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願いの物語シリーズ【ヒナちゃんねる3】  作者: とーふ


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第6話『この少女の名は、天野真白』

波乱に波乱を呼んだ麻雀配信も終わり、俺は最近では必ず付けているサングラスがズレていない事を確認しながらスタッフの部屋を出た。


一応世間では死んだ人間になっている以上、気を遣う必要はある。


まぁとは言っても警察も、国も俺の状態を理解した上で放置しているというのだから驚きだ。


いや、それだけ俺を助けた家の存在が国にとって大きいという事か。


「杉原さん」


「なんだ倉田」


「配信の方は終わりました。反響が本当に凄いですよ! これなら登録者数三千万も夢じゃない!」


「だろうな」


「これも全部杉原さんのお陰ですよ!」


「バカっ! ここでそんな事を言うな! 聞かれたらどうするんだ!」


「だーれに聞かれたら困るのかなー? スギハラ君!」


「夢咲……」


「あ、陽菜さん! お疲れ様です!」


「んー。お疲れ。とりあえず後片付けお願いね。倉田君。私はスギハラ君に用があるからさ」


「了解しましたぁ!」


走り去る倉田の背中を睨みつけながら、俺は現れてしまった恐ろしいボスに目を向ける。


いや、まぁ本当に恐ろしいのはこの小娘の後ろに居る奴らだが、まぁ良い。


俺は夢咲陽菜に言われるまま人の居ない会議室に入った。


「で? 何か言い訳があるなら聞くけど」


「言い訳? 何の話だ」


「ひかりちゃんの事!! 私、あの子に許可なんか出してないんだけど!? 勝手な事しないで!」


「別に混乱は無かっただろ? 古宮ひかりがただ麻雀が上手いだけの小娘に負ける訳もない」


「それは、そうだけど! でも、世間にひかりちゃんの力がバレちゃうかもしれない」


「バレる訳が無い。誰が信じるんだ? 古宮ひかりには未来が視えるなんて話を」


「でも!」


「バレない様にする為に麻雀形式にしたんだ。あれなら、古宮ひかりがどれだけ暴走しようが機械で操作したんだろうとか適当な想像が出来る。あの場には超常の存在、立花光佑も居るしな」


