第3話 ドキドキいもみこパラダイス
紗倶羅が食べ終わったお粥の器を洗う。
濡れた衣装の洗濯もすませた。(なぜ俺が巫女衣装の手洗いのし方なんか知ってたのかは尋かないように(汗))
自由なはずのGWが、すっかりおさんどんになっちゃいそうだ。……ま、これはこれで。
ぱんっ、と俺は布巾をはたいた。
花梨にも電話をする。2回、問答無用で切られたけれど、3回目には話を聞いてくれた。実にありがたいGFだ……。
紗倶羅が熱を出したこと、さっきのはたぶん熱に浮かされてのうわごとだろう、という説明に、いちまつの疑いを抱きながらも納得を示してくれた。
花梨と話していると、なんか癒される気がする……言いたいことはいろいろあるのだろうけれど、俺のことを第一に考えてくれる…だから俺も彼女を大切にしなきゃ、という気持ちになるんだ。
電話を終えて寝室に行ってみると、俺のベッドで寝ていたはずの紗倶羅が起きていたようで、急にがばっと布団をかぶった。一瞬だけ、貸してやった俺のパジャマが見えた。
「?」
「あ、おにいちゃん…」
紗倶羅がもっていた体温計を見る。
「…まだ熱があるみたいだな。何かしてほしいこととかあるか?」
「あのね、紗倶羅、ちょっと……寒いの。」
!!
俺の背骨から脳天にかけてに衝撃が走る。
目を見開いた俺を、紗倶羅は「?」という表情で見ている。
しかし、『寒いの』……それは、男にとって『愛してるわ』より強烈な一言なのである。
「で、でも掛け布団これでおしまいだし……」
「…紗倶羅、おにいちゃんといっしょがいいな…………だめ?」
いっしょ……って、同じ布団!? そ、それは…それはいくらなんでも。
「わかった……ちょっとだけな」
考えてることとやってることがこんなにも違う俺。(涙)
上着を脱いで、つい布団に入ってしまった。
やましい気持ちじゃない……紗倶羅が寒がってるからだ……そして紗倶羅は妹だ! やましい気持ちじゃないっ…!
心で念じつつも手を握ると、紗倶羅の手はすごく冷たかった。
「え!? 冷たい…」
熱があるはずなのに…!?
「おにいちゃん…」
紗倶羅が、俺の手を自分の頬に当てる。
「……あったかい」
「紗倶羅ッ!」
俺は思わず、紗倶羅を抱きしめてしまった。
「あ…!」
紗倶羅は驚いた表情になる。
今ならまだ戻れる……そう考えながらも、体は理性の支配を拒否する。
心臓が耳をつんざくほど脈打ち、紗倶羅のそれと差なる。
ほのかな香りとともに、唇が、だんだんと……ああっ、『ミコロイイドS』は18禁インモラルノベルになってしまうのか!?
ドツカァァァン!
