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Himeyuri ―魔法嫌いの元学園最強と、幼馴染の約束から始まる魔法学園譚ー  作者: 小鳥遊 千夜
第二章 魔法試験編

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第74想 Sランク覚醒――すべてを絶つ力

 六堂仁(ろくどうじん)口角(こうかく)を大きく吊り上げ、全身の筋肉を震わせながら吠えた。


「Sランク!!!

 お前の力を――俺に見せてみろォォォ!!!!!」


 その叫びに応えるように、燈也(ともや)の瞳が鋭く細まる。


「うおおおお!!」


 地を蹴り、一直線に距離を詰める燈也。その瞬間、六堂の身体が異様に膨張した。


筋肉装填マッスル・チャージ!!!≫


 筋肉に魔力が流れ込み、鋼の鎧のように隆起(りゅうき)する。空気が震え、地面が軋む。


 だが燈也は怯まない。


魔断(マギ・ブレイク)!!≫


 腕に(まと)った魔力が、刃の形を成す。

 踏み込みと同時に、斜めに振り抜かれた一撃が、六堂の胸元を捉えた。


 ――ギィンッ!!


 鈍く、嫌な音。


「……っ!」


 六堂の身体がわずかに揺れ、そこに――確かに傷が刻まれていた。

 赤黒い血が、筋肉の隙間から滲み出す。


「俺の……鋼の筋肉に……傷つけやがった、だと?」


 六堂は信じられないものを見るように、自分の身体を見下ろす。


「よっしゃあ!効いてるみたいだぜ」

 郷夜(ごうや)が、思わず拳を握りしめた。


「……流石に、硬いな」


 燈也は一度距離を取り、静かに息を整える。


「なら……」


 次の瞬間、燈也の姿がブレる。


加速強化魔法(アクセル・ブースト)


 視界から消えたかのような速さで、左右、前後へと駆ける。

 翻弄(ほんろう)し、勢いをつけ確実に仕留めるための動き。


 だが――


「しゃらくせぇぇぇぇ!!!!」


剛力旋風マッスル・タイフーン


 六堂がその場で回転する。

 暴風のような衝撃が広がり、燈也の身体が弾き飛ばされる。


「ちっ……!」


 空中で体勢を立て直す燈也。


「今度は――こっちから行くぜ!!!!」


 六堂が地面を踏み砕き、一気に距離を詰める。


「またあの構えよ!燈也、気を付けて!!」

 流水(るみ)が叫ぶ。


 六堂の拳が引かれる。

 全身の筋肉が、限界まで収縮する。


『小細工はいらねぇ……殴れば、分かる!』


筋肉正拳マッスル・パンチ!!≫


 空気を叩き割るような一撃が、燈也へと放たれた。


 ――その瞬間。


≪夢の拒絶アンチ・ヘイズ


 燈也の身体から、黒い魔力が噴き上がる。

 まるで闇が実体化したかのような、禍々(まがまが)しく、冷たいオーラ。


 拳が届く寸前、黒い障壁が展開される。


 衝撃は相殺され、周囲に鈍い轟音だけが残った。


「……なっ」


 場が、ざわめく。


「黒い……バリア……?」

 流水の声が震える。

「あんなの……今まで見たことない……」


「燈也くん……」

 リエラも、不安を隠せない視線を向ける。

 黒い魔力を纏うその背中は、あまりにも異質で、そして――危うかった。



 黒いオーラは、燈也の周囲で静かに(うごめ)いている。

 まるで“触れること自体を拒絶する”かのように。


「おっと……」


 六堂は一歩、二歩と下がる。

 その表情に、初めて明確な警戒の色が浮かんだ。


「あれは……迂闊(うかつ)に触れたら、マズそうだな」




 黒い障壁は、静かに揺らめきながら燈也を包み込んでいる。

 その魔力は、周囲の空気を冷やし、重く沈ませていた。


「……くっ……終わりにするぞ」


 燈也が低く(つぶや)く。


 脳裏をよぎるのは、過去の記憶。

 暴走、恐怖、失うことへの後悔――

 この力、長くは持たない。



 ――一瞬で、終わらせる。


補助強化魔法パワー・ブースト


 燈也の全身に魔力が巡り、特に右腕へと集中していく。

 黒いオーラが渦を巻き、刃のような圧を放ち始めた。


「ああ……」

 六堂が歯を見せて笑う。


(おとこ)の勝負に、小細工はいらねぇ。理屈もいらねぇ」

 彼の足が、地面に深く沈み込む。

「――俺も、全力で相手しよう」


 六堂の身体から、闘気(とうき)が噴き上がる。

 筋肉がさらに膨張し、血管が浮き出る。


「まずいわ!」

 流水が叫ぶ。

「あいつの魔力、どんどん腕に集まってる!」


「やべぇぞ!不知火!」

 郷夜の声も切羽詰(せっぱつ)まる。


 六堂は拳を引き、限界まで溜め込む。

 その一撃が、すべてを決めると分かっているからこそ。


『この一撃が!!!

