありますよ!?」
兵士が驚いて言った。
「付いてこられないなら置いていかれるぜ?マークはノンストップで走るだろうからな」
ゾウスが苦笑いして言った。
「む、無理だ………そんなの………」
「私は行けるぞ。走るわけじゃないがな」
不安一つ顔に浮かべずに女が言った。
「お前の名前は?」
今まで興味が薄かったマークが突然会話に入ってきた。
「私の名はルジェンだ。それよりマーク、早く出発しよう」
「ふっ………面白いな、気に入ったよ。さてと、ルジェンの言う通り出発するぞ」
リュックを背負うとマークは城を出た。
それに続くようにルジェンや他の兵士、ゼフィス達が飛び出した。弱音を吐いていた男も渋々に付いてきた。
「さてと………」
ルジェンは杖を手に取るとその上に乗った。
「トゥインクル・ヒュームアス」
ヒュオッという音と共に杖と、杖に乗るルジェンの体が浮き上がった。
黒いマントを靡かせてルジェンは笑みを見せた。
「ほう?なるほどな………しかし、その呪文は光術ではないな?」
マークが珍しそうに言った。
「そうだ。これは人間が恐れている魔女の力だよ」
どこか悲しげな様子でルジェンは笑みを作って見せた。
「………その話はまた聞かせて貰うよ。それに少なくとも俺は恐れてないぜ、その力………」
マークは微かに笑った。
「さっきからマークはなんだかルジェンに興味があるみたいね」
声を潜めてカトラが楽しそうに言った。
「好意でも抱いて居るんじゃないのか?」
ゾウスも声を潜めて言った。
「何か言ったか?」
マークは空飛ぶルジェンをジッと見つめながら鋭い声で言った。その様子をルジェンはクスクスと笑って見ている。
気に入らない様子でマークは辺りを睨み付けると出発の号令を掛けた。
流石、というか―――――楽そうだな。慣れた様子で辺りを見回しながら杖に乗るルジェンを見ながらマークは走り続けた。
辺りは荒野で枯れ草くらいしか生えていない。魔物が居ないのも環境が環境なだけに移住でもしたのだろう。
しばらくの間誰もが口を開かなかったが、ハッとしたようにルジェンは呪文を唱えて急上昇した。
「止まれ」
皆が止まったのを確認すると、マークは思い切り地を蹴り高くまで飛び上がった。
しばらくの間ルジェンの視線の先を見ていると、ルジェンがこちらを向いて微笑んだ。少し顔を赤くしてマークは着地した。
「飛び上がったくらいでは見えるはずもなかろう」
嘲笑するかの様に笑うと、ルジェンはゆっくりと着地してマークを見つめた。
「な、なんだ?」
先程より顔を赤くしてマークが言った。その様子にルジェンは気が付いたのか更に顔を近付けた。
マークのすぐ前にはルジェンの顔があった。もうルジェンしか視界に入らない。
思わず顔を背けて飛び退くと、ルジェンはさっきとは違う笑みを浮かべてこちらを見た。他の者もうっすらと笑みを浮かべてこちらを見ている。
咳払いしてルジェンに何が見えたかマークが訊くと、3km先に人影が見えるとのことだ。
「できればこのまま走り続けたかったのだがな。まったく、嫌なところで足止めさせられる」
マークは舌打ちして愚痴をこぼした。
人影がデスハーツ達だとこちらも色々と面倒だ。ということでマーク達はしばらく様子を見ることになった。
「気に入らんが、今日はここで野営だ。カトラと他三名は見張り、俺とルジェンは偵察に行く。後は交代で見張れ」
マークがそう言って目を見開いた瞬間に今まで吹いていた強い風が止んだ。そして突然ビュッと突風が吹き、マルスは走り出した。
「は、早い………」
兵士がぼやいた。他の兵士もゴクリと唾を飲み込んだ。
「では、私も行ってくる」
ルジェンはそう言って杖にまたがるとあっと言う間にその場を後にした。
「あの二人なら大丈夫でしょう。さ、見張り以外は早く寝なさい。場合によっては明日戦闘になるわ」
カトラが静かに言った。
その言葉を合図に三人の兵士と、カトラ以外がテントに入った。「長い夜になりそうね」心でそっとカトラが呟いた。
風の力を借りて走力を上げたマルスは一瞬にして足を止めた。その後ろからはゆっくりとルジェンが降りてきた。
「奴らも眠っているようだな。見張りは………二人か」
マークがヒソヒソと小さな声で言った。
「二人なら音を立てずに殺れるぞ」
ルジェンの金色の瞳がキラリと光った。
「気絶させることは?」
剣の柄に手を掛けてマークが言った。
