第82想 第五の試練決着――己の力で、影を斬り裂く
「ははっ……いい顔だ」
ドッペルゲンガーが楽しそうに笑う。
「だったら――本気でかかってこいよ!!」
「お前に言われなくても!!!」
燈也は地を蹴った。
踏み込みは荒い。
技は洗練されていない。
それでも、その一歩には――迷いがなかった。
「型も動きも、まるでなってない……だけど」
離れた場所で、セレナが小さく呟く。
その視線は、興味と評価の狭間に揺れていた。
「く……っ!」
衝突の瞬間、魔力が爆ぜる。
黒と青が絡み合い、炸裂音と共に――
ドッペルゲンガーの身体が弾き飛ばされた。
「強い気持ちは……ちゃんと魔法に伝わっている」
セレナの言葉は、静かだが確信に満ちていた。
「はははっ!! そう来なくちゃな!!」
地面を転がりながらも、ドッペルゲンガーは高らかに笑う。
痛みすら楽しむような、その表情。
「はぁ……はぁ……」
燈也の呼吸は荒れ、魔力の流れが乱れていく。
身体の奥が焼けるように熱い。
魔力残量は、明らかに限界へ近づいていた。
それでも――
燈也は止まらない。
拳と刃、魔力と魔力がぶつかり合い、
激しい攻防が何度も繰り返される。
「うおおおおおお!!」
「ははははっ!!」
ドッペルゲンガーは笑いながら、腕に魔力を凝縮させる。
刃の輪郭が鋭く、凶悪に変質していく。
≪魔断!!≫
振り下ろされる斬撃。
空気が裂け、殺意が一直線に燈也へと迫る。
「だが、まだ足りねぇ!」
斬り結びながら、嘲る声が響く。
「お前の力は……まだこんなもんじゃねぇだろ!!」
「当たり前だ!!」
燈也は叫んだ。
「俺は……こんなところで負けてなんか、いられねぇんだよ!!!」
その瞬間。
燈也の魔力が、質を変える。
黒く、重く、荒々しい――それでいて、芯の通った力。
腕に纏った刃は、歪で不格好。
だが、それは今の燈也が持つすべて。
逃げも誤魔化しもない、剥き出しの力。
≪魔法断斬!!!!≫
振り抜かれた一撃が、
ドッペルゲンガーの身体を真正面から切り裂いた。
「……なんだよ」
地に伏しながら、ドッペルゲンガーが笑う。
その身体は、輪郭を失い、徐々に光へと崩れていく。
「やりゃあ……出来るじゃねぇか?」
「……お前のおかげでな」
燈也は、静かにそう答えた。
「ははっ……それでいい」
声は、もう遠い。
「もう……先輩に恥かかせるような真似、してんじゃねぇ……ぞ」
「ああ…お前に言われなくても……そのつもりだ」
燈也は頷く。
「なら……いい」
最後に、どこか満足そうな笑みを浮かべて。
「……あばよ、俺」
「ああ……」
燈也は、小さく呟いた。
完全にドッペルゲンガーが消失した瞬間、
周囲の景色が音もなく崩れ始める。
白と黒の境界が溶け、
擬似空間は、その役目を終えて解除された。
「ふふふっ…実に良いものを見せてもらった」
拍手でもするかのように、
セレナが微笑みながら現れる。
その瞳には、はっきりとした興味と評価が宿っていた。
「合格。後半戦も頑張ってね。」
そして、ふと思い出したように一歩近づく。
「あっ……そうそう」
燈也の耳元へ顔を寄せ、囁くように声を落とす。
「試験が終わったら、私が修行をつけてあげよう。」
「あなたは強い。でも――」
視線だけで、彼の身体の癖や無駄な動きをなぞる。
「戦い方に、まだ無駄が多い。無理にとは言わないけど……」
そう前置きしつつ、
試すような笑みを浮かべる。
「……あなたに守りたいものがあるなら」
「…考えておく」
燈也は視線を向けず、淡々と答えた。
感情は表に出さないが、
その言葉は拒絶でも肯定でもなかった。
「ふふふ…」
意味深な笑みを残し、
セレナの姿は霧のように消える。
次回 『第83想 夜明け前、覚悟は静かに燃える』
前半の試練、終幕。
仲間と越えた死線は、それぞれの胸に確かな爪痕を残した。
待ち受けるのは後半最後の試練である個人戦。
頼れるのは、自分自身のみ。




