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Himeyuri ―魔法嫌いの元学園最強と、幼馴染の約束から始まる魔法学園譚ー  作者: 小鳥遊 千夜
第二章 魔法試験編

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第71想 第四の試練 妖術 |石神八陣《せきじんはちじん》!!

 外から術で様子を見ているのだろう。

 声だけが、迷宮全体に反響する。


「それだけではないぞ。迂闊(うかつ)に壁を攻撃すると……」


 次の瞬間。


「なっ……今度は水が溢れてきたわ!!!」


 勢いよく押し寄せてくる濁流(だくりゅう)に、流水が思わず声を張り上げる。


 迷宮のありとあらゆる場所から水が噴き出し、瞬く間に足元を濡らしていく。


 力では突破できない。

 判断を誤れば、罠は容赦なく牙を剥く。



魔法障壁(プロテクション)


 燈也が即座に詠唱し、淡く光る防御壁を展開する。

 半透明の膜に水流が激突し、激しい音を立てて弾かれた。


「ふぅ……」


 燈也が短く息を吐く。



「ほら見なさい。そんな方法が上手くいくわけないのよ」

 流水が腕を組み、郷夜を(にら)みつける。


「いえ…、そうでもないかもしれません」


 その時、癒水が静かだが確信を帯びた声で口を開き、ある一点を指差した。


「あれを見て下さい。義兄(にい)さんがさっき攻撃した箇所が、別の個所に出来てます」


 一同が癒水の示す方向へ視線を向ける。

 そこには、確かに先ほど燈也の魔法が命中したはずの“傷”が、まるで移動したかのように残っていた。


「これはおそらく……迷宮の壁が動いているんです」


「壁が動くだって!?」

 郷夜が目を見開き、声を上げる。


「ええ。壁そのものが常に位置を変え、侵入者の感覚や記憶を惑わす仕掛けになっているのでしょう」


 癒水は迷宮を見回しながら、冷静に推理を続ける。


 ――動く迷宮。

 燈也の脳裏に、その言葉が重く響いた。


「それじゃあ、一生出られないじゃない!」

 流水が苛立ちを隠さず叫ぶ。


「いえ。何かの法則が分かれば、脱出の糸口は必ず見えてくるはずです」


 癒水の声は落ち着いていた。

 そうだ……神奈先生も、解説の愛紗も言っていた。この試練は“知識”を問うものだと。


「その法則をどうやって見つけるんだ? 魔法も効かないようだし」

 郷夜が頭を掻きながら尋ねる。


「迷宮内に、何か手掛かりが用意されているのではないでしょうか?」

 癒水はそう答える。


「手掛かりと言ってもなぁ……」

 燈也は腕を組み、周囲を見渡す。どこを見ても無機質な石壁ばかりだ。


「あの……」


 控えめな声が響き、一同の視線がそちらに集まる。


「手掛かりかどうかは分かりませんが……そこの壁に、模様(もよう)みたいなのが描かれていませんか?」


 怜花がそう言って、静かに壁の一部を指差した。


 近づいて見ると、確かに石の表面に不自然な刻印がある。

 装飾とも違う、意味ありげな図形――


「丸が……三つ?」


 燈也が呟く。

 それは単純だが、妙に目を引く模様だった。


「どういうことだ?」

 燈也が仲間たちに問いかける。


「さあ?これだけでは何も…」

 リエラは肩をすくめ、首を小さく傾げる。物知りな彼女にも、この模様の意味は(つか)めていないようだった。


「見て! 向こうにも似たような模様があるわ」

 今度は流水が通路の先を指差す。


 壁面に刻まれているのは、先程と同じく円形の印。

 だが――


「今度は……丸が四つ?」


 燈也が数え、呟く。

 三つ、そして四つ。偶然にしては、あまりにも規則的だった。


「……」

 誰もすぐには口を開かず、迷宮の静寂(せいじゃく)だけが漂う。


「もしかしたら……数字がヒントなのではないでしょうか?」

 沈黙(ちんもく)を破ったのは癒水だった。


「数字?」

 郷夜が聞き返す。


「はい。壁に描かれている丸の数が、進むべき“順番”を示しているのかもしれません」


「でも数字通りに行くと、来た道とは反対方向になるわよ?」

 流水が即座に指摘する。


 確かにそうだ。

 これまでの経験則では、“正しそうな道”は直感的にゴールへ続くように作られている。

 だがこの迷宮は――常識を裏切る仕掛けを平然と使ってくる。


「いや、それでも試してみる価値はある」


 燈也は一瞬目を伏せ、決意を固めたように言った。

「行ってみよう」


「そうね。他に手掛かりもないし」


 流水も頷き、仲間たちは覚悟を決めたように足を進める。


 それから彼らは、壁に刻まれた模様を一つ一つ確認しながら進んでいった。

 五つ、六つ、七つ――

 進むほどに、意図的に“迷わせる”ような分岐が増えていく。


 だが彼らは、方向には惑わされなかった。

 左右、前後、上下――そんなものはどうでもいい。

 重要なのは順番。数字の流れだけだ。


「……これで丸が九つだ」


 燈也が壁の模様を見上げながら呟く。


 石神八陣。

 八を超えるということは、本来想定された“陣”の外側に踏み出すということ。


 次の瞬間――

 通路が途切れ、視界が一気に開けた。


 ようやく辿り着いたのは、先程までとは明らかに違う、広く静かな空間だった。

 天井は高く、中央には淡く光る陣が浮かび上がっている。


 ――ここが、終点。


「……癒水の考え通り、この先がゴールみたいね」

 流水が周囲を見渡しながら言う。



「おっと……ここから先は進ませないぜ!」


 迷宮の通路、その先に立ちはだかる一人の男。

 岩のように逞しい体躯(たいく)が、行く手を完全に塞いでいた。


「誰だ? お前は?」

 燈也は一歩前に出つつ、警戒を隠さず問いかける。


「俺は六堂仁(ろくどうじん)。――お前が噂のSランクだな?」

 男は口角を吊り上げ、獲物を見つけた獣のような笑みを浮かべる。

「会いたかったぜェ!」


 大柄な体に、異様に目立つカーリーパーマのボンバーヘッド。

 盛り上がった筋肉は、制服の上からでも分かるほどで、ただ立っているだけで圧迫感がある。

 理屈より拳。思考より衝動。

 その存在そのものが「戦うため」にあるような男だ。


「俺に何の用だ?」

 燈也は視線を逸らさずに聞く。


「ちょいと……手合わせして欲しくてなァ」

 六堂は指を絡め、パキパキと骨を鳴らす。

 その仕草一つで、戦闘狂であることが嫌というほど伝わってくる。



次回 『第72想 筋肉は魔法を嘲笑う――十月花からの刺客 六堂仁』


迷宮の最深部――

石神八陣のゴールを目前にして、不知火チームの前に立ちはだかる影。


現れたのは、謎の組織《十月花》の一人。――六堂仁。


「魔法?そんなもん効くかよォ!!」


魔法を弾き返す異常な筋肉、拳一つで魔力をねじ伏せる圧倒的な力の前に、

不知火チームは苦戦を強いられる。


「攻撃が……通らない!?」


圧倒的なフィジカル、正面突破を許さぬ怪物のような存在に、

一行は追い詰められていく。


だが――一人では越えられなくとも、仲間がいる。


仲間と共に最強の壁に挑む。


迷宮脱出か、完全敗北か。

石神八陣、最後の関門で――激しく火花を散らす!




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