表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
Himeyuri ―魔法嫌いの元学園最強と、幼馴染の約束から始まる魔法学園譚ー  作者: 小鳥遊 千夜
第二章 魔法試験編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

89/121

第88想 魔法試験・最後の関門――越えられぬ過去、越えるべき今(2)


 学校のような擬似空間。

 白い廊下、整然(せいぜん)と並ぶ教室の扉、窓の外には不自然なほど静かな夕焼け色の空。

 見慣れたはずの光景なのに、空気だけが異様に張り詰めていた。


 その廊下の中央で、郷夜(ごうや)は一人、足を止めていた。


 その正面――

 腕を組み、冷え切った視線を向けて立つ人物。


 魔法教師――ドライツェン・エクレール。


「どうした、風間? 来ないのか?」


 低く、抑揚(よくよう)のない声。

 教室で聞くよりも、何倍も重く響く。


「い、いや……さすがに先生相手は……」


 郷夜は思わず一歩後ずさる。

 冗談抜きで、学校一怖い存在だ。

 魔物よりも、下手な試練よりも。


「来ないのならば――吾輩(わがはい)から行くぞ」


「えっ……いや! ちょっと待ってくださいって!

 それに、もし本物だったらどうするんですか!!」


 動揺する郷夜をよそに、ドライツェンは淡々と魔力を解放する。


『光の届かぬ深淵より

 影は集い、闇は形を成す

 無慈悲なる黒よ、今ここに――』


≪上級闇魔法 ギガ・ザラム≫


 床から影が噴き上がり、黒い奔流(ほんりゅう)となって迫る。


「ひいいいいいいっ!!」


 郷夜は半ば反射で詠唱した。


『風よ、オレ様の盾となれ』


蒼風の旋風壁(ウィンド・ガード)


 渦巻く風が前面に展開され、闇の魔法を辛うじて受け止める。

 衝撃で身体が後方へ弾かれ、壁に背中を打ち付けた。


「くそっ……シャレになってねぇぞ!!」


「喋る暇があるなら、かかって来たらどうだ?」


 相変わらず、表情一つ変えない。


「……っ、くそ!

 後で文句言うなよ!!!」


 郷夜は歯を食いしばり、魔力を一気に高める。


『情熱は赤く、風は速く!

 瞬速でぶち抜け!』


赤き瞬風の風弾(ウィンド・ショット)

 ≫


 赤みを帯びた風の弾丸が一直線に飛ぶ。

 廊下の空気を切り裂き、確かな手応えで命中――した、はずだった。


「へっ……どうだ!?」


 しかし。


「筋は悪くないが……まだまだ甘いな」


 煙が晴れると、そこには――

 何事もなかったかのように立つドライツェンの姿。


 服に乱れ一つない。


「くそ……無傷かよ……」


 思わず膝が笑う。


「大体よぉ、センコー相手に勝てるわけねえだろ!!」


 思わず本音が漏れる。


(なげ)かわしい……

 お前は、何のためにここまで来たのか?」


 その言葉に、郷夜の動きが止まった。


「それは……」


 脳裏に浮かぶ、仲間たちの顔。

 それぞれが恐怖と向き合い、必死に戦っている姿。


「……そうだ」


 拳を握りしめる。


「オレ様だけ、ここで諦めるなんて……

 そんなカッコ悪い真似、出来るかよ!!」

 郷夜は叫ぶように言い切り、胸の奥で荒れ狂う鼓動を必死に抑えた。


(おっ……落ち着け……)


 深呼吸する。


(あいつは幻だ。試練が見せてるだけの存在。

 ホンモノじゃねぇ……)


 視線を上げ、真正面からドライツェンを(にら)み返す。


「これは相手を倒すための戦いじゃねぇ……」


 郷夜は一歩、前へ踏み出す。


「てめえに触れるぐらいなら……

 オレ様にだって――」


 魔力を一気に解放する。


『疾き風よ、オレ様に従え

 紫に染まり、渦となれ』


疾風の(ヴァイオレット・)紫旋風(テンペスト)!≫


 紫色の烈風が巻き起こり、床を削りながらドライツェンへと襲いかかる。

 教室の扉が音を立てて吹き飛び、廊下の空気が悲鳴を上げた。


 だが――


『闇よ、集え

 影を束ね、黒き壁となりて、我が身を守れ――』


 ≪幽冥の壁(シャドウ・ウォール)


 影が(うごめ)き、殻のようにドライツェンの身体を包み込む。

 旋風はぶつかると同時に霧散した。


「くそ……!」


 歯を食いしばる郷夜。


「甘いのである」


 低く、冷たい声。


「生徒が吾輩に当てるなど、本当に出来ると思ったのか?」


 ドライツェンは杖を構え直し、さらに濃い魔力を練り上げる。


『罪を知れ

 地の底に棲む呪いよ

 その身を鎖へと変じ、抵抗を許すな』


黒鎖大蛇(ニーズヘッグ)!≫


 影から現れた黒い鎖が、大蛇のように蠢き、郷夜へと伸びる。


「……へっ」


 郷夜は、不敵に笑った。


「お前が本物なら……出来ねぇだろうな」


 (くさり)が迫る。


「だがな――

 てめぇがニセモノなら……」


 鎖が郷夜の身体を貫いた、はずだった。


「オレ様だって――」


 その瞬間、郷夜の姿が風の粒子となって霧散する。


「……できるんだよ!!!」


碧風の幻影(エメラルド・ブリーズ)


 背後から響いた声に、ドライツェンの目がわずかに見開かれる。


「……バカな。変わり身だと……」


「本物は、こっちだぜ!」


 郷夜はすでに間合いの内側。

 全身に風を纏い、最後の魔法を解放する。


『静寂は終わりだ

 ここからは――嵐の番だ』


逆巻く暴風の猛進(ブレイク・トルネード)!!≫


 爆発的な突風と共に、郷夜は一直線に突っ込んだ。

 視界が白く弾ける。


 その手に握られたライセンスが――

 確かに、ドライツェンの胸元へと触れた。


「……やったぜ」


 嵐が止み、郷夜は息を切らしながら笑う。


「オレ様の勝ちだ!」


 沈黙の後、ドライツェンは小さく鼻を鳴らした。


「……フン」


 その表情に、いつもの厳しさはない。


「見事である。

 今の貴様なら――()()()()()も、褒めるかもしれんな……」


 そう言い残し、ドライツェンの姿は霧となって消えていった。


 静まり返る校舎。


「……へへっ……」


 郷夜は頭をかき、少し照れたように呟く。


「ありがとよ……ドライツェン先生」


 その声は、誰に届くでもなく、

 だが確かに――彼自身の成長を証明していた。




次回 『第89想 魔法試験・最後の関門――越えられぬ過去、越えるべき今(3)』


魔法試験、最後の試練。


仲間たちはそれぞれ、心の奥に刻まれた“恐怖”と対峙する。


そして燈也の前に現れたのは、忘れ得ぬ裏切りの男――天野。


果たして彼らは、自分自身を乗り越えられるのか。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