第63想 最初の関門 ――魔法教師エリス(後編)
「攻撃が来るわ!!」
リエラの鋭い叫びに、全員が一斉に身構える。
次の瞬間――
地面を叩き割るような音と共に、レインボーディオネアの触手がうねりを上げて迫ってきた。
赤、青、緑――色とりどりの蔓が、獲物を絡め取ろうと牙を剥く。
「っ……!」
流水が一歩前へ踏み出す。
『沈め。砕け。深海の連撃――』
≪オーシャンアーツ弐の技・黒鯱≫
鋭く、重い。
まるで海中を駆ける鯱の突進のような連続蹴りが炸裂し、触手をまとめて吹き飛ばす。
衝撃で洞窟の空気が震え、断ち切られた蔓が地面に叩き落とされた。
「皆、大丈夫!?」
「は、はい……ありがとうございます!」
怜花が胸を押さえながらも、しっかりと礼を言う。
「助かったぜ……」
郷夜も安堵の息を吐いた、その時――
「あっ……見て下さい!」
癒水が、地面に落ちた触手を指差す。
「今の攻撃で……青い触手が、枯れています!」
確かに。
他の蔓が蠢いて再生を始める中、水流を受けた青色の触手だけが色を失い、干からびるように崩れていた。
「水属性に……弱いのかも!」
「なら、話が早いわね!」
流水は即座に気持ちを切り替え、再び構えを取る。
『海はすべてを覆い尽くす。
逃げ場なき波となれ!』
≪オーシャンアーツ参の技・白鯨≫
クジラのように大きく身を捻り、重力を乗せた踵落とし。
衝撃と同時に、波のような魔力が地面を走り、広範囲に叩きつけられる。
洞窟内に、轟音が響いた。
「これで……どう?」
しかし――
「駄目です! 本体には……効いていません!」
癒水の声が、焦りを帯びる。
触手の一部は砕けたが、中心にある花弁はなお健在。
むしろ、別の色の蔓がさらに勢いを増して伸びてくる。
「もう……どうなってるのよ!?」
流水が歯噛みする。
(……水が弱点じゃない? いや……待て)
燈也は冷静に、先ほどの光景を思い返す。
青い触手だけが枯れた事実。
そして、他の色は健在だったこと。
(もしや……)
「おい、風間」
燈也は郷夜を振り返る。
「あの緑の触手に向かって、もう一度魔法を使ってくれないか?」
「別にいいけどよ……」
郷夜は肩をすくめる。
「効かなくても文句言うなよ?」
それでも、構えは迷いなく取られた。
『春を告げる青き風よ、その旋律で道を切り拓け。
踊れ――』
≪青き春風のワルツ≫
風の刃が緑の触手を切り裂く。
――次の瞬間。
「……あれ?」
郷夜が目を見開く。
切断された緑の触手は、再生することなく、萎れるように崩れ落ちた。
「……やはりな」
燈也は小さく頷く。
「これは……一体どういうことですか?」
怜花が困惑した表情で尋ねる。
「おそらく、あの触手は色ごとに弱点属性が違う」
燈也は敵から視線を逸らさず、続ける。
「青は水。赤は炎。緑は風……そんな仕組みだろうな」
「なるほどね……」
流水が納得したように息を整える。
「そうと分かれば――さっさと攻略するわよ!」
流水の声に、全員の意識が一つに集まる。
「俺が本体を叩く。皆は援護を頼む!」
燈也の短い号令に、
「任せろ!」
「分かりました!」
「分かったわ!」
それぞれが即座に応える。
無駄な言葉はもう必要ない。役割は明確だった。
流水が一気に距離を詰める。
『蒼海を駆ける一撃!!』
≪オーシャンアーツ壱の技・藍鯆≫
軽やかで鋭い蹴りが、青い魔力をまとって叩き込まれる。
水流が迸り、レインボーディオネアの一部が大きく軋んだ。
「やったわ!」
確かな手応えに、流水は拳を握りしめる。
――しかし、反撃はすぐに来た。
「緑の触手が来てます!」
怜花の叫びと同時に、風を切る音。
緑色の蔓が、蛇のようにうねりながら迫る。
「へへ、オレ様の出番だな!!」
郷夜が一歩前に出る。
『情熱は赤く、風は速く!瞬速でぶち抜け!』
≪赤き瞬風の風弾≫
圧縮された風の塊が撃ち出され、緑の触手を正確に貫く。
「よっしゃあ!!」
切り裂かれた蔓は再生せず、そのまま地面へと崩れ落ちた。
「今度は赤ね」
リエラが即座に状況を見極める。
『偽りの焔に真実を宿せ。
見えざる業火よ、姿を現せ――』
≪幻炎の猛火≫
揺らめく炎が赤い触手を包み込み、幻のように形を歪ませながら焼き尽くす。
再生の兆しは――ない。
「チャンスよ! 燈也くん!!」
「――ああ、これで終わりだ!!!」
燈也は一気に間合いを詰め、魔力を刃に集中させる。
≪魔断!!≫
鋭い一閃。
核を貫かれたレインボーディオネアは、悲鳴のような音を立てて崩れ落ち、完全に沈黙した。
「よっしゃあ……第一の試練、クリアだな!」
燈也は奥に残された宝箱を開き、中から試験用のフラッグを掴み取る。
『これは凄い! 不知火チーム、第一の試練を突破しました!!』
『タイムもかなり早いです! 優勝も狙えるかもしれませんよ! この調子で頑張って下さいね!』
実況と解説の声が、洞窟内に響き渡る。
「へぇ~、やるじゃない~☆ おめでと~」
エリスが楽しそうに拍手しながら、回復薬を差し出す。
「次の試練はもっと大変だろうけど、頑張ってね~☆」
いたずらっぽく微笑む。
「頑張ってね~☆」
――第一の壁は越えた。
だが、魔法試験はまだ始まったばかりだ。
次回 『第64想 第二の関門――魔法教師キララ!』
第一の試練を突破した不知火チーム。
だが、安堵する暇はない。
彼らを待ち受けるのは第二の試練を司る魔法教師――キララ・ラズベリー。
不知火達は試練を乗り越えられるのか――。




