人造巫女妹、自宅へ!
それは、おやじとふたりきりの朝食の時間からはじまった……。
「じつは、菜々子さんと再婚することになってな。今日から再婚旅行にいってくる」
「ふーん、そう」
「ん? おどろかないのか?」
「こういう話のお約束だしな。そんでもって連れ子で妹ができたりするんだろ?」
「なにを期待してるんだ、おまえは。そんなものいるわけないだろ」
一瞬コケそうになった俺だけど、考えてみりゃ別におかしくもなんともない。
「研究中の実験体を大学に置とおくと不用心だから家に送っといた。連休の間、頼むな。」
おやじは大学教授で、よく実験体を家においてでかける……。一人身が長かったから再婚は悪いことじゃない。俺も高3、そのくらいのことは理解できる年齢だ。
おやじか再婚旅行とやらに出かけてしまうと、家に残ったのは俺ひとり。
「さて、GWが終るまでのんびりするか…」
などとあくびしたのに、とつぜん、玄関のチャイムが鳴り響く。
「はーい。」
「お届け物で~す」
・・・やれやれ。返事なんかするんじゃなかった。宅配便なら会社名を出すはず。こんなこと言うのは、某新聞の勧誘員だ。
俺は扉の内側から、
「新聞なら間に合ってま~…」
「お届けものです、××大学から」
「あ・・・」
おやじの実験体か。俺は急いで扉を開けた。
「おつかれ様です。」
扉の向こうに立っていたのは・・・。
俺より3~4歳ほど年下で、巫女さんの格好をした女の子だった。
「はじめまして、おにいちゃん」
「…………………………は?」(汗)
紗倶羅と名乗ったこの女の子は、俺の妹だと言い張る。わけわからないので、おやじの携帯に電話をかけてみた。
「なにぃ、今度の実験体はクローン人間!?禁止されてるんじゃないのかよ!」
「うむ…紗倶羅は遺伝子を合成して作ったのだから厳密にはクローン人間ではない」
「へ理屈だ!」
「それにお前のために、わざわざ巫女で妹属性に育てたんだ」
「なんで巫女で妹属性なんだよ!?」
「お前のゲームの趣味くらい、知らないと思ってたか」
俺はふと、18歳の誕生日以降|(ということにしておいてくれ(汗))、貯金をはたいて堰を切ったように買ってしまったいくつものゲームソフトを思い出した。
『夜明け前より妹な』
『巫女姫無双』
『晴れのちときどき妹』
『Mikoキャロットへようこそ!』
『イモウト・ボーイ』
『マジカル・巫女さん・アカデミー』
『妹仕掛けのマリアン』
『巫女さんたちの午後』
『オランダ巫女は電気妹の夢を見るか』
『みこいも』
etc,etc・・・・・
「たまたまだ、たまたまっ! 絵柄が気に入って買ったのが、たまたまそういうネタだったんだよ!」
そう、たまたまなんだっ!
「ま、どうでもいい。留守の間だけだから面倒見て守ってやってくれ。ただし手を出すなよ、なにせ妹なんだから」
「血はつながってないだろ!」
「いや、血は繋がってる。紗倶羅は私と菜々子さんの遺伝子から作られた培養人造巫女妹なんだ。」
俺の後ろに、雷が落ちたような感覚がした。
・・・・・培養人造巫女妹!?(火暴シ干)
ナンジャ、ソリャアァアァアッ!!!?
顔が引きつっているのが自分でもわかる。
「?」
紗倶羅はわけもわからずほほえんでいる。
受話器からはおやじの声が聞こえ続けてる。
「だが遺伝子の実験でいろんな特殊能力を持ってるから、暴走させないよう気を付けろよ」
俺には、もうその意味が理解できてない。つまり、おつむ停止状態。
ようやく落ち着いたのは、30分くらいがすぎてからだった。
我に返った俺は、紗倶羅と差し向かいでお茶を飲んでいた。人間、意識を失っても習慣は守ってしまうものだ。
「親父が臓器培養の研究をしてるのは知ってたけど…クローンにまで手を出すなんて」
「ちがうよ、おにいちゃん。クローンじゃないよ」
紗倶羅は笑顔で訂正する。
「ミコロイド …っていうんだよ」
「ミコロイド~ぉ?」
「ミコロイドS。この暗号名は、まだ絶対秘密だから、人に漏らさないでね?」
紗倶羅が、唇に人差し指を当ててウィンクした。
「秘密なら先にそう言ってくれ、頼むから!!
