第61想 魔法試験――洞窟の先に待つ影
森の中へと足を踏み入れると、空気が一変する。
木々は鬱蒼と生い茂り、陽光は葉の隙間からわずかに差し込むだけだった。
「何が現れるか分からない。注意して進むぞ。」
燈也は周囲を警戒しながら呟く。
「ダンジョンの入り口は、どこでしょう……?」
怜花はきょろきょろと辺りを見渡す。
「リエラ、何か感じるか?」
燈也は肩に乗る使い魔へ問いかけた。
「……この奥ね」
リエラは目を閉じ、集中する。
「はっきりした魔力反応があるわ。おそらく、そこが目的の場所よ」
魔力感知――リエラの得意分野だ。
「よし。まずはそこを目指そう。案内を頼む」
「任せて!」
リエラは自信満々に先導し、燈也たちは慎重にその後を追う。
◇
しばらく進んだ時だった。
「……何か、聞こえませんか?」
癒水が足を止め、耳を澄ます。
「皆さん、あれを見てください!」
怜花が前方を指差す。
「うわああああ!!」
「助けてくれ!!」
悲鳴と怒号が森に響いていた。
「なっ……!」
視線の先では、先行していた別チームがモンスターの群れに追い詰められている。
牙を剥き、低く唸る狼型モンスター――ウルフの群れだ。
野生個体のようだが、これも試験の一環なのだろう。
『あーっと!渡辺先輩チーム、モンスターに囲まれています!』
上空から響く吉良の実況。
『あのモンスターはウルフですね。一体一体はそこまで強くありませんが、集団で襲ってくるため囲まれると厄介です』
如月の冷静な解説が続く。
「どうしますか……?」
癒水が燈也に視線を向ける。
「決まってんだろ」
郷夜が肩をすくめる。
「これは試験だぜ? 他のチームのことなんて放っといて、先に進もうぜ」
「でも……」
怜花が言葉を詰まらせる。
「放っておけるわけないでしょ」
流水が一歩前に出た。
「行くわよ」
「えぇ~。オレ様、面倒くさいんだけどなぁ」
「だったら風間は、そこで引っ込んでなさい」
「えっ、ひどくない!?」
◇
「グルルルル……!」
ウルフが低く唸り、男子生徒に飛びかかる。
「ひいいいい!!」
『蒼海を駆ける一撃!!』
≪オーシャンアーツ壱の技・藍鯆≫
流水の身体が流れるように加速する。
イルカのようにしなやかな蹴りがウルフを捉え、轟音と共に吹き飛ばした。
「大丈夫?」
「あっ……ありがとう!」
別のウルフが牙を剥く。
「ガルルルルッ!!」
『吹き荒れよ!』
≪初級風魔法・ヴィント≫
怜花の詠唱と同時に、魔力を帯びた風が放たれ、横合いからウルフを弾き飛ばす。
「きゃあああ!」
今度は女子生徒の悲鳴。
『春を告げる青き風よ、その旋律で道を切り拓け。踊れ』
≪|青き春風のワルツ――≫
「大丈夫かい? ハニー?」
郷夜の魔法が風の刃となり、カマイタチのようにウルフを切り裂く。
「風間! まだいるわ!」
格好をつけた郷夜に、流水が叫ぶ。
「へっ……? うわああ!」
死角から、もう一匹のウルフが飛びかかる。
「ったく……出るなら、最後までしっかりやれよ」
燈也が前に出て、ウルフを蹴り飛ばした。
「キャンキャン!」
怯えたウルフたちは、尻尾を巻いて森の奥へと逃げ去っていく。
「し……不知火ぃ~。恩に切るぜ……」
『恵みの雨よ、静かに降り注ぎ、傷ついた心と身体を包んで。』
≪ヒール・レイン≫
柔らかな光を帯びた雨が降り注ぎ、傷ついた生徒たちを包み込む。
「皆さん、お怪我はありませんか?」
癒水の声に、疲労と痛みが次々と癒えていく。
「すまない……助けてくれてありがとう」
「本当に、ありがとうございました」
助けられた生徒たちは深く頭を下げる。
「お互い、ベストを尽くしましょ!」
流水が明るく笑った。
『これは凄い! 不知火チーム、見事ウルフの群れを颯爽と撃退しました!』
吉良の興奮した実況が響く。
◇
そのまま進んでいくと――
木々の合間に、ぽっかりと口を開けた洞窟が姿を現した。
「ここが……ダンジョンか」
洞窟の前に立ち、燈也は足元を見据えた。
岩肌は湿り、内部からはひんやりとした空気が流れ出している。
「よし。注意していくぞ」
「へへ、腕が鳴るぜ!」
郷夜は拳を鳴らし、やる気満々といった様子だが――
「あんた、声が大きいのよ」
流水が即座に釘を刺す。
燈也たちは慎重に洞窟の中へ足を踏み入れる。
「……静かすぎるな」
「ええ。魔力の流れも、少し歪んでいます」
癒水が不安そうに辺りを見回す。
その時――
「待って」
リエラが前に出て、片手を上げた。
「……誰かいるわ」
燈也たちが視線を向けると、少し先の開けた場所に人影があった。
「だっ……駄目だ……ギブアップだ……」
長髪の男子生徒が、壁にもたれかかるように座り込み、荒い息を吐いている。
「無理もないわ。かなり魔力を消耗してる」
『おーっと! 小林先輩チーム、ここで無念のリタイアです!』
洞窟内にも響く、吉良の実況。
『リタイアとなっても即追試にはなりませんが、ここで脱落は痛いですね』
「もうちょっとだったのに……惜しかったわね~」
その声は、洞窟の奥から響いた。
燈也たちが身構える中、影の中から一人の女性が姿を現す。
余裕のある笑みを浮かべ、倒れている生徒に近づく。
「ほら、これ飲んで。ちゃんと回復するから」
そう言って差し出されたのは、小瓶に入った薬。
「……あ、ありがとうございます……」
生徒は震える手でそれを受け取り、係員に連れられて去っていく。
「またチャレンジしてね~☆」
軽い口調で手を振り、女性はその背を見送った。
そして――
ゆっくりと視線をこちらへ向ける。
「さてと……」
唇の端をつり上げ、意味深な笑みを浮かべる。
「次の挑戦者は……君たちかな~?」
その一言に、洞窟の空気が、わずかに張り詰めた。
次回 『第31想 最初の関門 ――魔法教師エリス』
洞窟の奥、
柔らかな笑みを浮かべて待ち構える一人の女性。
彼女こそ――
最初の試練を司る魔法教師、エリス・セラフィン。
倒れていく挑戦者たち。
優しさの裏に隠された、容赦なき試練。
果たして燈也たちは、
この“第一関門”を突破することができるのか――?




