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Himeyuri ―魔法嫌いの元学園最強と、幼馴染の約束から始まる魔法学園譚ー  作者: 小鳥遊 千夜
第三章 演劇部再建編 

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第94想 転校生は、ただ者じゃない――真条聖妓、登場

 魔法試験が終わって数日。

 まだ空が白み始めたばかりの早朝、学園の修練場には二つの影があった。


 ひんやりとした朝の空気の中、燈也(ともや)は軽く肩を回しながら待っている。

 そこへ、まるで最初からそこにいたかのように教師――立花(たちばな)セレナが姿を現した。


「待っていたよ。……それじゃあ、修行を始めようか」


 穏やかな声音だが、その瞳は真剣そのものだった。


「ああ。なんでも来い」


 燈也も即座に答える。

 試験を越えた今でも、まだ足りないことは自分が一番分かっていた。


 セレナは一歩前に出て、淡々と語り始める。


「まずは基礎から。あなたの魔力量は、本当に目を見張るものがあるわ」


 一瞬、視線が燈也の胸元――魔力の流れを見透かすかのように向けられる。


「でもね、出力にムラがある。無駄も多い。そのせいで、力を出すたびに消耗が激しく使いこなせていない。」


「……自覚はある」


「でしょうね」


 小さく微笑み、セレナは続ける。


「だから最初の課題は、魔力を一定に保ち、安定した出力を維持すること。そのために――これを使うわ」


 セレナが静かに詠唱を始める。


『集え、水よ。

 形を持ち、場を支配せよ。展開――』


 空気が震え、修練場の地面に淡く青い光が広がった。


水魔の湖(マギア・ラグーン)


 次の瞬間、無数の水の粒子が集まり、渦を巻きながら形を成す。

 それは一気に広がり、修練場の中央に――静かに揺らめく湖を作り上げた。


「……すげぇな」


 思わず燈也が呟く。


「この水の上を歩いてみなさい」


 セレナはあっさりと言った。


「言っておくけど、この水は魔力を乱す。歩くには、魔力を一定に保ち続けないといけないわ」



「なるほどな……」


 燈也は湖の縁に立ち、意を決して一歩踏み出す。


 ――ぐらり。


 足元が不安定に揺れ、思わずバランスを崩す。


「うわっ……!」


 慌てて体勢を立て直そうとするが、魔力が乱れた瞬間、水面が沈みかける。


「……難しいな、これ」


「でしょう?」


 セレナは少し意地悪そうに笑う。


「さて……何日かかるかな?」


 それから燈也は、何度も水面に挑んだ。

 踏み出しては沈み、集中しては乱れ、またやり直す。


 太陽が昇り、修練場に光が満ちていく頃には、汗だくになっていた。


 ――そして。


「今日はここまで」


 セレナの声で、修行は区切られた。


「ふぅ……」


 燈也は膝に手をつき、息を吐く。


「上手くいかねえな……」



 セレナは首を振る。


「まぁ…初めてにしては上々かな。あと何日かすれば……あなたなら、きっとマスターできる」


 その言葉に、燈也は小さく笑った。



「……ああ。ありがとよ」


「ふふ」


 満足そうに微笑んだその瞬間、セレナの姿は朝靄(あさつゆ)に溶けるように消えていった。



 ほどよく賑わい始めた学園の廊下を、燈也は気だるそうに歩いていた。

 窓から差し込む光が床に伸び、どこか平和な空気が漂っている。


「さて……この後はどうすっかなぁ……」


 修行明けの疲労がまだ身体に残っている。

 授業まで少し時間もあるし、どう時間を潰すか考えていた――その時。


「……ん?」


 前方から、やけに騒がしい声が聞こえてきた。

 生徒が密集し、廊下の一角が人だかりになっている。


「なんだあの人込み……?」


 近づくにつれ、ざわめきの中心が見えてくる。


「……魔法執行部の部室?」


 列の先は、見慣れた扉だった。


「あいつらのことだ……」


 燈也は苦笑する。


「また何か騒ぎを起こしてるのかもしれないな」


 少し迷ったが、好奇心が勝った。


「……行ってみるか」


 魔法執行部の部室内。

 即席の受付のような机の前で、数人の生徒が緊張した面持ちで並んでいた。


「我々は――!」


 真っ先に前へ出たのは、カメラを首から下げ、なぜか鉄道会社風の制服を着込んだ男子生徒たち。


「魔法鉄道同好会であります!

