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Himeyuri ―魔法嫌いの元学園最強と、幼馴染の約束から始まる魔法学園譚ー  作者: 小鳥遊 千夜
第二章 魔法試験編

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第77想  第五の試練――心の影、立ちはだかる幻影




「お前に出来ることは、オレ様にも出来るんだよ!!」


 ドッペルゲンガーの郷夜が、両腕を広げて挑発する。

 その態度も、声の調子も、嫌になるほど“本人そのもの”だ。


「いつもみたいに、直ぐギブアップした方がいいぜ?」


「……は?」


 一瞬、郷夜の動きが止まる。


「オレ様が……ギブアップだと?」


 次の瞬間、怒気が一気に噴き上がった。


「ふざけんな!!」


 魔力が荒々しく渦を巻く。


「消えるのは――お前の方だ!!偽物野郎!!」


『情熱は赤く、風は速く!瞬速でぶち抜け!』



赤き瞬風の風弾(ウィンド・ショット)


 紅を帯びた風の弾丸が放たれる。

 直線的で、速く、破壊力に特化した一撃。


 ――しかし。


『風は吹かせるものじゃない。敷くもんだぜ』


無風の風神道(カーム・ロード)


 ドッペルゲンガーが地面に手をかざすと、

 突如、空間の風の流れが“支配”される。


 風弾は進路を奪われ、霧散(むさん)した。


「違う技も出せるのかよ!?」

 郷夜が舌打ちする。


「ハハハッ」


 影の郷夜が肩をすくめ、嘲笑う。


「当たり前だろ?」


 一歩、前に出る。


「自分の考えてることくらい……お見通しなんだよ!」


 次の瞬間、今度ドッペルゲンガーの方から魔法が放たれる。


『怪我したくなきゃ、今のうちに下がりな

 風は止められないからさ』



緑の疾風斬破(サイクロン・ブレード)


 鋭い風刃が、連続して襲いかかる。


「やべッ……!」


 郷夜は咄嗟に後退し、詠唱を重ねる。


『風よ、オレ様の盾となれ』


蒼風の旋風壁(ウィンド・ガード)


 渦巻く風の壁が展開され、

 風刃はその表面で弾かれ、砕け散った。


「……ふうっ、危ねぇ……」


 息を荒げながら、郷夜は呟く。


「もう少しで直撃するところだった……」


「良く防いだな」


 ドッペルゲンガーが、感心したように拍手する。


「流石はオレ様だ」


 だが、次の言葉は低く、鋭かった。


「……だが、知ってるぜ」


 一歩、また一歩と距離を詰める。


「もう心が折れかけてるだろ?」


 郷夜の胸が、わずかにざわつく。


「頼りの()()――不知火燈也も」


 影が、にやりと笑う。


「今は居ないんだからなぁ……」


 その言葉は、

 魔法よりも鋭く、、胸の奥を抉るように響いた。


 だが――


「燈也が居なくたって……」


 郷夜は歯を食いしばり、(にら)みつける。


「お前くらい、オレ様で十分だ!!」


 怒りと意地を力に変え、魔力を解き放つ。


『怪我したくなきゃ、今のうちに下がりな

 風は止められないからさ』


緑の疾風斬破(サイクロン・ブレード)


 鋭い風の刃が、唸りを上げて襲いかかる。

 空気を切り裂く感触が、郷夜の腕に確かな手応えを伝えた。


 ――しかし。


「よっと」


 軽い声と共に、ドッペルゲンガーは足元の風を操る。


『風は吹かせるものじゃない。敷くもんだぜ』


無風の風神道(カーム・ロード)


 風の流れが瞬時に変質し、

 郷夜の放った斬撃は、まるで誘導されるかのように()らされた。


 影の郷夜は風に身を預け、ふわりと宙へ跳ぶ。

 そのまま上空に陣取り、見下ろすように腕を組んだ。


「いやいや……」


 余裕たっぷりの声が降ってくる。


「その()()()()()が――お前の“心の闇”なのかもな」


 郷夜の呼吸が、一瞬だけ乱れる。


「いつも思ってんだろ?」


 ドッペルゲンガーが続ける。


「そりゃそうだよな。Sランクと比べられたら……」


 口角を吊り上げる。


(みじ)めになるよなぁ?」


「――好き勝手言いやがって!!」


 郷夜が叫ぶ。


「お前に何が分かる!!」


「分かるさ」


 即答だった。


「オレ様は――お前なんだから」


 ドッペルゲンガーの声は、今度は(あざけ)りよりも、“確信”を帯びていた。


「だから虚勢を張る。

 だから強がる。

 でもな……」


 指で自分の胸を指す。


()()()()()()()()


 郷夜の脳裏に、

 これまで何度も感じてきた視線や言葉がよぎる。


 ――Sランクの親友。

 ――隣に立つたびに感じる差。

 ――それでも追いつきたいという、焦り。


「それがお前の心の底にあるもんだ」


 図星だった。

 だからこそ、言い返せなかった。


 その様子を、

 別の場所から静かに見つめる者がいる。


 セレナだった。


 腕を組み、戦いを見下ろしながら、低く呟く。


「……そう」


 淡々と、しかし鋭く。


()()()。それが風間郷夜の弱点」


 視線を細める。


「それを克服出来なければ……」


 一拍、間を置いて。


「幻影を倒すことは出来ないだろうね。」


次回予告 『第78想 第五の関門 己に抗え――絶望の影との死闘』


前半戦最後の関門――魔法協会戦技教官、立花セレナの試練。

その相手は――己の影。


信じられるのは、仲間でも魔法でもない。頼れるのは、己の力だけ。



燈也達は見事自分を超えて試験を合格することが出来るのか?





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