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Himeyuri ―魔法嫌いの元学園最強と、幼馴染の約束から始まる魔法学園譚ー  作者: 小鳥遊 千夜
第二章 魔法試験編

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第90想 魔法試験・最終局面――過去と確率が牙を剥く



 

「ヒヒヒ……いいぜぇ!」


 天野龍人(あまのりゅうと)は肩を揺らし、愉快そうに笑った。

 灰色の髪に走る白いメッシュが、神域の無機質な光を反射する。


「俺もよォ……お前とは一度、やってみたかったからなァ!」


 その瞳には、かつての仲間を見る温度など微塵もない。

 あるのはただ、勝敗と愉悦だけ。


「俺とお前――どっちが上か……」


 天野は両腕を広げ、叫ぶ。


「決着、付けようぜ!!!」


 次の瞬間。


攪乱魔法アンチ・ヘイズ!!≫

補助加速魔法アクセル・ブースト!!≫


 燈也の姿がぶれ、空間が歪む。

 同時に身体が軽くなり、視界が一気に開けた。


「……陽動のつもりか?」


 天野は余裕の笑みを浮かべている。


「まだだ…。」


補助強化魔法パワー・ブースト


魔断(マギ・ブレイク)!!≫


 燈也(ともや)は歯を食いしばり、右腕へと魔力を一点集中させた。

 血流に乗って魔力が駆け巡り、腕の周囲に淡く光る刃が形成される。


「――はあああっ!」

 圧縮された魔力は唸りを上げ、一直線に天野へと迫る。


「おっと……」


 だが天野は、まるで結果が分かっていたかのように軽く身を引く。


≪フォールスカット≫


 次の瞬間――

 燈也の視界が、一瞬だけ歪んだ。


「かはっ…?」

 燈也の喉から、短い(うめ)きが漏れる。

 身体に走る衝撃。

 だが――攻撃したのは、自分のはずだった。


(くっ……何故だ……?)


 燈也は歯を食いしばる。


(何故、攻撃した俺の方が……ダメージを受けている!?)


 天野は、その反応を待っていたかのように(わら)った。


「クヒヒッ!

 運が悪かったみたいだなぁ……不知火」


 余裕たっぷりの声。

 勝利を確信している者の、それだ。


「……っ」


「種明かし、してやろうかぁ?」


 天野は指を鳴らす。


「ハァ……ハァ……」


 息を荒げながら、燈也は吐き捨てる。


「……余計なお世話だ!!」


 だが、内心は焦っていた。


(とは言ったものの……)


 視線を鋭くする。


(迂闊に攻撃は出来ねぇ……

 アイツの秘密を、暴かねえと……!)


 再び、魔力を練り上げる。


攪乱魔法アンチ・ヘイズ!!≫


 空間が歪み、視界が揺らぐ。


「懲りずに……同じ技かァ?」


 天野の嘲るような声が響く。


魔断(マギ・ブレイク)!!≫


 燈也は再び魔力の刃を振るった。

 だが、その切っ先が向いたのは――天野ではない。


「……っ!」


 狙い澄ました斬撃は床へと叩きつけられた。


「どこを狙って……ッ!」


 次の瞬間。


 轟音が擬似空間を震わせる。

 床が大きく砕け、割れた石片と衝撃波が跳ね上がり、天野の足元を直撃した。


「……クヒヒッ」


 一瞬、天野の身体が揺れる。

 だがそれも束の間、すぐに愉快そうに喉を鳴らした。


「なるほどなァ……」


 砕け散った地形を見下ろし、感心したように続ける。


「直接、俺を攻撃するんじゃなくて……

 地形を利用して、間接的に攻撃するってわけか」


 その視線が、ゆっくりと燈也へ戻る。


 ――完全に見抜かれていた。


「いいぜ……発想は嫌いじゃねぇ」


 だが、天野は肩をすくめ、余裕の表情を崩さない。


「――だが、残念」


 ゆっくりと顔を上げ、歪んだ笑みを浮かべる。


「せっかくのお前の作戦も……」


 一拍置いて、言い切った。


「俺の前じゃ、効かないんだよ」


 だが次の瞬間、燈也が低く笑った。


「……そうでもねぇぜ」


「ほう……」


 天野が目を細める。


「もう気付きやがったか?」


「ああ」


 燈也は一歩前に出る。


「ここは俺の心が生んだ幻想……

 正しくは、“思い出した”って言った方がいいかもしれねぇ」


 天野を真っ直ぐに見据え、続ける。


「お前……運を操ってるんだな?」


「……クヒヒッ」


 天野は、隠すことなく頷いた。


「そうだ。俺のスキル――

 《悪運(デビルズ・)強運(ギャンブラー)》は、確率を操る能力だ」


 誇らしげに、そして楽しそうに言い放つ。


「だがな、不知火。

 思い出したところで――」


 指を鳴らす。


「お前の“運”が、俺に勝てねェ限り……

 勝ち目はねェぜ?」


「確かにな……」


 燈也は拳を握りしめる。


「だがよ」


 一瞬だけ、笑った。


「それなら――

 最後までやってみなくちゃ、分からねぇだろ?」


「クヒヒッ!!」


 天野は腹を抱えて笑う。


「いいじゃねぇか……!