「簡単だ。今すぐにでもできる」
ルジェンはマークの返答を待った。
ゆっくりとマークが頷いたのを確認するとルジェンは笑みを浮かべたまま地面へと消えていった。
数十秒後、微かな音と共に見張りの姿が視界から消えた。
「終わったぞ」
突然の声に慌てて振り向くと綺麗な茶色い髪を風に靡かせ立っているルジェンが居た。
マークはその姿にしばらく見入ってしまった。
「ん?」
ルジェンが小首を傾げて不思議そうにこちらを見ている。
「………いや、何でもない」
軽く笑って返すと、誤魔化すようにマークは敵の様子を再び窺った。先程と何も変わった様子はない。
「見張りはおそらく一週間は起きられないだろう。―――――横に座ってもいいか?」
ぎこちなくマークは頷いた。向こうに深い意味はないのだろうが、何というか変な気分だ。思わず頬を赤くしてしまう。
(俺も……………この組織に入ってからは初めてだな………こんな表情しているのは………)
マークがファロンの組織に入ったのは5年前、12歳の時だ。マークは水精が住む都と呼ばれる程の港町に住んでいた。
一日に何百人と人が訪れるとても活気のある町だった。毎日も楽しかったし、友もたくさん居た。
両親も優しかったし、お金にも困らなかった。人々の理想その物だったのだろう。しかし、悲劇は突然マークを襲った。
それはマークが町から離れた森の中にある湖へ釣りに行っていた時のことだった。いつもは必ず釣れていた魚が一匹も釣れなかったので、
そろそろ帰ろうと思って立ち上がったその時だった。辺りに爆音が轟いて、光りの柱が町から伸びているのをマークは見た。
釣り道具をそのままにマークは町に向かって駆けだした。
森から出た頃には光りの柱は消えていた。
そして、そこにはもう活気付いていた町の姿はなく、残ったのはぽっかりと空いた大穴と不気味な笑みを浮かべる男が一人立っているだけだった。
『まだ、生き残りがいたか………』
男は笑みを浮かべてマークに左手を向けた。
足が竦んで動かない。このまま殺されるのか?そう思ったとき、男は手を下ろした。
『………せめてもの慈悲、生かしてやろう』
そう言って男はどこかに行ってしまった。
マークは大声で泣いた。何も出来なかった、町を破壊した男にパンチの一つも。
悔やんでも悔やんでも誰一人としてマークの他に生き残りは居なかった。
それから3日が経ち、マークの元へ男が来た。それがファロンだった。
ファロンは泣き疲れたマークに手を差しのべた。
『俺と世界を平和に導こう』
マークはファロンの手を取った。
それからマークは町を破壊した男を捜すと共に世界を平和に導くつもりでこの間までやってきた。
(しかし、そのファロンさえも俺達を利用していた)
そんなことを考えると顔が強ばる。
「………ルジェン………奴らが何者か確かめてもらえないか」
「分かった」
そう言うとルジェンはまた地面に消えた。見るのは二回目だが、なんというか不思議な感じだ。
数分するとルジェンが戻ってきた。
「悪いな」
マークはルジェンから紋章を受け取った。
「別にいいさ。それよりその紋章はデスハーツの物じゃないのか?」
マークの持つ紋章を見つめてルジェンが言った。
「そうだ。ここで潰した方がいいかもな」
マークがじっと紋章を見つめた後に言った。
「なら、仲間を呼んできたほうがいいだろう。しばらく待っていろ、私が呼んできてやる」
そう言うとルジェンは杖に跨り、地を蹴ると飛んでいった。
数分後、ルジェンがゼフィス達を連れてきた。彼等は既に武装している。
「攻めるなら今しかないだろう。敵は眠っているようだし」
鎧をつけている兵士が言った。
「あら、自信満々ね。さっきはおどおどしていた癖に」
カトラがクスクス笑いながら兵士をからかった。兵士は顔を赤くしてカトラから離れていった。
「攻めるか、それとも突っ切るか」
ゼフィスがマークの側で呟いた。
「どちらも良策とは言えないな。攻めれば敵に気付かれる、無視してここを抜ければ気付かれたとき挟み撃ちに遭う」
マーク達の目的はあくまでテンとディスを討つことであって無駄に敵の兵士を殺す気は無かった。
それ故、できるだけ気付かれたくはなかったのだ。
「いくなら早くいこう」
兵士が次々と言った。
「とはいっても、結構大きい野営だぞ?実力者も居るはずだ。奇襲で死んだら元も子もない」
