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Himeyuri ―魔法嫌いの元学園最強と、幼馴染の約束から始まる魔法学園譚ー  作者: 小鳥遊 千夜
第二章 魔法試験編

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第76想 最後の関門――魔法協会戦技教官立花セレナ

 

「――ようこそ。第五の試練へ……」


 低く、落ち着いた声。

 耳に届いた瞬間、背筋を撫でられるような感覚が走る。

 感情を(あお)るでもなく、淡々と――それでいて抗えない重みを持った声の主

 立花(たちばな)セレナは、静かに微笑んでいる。


 余裕。それも“経験に裏打ちされた余裕”だ。


「……最後は、あんたか」


 燈也(ともや)は一歩前に出る。

 無意識のうちに、呼吸を整えていた。




「でも何で、臨時教師のあんたなんだ?」


 その問いに、セレナは小さく息を()らすように笑う。


「フフ……理由が必要?」


 低く(つや)のある声が、静かに空間を支配する。


 ――その時。



不知火(しらぬい)チーム! 遂にここまで来ましたァァァ!!!』


 迷宮全体に響き渡る、実況・吉良(きら)の声。

 魔法によって増幅された音が反響する。


『立ちはだかるのは前半戦、最後の関門!

 担当は臨時教師――立花セレナ!

 何を隠そう、“魔法協会戦技教官”も務める、プロフェッショナルだッ!!』


 ざわり、と空気が変わる。

 “教師”という言葉の裏にある、本当の意味が伝わった瞬間だった。


「……魔法協会の戦技教官って……マジかよ……」


 郷夜(ごうや)の声が、わずかに震える。

 実戦を教える者。

 つまり――数え切れない修羅場(しゅらば)を生き抜いてきた人間。


「フフフ……」


 セレナは郷夜の反応すら見透かしたように、肩を軽くすくめる。


「ここまで来たあなた達……確かに、良い目をしている」


 低く、穏やかな声。

 だがその奥に、研ぎ澄まされた刃のような鋭さが潜む。


「だからこそ……ちゃんと“試す”必要がある」


 背後で、巨大な扉が静かに魔力を帯び始める。

 空気が重く沈み、肌が逆立つ。


「準備が出来たら、一人ずつその扉を進みなさい」


 セレナの視線が、燈也たちをゆっくりとなぞる。


「……そうね。あなた達のうち――一人でも戻って来られたら、試験は合格にしてあげる。」


 淡々と告げられた条件。

 しかしその声には、慈悲(じひ)躊躇(ちゅうちょ)もなかった。


「……何があるか分からない」


 燈也は振り返り、リエラを見る。


「リエラは、ここで待っていてくれ」


 その言葉は静かだが、揺るぎがない。


「……分かったわ」


 リエラは一瞬だけ不安そうに目を伏せ、

 それでも燈也の覚悟を理解し、しっかりと頷いた。


「皆……頑張ってね」


 その声が、背中を押す。


 燈也、郷夜、怜花(れいか)流水(るみ)癒水(ゆみ)

 誰も言葉を交わさない。

 ただ互いの視線だけで、覚悟を確認し合う。


 魔法で作られた扉が開く。

 その向こうに広がるのは、光でも闇でもない未知の空間。


 扉の向こうに広がっていたのは、現実とは切り離された擬似戦闘空間だった。


 床も壁も天井も存在しているはずなのに、輪郭(りんかく)が曖昧で、まるで霧の中に立っているような感覚。

 足元には淡く光る魔法陣が幾重(いくえ)にも重なり、空間そのものが“試練のために作られた”と理解させてくる。


「……ここが」


 燈也は一歩、足を進める。

 音は吸い込まれるように消え、反響すらしない。


「さぁ、相手は誰だ?」


 警戒を崩さず、低く呟きながら周囲を見渡す。

 だが気配は――ない。

 少なくとも、他人のものは。


 その瞬間だった。


『自分と戦う気分はどう?』


 どこからともなく、あの低く艶のある声が響く。

 立花セレナ。

 姿は見えないのに、確実に“見られている”感覚があった。



『逃げ場も、言い訳も……ここにはないわ』


 次の瞬間、空間が歪む。

幻影騎士(ドッペル・ゲンガー)


 セレナの詠唱と同時に、前方の空気が鏡のように揺らぎ――

 そこから“何か”が歩み出てくる。


 燈也は、息を呑んだ。


「……お前は……」


 そこに立っていたのは、

 自分と寸分違わぬ姿をした存在だった。


 同じ顔。

 同じ体格。

 同じ魔力の波長。


 違うのは――目だ。

 感情の光がなく、ただ淡々とこちらを見つめる冷たい瞳。


「俺……?」


 同じ光景は、他のメンバーの前でも起きていた。



 それぞれの扉の先で、

 自分と同じ姿の存在が立っている。


「……冗談だろ」


 郷夜は一瞬、笑おうとして失敗した。


『本当の敵は自分、という言葉があるでしょう?』


 空間全体に、再びセレナの声が響く。


『己の弱さと向き合いなさい。

 そして――見事、自分を超えてみなさい』


 その声は淡々としていて、突き放すようでいて、どこか期待を含んでいた。


「なるほどね……」


 流水は深く息を吸い、ゆっくりと構える。


「相手にとって、不足はないわ」


 真正面から、自分自身を見据えるその目に迷いはない。


「絶対に……負けません!」


 怜花もまた、一歩前に出る。

 震えはない。

 相手が“自分”であることを、真正面から受け入れていた。


 一方――


「へへ……」


 郷夜は口角を吊り上げ、風を纏う。


「所詮は偽物だろ?

 オレ様の敵じゃねぇ」


 軽口を叩きながらも、魔力の出力は本気だ。


『春を告げる青き風よ、その旋律で道を切り拓け。踊れ』


青き春風のワルツ(ブルー・ウィンド)!!≫


 郷夜の放った風の刃が、唸りを上げて一直線に走る。


 ――だが。


『春を告げる青き風よ、その旋律で道を切り拓け。踊れ』


青き春風のワルツ(ブルー・ウィンド)!!≫


 まったく同じ詠唱。

 同じ速度。

 同じ威力。


 ドッペルゲンガーが、寸分違わぬ魔法を放つ。


「なっ――」


 二つの風が正面から激突し、轟音(ごうおん)と共に相殺される。

 風圧が爆ぜ、郷夜の髪と制服が激しく揺れた。



「コイツ……!

 オレ様と同じ魔法を!?」


 目の前の存在は、まさに鏡。

 技も、癖も、戦い方も――すべてが一致している。


 本当に、

 自分自身と戦っている。


「ハハハッ」


 次の瞬間、ドッペルゲンガーが笑った。


 その笑い方すら、郷夜と同じだった。


「魔法だけじゃねぇよ」


 低く、挑発的な声。


「喋りやがった!?」


 思わず声を上げる郷夜。


 その瞬間、郷夜は理解する。


 ――こいつは“ただの幻”じゃない。

 ――自分が気付いていない弱さも、慢心も、全部知っている存在だ。


 そして同時に、燈也もまた目の前の“自分”と視線を交わしていた。


 言葉はいらない。

 互いに理解している。


 この試練は、逃げも誤魔化しも許されない。


 ――自分を超えなければ、先へは進めない。





次回 『第77想  第5試練――心の影、立ちはだかる幻影』


「オレ様にできることは、お前にもできる!」

己の分身――幻影との激突。

劣等感と向き合う郷夜の心は、突破できるのか!?

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