才能が地味に大爆発
連休の最終日、リュウジは朝日が差し込む爽やかな朝の電車に揺られていた。遊びに行くのでも、菌類の採集に行くのでもない。バイトに向かっているのだ。
いつものように不眠不休伝説を持つ大日本バイト協会のジョブアドバイザー、荻原さんに仕事を貰った。今回は、なんと初めての工場なのだ!!工場ですよ!
「アイスクリーム。アイスクリーム。アイスクリーム。」
リュウジはよだれを少しだけ垂らしながらひたすらアイスクリームとつぶやいている。リュウジにとって工場とは、小学生の時に見学したアイスクリーム工場しかイメージが無いらしい。いや、今回は食品の工場じゃないから。夢から覚めて大人になれ!リュウジ!しっかりしろ!
だが、リュウジの後の活躍を思えば、工場はリュウジにとってのラッキースポットなのかもしれない。
★☆☆★★★☆☆☆☆★
現場に着く。いつものように30分前だ。現場は小さな町工場風の部品工場。こういう所でもバイトを雇うんだ。どんな仕事をするんだろう。楽しみでも不安でもある。
バイトは今回2人らしい。自分も含めて。とりあえず、社員さんに話掛ける。とりあえず、できそうなバイトを装うのは大事だね。前回みたいに駐車場に一人で取り残されたりするのは嫌だもん!大きな声でさあ!いくぞ!
「おはようございます!! 大日本バイト協会から派遣された鴨野といいます!!
「はっ! …はい。」
お、オレの大声でビックリしちゃってるぞ。でもどんどんいくぞ!
「現場に入るまで、どこで待っていればよろしいでしょうか?」
よ~し言えたぞ。
「あ、休憩室でいつも待ってもらってるよ。ここの部屋の向うの右へ行って…」
★☆☆★★★☆☆☆☆★
作業が始まる。働いているのはおばちゃんばっかりだ。
パートで来ている人が多いらしい。明るくて、ちょっと騒々しい。
因みに、今回一緒に働くバイトさんは、遅刻寸前の3分前に駆け込んで来た。前回の引越しのアルバイトでも遇った長髪のお兄さんだ。
社員さんに言われた配置に着く。
目の前には部品の山。これはいったい何の部品じゃ?
社員さんが来て作業の説明をしてくれた。
「この針みたいなのを、こっちの部品にカチッツっていうまで嵌めてね。これ、実は計測器のメーターの針の部分なの。ベルトコンベアで流れた先のそこのおばちゃんが検品するから多少大丈夫だけど、しっかりやってね。これだけの量があるから、スピードも考えてこなしてください。はい。それではお願いします。」
要するに、カッチッとやればいいのね。簡単じゃん。
★☆☆★★★☆☆☆☆★
カチッツ。カチッツ。カチッツ。カチッツ。
ひたすら部品を組み立て、ベルトコンベアに乗せていく。
単調な作業だが、ベルトコンベアが流れていると、何だか、スピードアップを迫られているようで、気が焦る。一緒に組み立てている長髪のお兄さんは何だか苦痛そうな顔をしている。う~ん。オレは苦痛ではないんだけどな~。
しばらく作業してリュウジはあることに気が付いた。隣のレーンのパートのおばちゃんは超速い!!
チラチラ横目で覗き見してみると、大体2倍くらいの速さで組み立てている。なんだ!コレハ!
リュウジは引越し屋のおじさんの言葉を思い出した。
コツは、動作を真似ること!
とりあえず、リュウジは「高速おばちゃん」の動作を、精密に真似てみた。
ん。そうか。材料の置き方に工夫がある。そしてムダな動きをせず、最小限の動作で完成させている。おお、微妙な違いだが、確かに早くなるぞ。
トゥールトゥッールー
リュウジは、レベル1バイト基本技 『動作模写』 を覚えた。
★☆☆★★★☆☆☆☆★
リュウジは、さらに動作に微調整を加え、慣れと持ち前の集中力により、超高速で部品の組み立てが可能になった。
カチッカチッカチッカチッカチッカチッカチッカチッ
「お~よく、やるなあ。俺はちょっと向いてないや。」
長髪のお兄さんはそう、呟いた。
しかし、集中モードのリュウジは、その声を無視して作業を遂行した。
「すごいね。ベテランさんみたい。」
パートのおばちゃんもそう呟いた。
しかし、鬼神と化したリュウジは、その声を無視して作業を遂行した。
カチッカチッカチッカチッカチッカチッカチッカチッ
カチッカチッカチッカチッカチッカチッカチッカチッ
カチッカチッカチッカチッカチッカチッカチッカチッ
カチッカチッカチッカチッカチッカチッカチッカチッ
カチッカチッカチッカチッカチッカチッカチッカチッ
カチッカチッカチッカチッカチッカチッカチッカチッ
カチッカチッカチッカチッカチッカチッカチッカチッ
カチッカチッカチッカチッカチッカチッカチッカチッ
カチッカチッカチッカチッカチッカチッカチッカチッ
カチッカチッカチッカチッカチッカチッカチッカチッ
カチッカチッカチッカチッカチッカチッカチッカチッ
カチッカチッカチッカチッカチッカチッカチッカチッ
カチッカチッカチッカチッカチッカチッカチッカチッ
カチッカチッカチッカチッカチッカチッカチッカチッ
カチッカチッカチッカチッカチッカチッカチッカチッ
カチッカチッカチッカチッカチッカチッカチッカチッ
カチッカチッカチッカチッカチッカチッカチッカチッ
カチッカチッカチッカチッカチッカチッカチッカチッ