 鉄オタの、鉄オタによる、鉄オタのための部活動設立を――」


 熱弁を振るう彼らを、机の向こうから冷ややかな視線が貫く。


「……却下。はい、次」


 間髪入れず、魔法執行部部長である帝亜(てぃあ)の無情な一言。


「えっ!? 理由は――」


「次」


 言い切りだった。


 次に現れたのは、満面の笑みを浮かべ、両手いっぱいにフィギュアを抱えた男子生徒たち。


「イヒヒ……僕達はフィギュアを愛する、フィギュア愛好会でやんす!」


 誇らしげに差し出される精巧な人形たち。


「……却下。次」


 即断即決。


「え、早くない!?」


「次」


 容赦はない。


 続いて、華やかな衣装が目に飛び込んできた。

 アイドル風の衣装に身を包んだ女子生徒たちが、元気よく声を揃える。


「アイドルクラブです!」


 その瞬間――


「アイドルクラブ?ちょっと好きかも」


 思わず鼻の下を伸ばす日向。


「……日向クン?」


 鋭い視線が突き刺さる。


「い、いや!なんでもない!」


 慌てて姿勢を正す日向。


「次……」


 淡々とした声が、夢を切り捨てる。


 次は、眼鏡をかけた男子生徒たち。

 コントローラーや携帯ゲーム機を抱えている。


「ゲームクラブです。是非、我らと熱いバトルを――」


「ちょっと興味あるけど……」


 一瞬、執行部側がざわつく。


 だが。


「……まぁ、却下ね」


「ですよねー……」


 肩を落としながら退場。


「はい、次――」


 帝亜の気怠(けだる)そうな声が響いた、その直後だった。


 部室の扉が開き、

 金色のツインテールを揺らしながら、一人の女子生徒が前に出てくる。

 背筋は真っ直ぐ、視線は強気。

 その立ち姿だけで、周囲の空気がわずかに張り詰めた。


「私は……」


「はい、却下」


 言葉を最後まで言わせる気すらない。

 帝亜の即答に、女子生徒の眉がぴくりと跳ねた。


「ちょっと、まだ何も言ってもいないでしょ?」


 苛立ちを隠さない声。

 金色のツインテールが、怒りに合わせて揺れる。


「……じゃあ、あなたは何部希望?」



 帝亜は眼鏡越しに視線を向ける。


「私は――演劇部を申請するわ」


 その言葉に、室内が一瞬静まった。


「演劇部は、もう廃部になったわよ」


 淡々とした返答。


「はあ!?休部じゃなくて?」


「ええ。去年、正式に廃部」


「……っ!」


 女子生徒は拳を強く握る。


「なら、もう一回再建してよ!」


「そんな簡単に出来るわけないじゃない」


 規則と現実を突きつける帝亜。

 だが――


「納得できないわ。

 正義が通らないじゃない!」


 その一言に、燈也は足を止めた。


「……正義?」


「おい、何を争ってるんだ?」


 場の空気を割るように、燈也が部室へと入ってくる。


「それがだな……」


 後ろにいた日向が、ひそひそと説明する。


「こいつら、部活動を設立しようとしてる連中なんだが……」


「ああ、確かにそんな時期だな」


 燈也は状況を一瞬で理解する。


「そ。問題は――設立できる部活数には限りがあるの。

 顧問、部室、部費……全部ね。」


 「なるほどな。」


 二人のやり取りを、女子生徒は不機嫌そうに睨みつける。


「あんた、何よ。

 いきなり話に入ってきて……部外者は引っ込んでなさいよ!」


「不知火クンは魔法執行部の助っ人よ。

 部外者じゃないわ」


 帝亜が即座に訂正する。


「不知火……?」


 女子生徒が、じっと燈也の顔を見つめる。


「……あんた、まさか

 不知火燈也?」


「そうだけど……

 なんでお前が俺の名前を?」


 一瞬の沈黙。


「はぁ?

 私のこと、忘れたってわけ?」


 ツインテールの少女は、呆れたようにため息をつく。


「私よ。聖妓(せいぎ)


「……聖妓……」


 燈也の記憶が、一気に繋がる。


「あっ……真条聖妓(しんじょうせいぎ)か」


 その名に、部室がざわつく。


「何?

 この騒がしい子と知り合いなの?」


 帝亜が怪訝(けげん)そうに尋ねた、その瞬間――


「誰が騒がしいですって!このクソ眼鏡ッ!」



 ぴしっ、と空気が凍る。


「……クソ……眼鏡?」


 帝亜の口元が、ゆっくりと吊り上がった。


「へぇ……

 この私に、随分な口を利くじゃない」


 眼鏡の奥で、魔力が静かに、しかし確実に高まっていく。


「おい……やべぇぞ……」


 日向が青ざめる。


「ちょっ……真条!」


 燈也は即座に聖妓の腕を掴む。


「とりあえず、こっちに来い!」


「はぁ!?

 なんでよ!」


「いいから!!」


 半ば強引に、燈也は彼女を部室の外へ連れ出した。


 背後では、今にも爆発しそうな帝亜の魔力が渦巻いている。


 こうして――

 転校生・真条聖妓は、

 騒動と因縁を引き連れながら、再び燈也の前に現れたのだった。






次回予告 『第95想 廃部からの逆転劇――少女は舞台を諦めない』


魔法試験を終え、次に動き出す学園の日常。

だが転校生・真条聖妓の目的――

それは、廃部となった演劇部の再建だった。


しかし魔法執行部が突きつける、

部活動設立の過酷な条件。


正義を掲げる少女と、

元Sランクの魔法嫌い。

二人の過去と目的が、再び交差する――。


次回、学園に新たな火種が灯る。





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