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Himeyuri ―魔法嫌いの元学園最強と、幼馴染の約束から始まる魔法学園譚ー  作者: 小鳥遊 千夜
第二章 魔法試験編

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第66想 第三の関門――魔法教師ドライツェン 

奥へと進むにつれ、洞窟の壁は次第に途切れ、視界が一気に開けた。

 天井の高い広大な空間――足元は硬い岩盤で、砕けた魔石の破片が散らばっている。


 その静寂(せいじゃく)を切り裂くように、金属がぶつかり合う(かわ)いた音と、魔力が爆ぜる衝撃音が断続的に響く、――戦闘音。


 ここが、第三の試練の場であることは疑いようがない。


「見て、誰かがくるわ!」


 リエラが鋭く声を上げた、その直後だった。


「ひぃぃ! ギブアップだぁぁ!」


「あんなの無理に決まってんだろ!!」


 悲鳴混じりの叫びとともに、数人の生徒たちがこちらへ向かってなだれ込んでくる。

 顔は青ざめ、息は荒く、戦う構えすら放棄した完全な敗走。

 彼らは燈也(ともや)たちの存在など目に入っていないかのように、そのまま脇をすり抜け、洞窟の入口方向へと逃げ去っていった。


「全く、なんと軟弱(なんじゃく)な……」


 吐き捨てるような低い声。


 逃げる生徒たちの背を見下ろしながら、嘆息(たんそく)する人物がそこに立っていた。


 黒を基調とした長身の男。

 背中には黒い蛇の紋様が妖しく浮かび、ローブの裾がゆったりと揺れている。

 蛇のように細い目が、逃げていく生徒たちを値踏(ねぶ)みするように眺めていた。


 ――間違いない。魔法教師 ドライツェン・エクレール。


「第3試練の担当は……アンタか……」


  燈也が、自然と低く(つぶや)く。


「ド、ドド……ドライツェンだぁぁ!!」


 悲鳴にも似た叫びが洞窟に反響する。


 ドライツェンはゆっくりと視線をこちらに向け、口元に薄い笑みを浮かべた。


「お前達か……

 てっきり、とうにリタイアしているものだと思っていたが……」


 蛇のような視線が、燈也たち一人ひとりを舐め回す。


「よくここまで来れたものである。

 ――そんな劣等生を引き連れたチームで、な」


 その言葉に、郷夜(ごうや)がビクッと肩を震わせる。


「れ、劣等生だと……?

 や、やんのかコラァ!?」


 声は威勢がいいが、足は一歩も前に出ていない。


「挑発に乗っちゃだめよ!!」


 流水(るみ)が即座に郷夜を制し、鋭い視線でドライツェンを(にら)む。


 燈也は一歩前に出て、真正面から教師を見据(みす)えた。


「……無駄話はやめにして、とっとと試験内容を教えろ。」


 一瞬、空気が張り詰める。


「くくくっ……

 良かろう。だが――

 その威勢、どこまで持つかな?」


 ドライツェンは目を細め、低く笑った。


「――吾輩の試験内容は、これである。」


 ドライツェンはゆっくりと片腕を掲げ、指を鳴らした。


 次の瞬間、床に刻まれた魔法陣が不気味に発光し、重低音とともに空間が震える。


 ――ゴゴゴゴ……。


 地鳴りのような振動と共に、魔法陣の中心から巨大な人影がせり上がってきた。


 数メートルはあろうか。

 無骨な人型のシルエット。黒金属の装甲が幾層(いくそう)にも重なり、関節部には赤紫色の魔力が脈動(みゃくどう)するように走っている。


 頭部にあたる部分には、無機質な魔導レンズが一つ――

 それが淡く不気味に光ると場の緊張感が一気に高まる。


「……これは……」


 燈也が息を呑む。


「……魔導ギア!!」


 流水が即座に言い当てる。



 直後――洞窟の天井奥から、どこからともなく拡声された声が響き渡る。


『さぁ第3の試練!対峙するは魔導ギア!

 不知火(しらぬい)チームは、この強敵をどう攻略するのかァ!!』


 実況・十文字吉良(じゅうもんじきら)の声が、興奮気味に反響する。


 続けて、落ち着いたトーンの声が重なる。


『魔導ギア――

 空気中に漂う魔素をエネルギー源として稼働する、無人の魔導オートロイドです。』


 如月愛紗(きさらぎあいしゃ)の解説が始まる。


『本来は警備や建設現場で使用される事が多いですが、

 戦闘用に特化したタイプは、実戦にも投入される、れっきとした魔導兵器ですよ。』


「さよう……」


 ドライツェンは黒光りする魔導ギアを横目で眺めながら、満足げに口角(こうかく)を上げる。


「普段は学園の警備等を担当しているが――今回は試験用に調整した特別製なのである。」


 魔導ギアの装甲がきしりと音を立て、内部の魔力回路が明滅する。


「これを導入したせいか……

 今年はリタイア者が随分と増えてしまったのであるが――」


 くく、と喉を鳴らし、愉悦(ゆえつ)を隠さず続ける。


「それもまた、試練に相応しいであろう?」


 その笑みは、教育者のものとは程遠い。人が追い詰められる様を楽しむ者の顔だった。


「まぁ、安心したまえ。」


 ドライツェンは淡々と付け加える。


「これでも抑えてある。――死にはせん。」


 蛇のような目を細める。


「……だが、早めのギブアップはオススメするのである。」


「相変わらず……性格の悪い先生だぜ。」


 燈也が低く吐き捨てるように言う。


「くく……褒め言葉として受け取っておこう。」


 ドライツェンは軽く肩をすくめ、手を振り下ろした。


「では――」


 魔導ギアの全身に魔力が走り、駆動音(くどうおん)が一気に高まる。


「試練開始である。」


 その瞬間、魔導ギアのレンズが赤く輝き、重々しい一歩を踏み出した。



 ドン……!


 数メートルはあろう巨体が、ゆっくりと一歩を踏み出す。

 その一歩だけで地面が震え、砕けた小石が跳ね上がった。


 人の意思を感じさせない、無機質な動作。

 だが確実に――標的は定められている。


『戦いのゴングが今、鳴り響きましたァ!!』


 十文字吉良の高揚(こうよう)した声が、洞窟内に反響する。


『これは強敵です。

 魔導ギアは攻撃力・防御力ともに高水準。

 皆さん、十分注意して下さいね。』


 如月愛紗の落ち着いた忠告が続く。


 赤く輝くレンズが、不知火チームを順にスキャンする。

 次の瞬間、ギアの腕部に刻まれた魔法陣が淡く光り始めた。


 ――来る。




次回  『第67想 第三人の試練中半 絶望の鋼鉄!魔導ギア!』


魔法試験――チーム最強の壁、鋼鉄の魔導ギアとの対決!


光も風も、水の力も――すべてを叩き込むが、巨体は微動だにせず。

絶望的な状況に追い詰められる不知火チーム。

仲間を守り、突破口を見つけられるのか――?


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