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Destiny Memory  作者: まーく
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第五章 始まりの鐘

第二部 幻影の街と大盗賊団



第五章 始まりの鐘




 「・・・俺は・・・俺達は・・・間違いを犯していたのか」


立ち上がるマークの前には既にファロン達の姿はない。


「マーク、過去を悔いても仕方がない―――今の俺達にできることをしよう・・・」


マークの肩にポンッと手を置くとゼフィスが言った。その手は小刻みに震えていた。ゼフィスもやはり悔しいのだろう。


「ゼフィスの言うとおり、いまできることをしましょう」


カトラがゾウスに立たせてもらうとそう言った。


「・・・あぁ、そうだな・・・しかし何からしていいか」


マークは肩を落として返答を待った。


 「マルス、確か封印した精霊達が居たはずだ。それを救うことなら出来るぞ」


しばらくしてゾウスが言った。


「そう言えば・・・ゾウス、思い出させてくれてありがとう。早速封印を解きに地下へ向かうぞ」


そう言うとマークは地下への階段を駆け下りた。


後を追って入ってきた仲間達の目に最初に入ったのは呆然と立ちつくしたマークだった。


「どうし―――」


言いかけたゼフィスは言葉を失った。精霊達が封印されていた物がそこになかったのだ。


 「封印球が・・・ない?」


カトラは台座の近くを探したがやはり封印球はなかった。


封印球はファロンが作った物で精霊を無理矢理封印する道具だ。


「あいつらが持って行ったんだ・・・くそっ!」


悔しそうにマークは壁を殴った。


すると壁が崩れ落ちて僅かな空間が現れた。そこには黒光りする封印球があった。


 「なっ!?」


ゼフィスとカトラ、そしてマークまでも唖然とした。ただ一人ゾウスだけが笑っていた。


「こんな事もあろうかと、隠しておいたんだよ・・・あいつらも戸惑ったろうな」


「よくやった」


そう言うとマルス達も笑い出した。


 満足そうに笑みを浮かべたままゾウスは封印を解くように促した。


マークが封印を解くと中からは火の精霊スコーツとチグが現れた。


 スコーツはガッチリとした体格で精霊と言うよりは武闘家のようだった。


しかもその体はマークの身の丈より三倍程も大きかった。


スコーツに比べるとチグは意外と小さく青い帽子を被っていて子猫のような姿だった。


ただ違ったのは尻尾が三つもあることだ。三つの尻尾を器用に動かしながらも、その目つきからはこちらを威嚇していることが分かる。


 「貴様等、俺達を呼び出したと言うことはそれなりの覚悟が―――」


「今までの事は謝ります、すいませんでした。事は急を要するのです」


スコーツの言葉を遮ってマークが頭を下げた。


スコーツは拍子抜けした様子で怪しむように何度もマークを見た。


「それと言うのも・・・実は―――」


事の始まりから終わりまでをマークは事細かく丁寧に話した。


話を聞いていたスコーツとチグはとても真剣な表情をしていた。


 「ほう・・・つまり、お前達はファロンという男の手のひらの上で踊らされていた・・・と?」


スコーツの口調からはまだ信じていないと言うことが分かる。


「私は信じますよー」


チグはのんびりとした声で言った。


「・・・俺は信じられない、しかしその話が本当ならば自体はまずい方向へ進んでいる」


「それはそうですね・・・分かりました。各精霊へ通達します」


チグはそう言って集中するとテレパシーで各精霊へ全てを話した。


「奴らの仲間を殺さなければならないかもしれない。そのことも伝えてくれないかチグ」


マークは俯いてそう言った。


チグは頷くと引き続きテレパシーを送った。


――――そして・・・ケルクが妖刀を引き抜いた頃、マルス達は危機に瀕していた。