…と、いきなし大爆発。
危なかったというか、危なさの意味が変わっただけいというか。
それは傭兵隊の逆襲だった。
「ふっ…練りに練った作戦、オペレーション・ボア、すなわち『正面攻撃』!」
「作戦でもなんでもないだろ、それ!!」
硝煙で頭からまっ黒になった俺がツッコん でるまもなく、やつらがAK-47を構えて走ってくる。
「また来たのね!」
「紗倶羅……」
「大丈夫…ミコロイド・チェンジ!」
パジャマがはじけて巫女装束に…俺は「ハ■ー・フ■ラッシュ」を連想した。まさにそんな感じの返信ぶりだった。
装束にチェンジした紗倶羅は、玉串を構えて叫ぶ。
「必殺、巫女殺法! 南無、菅公火雷天神…」
そしてそれを突き出し、
「ファイヤー……!!」
だが、そこへ大量の水が降ってきて、火は一瞬にして消えてしまった。
「え!?」
路上では傭兵達が消防用の放水車を操作していた。
「ふはは! こんなこともあろうかと用意したのだ!」
放水は数十秒で終わった。が。
「ひぇぇぇ…今度はこっちまでびしょびしょだぁ~…」
家ごと全部が水だらけ。
紗倶羅は嘆く俺には一瞥もくれず、
「もう許さない!」
「巫女殺法! 南無、菅公火雷天神…」
路上では傭兵達がふたたびホースを構える
だが、こんどは火じゃなかった。
「サンダー・ストーム!!」
電撃が荒れ狂う。放たれた水が、高圧電気を思いっきり伝達していった。
傭兵たちは一撃で全員感電してしまった。
……もちろん、俺もね。(涙)
紗倶羅は玉串を一振りする。
「火雷天神は火と雷の神…武器は火だけじゃないのよ!」
しっかりポーズまで取って決めゼリフを吐いてから、やっと、俺も巻き込まれていたことに気づいたらしい。
「おにいちゃん、おにいちゃん! しっかりして! …♪と抱き起こし~、仮包帯も~弾の中…」
なんで明治大正のヒットソングなんか知ってるんだ、こいつは!? なんてツツコむ余力も俺にはない。
「も、もうダメだ……」
手足がしびれてうごけなくなった俺は、心底そう思った。
「いやぁぁぁぁぁ~!! おにいちゃんが死んじゃう~っ!」
紗倶羅が泣き出した直後、玄関先にやってきた車が止まった。
「おやおや…」
車から降りてきたのは、再婚旅行に出たはずのおやじと菜々子さんだ。
家が火と水と雷で大惨事になってるにもかかわらす、そんなに驚いてる様子はない。
むしろ、呆れてるといった感じだ。
「気になって帰ってみりゃあ……」
「ほんと。ずいぶん散らかしたわね~。」
「散らかしたとか、そういう問題かっ!」
全身が痙攣してることもわすりれて、俺はおもわずツッコミを入れる。
おやじは紗倶羅の頭を撫でながら、
「ま、どうせこうなるんじゃないかと思ったよ。紗倶羅の周りではこんなこと、日常茶飯事……」
「そんな物騒な妹を置いていくなッ!」
叫んだときに俺はハッと気がついた。
「そうだ、親父、紗倶羅は熱があるんだ! 早く濡れた服を替えさせてやってくれ!」
「なに? 熱?」
だがおやじは少しも慌てず
「ミコロイドの熱はこうすれば下がるぞ。そういう仕組みになっているのだ。」
紗倶羅をうつ伏せに寝かせてタオルで背中をこすってみせた。
「な、なにぃ!? そ、それじゃ、おまえ…さっき、タオルで背中を拭いたときに、実はもう熱は下がって……」
「ごめんなさい……体温計、まくらでこすったの。」
「な、なんでそんなことを……」
紗倶羅は顔を赤らめて下を向く。そして横目の上目遣いで。
「初めておにいちゃんができたから、ちょっと甘えてみたくて」
・・・・・・・・。
次の瞬間……世界が一回転し、目の前が真っ暗になった。
今度は俺が熱を出し、気を失ったらしい
こうして、傭兵達はまた撃退され、おやじの再婚旅行は中止となった。GWは静かな一人暮らしから家族の団欒(ただし俺は風邪で寝込みながら)に変わったが、平穏な日々が訪れた……かに見えた。
だが……
「おにいちゃん、こんどは紗倶羅があっためてあげるね(はーと)」
と、巫女装束を脱ぎかける紗倶羅に、俺は
「や・め・て・く・れ!!!!」
と涙ながらに叫ぶのがせいいっぱい……。
そう、紗倶羅はまだ家にいるのです。
そのころ、離れたビルの屋上で傭兵達が
「よし、次はオペレーション・ブル!『全力突撃』」
「ラジャ!」
なんて言ってたことを、俺は知る由もない。
~ 終 ~
がんばって書いたつもりだったんですけど……再読してみると、まだ「萌え」というものをぜんぜん掴めてませんでしたね。(汗)
拙い作品に最後までお付き合いくださいまして、どうもありがとうございました!
僕の筆力なりに、多少でもお楽しみいただけたとしたらさいわいです。
m(_ _;m