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Destiny Memory  作者: まーく
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プロローグ

プロローグ 記憶のない少年


 真っ白で何もない空間にひとつの人影が現れた。その人影はしばらく辺りを見回した後に首をかしげた。


「何処だ?それに・・・僕は一体・・・?」


白い服を纏い空間にとけ込んだ少年がボソッと呟いた。


 「ここは記憶の間」


「誰だ?」


突然の声に反射的に身構えて少年は再び辺りを見渡した。


「そして私が名は精霊王オリジン」


黄金色の光を発しながら現れた人影は少年の背丈を二メートル程上回っていた。


黄金の光を発しているのはその衣服と緩いウェーブの掛かった金色の髪のせいだ。


精霊王オリジンと名乗る者は少年をしばらく上から見据えた。


 「精霊王オリジン?」


沈黙が流れた後、少年が耐えかねて口を開いた。


「人々からは自然の摂理を司る精霊として崇められている」


「なるほどな、それでその精霊が僕になんの用だ?」


少年の口調からはまるで信じていないような様子が分かる。


 「私は全ての精霊を束ねる精霊王であり創作を司る精霊だ」


「それは分かった。だが、僕は何故こんな所にいる?」


先程からずっと疑問に思うことを少年は口にした。


 「お前は死んだ。故に今から転生の儀式を行うのだよ」


少年はしばらくポカンとしたあと、口を開いた。


「僕が死んだ?―――――信じられないな僕が死んだ?そんなことが信じられるわけが・・・」


少年は疑わしげにオリジンの様子を窺った。


「信じられないのは無理もない。しかしこれは紛れもない事実なのだよ。お前はこれからの世界に必要な戦士だ」


オリジンの目を見る限り嘘だとは思えなかった。


 「・・・・・僕を蘇らせるのか?」


冷静な口調で少年が言った。


オリジンは険しい顔でゆっくりと頷いた。


 「お前にはもう一度世界を救ってもらう」


「世界を救う?僕がか?それに・・・以前にも僕が世界を救ったというのか?」


オリジンから告げられる全ての言葉は信じられなかった。


自分は死んでいると言われた上に生きていた時に世界を救ったのはお前だと言われ、


そして再び世界が危機に瀕してるまた救ってくれと言われた。


しかもそれを告げたのが精霊王?とてもじゃないが普通の者が信じられるような話ではない。


「その通りだ。信じられないのも無理はないだろうな、記憶は私が取り除いたから・・・」


その言葉に少年は片方の眉をつり上げてオリジンを睨んだ。


 「記憶を取り除いた?何故?僕に世界を救えと頼む為に記憶が残っていたほうが事が上手く運ぶだろう?


――――――それに"記憶を取り除いた"だと?支離滅裂な話だな」


「――――精霊界の掟でね。転生の儀式の前には記憶を取り除かなければならない。それが例え世界を救うための儀式でも、だ」


「だが、記憶を取り戻す方法ならある。試練を受けることだ・・・。お前の記憶は取り除いたあとに消したわけではない。


私以外の精霊にお前の記憶を託した。その精霊の試練を受けて認められれば記憶が戻るだろう」


(記憶を取り戻す方法がある・・・か)


「記憶を取り返したければ試練を受けろ。もし、お前に受ける勇気があるならばあそこの扉に入るがいい」


オリジン指を差す方向を見るとさっきまでなかったはずの扉が現れた。


 「理不尽だ・・・だが――――記憶が無いのは気に入らない・・・行かせてもらうよ」


少年は仕方なさそうに頭を掻きながら苦笑いを浮かべた。


 「・・・剣を授けよう、最もどんな試練なのかは私にも分からないが・・・」


「精霊王なのに―――か?」少年が銅製の重い両手剣を受け取ってオリジンにそう言った。


「フフッ・・・そうだ、私さえもそれを疑問に思うね」


オリジンは初めて少年に笑みを見せてそう言った。


 「さぁ・・・お前の記憶は一つの試練が終わる毎に戻って行く、頑張るのだぞ」


少年は頷いた。そして少年は扉の前に立ち深く息を吸った。


ドアを開けると見たこともないような世界が広がった。




 緑の海のように広がる草原――――。


風が肌を撫でてとても心地が良く寝てしまいそうだった。


 「お前とはいつか再び出会うだろう。お前の名はマルスだ。今分かっているのはこれだけだ。


言い忘れていたがこの鈴がお前の行く先を決めてくれる」


頭に木霊したオリジンの声は響き、そして消えた。


 オリジンの声が消えた後空から鈴が落ちてきた。マルスはそれを拾うとマルスは溜息を吐いた。


「・・・さて、どうするか」


何もない草原を見渡してマルスは溜息を吐いた。


 「歩かないと・・・だめだよな?」


心の何処かでオリジンに助けを求めた。しかし虚しくも返事は帰ってこなかった。


渋々マルスはあてもなく歩き出した。


(どれだけ歩いたんだ)