 洞窟全体が揺れて今にも崩れそうだった。城に戻れば捕まる、このままここに居れば生き埋め、それならば出口へ向かうしかない。


「何!?なんで崩れるの!」


慌てふためいてミラがもの凄いスピードで辺りを見ている。


「ゴーレムを倒したときの衝撃でこの脆い洞窟が崩れてきたのだろう、冷静になれ突破口はあるはずだ」


フェストは冷静にミラに言った。


「とにかく時間がない、急ぐぞ!」


マルスがそう言った途端、鈴が鳴った。


 「え?」「なっ!?」


マルスとリアが同時に鈴を見た。戦闘が度重なり続いて見ていなかったが鈴は眩い光を発している。


「ここに記憶が?しかし精霊は・・・」


精霊は戦っているし、封印された精霊もいる。


『精霊が記憶を持っている』


そうオリジンは言った。(ならどうして?)そんなことを考えているとき出口への道が岩で塞がった。


 「これじゃあ・・・」


ガラガラと崩れる洞窟の中マルス達は足を止めた。


もうだめか、そう思ったときウンディーネとシルフが現れた。


そして無言のままウンディーネとシルフはマルス達を自分に近くに寄せると周りに障壁をつくった。


その瞬間洞窟の天井部分が崩れた。ウンディーネ達が居なければ間違いなく死んでいただろう。


 「ウンディーネ、助かったわ」


リアが溜息を吐いたあとそう言った。


相変わらず無言のままウンディーネは障壁の外を見ている。


当然ながら何も見えない。でもなにかの気配がした。


そしてその存在には障壁の中の誰もが気が付いていた。だから警戒してウンディーネとシルフは声を出さないのだろう。


 ピキッという僅かな音が聞こえた後に異変が起こった。


ドーンッ!爆音と障壁の上と道をふさいでいた岩が吹き飛ぶ音が聞こえ、辺りに砂埃が舞った。


「げほっげほっ・・・うぅ〜」


舞い上がった砂埃を吸って咳き込んでいる者の声は高く性別が女ということが分かる。


少しずつ砂埃が消えていき顔までは分からないが相手が居ることを確認できるようになった。


 「・・・・・・ここで何をしているの?」


人の気配に気が付いた彼女が言った。


そして砂埃が収まって互いを見られるようになると幼い少女が現れた。


手にはかぎ爪のような物が装着されていて服装は暗い青色のズボンにCrinと言う文字が入ったTシャツを着ている。


「それはこちらの台詞だな・・・」


しばらくの間があった後にマルスが言った。


 「!?、マルスさん大変です」


剣の柄に手を掛けているマルスに小声でウンディーネが話しかけた。


その声は障壁内にいる者には聞こえていたが外の少女には聞こえないようで、少女は眉をつり上げてこちらを見ている。


「チグからの連絡です。スコーツ達の封印が解かれました。そして妖刀刹那の封印も」


ハッとして思わずウンディーネの方をマルスは振り向いた。精霊の封印が解けたということは敵が消滅したと言うことそう思ったからだ。


しかし後の言葉が引っ掛かった。妖刀刹那、その名を聞いた途端マルスの頭に不安がよぎった。


そしてその不安はとても忘れられるような物ではなかった。


「それと・・・ケルクさんのことも・・・」


ウンディーネは悲しそうな顔で言った。


 「とにかく・・・話は後だ。今はあの子を・・・」


マルスは一度全てを忘れ、前にいる怪しい少女のことだけを考えた。


「そう・・・ですね」


「ねぇ、あたしの質問に答えてもらえない?ここで何をしているの?」


少しイライラした様子で少女が言った。


「僕たちはポラスからこの通路・・・いえ、洞窟を通って出てきたのです。それで君は?」


フェストが相手を刺激しないように丁寧に言った。


「ふぅーん。・・・あたしは幻影の町ファリオをの近くを散歩していたら洞窟を見つけたから入ってきたの。


だから別にここに用事があるわけでもないよ」


 「そうか・・・」


気が付けば鈴の光りは収まっている。


(精霊の封印が解かれたことによって光ったのかもしれない)