ほっそりとした男が言った。男は柄の部分に綺麗な装飾が施されている剣と平たく横に大きい短剣を持っている。
「ルスカ、双剣使いのお前なら楽勝だろ?」
「それはどうだろうな。とにかく、もう少し冷静になれ」
ルスカの存在は兵士をまとめるためにはもってこいだった。ゼフィスと同じほどの冷静さ、そしてその強さはマークからも認められていた。
「ふふ、バカ共め。我々が気付かないとでも思ったか?」
その声に全員が反応して、咄嗟にマークが口笛を吹くとあっと言う間に全員が剣を抜いて散らばった。
寝ていたはずの敵は全員テントから武装した状態でこちらへ向かってきた。
「何人いやがる!」どこからか兵士の声がしたが、確認できない。もはや武装した敵を倒すので全員が精一杯のようだ。
「麒雷」
ルスカが双剣を振るうと放電音が起こり、その後に何人もの兵士が絶句して倒れていった。
だが、その内の一人はダメージが少なかったらしくルスカに向かって走り出した。
「あぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
「何………!?」
ルスカが気付いたときにはもう攻撃を避けられる距離ではなかった。
長刀を持った男が敵を薙ぎ倒した。
「間一髪だな。お前のことだから手加減しているだろうと思ったぜ、ルスカ」
男がルスカの側へ来て言った。
「レオラか………余計なことを」
ルスカが皮肉たっぷりに言った。
「はぁ?あのままだったら死んでただろうが」
少し怒った様子でレオラが言った。
「ふん………そんなことよりも、敵が来るぞ」
ルスカの言うとおり、さっきとは比べ物にならないほどのたくさんの敵がこちらへ向かってきた。
レオラは舌打ちすると長刀の先端の月の様な形の刃を取り外すと、新しいモミジの形をした刃を装着した。
「紅葉刃―――――複数戦闘用だ」
そう言ってレオラは長刀を敵に向かって振り下ろした。暴風が巻き起こると、ほとんどの者が吹き飛び、鎌鼬で切り刻まれた。
もはや起き上がれる者は数人しかいない。
「紅迅裂風―――――ふふん、どうだ?」
レオラが得意げに長刀をクルクルと回す。
「その程度で威張るんじゃない―――――麟雷」
双剣を逆手に持つと剣に光術の力を込め、思い切り振り上げた。
するととてつもなく大きい雷が双剣から放たれ、レオラの攻撃を受けても立ち続けている者達に襲いかかった。
目がくらむほどの閃光が走ると敵は痙攣しながら倒れた。
無言のまま悔しそうにその威力をまじまじとレオラは見つめた。
「ふ〜ん、20人全滅か………」
倒れた人を踏みつけながら一人の男が歩いてきた。
「お前………誰かは知らないが、人を踏みながら歩くってのは良い度胸だな」
レオラは冷静な目で男を睨み付けた。
「負けたこいつらはゴミ同然さ。踏みつけて何が悪い?」
男は笑みを浮かべて、近くに居た者を踏みつけた。
「お前………」
レオラは先程の月の形をした刃に付け替えるとスッと姿を消した。
「月永瞬斬」
消えていたレオラは男の背後に姿を現した。その瞬間男の体は真っ二つに割れた―――――だが、そこにあったのは割れた木だった。
「甘いね、君は」
ゴツッという鈍い音がしてレオラの体は力無く崩れ落ちた。
ゆっくりと男はルスカの方を向いてニヤッと笑みを浮かべた。
「麟雷」
雷は命中したのだが、そこにはやはり男の姿はなく焦げた木しかなかった。
「そこだっ!―――――影切………続けて、舞桜」
麟雷を放った後にすぐさま振り向いて双剣の長い方で切り上げ、短刀で連続して斬り付けた。
男は姿を現し、小さく悲鳴を上げて飛び退いた。
「ぐふっ………はぁ。やるね、でも………よく分かったね」
血を吐いて苦しそうにしながら男は言った。
「分かるもなにも、同じ手で俺を倒せるとでも?」
「ふふ………まぁ………雑魚にようはないさ………」
「雑魚?お前のことか?」
ルスカが嘲笑った。
「調子に乗るなよ………僕を誰だと思っている?トランスだぞ!?」
男が胸を張って言った。トランスと言えばディス軍の三将の一人だ。冷徹な考えしか持たず、仲間でさえすぐに見捨てる。
「だからどうした?」
なんと言われようがルスカは冷静だった。第一、実力差は明かである。今更名が明かされても実力が上がるわけではない。
それに腹を立てたトランスは突然走り出した。
