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Destiny Memory  作者: まーく
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第二章 ライトクリスタルの真実

第二章 ライトクリスタルの真実




 マルスを待っていたリアはただジッと紋章を見つめるだけだった。


何匹かの魔物がここに来た。どうやらここを治めていたのは先程の巨大な魔物でその魔物が殺されたことによって統制が崩れたらしい。


魔物は次のリーダーを決めるために争い、そしてそれに打ち勝った魔物がここに来るようだ。


だが、光術を駆使するリアには到底適わなかった。怖じ気付いたのか魔物を数匹倒しただけでもうこちらには向かってこなかった。


 そして再び紋章が輝きマルスが戻ってきた。


「ただいま」


幸せそうに笑みを浮かべてマルスが言った。


リアはその表情を見て笑い返して「おかえり」と言った。


そう言った途端リアは倒れた。慌てて駆け寄ったマルスがリアを抱き起こした。


「どうした?大丈夫か?」


言葉は冷静でもマルスの表情からは血の気が引いていた。


大丈夫。声は発せられなかったが確かにリアはそう言った。


(大丈夫と言っているんだ・・・心配することはない)


マルスは自分に暗示を掛けるようにそうやって心に言い続けた。


 そして苦笑いを浮かべマルスはゆっくり立ち上がってリアを背負った。


リアを背負っての遺跡脱出は辛かったが新たなリーダーを決めるための戦いに魔物が集中しているのが幸いだった。


遺跡から出ると当然だが夜が明けていた。眩いほどに輝く太陽に照らされた草原を見渡したが人一人いない。


流石にマルス自身も疲れている。このままリアを背負って歩くのは無理だろう。


 その為にマルスは野営を張ることにした。遺跡に来る前には色々と買い込んだし食料も十分保ちそうだ。


マルスは簡単なスープを作るとリアの側にスープを置いた。


 「・・・少しでも食べておいた方が良い」


マルスは横になっているリアを優しく起こしてそう言った。


リアは力無く頷いてスープを食べ始めた。


ただでさえ精神の集中が難しいと言われる光術を使いすぎた為にリアの精神は磨り減ってしまっていた。


その為一時的な過労状態にリアは陥ってしまった。と、リア本人が言う。


 2日間野営で過ごしたが特に大事件は無かった。遺跡から出てきた日には全く元気がなかったリアも一晩グッスリ寝入ると


いつもの調子を取り戻したようで逆にマルスよりも元気になっていた。


リアが回復したので早速町に戻ることになり荷物をまとめ始めたときにマルスにふと嫌な予感が走った。


そして荷物をまとめると二人は町に向けて歩き出した。


 マルスは嫌な不安を抱えたまま、リアと雑談しながら歩き続けた。


昼の草原にはリアが言った通り、魔物はでなかった。足取りも軽く、初めて町へ向かったときとは違い驚くほど早く町が見えてきた。


それほど自分に力が付いたのだろうか?マルスはふとそんなことを考えていた、その時だった。


 マルスの予感は的中した。地面から突き上げるような振動が始まった瞬間に


地面は轟音を発して割れだした。そして凄まじい程の閃光に町の方は包まれた。


マルス達が居た場所は地割れだけで済んだが町は地面から吹き上がる大量の光によって消し飛んだ。


 それは話でしか聞かなかったマナの暴走だった。


「そんな!」


リアは再び見る悪魔のような光景に地に膝をついた。


地割れは次第に広範囲に伸びてきてマルス達がたっている場所も危うかった。


「くっ!ここは危ない!行こう、リア!命を捨てるつもりか?」


 マルスは自分の一語一句がリアの心に痛みを与えているのが分かった。


それでもマルスの言うことは正しい。ここで命を捨てるくらいなら逃げた方がいいのだ。


その言葉は当たり前のことを言っているのだが、リアには出来なかった。


 思い出のある土地が破壊されてこの町に来た。やっとのことでこの町にも馴染めた。


それなのにまた自らの住む土地はマナの暴走によって破壊された。


リアはもう嫌だった。愛する町の人々がマナによって消え去るのを二度も見てしまった。


なのに自分だけは生きている。