マークは悩んだすえその答えを出した。


 「ねぇ・・・それよりもあなた達よければ私の家へ来ない?・・・ボロボロだし、女の子はシャワーも浴びたいでしょ?」


(何といい子だ)その場にいる少女達が皆同じ事を思った。汗で服が肌にはりついて気持ち悪くて仕方がなかった。


しかし話が良すぎるという思いもある。


初対面でいきなり私の家へこない?と言われれば誰でも警戒するだろう、それが例え子供でも。


 「怪しんでいるのは仕方がないけど・・・まぁ不安なら剣を持ち込んで良いわよ」


「行きましょうよ、マルス」


リアが小声で言った。


「・・・・・じゃあ行くよ」


マルスがそう言うと女の子は満面の笑みでついてきてと大声で言った。


崩落してしまった洞窟の中に魔物の姿はなかった。おそらくは岩の下敷きになったのだろう。


 しばらくすると出口が見えた。光りが洞窟の出口を照らしている。月明かりと言うよりは明け方の日差しのような感じだ。


洞窟に入ってからそれなりの時間は経過しているから当然と言えば当然だろう。


「寒いっ!」


ホープが洞窟を出てからの第一声を発した。


言われてみれば――――もの凄く寒い。凄いスピードで自分の体温が下がっていくのが分かる。


 「うぅう!早く家に案内して!」


寒さに我慢しきれずにミラが言った。


「あぁーもう少しで着きますよ」


「あぅー・・・」


肩を振るわせて歯をがちがちと鳴らしながらもミラが寒そうに両腕を擦っている。


 「そうだ、ところで君の名前は?」


フェストが思い出したように訊いた。


「あぁーそう言えばあたしの名前言ってなかったねー。あたしはクリン、クリン・アルステリア」


「僕はフェスト。えと、よろしくねアルステリアさん」


「んーみんなクリンって呼んでるから、アルステリアじゃなくてクリンって呼んで、ね?」


立ち止まり振り向いてそう言う様子を見るとやはりどこか幼さが見える。


(しかし何歳かは分からないがあの岩を砕く力は凄い)


マルスがそんなことを考えているうちにクリンの住む町に着いた。


 予想以上に大きな規模の町にマルス達は驚いた。


「大きいでしょ?」


大きいなんて物ではない、ポラス並の広さだ。


「・・・ここが幻影の町ファリオみたいよ」


ホープが古びた木の板に書いてある文字を読んだ。


「まぁ・・・でもこれが"本物"ってわけじゃないんだけどね」


皆が一瞬ポカンとした。本物ではないとはどういう意味だ?


 「着いてくれば分かるよ」


そう言ってクリンが町に入ったのでその後をマルス達は追った。


「しかし綺麗な町並みだな」


お世辞ではなくマルスは本当にそう思った。


どれもこれもデザインが良い、屋根も綺麗だし家の壁も綺麗だ。リアもその町並みをうっとりと見つめている。


「あっちよ」


クリンは足を止めて一軒の家を指さした。


クリンの家も他の家と一緒で綺麗だった、しかし何故だろう?他の家もそうだがジッと見つめると違和感を覚える。


 「ふふ〜ん、町の名前の由来を教えてあげる!」


ドアを開けて家の中に入ったマルス達は驚愕した。


外見こそは家だが中は何もない。そう、床すらないのだ。


 「なるほど・・・」


フェストが顎に手を当てて感心している。


「ここは昔から鉱石・・・つまりダイヤモンドの原石が採れるのよ、だから盗賊が良く来てね。


それのカモフラージュにこういう姿にしたのよ。おかげで今はみんな安心して暮らしてる」


「しかしどこに住んで居るんだ?」


「ね、ねぇまさかカモフラージュとか言ってるけど、今ではここで寝てるとかないわよね」


ミラが顔を引きつらせていった。


 「まさか、本当の町を今見せてあげる!―――解き放て幻影の呪縛、彩雲!(サイウン)」


クリンがそう言うと家の中の地面が虹色に光ってマルス達は急に下に落ちる感覚に襲われた。


キャー、というリア達女の子の叫び声が聞こえた。しかしただ一人を除いてクリンは全く動じなかった。


マルス達でさえこの感覚には少々の恐怖を抱いているのにも関わらずだ。おそらく、クリンはもうこれに慣れているのだろう。


しばらくすると落ちるスピードが段々と下がってきた。そしてウィィィンという音と共にマルス達が着地した。


どうやら地下のようだ。地上より随分と温かくなかなか居心地が良い。


 「止まれ!何者だ!」


マルス達が休む暇もなく武器を持った男達がこちらへ近付いてきた。


「こんばんはースケルおじさん」


クリンが声を掛けると男の顔が若干和らいだ。


「あぁ・・・この人達はクリンちゃんの知り合いかい?・・・でも、町長の許可なしにここに入れては・・・」


「いいよ、私のお祖父ちゃんだし許してくれるって」


少しいじけてクリンが言った。


「しかし特例は認められていませんから・・・。すいませんが一度町長の家へ行ってもらえませんか?」


明らかに困った様子でスケルという男は頭を何度も下げた。


「私達こそ許可が無いまま・・・申し訳ございません」


そう言ってマルスが頭を下げると慌ててスケルも頭を下げた。


「マルス兄ちゃんは謝らなくていいんだよー?」


クリンが頭を下げているマルスに言った。


(マルス兄ちゃん・・・・・・・どうも慣れないな)


