森をぼ~と見つめるリュウジ
目の前は森だ。リュウジは、大きな道路の前で、看板持ちをしている。
大きな道路だが、車はあんまり通らない。
人通りも多くない。こんなとこで看板持って何の意味があるのか。
「でも、お金は確実に入っている。一時間で、チャリーン。二時間で、チャリーン」
リュウジは、漫画を持ってきていなかった。音楽を聴くことはできたのだが、仕事中にMP3プレイヤーを取り出して耳に嵌めるのは、何だか気が引けた。だから、真面目にじっと目の前の新緑に満ちた森を見つめていた。
なんでこんなことをしてるんだろう。お金は確かに入る。でもなんだか、空しい。オレは看板持ってるだけだ。ほんとにそれだけだ。そんなことを考えていたら、時間が過ぎてしまった。
「おい。バイト君。そろそろお昼だ。昼ごはんはこっちで食べなさい。
看板はそのへんに寝かせておいて。」
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モデルルームの裏。仮設のテントの中で、ひんやりとしたパイプイスに座り、コンビニで買った冷たいおにぎりを無心で食べる。
「よっこしょ。っと」
水道の工事をしていたおっさんが横に座った。
「大学生か。」
急におっさんが話しかけてきた。
「ふぁい。…ゴクン 大学生です。」
おっさんは、少し下も向いて呟く。
「おめえ、Gランクか…。」
リュウジは狼狽した。
「な、な、あんでそれを!」
「その時計にちゃんと表示されてるぞ。」
おっさんが指した先には、バイトマン腕時計があった。
「そ、っか~Gランクなんですよ。恥ずかしい限りです。ハハハ。」
「最低のGランクだから心配になって、お前さんの働きぶりを仕事の合間にちらっと見せてもらったが、真面目じゃないか。よう。漫画も読まず、音楽も聴かず。眠りもしないで。」
「…。いや。ただ、くそ真面目なだけですよ。」
「おめえのいるべきランクは、Gランクなんかじゃねえ。大事なのは真面目さだけだ。真面目に仕事しているおめえが、こんなところにいちゃいけねえよ。」
「そ、そうですか。」
「おっと。俺もこんなとこで油売ってたら、仕事が遅れちまう。さあ、しごとしごと!」
そう、言うとおっさんは弁当を口に流し込み、足早に工事現場に戻っていった。
「何が、いいたかったんだよ~」
リュウジは、そう呟いた。
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午後からは最悪だった。午前中の好天気が嘘のように天候が悪化し、激しい雨が降ってきたのだ。
モデルルームの兄ちゃんに合羽を貸してもらい、縮こまりながら看板をもった。こうなると、堪えるのが仕事のようだ。
「… さ、寒いよう。さむうう。」
5月といえども雨は冷たい。その寒さで体が震えた。
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「作業終わりました~」
そういいながら、リュウジはモデルルームの兄ちゃんのところに合羽を持っていった。
「作業?… ああ、看板持ちね。 」
若干、侮蔑の表情が見えた気がしたが。まあ、作業とは呼べんわな。
「合羽はそこに置いといて。じゃあ。もう、帰っていいから。おつかれさん。雨だし、評価はちょっと高めに申告しとくよ。お疲れ様!」
「評価?」
「あれ、聞いてないの?現場の担当者は、バイト君の評価をバイト協会に送っているんだよ。」
「あ、そういえば荻原さんがそんなこと言っていたような。」
「はい。じゃあ、お疲れ~」
「お疲れ様で~す。」
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濡れた体を震わせながら、帰り道、リュウジは考えた。
評価。ランク。お金。自分。仕事。評価。ランク。お金。仕事。自分。場所。