 「リア!!」


力強いマルスの声にリアはハッとなった。


虚ろな目でマルスを見て自分でも思った。このままじゃいけない、と。


会ってからまだ数日しか経っていない。なのに何故だろう?マルスと居ると元気が湧いてくる。


「ごめん、マルス・・・」


リアは力強く立ち上がって言った。


 その言葉にマルスは微笑を返すとリアの手を引いて走り出した。


あと数分遅かったらマルスもリアも暴走したマナに呑み込まれてしまっただろう。


 しばらくしてマナの暴走が終わると町の周囲は壊滅していた。町があった部分には巨大な穴があるだけだった。


その様子を改めて見つめてリアは目頭が熱くなった。そしてリアの目からは大粒の涙がこぼれだした。


噎び泣きながらリアはマルスの裾を掴んだ。その様子を見ていたマルスはリアを力強く抱きしめた。


そうしたかったわけではない。自分でも不思議だった。


 「こんな事が二度と起こらないように原因を調べよう」


リアを自分の胸の中から解放すると笑ってマルスが言った。


リアは泣きながら頷いた。


「うん・・・頑張ろうね・・・」


服の袖で涙を拭うとリアは満面の笑みを浮かべて言った。


 そして、マルス達には新たな旅の目標ができた。マナの暴走を止めると言う大きな目標が。




 無理に笑っている―――と言うわけではないようだ。


リアは昨日の涙が嘘のように微笑んでいた。目指すは壊滅したコランの町に一番近い町、ポラスだ。


一番近いと言っても三日三晩歩き続けてやっと着く距離だ。


 「・・・食料が尽きた」


静かにマルスが言った。最後の食材を使ってリアとマルスは食事を楽しんだ。


当初遺跡にだけ行く予定で買った食料は当然ながら尽きてしまった。


最後の食事をしてからもう丸一日食事をしていない。マルスとリアの疲労は頂点に達した。


それでもリアは微笑んで頑張ろうと自分も辛いのに言ってくれるのが幸いだった。


マナの暴走を止める為にも自分の記憶の為にも頑張らなくてはならない。ここで死んだら何もかもが終わってしまう。


そう思うと足を動かさなければ、と思い気力だけでマルスは動いた。


 三日三晩歩けば着く、というのは事実だがそれは食料をちゃんと持っていたらの話だ。


水分、食料を取らなければ当然足取りは重く、歩き続けても空腹の状態と満腹の状態では話が違う。


更に一日が経って、もはや二人は動く力すらなかった。笑ってくれていたリアでさえもう笑う気力もないようだった。


 ふと、馬車の走ってくる音がした。幻聴だろうか?最初二人はそう思った。虚ろな目で二人は人影を見上げた。


「・・・おそらくこいつらはコランの町の住人だろう、食事と水をやれ」


鋭い男の声が聞こえた。


「は!」


威勢良く武装した男が返事をするとリアとマルスにそれぞれ水筒を手渡した。


「助かった。まさか人が来るとは思わなかった」


二人は一気に水を飲み干して言った。


 ところが水を飲み干した直後、二人に異変が起きた。体が痺れて視界が霞む。


「な・・・に・・を?」


痺れているせいで上手く喋れない。


「馬車に乗せろ」


動けなくなった二人を見下ろして男がまた命令した。


 そして二人は無理矢理馬車に乗せられた。何の疑いもなく水を飲んでしまった自分に悔しさを覚えたマルスは唇を噛んだ。


「許せ、お前達に害を加えようとは思っていないんだが・・・これも法律でな」


 「即効性の高い毒、コラクの実を削った物をお前達に飲ませた。効果は全身を麻痺させる」


毒が体中に回ってもう喋ることさえもできなくなった。コラクの実の効果はリアが知っていた。その通りの効果だと


教えるため、リアはマルスにぎこちなく頷いて見せた。


実の名前だけではなく効果まで話すという事は男の話は本当と信じても良いだろう。


「・・・やれやれ、いつからだろうか・・・陛下がここまで警戒するようになったのは」


ため息混じりに男が言った。


 「おっと、申し遅れたが私はポラスの騎士団長フィン・モルロンだ」


マルスは聞き覚えのある名にしばらく考え、記憶の事を思い出した。


マルスの仲間と共に戦ったモルロンと言う名の騎士、偶然にしては奇妙な出会いにマルスはしばらく考えた。


だが当然の事ながら今は喋れない。(また後で話せると良いのだが)


