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森をぼ~と見つめるリュウジ

目の前は森だ。リュウジは、大きな道路の前で、看板持ちをしている。


大きな道路だが、車はあんまり通らない。

人通りも多くない。こんなとこで看板持って何の意味があるのか。


「でも、お金は確実に入っている。一時間で、チャリーン。二時間で、チャリーン」


リュウジは、漫画を持ってきていなかった。音楽を聴くことはできたのだが、仕事中にMP3プレイヤーを取り出して耳に嵌めるのは、何だか気が引けた。だから、真面目にじっと目の前の新緑に満ちた森を見つめていた。


なんでこんなことをしてるんだろう。お金は確かに入る。でもなんだか、空しい。オレは看板持ってるだけだ。ほんとにそれだけだ。そんなことを考えていたら、時間が過ぎてしまった。



「おい。バイト君。そろそろお昼だ。昼ごはんはこっちで食べなさい。

 看板はそのへんに寝かせておいて。」



★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★


モデルルームの裏。仮設のテントの中で、ひんやりとしたパイプイスに座り、コンビニで買った冷たいおにぎりを無心で食べる。


「よっこしょ。っと」


水道の工事をしていたおっさんが横に座った。


「大学生か。」


急におっさんが話しかけてきた。


「ふぁい。…ゴクン 大学生です。」


おっさんは、少し下も向いて呟く。


「おめえ、Gランクか…。」


リュウジは狼狽した。


「な、な、あんでそれを!」



「その時計にちゃんと表示されてるぞ。」


おっさんが指した先には、バイトマン腕時計があった。


「そ、っか~Gランクなんですよ。恥ずかしい限りです。ハハハ。」


「最低のGランクだから心配になって、お前さんの働きぶりを仕事の合間にちらっと見せてもらったが、真面目じゃないか。よう。漫画も読まず、音楽も聴かず。眠りもしないで。」


「…。いや。ただ、くそ真面目なだけですよ。」


「おめえのいるべきランクは、Gランクなんかじゃねえ。大事なのは真面目さだけだ。真面目に仕事しているおめえが、こんなところにいちゃいけねえよ。」


「そ、そうですか。」


「おっと。俺もこんなとこで油売ってたら、仕事が遅れちまう。さあ、しごとしごと!」


そう、言うとおっさんは弁当を口に流し込み、足早に工事現場に戻っていった。


「何が、いいたかったんだよ~」


リュウジは、そう呟いた。


★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★


午後からは最悪だった。午前中の好天気が嘘のように天候が悪化し、激しい雨が降ってきたのだ。


モデルルームの兄ちゃんに合羽を貸してもらい、縮こまりながら看板をもった。こうなると、堪えるのが仕事のようだ。


「… さ、寒いよう。さむうう。」


5月といえども雨は冷たい。その寒さで体が震えた。


★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★


「作業終わりました~」


そういいながら、リュウジはモデルルームの兄ちゃんのところに合羽を持っていった。


「作業?… ああ、看板持ちね。 」


若干、侮蔑の表情が見えた気がしたが。まあ、作業とは呼べんわな。


「合羽はそこに置いといて。じゃあ。もう、帰っていいから。おつかれさん。雨だし、評価はちょっと高めに申告しとくよ。お疲れ様!」


「評価?」


「あれ、聞いてないの?現場の担当者は、バイト君の評価をバイト協会に送っているんだよ。」


「あ、そういえば荻原さんがそんなこと言っていたような。」


「はい。じゃあ、お疲れ~」


「お疲れ様で~す。」


★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★


濡れた体を震わせながら、帰り道、リュウジは考えた。


評価。ランク。お金。自分。仕事。評価。ランク。お金。仕事。自分。場所。








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