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Himeyuri ―魔法を嫌う元学園最強の主人公ー  作者: 小鳥遊 千夜
序章 魔法執行部編

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第7想  蛇の教師と例外と呼ばれる少年

 

 クラスメイト達に軽く挨拶をし、自分の席に腰を下ろした瞬間──


「さぁ!今日も美少女達について熱く語り合おうじゃないか、不知火!」


 さっそく元気な声が飛んでくる。

 ……さっき上空まで吹っ飛ばされたばかりなのに、もう復活している辺り本当にタフだ。


「だめよ。燈也くんにバカがうつるじゃない」


 リエラがピシャリと切り捨てる。確かに郷夜がバカなのは揺るがない事実だが……


「バカとは心外だなぁ~リエラちゃん。もしかして不知火と仲が良いオレ様に嫉妬(しっと)してるかい?」


 にやり、と挑発的に笑う郷夜。……嫉妬なんてリエラがするわけないと思っていたが…


「ち……違うわよ!!!」


 頬を赤くしながら立ち上がるリエラ。あっ、これ完全にキレたパターンだ。


幻想の聖鎚(ミラージュ・ハンマー)!!≫


 リエラが魔導書を開くと、空間が揺れ巨大な光の大槌が出現。その大槌は一瞬で標的へ振り下ろされた。ドゴォォォォオン!!!


「ぐへぇ!!!」


 盛大にハンマーを食らい机ごと吹っ飛ぶ郷夜。……朝からうるさいな、ほんと。


「本当に懲りないな……」


 燈也は小さくため息をつく。だが次の瞬間、瓦礫(がれき)(机)から郷夜がムクリと起き上がった。


「へへ……こんなのオレ様にはスキンシップみたいなもんさ」


 あれだけの攻撃を食らい直ぐに立ち上がる根性は凄い。まぁ同時に少しは()りろよと思う所であるが……。


「ある意味すげーよ……お前」


「そういや、女の子っていえば……昨日ななみとかいうちょっと変わった子に会ったんだが風間は何か知ってるか?」


 その一言に、郷夜の目がギラッと光った。


「なにぃぃぃーーッ!!!」


 机が揺れるほどの勢いで立ち上がる。


「ななみと言ったら“学園のアイドル”じゃねぇか!?知らねぇのかよ不知火!?」


「……え、そうなのか?」


「ちょっとどういう経緯(けいい)なの?」


 リエラまで前のめりで質問してきた。普段はクールなくせにこういう時だけ妙に食いつく。


「ああ……帰り道にな。まあ少し厄介に巻き込まれててそれを助けただけだ」

 

  燈也は昨日の出来事を簡潔(かんけつ)に話した。


「……くそぉ~~!!」

 

  郷夜は頭を抱えて教室の床を転がる。


(うらや)ましいにもほどがあるッ!!


 学園のアイドルと自然に出会ってしかも助けるなんて……お近づきイベントを素でクリアしやがって……!」


「そんな大した話じゃねえよ……」


  燈也は苦笑するが、郷夜は胸ぐらを掴まんばかりに迫ってくる。


「いや大した話だろ!?あの子に声かけられたら男子百人は即落ちるレベルだぞ!?」


(……そこまでか?)


  確かに柊ななみは可愛かったし、見た目も明るさも人懐っこさも印象的だったが……。

 

「そんなもんか?めちゃくちゃフレンドりーでアイドルって感じは全然しなかったけどな。いきなり抱きつかれた時は驚いたが…」


「な……抱きつかれただとッ!? て、てめぇ……!!」


  郷夜が椅子をひっくり返しながら叫び、


「な、な、な……抱きつかれた!? ……この変態っ!! 浮気者っ!!!」


  リエラは顔を真っ赤にして大爆発した。


「いやお前ら何言ってんだ!? そんなんじゃねえっての!!っていうか、なんでリエラが怒ってんだよ!?」


  リエラの小さな拳が燈也の腕や肩をポカポカと叩く。


  (何で怒られてんだ俺?……しかも“変態”って……変態は風間だけで十分だろ…)


  そんな燈也の心の叫びを無視するように


「ふっ……乙女心は複雑なのさ。」

 

  郷夜が腕を組み、どこか悟ったように頷いた。


「お前が言うなぁぁぁぁ!!!」


  燈也は叫ばずにはいられなかった。このドヤ顔が実にムカつく。


「でさ、不知火よ……」


  雑談のテンションで郷夜が近づいてくる。


「それで……どうだったんだよ?」


「どうって……何がだ?」


(とぼ)けんなって。抱きつかれたんだろ?」

 