 それにしても騎士団長と言えば騎士団そのものをまとめる職だ。それほどの職の者に名乗ってもらえる事は光栄な事なのだろう。


小声でこんな者達に名乗らなくともと騎士団員の声が聞こえた。


しばらく走り続けるとポラスの町に着いた。どうやら相当近くまで二人は来ていたようだ。


「ふむ、到着したぞ・・・しかし運が良かったな、あそこで見つからなかったら恐らくは・・・」


想像もしたくない、二人は同じ事を思った。


「私は馬車の誘導などをしなければならない、先に町に入っていてくれ」


 毒の効き目が薄れてきて改めてじっくりとフィンの容姿が見て取れた。がっちりとした体格に金色の短い髪、


長い剣を腰に差して威厳がある、目の輝きが一際強いのが印象的だった。


フィンと別れた二人は町に入った。するといきなり身体検査をする部屋に二人は通されて


 男女それぞれの検査官に何か持ち込んでいないかと調べられた。


それぞれに身体検査などをした後に二人は合流した。問題だったのはリアの持つ短剣とマルスの持つ両手剣だった。


 「これは・・・護身用だ。決して人には振るわない」


マルスがそう言っても国に持ち込めるのは騎士団員のみと言われるばかりだった。


困り果てた二人の後ろから馬車を誘導し終えたフィンが来るとマルスと口論をしている検査官が慌てて敬礼した。


 「・・・何故、足止めさせられているのだ?」


怪訝そうにフィンが言うと事情を検査官が話し出した。


「ふむ」


短く頷き腕を組むと考え込むように顎の髭を触った。


 「じゃあこうしよう、私の客人だ。丁重に持て成せ。客人の持ち物を預かる訳にはいかないだろう?」


しばらくの妙な間があった後にフィンが軽い口調で言った。


 ポカンと口を開けて検査官がフィンをしばらく見つめた後反論を始めた。


「し、しかし法律に引っかかりますし、第一この者達が殺人鬼だったら・・・」


その言葉を聞くやいなやフィンの怒号が飛んだ。


「貴様!私の客人を殺人鬼と言うか?!」


 「い、いえ・・・な、なにかあったときの責任はお取り下さいよ?」


フィンの声に怯えながら検査官が言った。


低い声で短くうなるとフィンは部屋から出て行き、来いと手で合図した。


検査官の視線を背中に感じながら二人は早足で部屋から出た。


 「検査官の無礼を許してくれないか?」


申し訳なさそうにフィンが言った。


「気にしていませんよ・・・それより・・・一度体を休めたいのですが・・・宿屋は?」


マルスは眠そうに目を擦った。


「あぁ王宮の客間で休んで下さい」


フィンが普通に口にした言葉だがマルスとリアには冗談にしか思えなかった。


しかし冗談ではなかった。部屋は一つしか空いていなかった物の二つの大きいベッドがあった。


二人が見たこともないようなベッドと部屋に唖然とする様子を見てフィンが大声で笑った。


 「遠慮せずにくつろぐと良い、何かあったら呼んでくれ・・・じゃあな」


そう言って部屋からフィンが出て行くと部屋は静まりかえった。


しばらくの沈黙が流れた後でリアが口を開いた。


 「広いお部屋だね、こんな所で寝るのは落ち着かないなぁ」


実際その通りだった。客間は無駄に広く部屋を三つに割ってもまだ余裕があるくらいだった。


「そうだな・・・」


表情に憂いを浮かべながらマルスが答えた。


 「どしたの?」


マルスの表情を見てかリアがマルスに近寄って来て話しかけた。


「・・・記憶のこと、今分かっていることだけしか言えないけど良い?」


マルスの突然の言葉にしばらくリアは呆然とするだけだった。


 「そっか、そう言えば記憶を取り戻したんだよね」


まるで遠い日のことのようにリアが言った。


「これからはきっと長い旅になる。マナの暴走を止めなければならないし・・・記憶も取り戻さなければならない。


それなのに仲間に全てを話さないまま旅をするのはちょっとな」


悪戯っぽい笑みを浮かべマルスが言った。


 リアは頷いて続きを促した。それから記憶の事を包み隠さず全てを話した。


二人は記憶であった出来事を整理して意見を出し合った。モルロンの事は二人の意見は同じで後から会いに行くことになり、


 一番マルスが気にしていた天光術についてリアが語り出した。


「天光術はウンディーネの言う通り選ばれた者しか使えないと言うわ。


私が聞いた話は子孫が受け継ぐ能力・・・つまり継承される能力。それが天光術、でも精霊に選ばれし者とは言っていないわね」


しばらくマルスは考え込んだ。二つの話の違いは『継承された物』と『与えられた物』の違いだけで時と共に


事実が変わっていったとしても不思議ではない。


 いずれにせよ次の精霊に会い、天光術について訊ねるのが一番の早道なのだろう、回答に応えてくれればの話だが。


ともかく二人は疲れた体を休めることにした。ここ何日食事もろくに取らず常に魔物から身を守ることを考え、交代で


睡眠を取っていたから二人は今すぐにでも寝てしまいそうだった。二人は就寝用の服に着替えるとそれぞれのベッドに入った。


 ベッドは予想以上に弾力が無く体がベッドに埋もれていく感じが気持ちよかった。


リアは大欠伸をするとおやすみと言ってすぐに寝入った。それに続くようにマルスも睡魔に襲われそのまま睡魔に身を任せた。




 空は快晴で雲一つ無い。瑠璃色の海が太陽の光を受け、眩く反射する。


(また夢・・・なのか)