「お兄ちゃんを化け物みたいに言わないで」


「真実化け物だと俺は思うがな……まぁ良い。それで? 話はそれだけか?」


「ううん。例の調査。終わったんでしょ? 見せてよ」


「はいはい。人使いの荒い主様だよ」


俺は懐からメモリーカードを取り出して、夢咲陽菜に投げ渡した。


夢咲陽菜はそれを受け取って、自分の端末で読み取りながら凄い速さで中身を読んでゆく。


まったく。恐ろしい子供だ。


いや、だからこそ生贄に相応しいと思われたのか。


「これ、どこまで信用できる?」


「難しいな。正直オカルト方面は俺より、例の家の方が詳しいだろう。資料見せて聞いてみれば良い」


「そう、だね。そっちは綾ちゃんにお願いするか。じゃあ秋菜ちゃんの方は?」


「おそらくは古宮ひかりの予想通り……いや力で視た通り。という所だな。少し前に過労だって事で病院に入っていたが、大分ヤバそうだぞ」


「……そうなんだ」


「確か来年で夕暮秋菜は十七歳だったな。そしてお前がアイドルを引退したのも十七歳。立花光佑が事故を起こしたのも十七歳だ。偶然とは思えない」


「そうだね。朝陽さんが話してた事と同じ」


「神の計画だったか? 信仰を集める為に、特異な人間を殺して、人々の嘆きを信仰に変える。ろくな計画じゃないな。俺が上司なら頭ぶん殴ってるところだ」


「珍しいね」


「何がだ?」


「杉原がそんな風に怒るなんて思っても見なかった。悲劇なら良い映像になる! とか言いそうなのに」


「まぁ否定はしない。だが、今回巻き込まれてるのは朝陽の息子と、朝陽が愛した娘の様なお前だ。苛立ちだって覚えるさ」


「そっか。でも、朝陽さんには避けられてるけどね」


「やかましい」


「でも、でもさ。きっと朝陽さんは、杉原がごめんなさいしたら、許してくれるよ?」


「へっ、死んでもごめんだね。俺はまだ立花幸太郎の事を認めちゃいないんだ。俺の居ない時にかっさらいやがって。気に入らねぇ」


「ふふ。杉原は一途だなぁ」


「フン。お前みたいなガキには分からないだろうがな。男には一度こうと決めたら貫きたいコトがあるんだよ。曲げらんねぇ意地がある」


「それで朝陽さんが不幸になっても?」


「……」


「杉原は自分勝手だね」


「もう年だからな。オッサンは自分が間違ってたって認めるのは難しいんだ。今日までこうやって生きてきたからな」


「ならしょうがない。少しでもポイント稼いで、朝陽さんに近づくしか無いね」


「……夢咲?」


「叶わない想いを抱え続けてる人の気持ち、少しは分かるからさ。それに杉原だって本当は朝陽さんを悲しませたくないんでしょ?」


「当たり前だろう」


「ならさ。出来る事をして、朝陽さんにアピールするしか無いんじゃない? あぁ、杉原さんって素敵な人。って思われるようにさ」


「朝陽がそんな事考える訳無いだろ」


「いやいや。杉原がソレ言っちゃうの? 矛盾だよ。それじゃ」


「まぁ、そうだろうな」


「えぇ、分かってて言ってるの?」


「大人ってのはな。矛盾を抱えて生きてるモンなんだよ。ただ一つの想いを貫くためなら、他はどうだっていいんだ」


「自分さえもって? お願いだから自暴自棄になって命捨てるのは止めてね? 折角杉原を何かヤバイ奴から助けてくれた綾ちゃんとひかりちゃんの為にさ」


「分かっているさ。これでも俺は義理堅い性格なんだ。受けた恩は返す。それが朝陽の娘とその友達だって言うんなら、なおさらな」


俺は夢咲を挑発する様に笑い、返してやった。


夢咲もどこか安心した様に息を吐く。


まったく、悪役の似合わないガキだ。


しかし、こんなガキに無理をさせているのが俺でもある。


なら、少し無理をしてやるか。命が消えない程度にな。


「夢咲。部屋の電気を消せ」


「え!? もしかして、ヒナちゃんが好きになっちゃったの!? こんなに可愛いから!」


「アホ言ってないで、これを見ろ」


小型の投影機を使い、部屋を暗くして、壁にメモリーカードにすら入れられない情報を映し出した。


この投影機は俺の体温と指紋を認識し続けなければすぐに止まってしまう。


だから、本当に秘匿したい情報を持ち歩く時はこれに入れていた。


「まず立花光佑が産まれたのは1996年だ」


「うん。そうだね」


「そして夢咲陽菜が産まれたのは2002年。夕暮秋菜が産まれたのは2008年」


「……うん」


「時代はさかのぼり、星野雛が産まれたのは……」


「1990年」


不意に夢咲の声が変わったが、俺は気にしない。


おそらくはそうだろうと思っていたが、やはりというだけだ。


「全て六年刻みだ。そして奇妙な事にそれぞれの運命が絡み合っている様にも見える」


「何が言いたいの?」


「何。例えばの話さ。かつて聞いた神の計画は立花光佑、夢咲陽菜、夕暮秋菜の命を十七の時に消す事で人々の願いを人間から神へと向かわせようとした。じゃあ逆にだ。逆に夕暮秋菜へ集めた願いを生命の誕生という順で逆走させたらどうなる?」


「どうって、起点になった人間が、生まれる……とか? でも、雛お姉ちゃんは」


「夢咲。六年刻みはな。星野雛が起点じゃ無いんだよ」


「え? でも、私たちと関わっている人間で、1984年生まれなんて……」


「居る。それがコイツだ」


俺は何とか探し出してきた写真とデータを壁に映しながら話を続けた。


「この少女の名は、天野真白」


「天野……真白、って天野!?」


「そう。お前に聞いた特徴からようやく見つけたよ。天野真白の兄。天野孝。コイツがお前たちの人生に深く関わっている人間。そうだろ?」


「天野が起点? でも、天野は生きてるじゃない」


「そう。天野は生きている。それに天野は1984年生まれじゃない。その年に生まれ、そして現在死んでいる人物。それが天野真白だ」


「天野の妹さん」


「しかも奇妙な事にこの少女が亡くなった年、隣の県に『ましろ』という名の天使が現れ、そして翌年には消えたらしい」


「……」


「そして少女が消えた年から、世界では願いの力なる奇跡の噂が囁かれる様になり、天野という存在も認知され始めた」


「もしかして、天野の目的は……この妹さんをこの世界に生まれさせる事?」


「人間として、では無いだろうが、おそらくはそういう事だと思う。まぁ、オカルトな話だが、ここまで話した話は全てオカルトだ。今更だろ」


「そう、だね」


「これから事が起きるとしたら、夕暮秋菜が十七歳になった時だ。その時、おそらく天野の願いは結実する」


「十七歳……って事は来年」


「そうだ。おそらくその日、世界中を巻き込んだ何かが起きる。天野に理性があれば、世界を滅ぼす様な事はしないだろうが、どうなるかは分からん」


「……ねぇ、杉原」


「なんだ?」


「お願いがあるの。叶えてくれるなら、お金でも、私でも、何でもあげるから」


「皆まで言うな。ガキが大人に甘える時は、図々しく、お願いとだけ言えば良いんだ」


「……ありがとう」


「良いさ。お前たちには迷惑を掛けたからな。天野の目的を見極める為にも、横倉村。そして天野が生まれた家に行ってくる」


「気を付けてね」


「大丈夫だ。これでも俺はいくつもの戦場を渡り歩いてきた男だぜ? 今更死ぬかよ」


「……うん」


「そう不安そうな顔をするな。大した事は無いさ。すぐに良い知らせを送ってやる。だから安心しろ。な?」


「分かった。お願いね?」


「あぁ」


「帰ってきたら、陽菜ちゃんの特性パンケーキ作ってあげるから!」


「へーへー。期待しないで待ってるぜ」


俺は会議室を出ながら、バッグを取りに行くべく控室を目指した。


今まで疎まれて、嫌われてきた俺だが、誰かの為に動くのも悪くないと。


そう思うのだった。

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