そう思いながらマルス苦笑した。


 「とにかく町長の家まで案内しますのでついてきてください」


そう言ってスケルが歩き出したのでマルス達も歩き始めた。


ふと、思ったがここは地下なのに明るい。何故だろうと思い見上げると至る所に蛍光灯があった。


まだ夜明けだからか大半の人は眠っているようだ。


「ごめんなさい・・・」


歩きながらクリンが肩を落として言った。


「気にしなくても良いよ」


リアが笑顔を見せるとクリンの暗い気分が少しは晴れたらしい。


 「さて、ここです」


スケルがそう言って周りの民家とは桁違いに大きな木造の家の扉を開けた。


「大きな家だ・・・」


ここに来てから何回か驚かされただろう、その中でも一番の驚きがこれだろう。


「では私は見張りの続きがあるので・・・」


一礼するとスケルは足早にマルス達が降りてきたところに向かっていった。


「あたし、先に行ってる。少しでもお祖父ちゃんの気をなだめないと・・・」


クリンはそう言って家の中へ駆けていった。


扉を潜ると微かに木の香りがした。外とはまったく違う雰囲気を漂わせている。


中はとてつもなく広く、一般の民家を数十棟建ててもまだスペースがあるくらいだ。


 「何者だ?」


マルス達が庭を感心してみていると後ろから男の鋭い声が聞こえ思わずマルスは振り向いた。


「剣・・・か・・・」


男はマルスの腰にある剣を見るや否や居合い抜きをした。


反射的に飛び退いたマルスは胸に痛みを感じた。痛む部分を見てみると赤い血がにじみ出ている。


「みんなは近付くな、一騎打ちの方がやりやすい」


剣を抜こうとしたフェストを手で制すとマルスが言った。


それよりも居合いで的確に急所を狙ってくる男の腕前は達人並だろう、男は冷静にこちらの様子を伺っている。


無言のままマルスは傷を抑えながらも剣を抜くと男に向けた。


そしてほぼ同時に二人は走り出し瞬時に剣と刀がぶつかり火花が散った。


両手で刀を握る男と傷口を抑えている所為で片手しか使えないマルスは力負けしていた。


だが、マルスは諦めずに右足で男を蹴り飛ばした。男は足で踏ん張りながらも10メートルくらい吹き飛んだ。


先程の冷静な様子は消えて鋭い目つきでこちらを見つめている。


白炎(ビャクエン)


男がそう言うと白い炎が蛇のようにマルスに向かっていった。


マルスは飛び退いて避けたが白い炎はマルスの手前で炸裂した。その炸裂した炎の熱は離れているリア達にも届いた。


飛び火した炎で火傷をしたマルスは呻きながら地面を転げ回った。


白炎刀装(ビャクエントウソウ・・・」


男がそう言うと刀に先程の白い炎が巻き付いた。


マークは火傷で痛む腕にも構わずに立ち上がると男に向き直った。


見れば男の刀には先程の白い炎が纏われている。


(あの一撃でこれほどのダメージ・・・あの熱の炎を纏った刀を剣で受け止めれば手が焼けてしまう。近付くことはまずできない、


ならば遠距離攻撃のコンティスペルか・・・)