剣と剣のぶつかる音がして、トランスは吹き飛んだ。トランスは何が起きたか分からずただ呆然としている。
「風迅斬」
ルスカがそう言った瞬間、トランスの傷がまた一つ増えた。
「これで将か・・・呆れて物も言えないな」
「く………はぁッ………僕がまけ………!?」
ルスカはトランスに最後の一撃を与えた。もうトランスが起き上がってる気配はない。
「そうだ、お前が負けたんだ」
ルスカは双剣を鞘に収めると捨て台詞を吐いて、レオラを担ぎ後退した。
ゼフィスとゾウス、そしてマークは向かってくる敵を凄まじいスピードで敵を倒していった。
「こ、この三人でたらめな強さだぞ!退け、退けぇ!」
敵の兵士が大声で言った。
「雑魚なのにこっちへ来るのは自殺行為だ」
ゾウスはサーベルで次々と敵を切り倒して行く。そのサーベルは的確に敵の急所を突いていった。
「………勝てる見込みもないのに突っ掛かってくるんじゃない」
誰もが見とれるほどの剣術でマークは次々と敵を倒していく、マークの剣術に適う者は一人もいなかった。
「掛かってきた者には容赦しないと何度言わせる?」
光術で無数の隕石を操り、ゼフィスが襲いかかってくる敵めがけて隕石を落としていった。
「………まったく、だからやめろと言ったのに―――――これ以上部下を傷付けさせない、僕がお前達を殺す」
突然の殺気に三人が男の方を向いた。
「ようやくマシな奴が来たか」
ゾウスがサーベルの血を布で綺麗に拭き取ると言った。
「―――――お前は勘違いをしている。俺達はこちらへ向かってきた敵を倒したまでだ。三将のウェインさん」
「それは認める―――――が、ただ部下を攻撃するのをただ見ているのもね」
「………なら掛かってこい、殺しはしないから」
ゼフィスとゾウスは耳を疑った。あの慈悲無きマークが言う言葉ではない。
(マークはファロンが裏切ってから変わった。いや、本来のマークがこれなのかもしれない)
ゼフィスもゾウスも同じことを考えていた。
「ゼフィスとゾウスは………各兵士の援護を」
「あぁ、任せろ」
ゼフィスはそう言って走っていった。その後を追うかのようにゾウスが走っていった。
「さぁ、始まりだ」
お互いが地を蹴って剣を振るった。剣と剣がぶつかり、腕に衝撃が走る。
歯を食いしばってウェインを押し返した。
「はぁっ!」
怯まずにウェインは剣を振るってマークに傷を与えた。
それをすぐに光術で治すと中級光術をマークが乱射した。
爆音が轟き、ウェインは爆風で吹き飛んだ。そこへマークが吶喊した。
血飛沫が飛んで、ウェインが崩れ落ちた。あっと言う間に勝敗が付いたかに思われたその時、ウェインは立ち上がった。
「く………この程度の傷でっ!………」
口から血を流し、出血が多いせいか微かに体が震えている。
(血を流しすぎた………くそっ………目眩がする………)
「致命傷だ。動かない方が良い」
ウェインを見つめてマークが言った。そしてウェインに見切りを付けると剣を鞘に収めた。
「はぁ………まだ………だ!」
蹌踉めきながらもウェインは再び剣をマークに向けた。
マークは舌打ちするとあっと言う間にウェインの後ろに回り込み、手刀でウェインの首を何度か叩いた。
「く………はっ………」
それでも踏ん張ってウェインは立ち続ける。もはやウェインの目の焦点は合っていない。
ウェインが走り出した。剣を振り上げた所でウェインは静止して倒れた。
マークが思い切りウェインの腹を殴ったからだ。もう意識がないようだ。
(気力だけでここまでやるなんて………)
マークはそんなことを考えながら倒れているウェインを回復した。傷口から流れる血は止まり、傷口は塞がった。
「………あいつらが気になるな」
倒れるウェインを一目見るとマークはその場を去った。
襲い来る多人数の敵を目視すると、ルジェンとカトラは接近戦が得意ではない為ルジェンは慌てて杖に飛び乗った。
そして、カトラを杖に乗せて飛び上がった。
敵が群がるようにルジェン達の下に来ると弓を構えた。
「よし………いくぞ!」
ルジェンの声を合図に二人は詠唱を始めた。
「神聖なる大地に立つ悪しき者を排除せよ、テンペストテリトリア」
「ソル・エクスプロージョン」
ルジェンの口から言葉が発せられた瞬間に敵の居るところが爆発した。
それに続くかのようにカトラの光術が敵にめがけて飛んでいった―――――が、カトラの光術は誰かに防がれてしまった。
