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Himeyuri ―魔法嫌いの元学園最強と、幼馴染の約束から始まる魔法学園譚ー  作者: 小鳥遊 千夜
第一章 幽霊少女編

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第51想 響き合う交響曲 

  

 今日はいよいよ創立祭。本来ならライブの当日だ。

 校内は生徒だけでなく一般客も入っており、普段の何倍も(にぎ)わっていた。屋台の声、楽しげな笑い声、軽快な音楽――すべてが煌びやかに校舎を包んでいる。


 だが、燈也(ともや)の胸の中は、そんな喧騒(けんそう)とは裏腹に重苦しかった。

「俺達はどうして学校にいるんだ?」


 燈也はリエラと怜花(れいか)に問いかける。しかし、返ってきたのは困惑の表情だった。


「それが上手く思い出せないわ」

 リエラが眉をひそめ、浮かない顔を見せる。


「私も…記憶に霧がかかっているみたいで…」

 怜花も(うつむ)きながら答える。その声には微かな震えが混じっていた。


「やっぱり、お前達もか……」

 燈也もまた、胸の奥にぽっかりと空いたような違和感を覚える。

 何か――重要な何かを忘れてしまった、そんな漠然(ばくぜん)とした不安が頭をもたげてくる。

「手掛かりでもあればいいんだが…」


 燈也は窓の外を見回す。校庭の賑わいや飾り付けられた校舎、浮かぶ人々の笑顔――どれも見覚えがあるはずなのに、心の奥底に確信が持てない。


「もしかして、アレが関係してるんじゃないかしら?」

 リエラが指先で外を示す。


「そうか。今日は創立祭か…」

 燈也は(つぶや)く。思い出そうとしても、記憶は霧に(おお)われたようで手の届かない場所にある。


「準備でもしていたんでしょうか?」

 怜花が額に手を当て、少し考え込む。


「…分からねぇ」

 燈也が顔をしかめる。

「だが…なんかあった気がする。忘れちゃいけない何かが…」

 胸の奥がざわつき、手探りで記憶の糸をたぐろうとする。


「燈也さん…」

 怜花の声が震える。


「って…。怜花なんで泣いてんだよ?」

 燈也は慌てて怜花の顔を覗き込む。


「え…あれ?私、どうして…」

 怜花も自分の感情の理由がわからない。

 しかし、手を胸にあてる怜花の仕草は、記憶の欠片に触れたかのように切なげだった。


「でも、何故か胸が締め付けられる気がするんです」


 燈也はその言葉を聞き、自分の胸にも同じ感覚があることに気付く。

 何か大切なもの――かつて交わした約束や絆の残滓(ざんし)が、胸の奥でかすかに(うず)いている。



「怜花…」

 燈也の声は、驚きと安堵が入り混じった、かすかな震えを帯びていた。


「怜花ちゃん…」

 リエラもその様子をじっと見つめる。瞳に、少しだけ涙が光っている。


「ははは…私ったら、おかしな事言ってますよね…」

 怜花が手で口元を押さえ、照れ笑いを浮かべる。


「おかしくなんてないさ……俺も同じ気持ちだからな。きっと何かあるんだ。一緒に思い出そうぜ」

 燈也は肩を落とす怜花を優しく抱くように視線を合わせた。


 取り敢えず創立祭を一通り回る三人。しかし、街の喧騒や人混みの中で、記憶の断片はまだ手に届かない。


「結局手掛かりはなしか…」

 燈也の声には焦燥(しょうそう)(にじ)む。


「……はい」

 怜花が俯く。


「必ずあるはずなんだ……なのに何故見つからない……」

「くそ!」

 拳で壁を打ちつける燈也。痛みと苛立ちが胸を締め付ける。


「ちょっと、こんな所で何してるの?」

 冷たい声。鋭く、けれどどこか心配も含んだ声が三人の耳に届いた。声の主は魔法執行部部長――高天原帝亜(たかまがはらてぃあ)だ。


「お前か……今は忙しいんだ、放っておいてくれよ」

 燈也は思わずぶっきらぼうに突き放す。


「あら随分な言い草ね。今日だってあなた達の為に準備してあげたのに……」

 帝亜の瞳は揺るがない強さをたたえ、だがその奥にわずかな困惑も感じられる。


「は?何の事だよ?」

 燈也は首を傾げる。何かを知らないはずの事を言われ、混乱していた。


「からかってるの?それとも寝惚(ねぼ)けてるのかしら?」

 帝亜の声は鋭くも、(さと)すように落ち着いていた。


「だから、何のことだよ?」

「今日はライブの日でしょ?昨日、会場の設営を頼んできたのに忘れたの?」

 帝亜は指を会場方向へ伸ばす。カラフルな装飾と豪華なステージが目に飛び込んだ瞬間、胸の奥がざわつく。


「ライブ…?何言って…」

 言葉が詰まる。けれど、ふと――脳裏に小さな光が差し込む。霧が晴れていくように、失われた記憶が一筋ずつ形を取り戻していく。



「そうだ……なな!!」

 燈也は声を張り上げる。全身の血が熱く流れるのを感じた。


「ななちゃん!」

 怜花とリエラも同時に思い出す。胸の奥にあったざわめきが、確かな記憶の形となって蘇った瞬間だった。



「私達、こんな大事な事をどうして……」

 怜花の声には、戸惑いと悔しさが混ざっていた。まるで胸の奥にぽっかり空いた穴を埋めようとしているような響き。


「……あんなに忘れないって約束したのによ……」

 燈也は頭を抱え、視線を伏せる。言葉にできない後悔が胸を締め付ける。


「落ち込んでる暇はないんじゃない?まだ約束は果たされてはいないんだから。」

 帝亜が、柔らかくも力強い声で言った。その瞳は優しい眼差しをしていた。



「そうだな…まだ俺達にはやらなきゃいけないことがある。」

 燈也は深く頷き、拳を軽く握りしめる。胸の奥に再び湧き上がる決意。


「はい!」「ええ!」

 怜花とリエラも力強く応え、目に光を取り戻す。


「サンキュー!部長さん!」

 燈也は笑顔で帝亜に向かって感謝を告げる。


「しっかりやりなさいよ。ふふふ……夢の最後まで」

 帝亜の笑みは柔らかく、しかし確固(かっこ)たる力を帯びていた。



「ちょっとどうしたの?会場は向こうよ?」

 ライブ会場とは真逆の方向に進む燈也にリエラは軽く首を傾げ、少し心配そうに声をかける。


「何かが聞こえるんだ……俺達を呼んでいるような……これはまるで……」

 燈也は顔を上げ、前方を見据える。胸の奥で小さく響く鼓動が、目の前の道を指し示している。


「…歌?」

 リエラも何かに気付いたようだ。


 


次回 『第52想 奇跡のシンフォギア』


夜の廊下を駆け抜ける足音――

それは、胸の奥に眠っていた記憶と希望を呼び覚ます旋律。


「……俺達、絶対に諦めねぇ!」

燈也の拳が固く握られる。

怜花とリエラも、その想いを共に背負い、教室の中で再び立ち上がる。


しかし、待ち受けていたのは、幻でも夢でもない――

確かな笑顔で迎える、バンド仲間たちの姿だった。


「お前のために、私たちもここにいる」

忘れかけた想い、取り戻した絆、そして胸を熱くする鼓動。

一つになった仲間たちの力が、いま、夜を突き抜ける。


果たして、彼らは“叶わぬ夢”を、音に変えて届けることができるのか――?

友情と絆が紡ぐ、最後のステージが始まる。

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