夢と言うより試練を見せられているときのような感覚にマルスは何の違和感も覚えなかった。


隣のリリィに視線を向けると悲しそうに泣いている。その視線を真正面に戻すと十字型の墓石があった。


 『勇敢なるドラム、ここに眠る』


ドラムはフォシテスとの戦いの時、帰り際にフォシテスの放った光術を受け、それが致命傷となり死に至ってしまった。


 あの戦いから一週間が経った。マルスもリリィもただ哀しみに明け暮れる日々だった。


だが、それも無理はなかった。長い間連れ添った大切な仲間がこの世界には居なかったのだから。


 グレイは騎士団と共に町の復興に協力していた。町はほぼ壊滅状態だったが死者はドラムを除いていなかった。


そして町の復興は一通り終わって、今まさに町の復興を祝して祭が開かれるところだった。


 リリィは最後に大声で泣きマルスの腕を強く掴んだ。マルスもつられて声は出さなかったがたくさんの涙を流した。


「いつまでもこうしてちゃドラムも安心して逝けない」


リリィはマルスの背中に顔を埋めながらまだ低く泣き声をあげて言った。


振り返ってリリィを強く抱きしめると一息ついて口を開いた。


「そうだな、その通りだ」


リリィを抱きしめたままマルスは微笑んで言った。


 「・・・お祭へ行こう?主役が行かないと祭は始まらないって言うし」


リリィはマルスから離れると笑って言った。


その目にはもう哀しみは無かった。マルスはゆっくりと頷いて町に向かって歩き出した。


 「ドラム、俺は・・・奴を倒すから・・・空から見ていてくれよ?」


振り向き足を止めてマルスがドラムの墓石にそう言った。


「マルス〜おいていくよ〜?」


遠くからリリィの声が聞こえた。


 墓石に向かいマルスはそう言うとリリィの後を追った。


そして夢は唐突に途切れた。




 「マルス、僕は自らここに来たわけだけど」


子供の声が頭に響いた。


しかし何も見えず、とても不思議な感覚だった。


「どうだい?この記憶を見て何か思うことはあったかい?」


子供の声なのだがとても強く鋭い声でもあった。


 「・・・ドラムは死んでしまったのか・・・そして・・・これは夢ではなく・・・本当に起こったことなんだよな?」


自分でも言った言葉に違和感を覚えた。だがそれは正しいのだろう、実際夢なのに自分の意志がここまでハッキリするなんて


まずはあり得ないし、夢では会話も成り立たないだろう。


 「ウンディーネから聞いてはいたけど・・・マルスは頭が良いね。君が言う通りこれは夢ではなく試練・・・とっても悲しい・・・ね」


「訊きたいことがある」


ついさっきまでリアと話していたこと、とにかくそれが訊きたかった。もちろんドラムの事も訊きたかったが。


 「天光術のことだね。その前に・・・自己紹介、僕は風を司る精霊、シルフだよ」


シルフが言った途端、子供の容姿をした精霊シルフが現れた。普通の子供と違うところがあるとすれば背中についた羽だけだろう。


子供のように無邪気な笑みを浮かべるシルフだがその体にはとてつもなく強い力を秘めているのだろう。


 「さ、君の言いたいことは分かってる。天光術は・・・二つあるんだよ」


「二つ・・・?」


「リアが言った話も本当だし、ウンディーネが言ってることも本当・・・。君も疑問に思っただろうけど・・・。


紛れもなく僕らが与えた天光術は本物だし、君にだけしか与えていない」


一度黙ってシルフはマルスを見た。二人の目が合いマルスは続きを促した。


 「そしてもう一つの天光術・・・これは・・・実は今の光術なんだ」


 マルスは驚きを隠せなかった。まさか今の光術が天光術だったなんて。


 「・・・本来、天光術は選ばれた人間にしか使えないはずだった。だけど金儲けや自らの為に悪用する輩が現れた。


リアのように潜在能力でマナを取り込んで光術が使える人間は問題ないんだけどねー」


「ライトクリスタルか・・・」


 「まぁ・・・これ以上はオリジンに言われたこと以外話せないけど」


「それと・・・ここからが重要なんだよね。実はマナの暴走が人為的に起こされた物なんだ」


