第77想 第五の試練――心の影、立ちはだかる幻影
「お前に出来ることは、オレ様にも出来るんだよ!!」
ドッペルゲンガーの郷夜が、両腕を広げて挑発する。
その態度も、声の調子も、嫌になるほど“本人そのもの”だ。
「いつもみたいに、直ぐギブアップした方がいいぜ?」
「……は?」
一瞬、郷夜の動きが止まる。
「オレ様が……ギブアップだと?」
次の瞬間、怒気が一気に噴き上がった。
「ふざけんな!!」
魔力が荒々しく渦を巻く。
「消えるのは――お前の方だ!!偽物野郎!!」
『情熱は赤く、風は速く!瞬速でぶち抜け!』
≪赤き瞬風の風弾≫
紅を帯びた風の弾丸が放たれる。
直線的で、速く、破壊力に特化した一撃。
――しかし。
『風は吹かせるものじゃない。敷くもんだぜ』
≪無風の風神道≫
ドッペルゲンガーが地面に手をかざすと、
突如、空間の風の流れが“支配”される。
風弾は進路を奪われ、霧散した。
「違う技も出せるのかよ!?」
郷夜が舌打ちする。
「ハハハッ」
影の郷夜が肩をすくめ、嘲笑う。
「当たり前だろ?」
一歩、前に出る。
「自分の考えてることくらい……お見通しなんだよ!」
次の瞬間、今度ドッペルゲンガーの方から魔法が放たれる。
『怪我したくなきゃ、今のうちに下がりな
風は止められないからさ』
≪緑の疾風斬破≫
鋭い風刃が、連続して襲いかかる。
「やべッ……!」
郷夜は咄嗟に後退し、詠唱を重ねる。
『風よ、オレ様の盾となれ』
≪蒼風の旋風壁≫
渦巻く風の壁が展開され、
風刃はその表面で弾かれ、砕け散った。
「……ふうっ、危ねぇ……」
息を荒げながら、郷夜は呟く。
「もう少しで直撃するところだった……」
「良く防いだな」
ドッペルゲンガーが、感心したように拍手する。
「流石はオレ様だ」
だが、次の言葉は低く、鋭かった。
「……だが、知ってるぜ」
一歩、また一歩と距離を詰める。
「もう心が折れかけてるだろ?」
郷夜の胸が、わずかにざわつく。
「頼りの親友――不知火燈也も」
影が、にやりと笑う。
「今は居ないんだからなぁ……」
その言葉は、
魔法よりも鋭く、、胸の奥を抉るように響いた。
だが――
「燈也が居なくたって……」
郷夜は歯を食いしばり、睨みつける。
「お前くらい、オレ様で十分だ!!」
怒りと意地を力に変え、魔力を解き放つ。
『怪我したくなきゃ、今のうちに下がりな
風は止められないからさ』
≪緑の疾風斬破≫
鋭い風の刃が、唸りを上げて襲いかかる。
空気を切り裂く感触が、郷夜の腕に確かな手応えを伝えた。
――しかし。
「よっと」
軽い声と共に、ドッペルゲンガーは足元の風を操る。
『風は吹かせるものじゃない。敷くもんだぜ』
≪無風の風神道≫
風の流れが瞬時に変質し、
郷夜の放った斬撃は、まるで誘導されるかのように逸らされた。
影の郷夜は風に身を預け、ふわりと宙へ跳ぶ。
そのまま上空に陣取り、見下ろすように腕を組んだ。
「いやいや……」
余裕たっぷりの声が降ってくる。
「その不知火燈也が――お前の“心の闇”なのかもな」
郷夜の呼吸が、一瞬だけ乱れる。
「いつも思ってんだろ?」
ドッペルゲンガーが続ける。
「そりゃそうだよな。Sランクと比べられたら……」
口角を吊り上げる。
「惨めになるよなぁ?」
「――好き勝手言いやがって!!」
郷夜が叫ぶ。
「お前に何が分かる!!」
「分かるさ」
即答だった。
「オレ様は――お前なんだから」
ドッペルゲンガーの声は、今度は嘲りよりも、“確信”を帯びていた。
「だから虚勢を張る。
だから強がる。
でもな……」
指で自分の胸を指す。
「劣等感は消えない」
郷夜の脳裏に、
これまで何度も感じてきた視線や言葉がよぎる。
――Sランクの親友。
――隣に立つたびに感じる差。
――それでも追いつきたいという、焦り。
「それがお前の心の底にあるもんだ」
図星だった。
だからこそ、言い返せなかった。
その様子を、
別の場所から静かに見つめる者がいる。
セレナだった。
腕を組み、戦いを見下ろしながら、低く呟く。
「……そう」
淡々と、しかし鋭く。
「劣等感。それが風間郷夜の弱点」
視線を細める。
「それを克服出来なければ……」
一拍、間を置いて。
「幻影を倒すことは出来ないだろうね。」
次回予告 『第78想 第五の関門 己に抗え――絶望の影との死闘』
前半戦最後の関門――魔法協会戦技教官、立花セレナの試練。
その相手は――己の影。
信じられるのは、仲間でも魔法でもない。頼れるのは、己の力だけ。
燈也達は見事自分を超えて試験を合格することが出来るのか?