マルスは瞬時にそう考えると、男から間合いを取った。


「・・・白炎飛投斬(ビャクエンヒトウザン


ゴウッっという音と共に先程の炎とは桁違いの早さで地を割りながら白炎が向かってきた。


「コンティスペルっ!」


マルスのその言葉が終わった瞬間に下級光術が現れ、男の炎とマルスのコンティスペルが激突して凄まじい爆風が起きた。


「はぁあぁああ!!」


先に声を上げたのはマルスだった。黒煙の中からマルスは飛び出すと男に向かって走り出した。


しかし男はマルスの攻撃を受けて動けないままその場に立ちつくしていた。


マルスが剣を振るうと男の体からは鮮血が噴きだし、同時に家の方から高い悲鳴の声が聞こえた。


 「レクセル!」


声の主はクリンだった。クリンは血相を変えて男の側に近寄り回復光術を唱え始めた。


クリンの魔力は相当な強さで一瞬で男の血を止めて傷口を綺麗に治した。


それを確認するとスッと立ち上がりマルスを突き飛ばした。突然のことでその場に居たクリン以外の者が唖然として倒れているマルスを見た。


マルスでさえも何故突き飛ばされたかまだ分からない、それどころか戦闘が終わったばかりで興奮しているマルスは咄嗟に剣をクリンに向けた。


 「あ・・・あぁすまない・・・しかし俺が何をした?」


ハッとしてクリンに向けていた剣を降ろすと剣を使って立ち上がった。


「何をした・・・ですって!?あなた――――――レクセルをこんなに酷い目に遭わせて!よくそんなことが言えるわね!」


「ご、誤解だ!その男が先に斬り掛かってきたんだ」


マルスは横に首を振って否定した。


とても気まずい雰囲気がしばらく続いたあとに落ち着きを取り戻したクリンがようやく口を開いた。


「・・・でも、そうだとしても・・・こんなことをしたらお祖父ちゃんきっと怒るわ」


 「クリン、レクセルのことは私に任せて客人を部屋に連れて行きなさい」


クリンがハッとして振り向くとそこにはクリンの祖父の姿があった。しかし怒っている様子は無く、


マルスにはむしろどこか笑みを浮かべているように見えた。


少し戸惑った様子でクリンは頷くとマルスの服を引っ張って小さな声で「こっち」と言った。


クリンに引っ張られながら、マルスはふとレクセルのことが気になって振り返ってみるとクリンの祖父が刀を振り上げているではないか。


 「まてっ!」


マルスは慌ててクリンの引っ張る手を振り払うとクリンの祖父が振り下ろした刀を素手で受け止めた。


マルスの手からは血が噴き出してクリンの祖父はワナワナと震えている。その刀を握る手には更に力が込められている。


クリンはその様子を見て今にも泣き出しそうな表情でマルスをジッと見つめていた。


そしてクリンの祖父がもう一度刀を振り下ろそうとしたとき、フェスト後ろから取り押さえた。


更にリア達が駆け付けてレクセルの足と手を持つと三人でレクセルを運んだ。


マルスは自分でパックリと割れた傷を光術で治すとクリンの祖父が持つ刀を遠くへ投げ捨てた。


クリンはその光景を見て、ゆっくりと崩れ落ちた。慌ててホープがクリンの側へ駆け付けた。


「大丈夫?」


ゆっくりとクリンの頭を抱え起こすとホープが言った。


「だい・・・じょうぶ・・・」


クリンはそう言っているが目の焦点は合ってないし、唇が青くなっている。


自分の祖父がレクセルという男にいきなり斬り掛かったのだ。ショックを受けてこうなるのも無理はないだろう。


「・・・この人は私、任せて下さい。マルス達はその二人を頼みます。何かあったら呼ぶので」


フェストはクリンの祖父を抑えながら言った。


(ここまで追いつめているのに老人はまだ笑みを浮かべている)


(何故笑っていられる・・・おかしい・・・)


