気付けなかった想いの重さ
帰り道。
私は、何も話せないまま歩いていた。
隣には、朝倉くんがいる。
でも、さっきまでとは違う。
世界が、少しだけ違って見える。
(ずっと前から)
(我慢してた)
その言葉が、頭の中で繰り返される。
「……白石」
朝倉くんが、静かに言った。
「答え、今すぐじゃなくていい」
私は、立ち止まった。
「……違う」
顔を上げて、彼を見る。
「私、今まで……」
言葉が詰まる。
涙が、勝手に出そうになる。
「私、自分の気持ちしか見てなかった」
「……」
「あなたが、そんなに……」
声が、震える。
「そんなに、私のこと思ってたなんて、知らなかった」
朝倉くんは、何も言わずに、ただ待っていた。
その優しさが、今は痛い。
そのとき。
真帆の声が、頭の中で蘇った。
「そんなわけないって決めつけるのって、失礼なときもあるよ」
「ひなのは、自分を信じてないから、相手の気持ちも信じられない」
全部、そうだった。
すれ違ってた時間も、
逃げてた気持ちも、
全部、恋だった。
私は、涙を拭いて、言った。
「……私、好き」
声は小さい。
でも、はっきりしていた。
「気付くの、遅すぎたけど」
朝倉くんは、息を吐いて、少しだけ笑った。
「知ってる」
「……え?」
「白石の好きは、ずっと分かりやすかった」
私は、驚いて、少し泣き笑いになった。
「……じゃあ、なんで」
「言ったろ」
彼は、優しく言った。
「俺のほうが、我慢してたから」
冬の空気が、頬に冷たい。
でも、胸の中は、あたたかい。
私たちは、並んで歩き出す。
すれ違ってきた時間ごと、
抱きしめるみたいに。
幸せで、少しだけ、泣ける余韻を残しながら。
朝倉君の視点
正直に言えば、
あのとき白石が泣かなかったら、俺のほうが崩れてたと思う。
泣くか、笑うか、逃げるか。
どれでも受け止める覚悟はしてたけど、
「好き」って言葉を、あんなに必死に選ぶとは思ってなかった。
白石は、自分の気持ちより、
いつも「相手がどう思うか」を先に考える。
だから俺は、ずっと言えなかった。
好きだって言えば、
白石はきっと「期待させたら悪い」と思う。
自分の気持ちを疑って、
それでも俺を傷つけない選択をしようとする。
それが、分かりすぎるくらい分かってた。
だから、待った。
距離を取って、
視線を逸らして、
優しさを抑えて。
好きな人に冷たくするのが、
一番きついってことも分かってたけど。
告白したあと、白石は言った。
「私、ずっと片思いだと思ってた」
その言葉を聞いた瞬間、
少しだけ、救われた気がした。
俺の我慢は、無駄じゃなかったんだって。
「俺のほうが、ずっと重かった」
そう言ったのは、本音だ。
白石は、自分を過小評価しすぎる。
だから、誰かの想いの重さも、正しく受け取れない。
でも――
今はもう、逃げない目をしてた。
それだけで、全部報われた。




