第79想 第五の関門――影との死闘!仲間達の敗北を選別する試験1
『第五の試練。≪幻影騎士≫!!
――自分自身の幻影を、打ち破ることが出来るのか!?』
空間の上方、どこからともなく拡声された声が響き渡る。
実況者、吉良。感情を煽るような抑揚のついた声が、戦場の空気をさらに張り詰めさせた。
淡く歪む擬似戦闘空間の中央で、郷夜は歯を剥き出しにして叫ぶ。
「このオレ様が……劣等感なんてあるわけねえ!!!」
自分に言い聞かせるような叫び。
同時に、郷夜は地面を蹴り、正面に立つドッペルゲンガーへと突進する。
その姿は、鏡写し。
構えも、視線も、癖までも同じ。
『春を告げる青き風よ、その旋律で道を切り拓け。踊れ』
詠唱が終わると同時に、郷夜の周囲に風が渦を巻く。
≪青き春風のワルツ !!≫
流麗な動きで、幾枚もの風の刃が放たれた。
鋭く、速く、獲物を切り裂くためだけに洗練された一撃。
だが。
『風よ、オレ様の盾となれ』
≪蒼風の旋風壁 ≫
ドッペルゲンガーの前に、風の壁が展開される。
刃は壁に触れた瞬間、軌道を乱され、霧散した。
「だから無駄だって…オレ様も、お前なんだからよ」
風の向こうでドッペルゲンガーが肩をすくめながら笑う。
それは郷夜自身が、かつて他人に向けてきた表情だった。
「なぁ、知ってるか?」
ドッペルゲンガーは歩み寄りながら続ける。
「魔法ってのはさ。心の強さが、そのまま魔法の強さになるんだってよ。」
その目が、わずかに細まる。
「つまり……」
嘲るように、魔力が解き放たれる。
『怪我したくなきゃ、今のうちに下がりな
風は止められないからさ』
≪緑の疾風斬破!!≫
轟音と共に、鋭利な風の刃が襲いかかる。
「ぐあっ!!!」
郷夜はとっさに身を捻る。
直撃こそ免れたが、腕を掠めた刃が皮膚を切り裂いた。
赤い血が宙に散り、床へと落ちる。
「心が折れてるお前よりオレ様の方が、強いんだよ!」
ドッペルゲンガーは確信に満ちた声で言い放つ。
勝利を疑わない笑み。
それが、郷夜の胸をさらに締め付ける。
「ちくしょ……」
膝が、自然と床に落ちた。
その瞬間。
「ほら、もう諦めてるでしょ?…それが不知火燈也と、あなたの差よ」
甘く、冷たい声。
郷夜の横に、セレナの幻影が現れる。
「ランクだけの差じゃない。心がもう負けてるの」
慈愛と失望が混じった言葉が、容赦なく突き刺さる。
「心が……負けてる……だって」
郷夜は奥歯を噛み締め、拳を震わせる。
「うるせぇ!」
叫びと共に、顔を上げた。
「やってみなくちゃ、分からねぇだろ!」
迷いを振り切るように、残された魔力をすべて解き放つ。
『静寂は終わりだ
ここからは――嵐の番だ』
≪逆巻く暴風の猛進 !!!≫
暴風が郷夜の身体を包み込み、渦となる。
地面が軋み、空間が悲鳴を上げる。
「うおおおおおお!!!!!」
咆哮と共に、郷夜は突っ込んだ。
「面白れぇ!」
ドッペルゲンガーもまた、同じ魔力を解放する。
「どっちが上か、決着つけてやるよ!」
≪逆巻く暴風の猛進 !!!≫
竜巻と竜巻が正面から激突する。
風が風を喰らい、轟音が空間を支配した。
だが。
「くっ……ふざけ……んな……」
衝突の果て、先に崩れ落ちたのは郷夜だった。
風が消え、身体が床に叩きつけられる。
「……風間くんは、ダメそうね」
静かにそう呟き、セレナの幻影は背を向ける。
「さて。残りは……」
その姿が霧に溶けるように消え、
擬似空間には、敗北の余韻だけが残された。
別の擬似空間の中心で、怜花は荒く息を吐きながら立ち上がる。
拘束魔法の名残が、まだ彼女の腕や足に鈍い痛みを残していた。
それでも、視線だけは逸らさない。
「皆が頑張っているんですから……私も、頑張らなきゃ……」
震える声を押し殺し、怜花はドッペルゲンガーを見据える。
自分と同じ顔。自分と同じ魔力の波長。
まるで“心の弱さだけを切り取った存在”が、目の前に立っているかのようだった。
怜花は傷つきながらも構える。
「……いきます!」
魔力が指先に集束する。
『痺れよ!』
≪初級光魔法 レイ!≫
鋭く収束した光の槍が放たれ、一直線にドッペルゲンガーへと飛翔する。
だが――
「甘いですよ。」
余裕を含んだ声と共に、ドッペルゲンガーが静かに手を掲げる。
≪魔法障壁!≫
半透明の光の壁が展開され、怜花の魔法は衝突と同時に弾かれ消えた。
「そんな……」
怜花の瞳が揺れる。
「”燈也さんがいないのに”あなたが勝てるわけがないじゃないですか?」
ドッペルゲンガーは微笑む。
その笑みは優しげでありながら、どこまでも残酷だった。
「あなたは一人では、何も出来ないんですよ。」
その言葉は、刃のように怜花の胸を刺す。
心の奥底に押し込めていた“不安”を、無理やり引きずり出すように。
「それでも……私は、最後まで諦めません!」
怜花は歯を食いしばり、再び魔力を解き放つ。
光が周囲に舞い、彼女の想いに呼応するかのように瞬く。
「ふふふっ……いい心掛けですね。
でも、“気持ち”だけでは、願いは叶いませんよ。」
ドッペルゲンガーもまた詠唱を開始する。
二人の魔力が同時に高まり、空間の空気が震え始めた。
次の瞬間――
『夜空に散る無数の願い 光となりて、雨のごとく 彼の者に裁きと救いを』
≪広域光魔法 星光の煌めき!!≫
≪広域光魔法 星光の煌めき!!≫
二つの詠唱が重なり、空中に無数の光点が生まれる。
星屑のように瞬く光は、やがて流星へと変わり、激しく降り注いだ。
光の雨――
視界を埋め尽くすほどの輝きが、戦場を包み込む。
だが、先に崩れ落ちたのは――怜花だった。
「やっぱり……私では……」
力尽きた体が地に伏し、指先から光が零れ落ちていく。
霧の向こうで、セレナの幻影が静かにそれを見下ろす。
「彼女も、残念ね。さて……残りは三人……」
冷たい言葉を残し、セレナは踵を返して霧の中へと溶けていった。
次回 『第80想 第五の関門――影との死闘!仲間達の敗北を選別する試験2』
第五の関門。セレナ先生の魔法【幻影騎士】が映し出す“己の影”。
同じ力、同じ技、そして心の弱さ。
怜花、癒水、流水――仲間達は次々と倒れていく。
残されたのは、不知火燈也。
魔法を嫌い続けた少年の前に立つ、もう一人の自分。
影を越えなければ、先はない。