 漢の答えだァァァァァァ!!!!』


筋肉覇王拳マッスル・キングパンチ!!!!!≫


 爆音とともに放たれた拳。

 凄まじい拳圧が衝撃波となり、迷宮の床を砕きながら燈也へと迫る。


「燈也くんっ!!」

 リエラの叫びが、迷宮に響いた。



「俺の仲間は――もう誰も傷つけさせねぇっ!!」


 燈也は叫び、地を蹴った。

 黒いオーラが尾を引き、床が砕け散る。


 ――キミの魔法は、いつか誰かを護る力になるわ――


 ――今の燈也さんなら、きっと魔法を正しく使えます――


 ――ずっと見てますから――


 脳裏に浮かぶのは、かつて導いてくれた先輩の声。

 そしてもう一人、怜花(れいか)の言葉。二人の言葉が重なる。




 恐怖も、迷いも――今はない。

 この力は、壊すためじゃない。

 守るためにある。


「うおおおおおおっ!!」


魔法断斬マジック・ブレイカー!!!≫


 燈也の腕に纏われた魔力が、刃の形を成す。

 それは“魔法そのものを断ち切る”異質の力。


 次の瞬間――

 六堂の≪筋肉覇王拳マッスル・キングパンチ≫が放つ凄まじい拳圧と、真正面から激突した。


 衝突音が激しく響くと拳圧は跡形も無く霧散し、魔力が消える。


「な――っ!?」


 六堂の目が見開かれる。

 自慢の一撃が、完全に“消された”。


 燈也は、そのまま踏み込む。


 魔法無効化の刃を、今度は拳へと集束させる。

 黒い魔力が渦を巻き、全身の力が一点に集う。


「これで――終わりだ!!」


 ――ドンッ!!!


 重い衝撃音。拳は六堂の腹部へ、完全にめり込んだ。


「ぐはぁぁぁっ!!!」


 内臓を揺さぶる衝撃とともに、六堂の巨体が宙を舞う。

 岩壁(がんぺき)を突き破り、地面を何度も跳ねながら、豪快に吹き飛ばされた。


 砂煙(すなけむり)が、迷宮に広がる。


「……」

 一瞬の静寂。


「や、やった……?」

 郷夜が呆然と呟く。


 燈也は、荒い息を吐きながら拳を下ろす。

 黒いオーラは徐々に薄れ、いつもの魔力へと戻っていく。



「ハァ……ハァ……。こいつは……効いたぜ……」


 瓦礫(がれき)の中、六堂は仰向けのまま荒い息を吐いていた。

 腹部を押さえ、顔を歪めながらも――その目には、まだ闘志の火が宿っている。


「だがよ……まだだ……まだこんなもんじゃ――」


 ガラッ、と音を立てて上体を起こそうとした、その瞬間。


「……ん?」


 六堂の視線が、自分の手元に落ちる。

 握られていたはずの小型の魔法アイテム――通信阻害用の装置が、真っ二つに砕けていた。


「……くそっ」


 奥歯を噛み締める。


「さっきの一撃で……壊れちまったか」


 指先に力を込め、壊れた装置をぎり、と握り潰す。

 粉々になった破片(はへん)が、砂のように零れ落ちた。


「ちっ……」


 悔しそうに舌打ちしながらも、六堂はよろよろと立ち上がる。

 その巨体はまだ健在だが、明らかにダメージは深い。


「……しょうがねぇ」


 そして、ニィッと牙を剥くように笑った。


「今回のところは――俺の負けにしておいてやる」


 その笑みには、敗北の悔しさよりも、闘争の余韻(よいん)高揚(こうよう)が滲んでいた。







次回  『第75想 第4試練突破! 不知火チーム、光を掴む瞬間』


迷宮の出口にたどり着いた不知火チーム――。

張り詰めた緊張、試練を乗り越えた達成感、そして仲間との確かな絆。


「――さあ、へ進もう」

神奈の言葉を背に受け、燈也たちは新たな試練へ足を踏み出す。


だが、安堵は長くは続かない。

出口の先には、未知なる試練と、待ち受ける強敵の影がちらつく。


「次は……どんな困難が待っているんだ?」

燈也の問いに、仲間たちは静かに頷き、目に闘志を宿す。


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