  郷夜はやけに低い声で(ささや)き、口角をいやらしく吊り上げる。


「……だから何がだよ?」


「そりゃあ……感触とか……匂いとか……ぐへへへへ……」


「お前……」


  燈也は呆れたというより、もはや軽く引いていた。


(さすが本物の変態……発想の次元が違う……)


「ほう……吾輩(わがはい)の授業だと言うのに何やら楽しそうな話をしておるな?吾輩にも聞かせてもうおうか?」


  背筋をなぞるような低い声が、教室の後方から響いた。


  次の瞬間、その場にいた全員の空気がピシッと凍りつく。

  どうやら風間は気づいていなかったらしい。始業のチャイムがとっくに鳴っていたことにも、そして黒い気配が背後に立っていたことにも。


「ひっ……ひぇぇぇぇぇぇ。すいませんでしたああああああっっー!!!!」


  全身を震わせながら、郷夜は悲鳴とともに椅子へダッシュで滑り込んだ。

  まぁ、郷夜がビビるのも無理はない。


  黒ローブに黒スーツ、ウェーブのかかった黒髪と、ちょび髭、そして蛇のような細い目付き。この世の陰という陰を凝縮(ぎょうしゅく)させたような男の名は“ドライツェン・エクレール”。

  青龍魔術学園でも名の知れたベテラン教師。ランクは一流魔導士の証であるGS。

  その高い実力と近寄りがたい雰囲気、「〜である」口癖が相まって生徒からは恐れられ、嫌われ、遠巻きにされる存在である。


「……では今日は魔導士にとって基本中の基本である属性について話していくのである。しっかり理解するように。」


  先ほどまで郷夜を威圧していた視線などなかったかのようにドライツェンは淡々と黒板へ向かい杖を走らせる。


「まず“基本属性”と呼ばれる七つ。火、水、風、土、雷、光、闇。

  これは諸君らも知っておるな。これらには相性があり、有利にも不利にも作用するのである。」


  黒板に杖で円と矢印が描かれていく。


  火 → 風 → 土 → 雷 → 水 → 火

  光 ⇄ 闇


「相性は基本ではあるが絶対ではない。個々の力量差、魔法の応用、戦場の状況次第で(くつがえ)すことも可能であり、人によって得意属性を一つ以上持っている。そこにいる風間なら風属性といったようにな。」


  突然名前を出された郷夜はピクッと肩を揺らす。


「得意属性を極めるもよし、属性を増やして相性補完をするもよし、

  あるいは魔法の幅を広げるもよし。選択肢は多岐(たき)にわたるのである。」


「さらに上には二つの属性を合わせたり、そこから派生した属性を扱う者も存在するがヒヨッコの諸君にまだ早い領域なので今回はそこまで説明せぬが……。」


「“状況に応じて使いこなしてこそ”、一流の魔導士であるといえよう。」


  蛇のような目で教室中の生徒をゆっくりと舐め回す。


「中には例外もいるがな……」


  ドライツェンの意味ありげな視線が燈也の席でぴたりと止まった。


「……燈也くん、起きてってば……」


  リエラはここ数分、机を揺らしたり、袖を引っ張ったりとあらゆる手段で起こそうと奮闘(ふんとう)していた。


「吾輩の授業中に居眠りとは……実に良い度胸であるな……」


  ドライツェンが杖を持ち上げ軽くひと振り。

  黒い霧のような魔力が集まり闇の蛇がスルリと生成された。


「――へ?」


  次の瞬間、蛇が燈也の身体に巻きつく。


「うわあああああああッ!!?」

 

  蛇の締め付けによる痛みに加え、寝起きの混乱が重なり、燈也は椅子ごと跳ね起きた。


「だから言ったのに……」

 

  リエラは呆れつつも、妙に慣れた口調でため息をつく。


「やれやれ……まったく油断も隙もないのである。」

 

  ドライツェンは満足げに腕を組み、蛇はそのまま燈也の肩にとぐろを巻いて監視役に収まった。

 

「む……もうこんな時間か。」


  壁の時計を確認したドライツェンが、杖をコツンと床に付く。


「今日の授業はここまでである。

  復習しておかぬ者は、次回痛い目を見るであろう。」


  蛇の目がギラリと光ったように見えて燈也は、次回は絶対に寝ないと固く誓うのであった。





次回 『第8想 三人の刺客』


 突然、主人公の前に現れたのは、魔法執行部を名乗る三人の刺客。

 いずれもただならぬ気配を感じる。

 

 

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