 そういうの、嫌いじゃねぇぜ!!」


 目をぎらつかせる。


「良いギャンブラー魂だ……

 そう来なくちゃ、面白くねぇ!」


 だが、すぐに忠告するように指を立てた。


「ただし、気を付けろよ?

 そうやって身を滅ぼすギャンブラーは――

 掃いて捨てるほどいるからなぁ」


「フッ……」


 燈也は鼻で笑う。


「ご忠告、ありがとよ!!

 まぁ――」


 視線を鋭くする。


「滅ぶのは、テメェの方だけどな」


魔法弾マジック・ショット!≫


 燈也の指先から、貫通力を高めた魔法弾が放たれる。

 一直線に、天野の胸元を狙って――。


「今度は遠距離か……」


 天野は舌打ちする。


「甘ちょろいんだよ」


 低く(ささや)くように詠唱する。


『さぁ張りな。攻めるか、外すか――

 当たりを引くのは、いつも俺だ』


≪フォールスカット!!≫


 次の瞬間、魔法弾の軌道が歪み、

 燈也の身体へと“結果”が跳ね返る。


「ちっ……!」


 燈也は後退しながら歯を食いしばる。


「遠距離に対しても発動するのか……

 それなら――」


 詠唱を切り替える。


補助魔法マジック・バインド


 光の鎖が空間を走り、天野の四肢を絡め取った。


「……お?」


 天野の動きが、止まる。


「捉えた」


 燈也は静かに言う。


「これなら――

 流石に避けられねぇだろ」


 全身に魔力を集中させ、腕を振り上げる。


魔断(マギ・ブレイク)!!≫



「クヒヒッ……それはどうかな?」


 天野の嗤い声が、空間に溶けた瞬間だった。


≪セカンドディール≫


 ――視界が、歪む。


「……っ!?」


 燈也が反射的に振り向いた、その時にはもう遅い。

 天野の姿は正面から消え、次の瞬間――背後に、気配。


「なに――!」


 背筋を冷たいものが走る。


「てめぇの手の内なんぞ、とっくに読んでんだよ」


 耳元で囁かれる、勝ち誇った声。


「――終わりだッ!!」


 天野が両腕を広げ、魔力を一気に収束させる。

 空間そのものが軋み、確率が“収束”していく感覚。


『賭けはここまでだ。

 揃った瞬間――運命は、確定する』

≪ジャックポット≫


 放たれた一撃は、避けるという選択肢すら許さない。

 “当たる未来”だけを選び抜いた、必然の攻撃。


「しまっ――!」


 燈也は咄嗟に魔力を展開する。


魔法障壁(プロテクション)!!≫


 半透明の防御膜が前面に広がる。

 だが――


「ぐっ……!」


 轟音。

 障壁は砕け散り、衝撃がそのまま燈也の身体を打ち抜いた。

 地面を転がり、息が詰まる。


「……く、そ……」


 防御は間に合った。

 だが、完全ではない。

 確かな痛みとダメージが、全身に残る。


 天野は、その様子を見下ろしながら肩をすくめた。


「惜しかったなァ……

 ほんと、もう少しだったのによ」


 余裕の笑み。

 勝利を確信した者の表情。


(……やっぱりな)


 燈也は歯を食いしばる。


(腐っても……Sランク。

 強ぇ……)


 触れるだけで勝てる。

 それが分かっているのに――


(それすら、出来ねぇ……!)


「どうした?」


 天野が手を広げる。


「もうフォールドするか?」


 その言葉に、燈也はゆっくりと立ち上がった。


「……んなわけ、ねぇだろ」


 視線を上げ、天野を睨み据える。


「幻だろうと……

 先輩の仇が、目の前にいるんだ」


 拳が、震える。

 怒りか、恐怖か、それとも――覚悟か。


「てめぇをぶん殴るまで……」


 低く、噛み締めるように言い放つ。


「俺は、絶対に引き下がらねぇ!!」


 脳裏に浮かぶ、先輩の背中。

 そして――仲間たちの顔。


 逃げる理由など、どこにもなかった。


≪魔力最大解放!!≫


 燈也の身体から、魔力が奔流(ほんりゅう)のように溢れ出す。

 空間が震え、神域の白と黒が大きく揺らぐ。


「……イヒヒッ」


 天野の目が、爛々と輝いた。


「そうだ……その目だよ」


 愉悦に満ちた声。


「最高じゃねぇか」


 腕を構え、迎え撃つ。


「来いよ!!

 てめぇを返り討ちにして――」


 口角を大きく吊り上げる。


「俺が“最強”だってこと、認めさせてやるからよォ!!」


 燈也は、一歩踏み出す。


「行くぞ!!!」


 過去とトラウマ、そして運命そのものを賭けた戦いが、

 今――最終局面へと突入する。




次回予告 『第91想 魔法試験・最終局――確率を超えた意志、因縁の決着』


確率を歪める能力の使い手にして主人公と同じSランクを持つ者同士の戦い。

死闘の果て、勝つのはどちらだ?


運か、意志か。

過去か、今か。


トラウマを超えたその先で、

燈也が掴む結末とは?


魔法試験、最後の試練。――ついに決着。





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