次第に荒くなる息づかい、そして変わらない風景を見ながら歩き続ける精神的疲労がマルスを苦しめていった。


 やがて太陽は沈み月は雲に隠れて辺りは暗闇に包まれた。


暗闇の中、遠くに灯りが見えた。多分町だろう。


(でもまだまだ遠いな、今夜は野宿か・・・)


マルスはぼんやりとそんなことを考えながら歩き続けて痛む足を引きずって歩いた。


 ビュンという風を切る音が突然聞こえて、慌ててマルスは飛び退いた。地面に着地したときに足に痛みが走った、切り裂かれている。


「―――――魔物か!」


マルスは暗くて気が付かなかったが殺気をむき出しにした魔物が目の前に居たのだった。


熊のような魔物は息遣いが荒く、とても気味が悪かった。


「お前に構っている暇はないっ!」


マルスが空に剣を振るうと真空の刃が草を切り裂きながらデスベアーに向かっていった。


ガオゥという雄叫びを上げて魔物は鋭い爪で簡単にマルスの攻撃を振り払った。


「はぁ!」


魔物が腕を振り上げた隙に素早くマルスは懐に飛び込むと気合いを込めて剣を振り上げた。


剣はその速さで光を帯びて魔物の体を引き裂いた。


魔物はその一撃で倒れてマルスは安心して剣を鞘に収めた。


「ふぅ、まったくヒヤヒヤし―――――」


マルスは言葉は途切れた。


 マルスの腹部からは夥しいほどの血が噴き出していた。


魔物がまだ生きているのにも気が付かず最後の一撃を受けたのだった。


マルスは倒れ魔物の姿は消えた。


(僕はここで力尽きるのか、記憶も戻らないまま・・・)


人の来る気配がした。だが、マルスには声を出す力がなかった。疲労と痛みが頂点に達して体が動かない。


(頼む・・・気付いて・・・)


そしてマルスは最後に鈴の鳴る音を聞いて気を失った。




 窓からは光が差し込んでいる。隣には少女が椅子で寝ていた。


「ここは―――――うぅっ!」


マルスは慌てて起きあがろうと体に力を入れてみたが、腹部に激痛が走ってベッドに崩れ落ちた。


「まだ起きちゃだめよ・・・大丈夫?あなた草原で倒れていたからここまで運んだのよ?」


目を覚ました少女は慌ててそう言った。


「そうか、君が・・・ありがとう助かった。君が居なければ今頃僕は死んでいた」


「ううん、倒れている人を助けるのは当然でしょ?でも、あなた二日も寝ていたのよ?痛いところはない?」


「二日も寝ていたのか・・・。・・・酷くは痛まないから大丈夫だ」


「そう、本人がそう言うなら大丈夫ね。でも無理は禁物よ」


少女はにっこりと笑い窓を開けた。


気持ちの良い風が頬を撫でた。それと同時にマルスは喉が渇いてきた。


「水をくれないか?」


耐えかねてマルスがそう言った。


 「ところで名前を教えてくれるかしら?」


少女はゆっくりと少年を起き上がらせるとコップに水を入れて少年に渡した。


「僕の名前はマルスだ」


一気に水を飲み終えるとマルスが言った。


「私の名前はリアよ。気軽に何でも話してね、マルス」


鍋の噴く音がしたので慌ててリアは立ち上がり台所へ向かった。


 「所であなた、何であんな所にいたの?剣は持ってたけど、夜にラマ草原に行くのは自殺行為よ?」


声を大きくしてリアが台所から言った。


「僕はある目的で旅をしているんだ」


 「ふぅん・・・マナの暴走が始まって1年・・・・・この世の中旅する人は少ないわね」


台所から戻ってくるとリアはそう言った。


「マナの暴走?」


マルスは不思議そうに訊ねた。


「・・・・・あなた記憶喪失なの?マナの暴走は誰でも知っているわよ」リアはマルスをジッと睨んだ。


「いや・・・」


マルスはしまったと思った。


(墓穴を掘ったか・・・話すか?・・・いや、人に話したところで信用はしてもらえないだろう)


 「言ったでしょ、何でも話してねって誰にも言わないから」リアは優しく微笑みそう言った。


「・・・・・」


マルスは考えた。


(リアは信用できるか?どちらにしろこれからの旅一人では厳しい仲間は増やした方が良い。


全てを話さなければ信用も得られるだろうが・・・。しかし他人を巻き込むわけには・・・)


 「何黙ってるの?」


不思議そうにリアが訊ねた。


(・・・・・・話せることだけ話そう、この人なら信用できそうだ)