シルフは今までとは違い真面目な顔をして言った。


「な!?本当なのか!?」


「・・・そしてその暴走を起こしている張本人をマルスに倒して貰いたいんだよ。


何故精霊がやらないんだ?って言われたらおしまいだけど・・・」


 無言のままマルスはシルフを見据えた。


「・・・詳しくは今から話してもらうよ、他の重要な話と一緒にね。ウンディーネ、出てきて」


シルフが上を向いて言った途端青い光と共にウンディーネが現れた。


 ウンディーネが出てきた瞬間にマルスは部屋に意識が戻っていた。しかし部屋の中にはマルスとリアの他に


二人の精霊が居た。シルフの声とウンディーネが現れたときの光でリアも目を覚ましてしばらく二人の精霊を見て硬直した。


「・・・・・・・・・誰?」


まだ寝ぼけ眼で精霊とマルスをリアは交互に見た。


初めて精霊を見るリアには仮装をした男の子と女性にも見える。


 「初めまして・・・リアさん」


ウンディーネはまったく動じずにリアを見た。


「この方がウンディーネだ。試練の話をしただろう?」


マルスがゆっくりと言った。


「そ、そうなの・・・」


自分でもまだ信じられなかったがリアは納得せざるを得なかった。


「そんで、僕がシルフだよーよろしくねー」


拍子抜けするくらいに簡単な挨拶にリアは少し戸惑った。


 「あ、えっと・・・私リアです・・・」


ハッとしてリアは自分の自己紹介をした。


「知ってるよーん」


相変わらずの調子を保ってシルフが言った。


 「そして・・・またお会いしましたね。マルス」


ウンディーネはマルスに視線を戻すと優しく言った。


ウンディーネは前に試練であった時のような優しい笑みは浮かべていなかった。


 「突然ですが、あなた達にしてもらいたいことがあります。その為に私達はあなたに力を貸します」


突然のウンディーネの発言にマルスは少し戸惑った。


 「・・・驚くのは無理もありません。ですが・・・事は急を要すのです」


慌てふためくリアとマルスに対してウンディーネは落ち着いてと二人に言った。


 「実は魔物が異常なスピードで増えているのです。その為にシルフと私は急遽あなたの元に来たのです。


・・・あなたにならば助けて頂けると思ったから」


マルスをジッと見据えてウンディーネが言った。


「助ける?僕があなた達を?」


まだ困惑した様子でマルスはウンディーネを見た。


 「簡単にお話しします。実は先程のシルフの話で言っていた人為的にマナの暴走を起こすという話ですが


あれは本当のことです。そして今、マナの暴走を起こす者は魔物をも増やし、精霊を封印しているのです。


辛うじて私とシルフは逃げ出せましたが他の精霊は封印されてしまいました。今も対抗しているのは私達と


火・風・水・土の四つを束ねる精霊ソウクと氷の精霊ハイル、雷の精霊サメント、時の精霊エターナル、


光の精霊シャイン、闇の精霊ブロード、そして精霊王オリジンだけです。


しかしソウクは四つの力を束ねる精霊です。四つの力があるからこそ力が発揮できるのです。


ですが火の精霊スコーツと土の精霊チグが封印された今、ソウクも封印の危機にさらされているのです」


ウンディーネの表情は硬くそして悲しそうだった。


 「・・・マナの暴走が人為的な物ですって・・・・?」


リアは怒りに身を震わせた。


「今は、話を聞くのが先だよ・・・我慢して、リア」


最後の言葉だけ優しくマルスが言った。


するとリアは悔しそうに唇をかみしめて頷いた。


 「・・・僕たちがまだ封印されていないから今は何とかソウクは戦っていられるけど、僕かウンディーネが封印されたら多分ソウクは・・・」


先程までの表情とは打って変わり、シルフも深刻な表情を浮かべていた。


「・・・精霊が封印されるとどうなってしまうんだ?」


 「マナの暴走が起こる原因はマナのバランスが崩れてしまうからです。ライトクリスタルはマナを大気からではなく、地面・・・


つまり地面からでた僅かなマナではなく地面の中にあるマナを直接取り込んでしまうのです」