つか、暗号にもなんにもなってない。(汗)
「で、最後のSは『紗倶羅』のS?」
紗倶羅は指をのばしてあごに当て、困った顔で上を見ながらながら
「ううん。正式名称は『培養人造巫女妹・ミコロイド-Sis』っていうんだけど、『Sis』の意味は…」
俺は、頭を抱えた。
「いい。言わなくてもわかった」
聞きたくない、聞きたくない!
「でも、よかった。」
「なにが?」
「おにいちゃんが優しそうな人で」
紗倶羅が、安心したようににっこり笑う。
その瞬間、俺の心臓がドキン。
俺は心の中で叫ぶ。
「いっ、いかんいかん! 俺はミコマニアでも、シスコンでもねえ! あれはあくまでゲームの中での話! 現実とは違うんだ…」
ぶつぶつ。
そんな俺を紗倶羅は心配したらしい。
「どうしたの、おにいちゃん?」
「いや、なんでも…」
「顔が赤いよ…熱があるのかな?」
紗倶羅の顔が思いっきり近づいてきた。俺の視線は、その下のにある唇に釘付けに。
「やめろよ!」
俺は思い切りその手をふり払ってしまった。
「あ…」
紗倶羅が悲しそうに目を伏せた。
そうだ、紗倶羅は俺を心配して……
「大丈夫だから、気にしなくていいよ。じ、じゃ、俺は客用のふとんを干してしてくる。午後は雨が降るらしいから今のうち…」
俺がベランダに出て布団を干そうとすると、紗倶羅が追いかけて出て来た。
「だめだよ。お父さんは、寝るときも一緒にいるようにって…」
「は? なんでそんなに1日中?」
「それは……」
そのとき、ヒュルヒュル・・・と音が聞こえてきて、紗倶羅が叫んだ。
「おにいちゃん、危ない!」
いきなり紗倶羅は俺に抱き着いてスライディング。その瞬間、後ろで大爆発が起こった。
「た、対戦車ミサイルRPG-7!?」
「まさかこんなに早く見つかるなんて!」
数百メートル離れたビルの屋上に、完全武装した傭兵隊が陣取っていた。
「はずしたぞ。次の作戦! オペレーション・ベア、『正攻法』!」
「ラジャ!」
傭兵隊は、AK-47ライフルを手に、この家へ向かって喚声を挙げ突撃してくる。
「どういうことなんだ!!」
「ミコロイドは最先端の研究素材…特殊能力を持つから、軍事利用したい人たちに狙われてるの」
紗倶羅はここでぶりっ子ポーヅをとり
「だからおにいちゃんに守ってもらえって…」
「傭兵隊を相手に守れるかぁっ!!」
怒鳴ってる間に、傭兵達は銃を構える。
「撃て!」
たちまちベランダは銃弾の雨あられ。
「AK-47は反動が大きいから下へ逃げて!」
いきなり紗倶羅が、俺を布団ごと柵から突き落とした。
「うわっ!!」
俺は布団に抱き着きながら頭から落下する。
「下すぎるわ~っ!!」
地面が迫ってきた。もうだめだ・・・と思ったとき、
「カムナガラ・タマチハエマセ!|(惟神 霊栄ませ)」
紗倶羅の声がひびきわたり、俺の体がふわっ…と浮いた。
俺が、布団に抱きついたまま地面の上でふわふわと浮遊しているところへ、玉串を突き出しつつ紗倶羅がふわりと降りてきた。
「ゆらゆらと振るえ、ゆらゆらと振るえ…」
紗倶羅が呪文をとなえる。
「巫女殺法! 南無、菅公火雷天神…」
紗倶羅が玉串を突き出すと。
「必殺・ファイヤー・ストーム!!」
いきなり、炎の嵐が吹き荒れた。
俺も巻き込まれて黒焦げになりながら、
「なんでそこだけ英語なんだよーーーッ!!」
え? ツッコむべきとこはそれじゃない?(汗)
(つづく)