「―――やはり、ホープとミラは残ってくれないか?」


フェストは老人に僅かな恐怖を抱いて二人を呼び止めた。


ホープとミラは頷くとフェストの側に駆け寄ろうとしたその時だった。


 「ふふふ!この程度で私を止めたつもりなのか?」


そう言うと男はフェストを振り払うと距離を置いた。


「フェスト!?」


マルスはその光景に思わず駆け出しそうになったがフェストがそれを手で制した。


「言ったでしょう?その人達を頼みます」


「・・・わかった」


マルスはそう言うとクリンとレクセルを二人とも担いでリアと奥の部屋へ消えていった。


無言のまま敵を見つめながらゆっくりとフェストは盾と剣を取り出して装備した。


「さぁ・・・行くぞっ!」


フェストは脱兎のごとく駆け出すと剣を前に突きだした。


しかし繰り出した剣は目標を捕らえられずに空を斬った。


「くそ、これのせいで交わすのが精一杯か・・・」


男はマルスが先程捨てた刀を拾うと自分の顔の皮を剥いだ。


「きゃぁっ!」


ホープとミラが思わず顔を背けた。


「違う、あれは・・・仮面だ」


 「ご名答、こんな爺さんに化けるのも苦労するよ・・・」


「名を名乗れ」


そう言ってフェストは剣を握る手に更に力を込めた。


「我が名はテン・・・この街を頂くぞ!」


男はそう言ってフェストに刀を向けた。


「ここは守る、絶対にね。ミラ、アクセラを!」


フェストは走る準備をしてそう言った。


「分かった、アクセラ!」


ミラが光術を唱えるとフェストの動くスピードは段違いに上がった。


残像が残るほどに早いフェストは右へ左へ飛んで敵を翻弄して敵の隙を窺った。


瞬突(シュントツ


フェストが剣を繰り出すと、フッという音とがした瞬間にテンはうめき声を上げて飛ばされた。


連雷閃孔レンライセンコウ


ダメージを受けて立ち上がれない敵に今度はホープが三本の矢を連続して撃った。


その矢がテンを貫いた瞬間目がくらむような閃光が走り、バチバチと放電する音が聞こえた。


テンは体に走る痛みを堪えながらも立ち上がりフェストを睨み付けた。


 「もはや・・・容赦せん・・・」


殺気立った目つきで三人を見つめるテンの口元はゆるんでいる。


「このライトクリスタルの力の高まり・・・・まずいわ、フェスト!」


ミラがいち早く異常なまでのライトクリスタルの力を感じて言った。


「分かっている!私は町に被害がでないように障壁を張る、それで多分ライトクリスタルの力は使い果たすはずだ。


敵の攻撃の大半はミラが破壊してくれ!」


ミラが頷くのを確認するとフェストは早速クリンの家の周りに巨大な障壁を張った。


その直後テンが大声で気合いを入れる声が聞こえた。


「散れ、アークコメット!!」


テンが光術の名を唱えた瞬間、無数の隕石がフェスト達に向かって落ちてきた。


「持てる力を全て出し切ってでもあれを止める!」


そう言って落ちてくる隕石にミラは立ち向かうとカッと目を見開いた。


「エクスプロージョン・ノヴァ!!」


ミラが落ちてくる隕石に手を向けると手から凄まじい衝撃波が出て、その後に赤い閃光が走った。


爆音が響き、無数の隕石がミラの手から発せられた閃光で粉々に砕かれる。


それでも破壊しきれなかった隕石はフェストが双牙天極斬(ソウガテンキョクザンで切り刻み破壊した。


だが、テンが立っている間は無限に隕石が現れフェスト達を襲う。


そのことに気が付いたホープは一本の矢にライトクリスタルの力を全て込めるとテンに向けた。


天凰牙孔(テンオウガコウ!」


ホープの鋭い声が響いた後に矢が放たれた。そして紅く光るホープの放った矢は地面さえも破壊しながらテンに向かっていった。


凄まじいほどの爆音が障壁内に響いたのを聞きつけてマルスが飛び出してきた。


 「無事か!?」


剣を持ったマルスが慌てた様子でフェスト達の側に駆け寄った。


砂ぼこりが舞う中、ゆっくりとテンは立ち上がった。見ればテンの他に二人がいる。


その二人は障壁を張ってホープの矢を受け止めていた。しかし二人の指は変な方向へ曲がっており、明らかに折れていることが分かる。


「予想以上の戦力だったよ・・・あのレクセルとかいう奴意外の戦士がいたなんてね」


「今は分が悪すぎるか―――――ポレオ、コレオ!退くぞ」


テンがそう言うとテンの側にいる二人が頷いた。


全身黒ずくめで風景にとけ込んでいる。パッと見ただけではとてもじゃないが居るかどうかも分からない。


だが、目をこらしてみると顔がそっくりで、どこからどう見ても双子の様だった。


「あなた達とはまた戦う事になるでしょう」


「その時はあなた達を殺します」


「死にたくなければここから逃げることですね」


双子が交互に言った。


「もっとも、大盗賊団デスハーツの頭・・・テン様に手を出したあなた達に生きる術はないですけどね」


