第84想 魔法試験前半戦突破――夜空に誓う絆
場所は変わり、
人の気配が完全に途絶えた――廃墟と化した高層ビル。
かつてはオフィスだったであろう広大なフロアは、
壁は崩れ、天井の照明は沈黙したまま。
割れた窓から差し込む月明かりだけが、薄暗い空間を照らしていた。
そのフロアの中央。
円を描くように、十の影が立っている。
全員がフード付きのマントを身に纏い、
顔は異様な仮面によって完全に隠されていた。
仮面には、それぞれ異なる数字が刻まれている。
――十月花。
学園の裏側で暗躍する、正体不明の組織。
その存在を知る者はごく僅かであり、知った者は口を閉ざす。
「ゼクス……」
低く、静かな声が空間に響く。
「呼ばれた理由は、分かっていますね?」
その言葉を向けられたのは、
Ⅵの数字が刻まれた仮面を付けた男――六堂仁。
彼は小さく舌打ちし、
どこか不機嫌そうに肩をすくめた。
「チッ……」
「フィーアか?」
六堂は、Ⅳの数字が刻まれた仮面へと視線を向ける。
「バラしたのはお前だろ?」
「は?」
即座に返ってくる、苛立った声。
「いや、俺じゃねぇよ」
フィーアは吐き捨てるように答える。
「派手に暴れた挙句、組織のアイテムまで勝手に持ち出したんですから」
今度は、Ⅴの数字を刻んだ仮面が口を開く。
その声には、露骨な嘲りが混じっていた。
「バレるのも当然でしょう?」
わざとらしく肩を揺らし、くすりと笑う。
「まさか……脳みそまで筋肉ダルマなんですかね?(笑)」
「アハハハハ!」
軽薄な笑い声が続く。
それはⅦの仮面――セッテだった。
「しかもさぁ、負けちゃったんでしょ?」
面白がるように声を弾ませる。
「超ウケるんだけど~」
「……フュンフ、セッテ……!!」
六堂の声が低くなる。
仮面の奥から向けられる視線には、
はっきりとした怒気が込められていた。
だが、その空気を切るように、
静かな声が場を制する。
「――とにかく」
十の影の中心に立つ存在。
Ⅰの仮面を付けた、リーダー・アイン。
「組織の命令を無視した以上」
感情の揺らぎを一切感じさせない声音で、
淡々と告げる。
「あなたは、しばらく謹慎です。……分かりましたね?」
その一言には、
逆らう余地のない圧が込められていた。
「……くそっ……わーたよ」
六堂は歯を噛みしめながら頷く。
崩れたビルの中、十月花の影は再び静まり返った。
その様子は嵐の前触れのようであった。
夜。
学園の屋上は、昼間の喧騒が嘘のように静まり返っていた。
フェンス越しに見える街の灯りが、星のように瞬いている。
夜風がコンクリートの熱を冷まし、
どこか落ち着く静寂が、この場所を包んでいた。
そこに、一人の少女の姿があった。
「……」
フェンスに手を置き、夜空を見上げている怜花。
この屋上は、いつの間にか二人にとって“逃げ場所”のような場所になっていた。
「……怜花も来てたのか」
屋上の扉が軋む音と共に、燈也が姿を現す。
怜花は振り返り、
その顔を見つけると、ほっとしたように微笑んだ。
「燈也さん…」
少し間を置いてから、
怜花はぺこりと頭を下げる。
「あの……今日は、ありがとうございました」
「礼を言う必要はねぇよ……
試験がクリア出来たのは、お前のおかげでもあるんだからな」
燈也は頭を掻きながら、照れ隠しのように言う。
「そんな……」
怜花は慌てて首を振る。
「私なんて、燈也さんに頼っていただけで……」
声が、少しだけ弱くなる。
「いや……」
燈也は一歩近づき、
怜花の目をまっすぐ見て言った。
「俺が勝てたのは、お前のおかげだよ」
「……お前の言葉があったから、迷わず前に進めた」
夜風に紛れそうな、けれど確かな声。
「……だからさ」
「俺の方こそ、ありがとな」
「……燈也さん」
怜花の胸に、じんわりと温かいものが広がる。
言葉を失い、ただその名を呼ぶことしかできなかった。
しばしの沈黙。
けれど、それは気まずさではなく、
心地よい間だった。
「明日の試験も…一緒に頑張ろうぜ」
燈也は夜空に目を向けながら言う。
「……はい!」
怜花は力強く頷く。
その笑顔は、昼間の不安をすっかり忘れさせるほど、明るかった。
夜の屋上で、二人は並んで笑う。
次回 『第85想 後半戦突入!個人戦、いざ開幕』
前半の試練を仲間と乗り越えた燈也達。
次に迎えるは最後の試験にして個人戦。
頼れるのは、自分自身のみ。