マルスは決心して話し始めた。


「・・・僕には記憶がない。だから色々な場所を回って記憶を探しているんだ。この鈴が行く先を示してくれると


占い師が言っていた。だからこれを頼りに記憶を探して居る・・・良ければ一緒に・・・」


「占い師が鈴をね・・・どうにも信用できない話だわ、だけど・・・私も協力する。


記憶喪失なのは本当みたいだし・・・それに困っている人を助けたいって思いもあるからね」


リアは笑ってそう言った。


「でも、間違いなく危険な旅だ。そんな旅について来られる?」


「私だって少しは戦えるわよ・・・だからついていく」


リアの決心は固かった。リアは昔から困っている人は見捨てられなかった。


自分のことよりも相手のことを気に掛けることが多い。それがリアだ。


 「ありがとう、仲間がいると心強い――――所で・・・マナとは何だ?」


「マルスは本当に全て忘れてしまった様ね。マナは簡単に言うとこの星の力よ。マナは強力な力を秘めていて光術を使うのに必要なの。


光術は火や風を起こしたりすることができる便利な力。それを悪用して人を傷つける人もいるけどね」


「つまり特殊な力と言うことか?」


「まぁ簡単に言えばそうね。"ライトクリスタル"って言う大気にある僅かなマナを取り込む道具さえ在れば光術は使えるわ。


でも、ある特定の人はライトクリスタルなしで光術が使えるの・・・私もその一人よ」


 「そうか、ありがとう。―――それと・・・マナの暴走のことも教えてくれないか?」


「えっと・・・マナの暴走は一年前に起こったのよ。昔は平穏な大地だったのだけれど暴走が始まってから他の地方では


地中からマナが吹き出して――――町は滅んだわ」


リアは悲しそうに言った。


 「・・・・・ライトクリスタルはいつ、何処で見つかった?」


「えっ?えっと場所はわからないけど一年くらい前だったと思うわ」


ティーカップに紅茶を注ぐとマルスに渡してそう言った。


「リアはライトクリスタルが見つかる前から光術は使えたのか?」


マルスはティーカップを受け取ると迷わずに一口飲んだ。


(美味いな・・・)


質問の返答を待ちながらマルスは紅茶を飲んだ。


「あたし達ライトクリスタルが無くても光術が使える人は何百年も前から使えたって聞いてるわ・・・でもそれがどうかしたの?」


「少し分かった気がする・・・マナの暴走が起こったのは都市とかじゃなかったか?」


「えぇそうよ」


紅茶をゆっくり飲みながらリアが言った。


 「やはりな、ライトクリスタルが見つかったときからマナの暴走が始まったってことは


マナの暴走の原因はライトクリスタルだろう」


「それはないと思うわよ、マナが増えすぎて暴走が起こるって科学者は言っているし、ライトクリスタルは


マナを使うわけだから、それならマナが減るはずよ」


「マナが多すぎる、少なすぎるは関係なくて、ライトクリスタル自体が問題なんだと僕は思う」


「そうかなぁ・・・?」


マルスが下を向いてため息をついた。


 「まぁ僕の仮説が正しいとは限らないけどね――――――――ん?・・・これは!」


マルスの腰にある鈴が澄んだ音を立てた。


そして鈴は光だし、その光はドアを差した。まるで外に出ろと言うように。


「な、何これ!?」


リアは驚いて立ち上がったので弾みでコップが落ちてしまった。


「さっき言ったはずだ。この鈴が行く先を示してくれると」


マルスはそう言って激痛を我慢してゆっくり立ち上がりドアに向かって歩き出した。


「大丈夫?肩、貸そうか?」


床を拭きながらリアが言った。


「大丈夫だ。歩ける」


顔を痛みでしかめているマルスがドアを開けると鈴はラマ草原の方向を指した。


「まさかラマ草原にあなたの記憶の鍵があるの?」


リアが不安そうに言った。


「そうみたいだな」


マルスは素っ気なく言った。


(そういえばこの前魔物にやられたときも鈴の音が聞こえたな・・・)


「行かないと・・・」


「今すぐは駄目よ?少し体を休めなきゃ」


リアはそう言ってマルスをベッドに引っ張っていった。


「しかし・・・急いでるんだ」


マルスはせっぱ詰まった様子で言った


 「大丈夫よ、光術で治してあげるから」


マルスをベッドに座らせるとリアは呪文を唱え始めた。


「リカバリー!」


リアが呪文を唱え終わりそう言うとマルスの疲れと痛みが退いていくのが分かった。


「さぁ楽になったはずよ・・・でも完全に傷は癒えてないから今日一日ここで寝てなきゃだめよ」


「あぁ、何から何まですまない・・・」


「いいのよ、私達はもう仲間でしょ?仲間が仲間を助けるのは当たり前」


リアは微笑んでそう言ったのでマルスも思わず微笑み返した。

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