 「それのどこがいけないの?」


リアは抑える怒りを忘れて不思議そうに訊ねた。


「・・・地面の中にはマナの通り道があります。それは繊細で複数ある一つが傷付くだけでマナのバランスは大きく崩れます。


ライトクリスタルはその通り道を傷付けやすいのです。しかし私達精霊が管理している以上は傷付いてもすぐにバランスは保てます。


しかし悲劇は起きてしまいました。ライトクリスタルはどんどん増えてしまい私達にも保てないほどにまでマナのバランスは崩れ


そして、マナの暴走が起こったのです。リアさんの様に大気からマナを取り込む者ならば極たまに大気中のマナに変化が起きたことに


気が付いたでしょう?」


突然ウンディーネに問いかけられて少しリアは戸惑って頷いた。ウンディーネの言っていることは実際にあって


 以前にも大気中のマナが取り込みにくくなったり、急激に増えたり減ったりした事があるからだ。


「つまり全ての精霊が居るときでさえ保つのが難しいバランスを少ない精霊で保つのは更に難易度を高めます」


「・・・と言うことは全ての精霊が封印されれば・・・マナの暴走が」


 「至る所で起きます。いえ、それでは済まないかもしれません。最悪この星でさえも・・・」


マルスの言葉を継いだウンディーネは最悪の予想まで口にした。だがそれはこのまま行けば実際に起こりうることだ。


「ライトクリスタルは危険な物です。それを生み出したのは恐らくは人為的にマナの暴走を引き起こすためでしょう」


「つまり今から僕たちにして欲しいことは精霊の封印を解くと共にマナの暴走を起こしている人物を止めて欲しいと?」


今までのことを全てまとめてマルスが言った。その言葉を聞いてウンディーネは頷いた。


「辛いでしょうが・・・お願いします。あなた方にしか出来ないことです」


マルスはリアを見つめて同じようにリアもこちらを見つめた。二人の意見はまったく同じようだった。


「・・・分かった。それで僕たちはどうしたらいい?」


決意したマルスの表情には曇り一つ無かった。


「ありがとう、まずは巨大なライトクリスタルがある地域を回って壊すしかありません。その内の一つがここです」


「巨大なライトクリスタル?」


 「大都市を支えるためには多大なるエネルギーが必要でその為にいくつものライトクリスタルを一つに融合させるのよ」


リアが得意げ説明して、マルスは考え込んだ。


「マナの動きは分かるか?リア」


「うん―――確かにマナの僅かな乱れを感じるわ」


リアが寝癖のついた髪を解かしながら言った。


「私達の力が借りたい場合は光術で召還して下さい、契約した者が私達の名を呼んでくれれば出てきます」


そう言ってウンディーネは透き通るような青のサファイアの指輪を渡し、シルフが森のような濃い緑のエメラルドの指輪を渡した。


「これはリアさんに渡しておきますね。マルスさんに渡してしまうと常に契約の指輪と天光術が共鳴してしまい、力が


急激に減っていきますからね」


リアにシルフとウンディーネが契約の指輪を渡すのを見てマルスは少し残念な気持ちになった。


好奇心もあり指輪をはめたかったという思いも多少あるからだ。リアは契約の指輪を自らの指にはめた。すると二人の精霊は


指輪に入っていくかのようにリアの指に吸い込まれると何事もなかったかのように部屋が静まりかえった。


「ちょっと落ち着かせて、伝説上の精霊と契約したなんてまだ自分でも信用できないの」


リアは腰が抜けて床にへたり込んだ。


その様子を見てマルスも苦笑しながら手を貸して立たせた。


するとドアをノックする音が聞こえたかと思うとフィンが部屋の中に入ってきた。


手をつないで見つめ合って居た二人をしばらく呆然としていたフィンは自分なりに状況を掴んだらしかった。


「すまん、邪魔をしたな」


そして部屋を出て行くフィンをこちらも呆然と見ていたマルスは勘違いされたということに気が付いて慌ててフィンを呼び戻しに向かった。

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