「光術は結界で防がれるようだな。私が詠唱している間に矢を撃ち落としてくれないか?」
自分にはどうすることもできないのか、という悔しさで唇をかみしめたままカトラは頷いた。
「………それより………お前はライトクリスタルなしで光術が使えるようだな」
「えぇ、よく分かったわね」
下から飛んでくる矢を魔術で撃ち落としながらカトラが言った。
「………お前と私はどこか似たような感じがするんだ」
カトラは首を傾げてどういうこと?と訊いたが、その後ルジェンは何も話さなかった。
しばらくの間攻防が続き、敵の兵士が次々気絶して行く中、事は起こった。
「ヴェロシティアロー」
敵の中から恐ろしいほど早い光術の矢が放たれて、ルジェンの杖に直撃した。
「くっ!」
ルジェンは敵の矢を撃ち落としながら、ゆっくりと地面に降り立つと敵に向かって先程と同じ魔術を使った。
「ヴェロシティアロー・ディスチャージ」
先程と同じ声が響いて、何本もの矢が飛んできた。
「魔力結界!」
何度も爆音が響いた。間一髪でルジェンは攻撃を受け止めたが、もう結界は耐えられないだろう。
「雑魚を頼んだ………」
ルジェンはそう言って走っていった。
残されたカトラは言われたとおりに確実に敵を倒していった。
「冥空より現るは消失の剣、ディストーション・ソード!」
夜の空から巨大な剣が現れると荒野に落ちて、その瞬間に爆音が連続して起こった。
吸引音の後に全てが剣に吸い込まれていく、空気さえも吸い取っていくようで息苦しい。
剣が消えると、今までそこにあった地面も深くえぐり取られ、敵が張っていたテントも全てが無くなっていた。
「消失の剣は全てを吸い込み、破壊する」
ルジェンは静かにそう言うと呆然とこちらを見つめる女を睨み付けた。
「くっ!―――――ヴェロシティアロー・ディスチャージ!」
ルジェンは簡単にそれを避けると同じ技を女に放った。裾が矢で射抜かれて、女は動くことが出来ない。
「………貴様も不運な奴だ。せめて名を聞いてやる」
「私の名はセレア!―――――ライトニングアロー・ディスチャージ」
裾を破ると立ち上がってセレアは光術を放った。
突然の攻撃で避けきれず、何本もの矢がルジェンを貫き、赤い血がルジェンの傷口から流れた。
「く………ぁあ!!」
光術でできたその矢は、ルジェンに刺さっただけでは済まずに、放電した。
意識が遠のく、もはや痛みの感覚などない。走馬燈のように今まであったことを思い出した。
色々な記憶があったが、その中でもマーク達と居たときの記憶が一番だった。
昔の記憶と言えば、良いことなど何もなかった。自分のこの不思議な力を忌み嫌う者から暴力を受けたし、親からも見捨てられた。
この組織に入ってからもあまり楽しくなかった。それでも自分の力を必要としてくれたことは嬉しかった。
そしてマーク達と出会った。たった一日、たった一日だったが―――――最も楽しかった。
思わず笑みが零れる。それを見たセレアは怒って再び光術を唱え始めた。
「………気に入らないわ!―――――フレアアロー・ディスチャージ」
セレアは容赦なく攻撃した。躊躇いの所為かその照準は狂い、7本中の2本しかルジェンに命中しなかった。
「かはっ」
今度の矢は傷口を焼いた。ルジェンの小柄な体からは明らかに致死量の血が流れていた。体が痙攣して意識が遠のいていく。
「ラージェスト・ペイン!!」
聞き覚えのある声が荒野に響いた。女はもろに攻撃を受けてしまい、完全に気絶した。
(マーク………)
ルジェンの意識はマークの姿を見た後に途絶えた。
「ルジェン!!」
ルジェンの側へマークが駆け寄ると、回復光術を何度も何度も掛けた。だが、血は止まっても傷が塞がってもルジェンは目を開けなかった。
「―――――ルジェン」
もうだめだ、助からない。―――――こんな時はこの癖が嫌になる。すぐに答えを出してしまう。その癖は、今までの戦いの所為だろう。
マークは涙を流して悔やんだ。地面を何度も叩いた。何も出来なかった自分への怒りをぶつける先が無かったから。
拳からは血が流れていたそれでもやめなかった。
マークはそっとルジェンを抱き寄せた。体は冷たくなっていた―――――しかし、微かに胸から鼓動が伝わる。
「……………死なせない」
まだ諦めない、まだできることがある。そう信じてルジェンを背負うとマークは仲間のいる方へ駆けだした。