そしてしばらく二人はマルス達を見つめた後テンと共に走り去っていった。


その様子を見届けると力を使い果たした三人は地面にへたり込んだ。


「大盗賊団デスハーツ・・・か厄介だな―――――それよりフェスト、怪我はないか?」


マルスが心配そうに言った。


「大丈夫だよ。――――それよりクリンのお祖父さんがどこかにいるはずなんだ。家の中を探してもらえない?」


「奴等はやはり偽物だったか、クリンがあれほどまで慕う人物があんな凶行を行うはずがないからな」


「さてと・・・とりあえず僕はクリンに心当たりを聞いてみるとしよう」


「分かった。じゃあ私達は先に手分けして探し始めるよ」


そう言うとフェスト達は辛そうに立ち上がると散り散りに走っていった。それを見届けるとマルスはリアが居る部屋へ戻った。


 「やはり偽物だった」


マルスは静かに部屋に入るとリアに言った。


「そう・・・」


「・・・それでクリンとレクセルの様子はどうだ?」


「レクセルもクリンもまだ目を覚まさないの・・・・それに」


そう言ってリアはクリンの顔を指さした。


クリンの顔には涙の流れた跡があった。突然のことでショックが大きかったのだろう。


「・・・うぅ・・・・・・・・・・どうして?お祖父ちゃん・・・」


「さっきから同じ事ばかり言ってるの・・・」


そう言ってリアはそっとクリンの頭を優しく撫でた。


クリンの小さな目からはあふれるように涙が零れた。


(自分がこんなことをされたら・・・)


そう思うと胸が痛くなる。


同じ人で同じ世界に生きる者なのにどうしてここまで違うのだろう。どうしてこんな子供の前であんな残酷なことをしようとするのだろう。


リアはそんなことを考えて涙を流してしまった。


そんなリアの肩にそっと手をのせてマルスは笑顔で大丈夫だ、と言った。


 障壁が張ってあったせいか外はとても静かだった。町の者達はこんなことがあったなんて思いもしないだろう。


「これから大変になる。この様を見過ごして町を去るわけにはいかないな」


マルスがボソッと呟いた。


「うん、この子達をこんな目に遭わせて・・・絶対に許せない」


リアがクリンの顔を見ながら言った。


 そのときリアの填める指輪が光った。ウンディーネの方の指輪だ、慌ててリアがウンディーネを呼び出した。


「お取り込み中に申し訳ございません。精霊の封印が解かれたこととポラスのライトクリスタルを破壊したことによってマナの脈は


なんとか保てるようになったのですが、新たなる問題が・・・」


「問題?」


リアとマルスが同時に言った。


「それは妖刀刹那の復活です」


ウンディーネはとても真剣な様子で言った。


「そう言えば洞窟に居たときにそんなことを言っていましたね」


「・・・妖刀刹那はライトクリスタル以上の代物です。使う者によっては自在にマナを操ることができます。つまり、悪用すれば


好きなところでマナの暴走を起こすことが可能です。もっとも、それを使いこなすには相当の時間が掛かるでしょうけど」


「好きなところで・・・マナの暴走・・・」


リアはマナの暴走のことを思い出して鳥肌が立った。


そんなことになれば、たくさんの人が死んでしまう。


「絶対に壊さないと・・・そんな物!」


リアは今にも泣きそうな表情で言った。


「それはそうなのですが、悪いことにその妖刀刹那の持ち主が・・・ケルクさんなんです」


ウンディーネが悲しそうに言った。


マルスが信じられない様子でウンディーネを見つめた。


「チグが言うにはマーク達がケルクに剣を取るように強要したようです。しかしそのマーク達もそれが妖刀だとは知らずに・・・」


「つまり、マークもケルクも騙されたのか・・・裏で糸を引いていた者に・・・」


マルスは悔しそうに唇を噛んだ。


「それと・・・フォシテスのことですが、偽物だったらしいです。その者の本当の名はファロン、その者が全ての元凶です」


「・・・しかし、何故ケルクは妖刀を手放さない?」


「妖刀刹那は持ち主を操る・・・そう、妖刀刹那自体に意志が宿っているのです」


「ならばその妖刀刹那を破壊すればいい、そうすればケルクは解放されるはずだ」


「妖刀刹那の破壊、それは持ち主の死を意味します。つまり、妖刀刹那を無理に壊せば・・・」


「・・・そんな」


マークが愕然とする中、部屋の外から泣き声が聞こえた。


慌てて戸を開けて見ると走り去っていくミラの姿が見えた。そしてその姿をただ呆然と見つめているだけのフェストとホープもいた。


ハッとしてフェストはマルスをしばらく見つめた後、ミラを追っていった。


ホープはその場に座り込み静かに泣き出した。その様子を見てもマルス達には出来ることがなかった。


―――――そして、朝を告げる鐘が街の方から聞こえた。深き悲しい闇を切り裂くかのように。

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