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Himeyuri ―魔法嫌いの元学園最強と、幼馴染の約束から始まる魔法学園譚ー  作者: 小鳥遊 千夜
第二章 魔法試験編

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第91想 魔法試験・最終局――確率を超えた意志、因縁の決着

 

「さあ――もう一勝負と行こうぜ!!」


 天野(あまの)が高らかに笑い、両腕を広げる。

 周囲の空間が、ざわりと歪んだ。


 魔力が収束する。

 それは単なる魔法ではない。

 “結果”そのものを選び取る、天野の本領。


『逃げ道は一つ。

 外したら――終わりだ』


≪ハイ or ロー≫


 二択。

 当たりか、外れか。

 生か、死か。


 確率を操作された魔法攻撃が、容赦なく燈也(ともや)へと放たれる。

 逃げ場は、理論上は存在する。

 だが――“当たる未来”を選ばれた瞬間、それは逃げ場ではなくなる。


「そう思い通りに行かせるかよッ!!」


 燈也は叫び、指先に魔力を集中させる。

 恐怖を振り切り、迷いを切り捨てる。


『黒は壊し、白は否定する。

 二つで一つの真理』


黒白魔弾モノクロ・バレット


 白と黒、相反する魔力が絡み合い、一本の弾丸となって撃ち出される。

 燈也の狙いは、天野ではない。


 ――“魔法そのもの”。



 二つの魔法が正面から衝突した瞬間、

 眩い閃光と衝撃波が神域を揺らした。


 轟音。

 魔力が爆ぜ、空間が軋む。


 互いの魔法は拮抗し、やがて相殺される。


(当たる確率を防げないなら――)


 燈也は、歯を食いしばる。


(当てる“対象”を、変えればいい)


 天野の目が、愉悦(ゆえつ)に細められた。


「……面白れェ」


 砕け散る魔力の残滓(ざんし)を見ながら、不敵に笑う。


「そう来なくちゃな、不知火」


 一歩、踏み出す。


「なら――これならどうだ?」


≪セカンドディール≫


 再配布。

 運命の手札を、もう一度引き直す。


 天野の手元に、魔力で形作られた“銃弾”が出現する。

 放たれたそれは、ただの弾ではない。

 “当たる結果だけを選び抜いた”必然の一撃。


 だが――


 燈也は、一瞬も怯まなかった。


『原初に還れ。

 黒は束ね、白は拒む。

 可能性そのものを封じる――』


黒白封鎖ディナイ・バインド


 白と黒の魔力が展開され、結界のように広がる。

 撃ち出された魔法の銃弾が、空中で歪み、砕ける。


 同時に、黒白の鎖が伸び、天野の動きを拘束した。


「……チッ!」


 初めて、天野の表情が歪む。


「いまだ!」


 燈也は地を蹴った。

 腕に魔力を集中させ、魔力の刃として纏う。


魔法断斬(マギア・ブレイカ―)!!≫


 魔力の刃が、空気を切り裂き、床を踏み砕きながら、燈也は一気に間合いへと踏み込む。


 確率も、運命も、賭けも関係ない。

 ここから先は――


 “意志”だけの距離だった。


「――なにっ!?」


 天野の表情に、はっきりとした焦りが走る。

 だが、さすがはSランク。反射的に魔力を引き絞り、即座に詠唱へ移る。


『引き際を知る者が、最後に立つ。』

≪ブラックジャック!!≫


 天野の腕にも、禍々しいほど研ぎ澄まされた魔力の刃が形成される。

 それは“最適解”を選び続けた結果だけで構成された、必勝の一撃。


 ――次の瞬間。


 二人の刃が、真正面から激突した。


 轟音。

 衝撃波が爆発し、神域の空間が大きく歪む。

 魔力同士が噛み合い、拮抗し、そして――弾けた。


「ぐっ――!」


「ちっ――!」


 互いに衝撃を受け、二人の身体が反対方向へと吹き飛ばされる。

 床を転がり、摩擦音が響く。


「……やるじゃねーか?」


 先に体勢を立て直したのは天野だった。

 着地と同時に膝を折り、すぐさま立ち上がる。その口元には、なおも(わら)いが浮かんでいる。


「その一撃……

 確率操作がなきゃ、普通に危なかったぜ?」


「くっ……」


 燈也も歯を食いしばりながら立ち上がる。

 全身に走る疲労。魔力の消耗が、はっきりと分かる。


(……キツい)


 この出力を、これ以上維持するのは限界に近い。

 長引けば、不利になるのは自分だ。


(次で……決めるしかねぇ)