カチッカチッカチッカチッカチッカチッカチッカチッ
カチッカチッカチッカチッカチッカチッカチッカチッ
カチッカチッカチッカチッカチッカチッカチッカチッ
カチッカチッカチッカチッカチッカチッカチッカチッ
カチッカチッカチッカチッカチッカチッカチッカチッ
カチッカチッカチッカチッカチッカチッカチッカチッ
カチッカチッカチッカチッカチッカチッカチッカチッ
カチッカチッカチッカチッカチッカチッカチッカチッ
カチッカチッカチッカチッカチッカチッカチッカチッ
カチッカチッカチッカチッカチッカチッカチッカチッ
カチッカチッカチッカチッカチッカチッカチッカチッ
カチッカチッカチッカチッカチッカチッカチッカチッ
カチッカチッカチッカチッカチッカチッカチッカチッ
カチッカチッカチッカチッカチッカチッカチッカチッ
カチッカチッカチッカチッカチッカチッカチッカチッ
カチッカチッカチッカチッカチッカチッカチッカチッ
カチッカチッカチッカチッカチッカチッカチッカチッ
カチッカチッカチッカチッカチッカチッカチッカチッ
カチッカチッカチッカチッカチッカチッカチッカチッ
カチッカチッカチッカチッカチッカチッカチッカチッ
カチッカチッカチッカチッカチッカチッカチッカチッ
カチッカチッカチッカチッカチッカチッカチッカチッ
カチッカチッカチッカチッカチッカチッカチッカチッ
カチッカチッカチッカチッカチッカチッカチッカチッ
カチッカチッカチッカチッカチッカチッカチッカチッ
カチッカチッカチッカチッカチッカチッカチッカチッ
昼休み
カチッカチッカチッカチッカチッカチッカチッカチッ
カチッカチッカチッカチッカチッカチッカチッカチッ
カチッカチッカチッカチッカチッカチッカチッカチッ
カチッカチッカチッカチッカチッカチッカチッカチッ
カチッカチッカチッカチッカチッカチッカチッカチッ
カチッカチッカチッカチッカチッカチッカチッカチッ
カチッカチッカチッカチッカチッカチッカチッカチッ
カチッカチッカチッカチッカチッカチッカチッカチッ
カチッカチッカチッカチッカチッカチッカチッカチッ
カチッカチッカチッカチッカチッカチッカチッカチッ
カチッカチッカチッカチッカチッカチッカチッカチッ
カチッカチッカチッカチッカチッカチッカチッカチッ
カチッカチッカチッカチッカチッカチッカチッカチッ
カチッカチッカチッカチッカチッカチッカチッカチッ
カチッカチッカチッカチッカチッカチッカチッカチッ
カチッカチッカチッカチッカチッカチッカチッカチッ
カチッカチッカチッカチッカチッカチッカチッカチッ
カチッカチッカチッカチッカチッカチッカチッカチッ
カチッカチッカチッカチッカチッカチッカチッカチッ
カチッカチッカチッカチッカチッカチッカチッカチッ
カチッカチッカチッカチッカチッカチッカチッカチッ
カチッカチッカチッカチッカチッカチッカチッカチッ
カチッカチッカチッカチッカチッカチッカチッカチッ
カチッカチッカチッカチッカチッカチッカチッカチッ
カチッカチッカチッカチッカチッカチッカチッカチッ
カチッカチッカチッカチッカチッカチッカチッカチッ
カチッカチッカチッカチッカチッカチッカチッカチッ
カチッカチッカチッカチッカチッカチッカチッカチッ
カチッカチッカチッカチッカチッカチッカチッカチッ
カチッカチッカチッカチッカチッカチッカチッカチッ
カチッカチッカチッカチッカチッカチッカチッカチッ
カチッカチッカチッカチッカチッカチッカチッカチッ
カチッカチッカチッカチッカチッカチッカチッカチッ
カチッカチッカチッカチッカチッカチッカチッカチッ
カチッカチッカチッカチッカチッカチッカチッカチッ
カチッカチッカチッカチッカチッカチッカチッカチッ
カチッカチッカチッカチッカチッカチッカチッカチッ
カチッカチッカチッカチッカチッカチッカチッカチッ
カチッカチッカチッカチッカチッカチッカチッカチッ
カチッカチッカチッカチッカチッカチッカチッカチッ
カチッカチッカチッカチッカチッカチッカチッカチッ
カチッカチッカチッカチッカチッカチッカチッカチッ
カチッカチッカチッカチッカチッカチッカチッカチッ
カチッカチッカチッカチッカチッカチッカチッカチッ
カチッカチッカチッカチッカチッカチッカチッカチッ
カチッカチッカチッカチッカチッカチッカチッカチッ
カチッカチッカチッカチッカチッカチッカチッカチッ
カチッカチッカチッカチッカチッカチッカチッカチッ
カチッカチッカチッカチッカチッカチッカチッカチッ
カチッカチッカチッカチッカチッカチッカチッカチッ
★☆☆★★★☆☆☆☆★
1日のバイトが終わり、疲れて家路に着いた。
そして、ベットに倒れこんだ。
目を瞑る。
「針状の部品が一つ。嵌めこむ部品が一つ。」
部品が目に焼きついて離れない。
そして、いつしか眠ってしまった。
カチッカチッカチッカチッカチッカチッカチッカチッ
カチッカチッカチッカチッカチッカチッカチッカチッ
「わあああああ!!! ぎゃあああああ!!」
悪夢で目が覚めたリュウジは汗でびっしょりになっていた。
リュウジの才能は、何でも本気で取り組むその集中力なのです。その他の能力は、アレです。アレ。