 燈也は深く息を吸い、覚悟を固めた。


「まだ、終わらねぇ……」


 そして、吼える。


「今度は――オールインだッ!!」


≪魔力最大解放!!≫


 燈也の身体から、残された魔力が一気に噴き上がる。

 抑え込んでいた全てを解き放ち、次の一撃へと注ぎ込む。


「……!」


 その気配を感じ取り、天野の目が大きく見開かれた。


「上等だ!!」


 歓喜に歪んだ笑み。


「その勝負――

 乗ってやるよ!!」


 天野もまた、躊躇(ちゅうちょ)なく魔力を引き出す。

 確率、運命、勝敗――その全てを一つの技へと束ねる。


『弾は六つ。運命は一つ!』

≪リボルバー・ルーレット≫


 魔力で形作られた六つの弾丸が、天野の周囲に浮かび上がる。



 それぞれが不気味に回転し、どれが“当たり”なのか判別はつかない。

 いや――判別できたところで意味はない。

 当たる未来だけが、選ばれるのだから。


 次の瞬間、銃声のような破裂音と共に弾丸が放たれた。


錯乱魔法アンチ・ヘイズ


 燈也の身体が、ぶれた。

 いや――増えた。


 複数の幻影が一斉に展開され、弾丸がそれぞれを貫いていく。

 だが、命中の“結果”だけを選ぶ魔法は、幻すらも見分ける。


 それでも――


補助加速魔法アクセル・ブースト


 燈也はさらに速度を上げる。

 地を蹴るたび、空間が歪み、残像が引き裂かれていく。


「避けるつもりか?」


 天野が余裕の声で言う。


「だが、そんなんで逃げ切れると――」


「逃げる?」


 燈也は走りながら、はっきりと言い返した。


「違ぇよ……」


 その瞳には、もう迷いはない。


補助強化魔法パワー・ブースト


 全身に魔力が巡り、腕へと集中する。


 黒と白が混じり合い、今までとは明らかに異質な魔力が刃となって形を成した。


 空気が裂ける。

 周囲の景色が歪む。


魔法断斬(マギア・ブレイカ―)!!≫



 燈也は踏み込み、限界まで研ぎ澄ました一撃を放つ。

 それは速さでも威力でもない。

 “意思”そのものを叩きつける斬撃だった。



「……またその技……いや――」


 天野の表情が、一瞬で強張る。


「違う……黒い魔力だと!?」


 直感が警鐘を鳴らす。

 これは、今までの“一撃”ではない。


「チッ……!」


 天野は即座に魔法を発動する。


≪フォールスカット!!≫


 結果を書き換える魔法。

 当たるはずの一撃を、失敗へとすり替える切り札。


「クヒヒ……」


 天野は勝ちを確信した笑みを浮かべる。


「だがよ……惜しかったなぁ」


 次の瞬間、その身体が掻き消える。

 空間に残るのは、勝者の余韻だけ――のはずだった。


「……ふっ」


 燈也は、止まらない。


「読んでたぜ」


 背後で、微かに息を呑む気配。


「……なに……!?」


 その声が完全に形になる前に、燈也は振り向いていた。


≪夢の拒絶ゼロ・ヘイズ


 黒い障壁が、燈也を包み込む。


 それは触れた“結果そのもの”を否定する、拒絶の力。


 瞬間――

 燈也は一歩で距離を詰めた。


 ライセンスが、天野の胸元に触れる。


 確率も、運命も、賭けも。

 そのすべてが、黒に呑まれて消えていく。


「……っ!」


 天野の目が見開かれ、声にならない声が零れる。


 燈也は、静かに告げた。


「このゲーム……」


 一切の迷いもなく。


「俺の勝ちだ」


 燈也の声は低く、しかしはっきりと神域に響いた。

 確率も、賭けも、運命も――すでに意味を失っている。


「こ……この俺が……」


 天野の表情が凍りつく。

 信じられない、という感情がそのまま形になったような顔だった。


 かつて最強を自負し、運すら支配してきた男。

 その誇りが、今、静かに崩れていく。


「あの世で……」


 燈也は目を伏せることなく、真っ直ぐに告げる。


「先輩に、謝るんだな……」


 一瞬、天野の目が見開かれた。

 だが次の瞬間――


「……ヒヒヒ」


 低く、掠れた笑い声。


「今回は……俺の負けってことに、しておいてやる……」


 敗北を認めながらも、その声にはなおも歪んだ余裕が(にじ)んでいた。


「だがな……」


 消えかけた身体で、天野は燈也を睨み据える。


「お前の進む先も……俺と、同じだ……」


 言い終えると同時に、天野の姿は霧のように崩れ、神域の白と黒に溶けていく。


「……そうかよ」


 燈也は小さく息を吐き、肩の力を抜いた。


「なら……また会ったら」


 口元に、わずかな笑みを浮かべる。


「その時は、ぶん殴ってやるよ」


 誰に聞かせるでもない、静かな宣言。


 やがて、燈也は空を仰ぐ。

 神域の中に、かつて尊敬し、失った背中を思い描きながら――


「先輩……」


 声は、震えていない。


「これで俺も……

 少しは、アンタに近づけてたかな……」


 小さな呟きは、風もない空間に溶け、やがて消えた。


 それでも、燈也の胸には確かに残っていた。

 過去を超えたという実感と――

 前へ進むための、確かな一歩が。





次回 「第92想 魔法試験・終幕――」


魔法試験、ついに終了。

過去の因縁、消えない恐怖――

それらを乗り越え、彼は一歩前へと進む。


試験を終えた仲間たちと再会し、新たに動き出す運命の歯車。

トラウマを超えた先に待つ、次なる物語とは――。



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