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Himeyuri ―魔法嫌いの元学園最強と、幼馴染の約束から始まる魔法学園譚ー  作者: 小鳥遊 千夜
第一章 幽霊少女編

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第48想 記憶の彼方に残る絆――諦めぬ想いの先に


「もういいのだ……自分のことぐらい分かるのだ……。

 もうすぐ、ななは……。今まで……ありがとうなのだ」


 ななの声は小さく、しかし確かな悲しみを帯びている。

 瞳には涙が(にじ)み、肩は震え、誰にも頼らずに受け止める覚悟がにじんでいた。


「ななちゃん……」


 怜花は小さく呟いた。

 その声には、心配と決意が混ざり、静かな震えが含まれている。


「なな達はきっと出会ってはいけなかったのだ。これはその罰なのだ…」


 ななの肩が小さく震え、微かに涙が(ほほ)を伝う。

 胸の奥で、後悔と孤独の重みが押し寄せる。


「それは違います。私は…いや、他の皆だって…ななちゃんに出会えて良かったと思ってます」


 怜花は震えるななをそっと抱きしめる。

 小さな体がさらに震えるのを、抱き締めながら受け止める。

 そのぬくもりは、言葉以上に安心を伝えた。


「…でも…これ以上迷惑をかけるわけには…」


 ななは涙を(こぼ)しながら(うつむ)く。

 嗚咽(おえつ)に似た小さな声が漏れ、肩が細かく揺れる。


「迷惑なんかじゃありませんよ…。私はななちゃんが好きだからやっているだけなんですから」


 怜花は優しく(さと)す。

 指先でななの背中を撫で、心を落ち着かせるようにそっと力を込める。


「そうだぜ。それに怜花だけじゃない。俺も自分がやりたいようにやってるだけ。

 だから後悔はしてない。例え忘れちまってもな…」


 燈也は拳を強く握りしめ、唇を引き結ぶ。

 瞳には決意と焦燥、そしてななを守りたい想いが渦巻いていた。


「いや…絶対に忘れねぇ!俺達は仲間だからな」


 力強く答えるその声が、静まり返った廊下に響く。

 それは揺るがない約束のように、ななの胸に直接刺さった。


「仲間…」


 ななの目に涙が溢れ、声にならない感情が込み上げる。


「はい…ずっと仲間です」


 怜花がそっとななの頭を撫でる。

 その手のぬくもりが、心の不安を少しずつ溶かしていく。


「せめてお前が夢を叶えるその時まで、一緒にいさせてくれよ」


 燈也の声は、優しく、そして真剣だった。

 その温もりに、ななは肩を震わせながらも顔を上げる。


「うん。…ありがとうなのだ」


 涙を零しながら、笑みを浮かべるなな。

 その笑顔に、燈也も怜花も静かに安堵の息を吐いた。





 ***


 次の日、図書館の静かな空間で、燈也、怜花、ななの三人は解決策を見つけるために資料の山に囲まれていた。


「くそ…もう時間が無いってのに…」


 燈也は机に拳を置き、苛立ちを隠せず小さく唸る。ページをめくる手も、普段より少し力が入っていた。


「よう!お前が図書館だなんて珍しいな。何やってんだよ?」


 そんな静寂(せいじゃく)を破ったのは、いつもの軽薄(けいはく)な声――郷夜だった。

 その声には、困惑も焦燥も混ざった三人の空気などお構いなしの、呑気さがあった。


「…忙しいんだ…放っておいてくれよ」


 燈也は無言で手を伸ばし、郷夜を押しのけようとする。

 だが郷夜は軽く笑い、怜花に目を向けた。


「なんだよ…つまんねーヤツだな。怜花ちゃん、こんな奴、放っておいてランチでも行こうぜ?」


 その言葉に怜花は慌てて後ずさる。

 顔を赤くして、言葉に詰まったまま固まってしまった。


「えっ…あの」


 その瞬間――


「ビビッ!」


 小さな体から伸びたビビデバビルが、郷夜の手に噛みついた。

 その素早さと鋭さに、郷夜は思わず顔を歪める。


「うわ!なんだコイツ?何しやがる!」


 慌ててビビデバビルを引き剥がす郷夜。

 その様子に、図書館の静けさが一瞬だけざわめいたように感じられる。


「ったく…ペットはちゃんと(しつ)けておいてくれよな。ななちゃん」


 誰に言うでもなく文句を言う郷夜の言葉。

 そのとき、燈也は眉をひそめ、郷夜の方へ視線を向けた。


「!?」


 その口から出た"名前"に、郷夜自身も驚いている。


「あれ?何言ってんだオレサマ…幻でも見てたのかな…」


 郷夜は自分でも気付かず、覚えていない名前を口にしてしまったことに違和感を覚えていた。

 その表情には混乱と、ほんの少しの不安が滲む。


「幻なんかじゃねぇよ!!!ななだ!一緒にバンド組んだじゃねえか?」


 燈也の声が鋭くも温かく響く。

 拳を軽く握り、熱を込めて郷夜に問いかけるその声に、廊下の空気が少し震えるようだった。


「そうです。ななちゃんとあんなに仲良かったじゃないですか?」


 怜花も必死に声を重ねる。

 手を胸に当て、微かに揺れる身体から緊張が伝わってくる。


「なな…?」


 郷夜は首をかしげ、目を細めて考え込む。

 しかし、思い出せない。


「くそ…頭にモヤがかかったみたいに思い出せねえ…」


 肩を落とし、ため息混じりに言葉を絞り出す。


「ただ…」


 言葉が続かず、沈黙。

 やがて口を開いた郷夜の声には、どこか遠くを見つめるような寂しさが混じった。


「…記憶には残ってないけどよ…胸の奥がざわざわするんだ。

 何か大切なモノを落としちまったみたいなそんな感じが…」


 郷夜は肩を少しすくめ、目の奥に小さな痛みを浮かべる。


「は…ははっ。…笑っちまうよな。

 このオレサマがレディの事を忘れちまうなんて…本当に情けねぇよ」


 自嘲(じちょう)気味に笑うその声には、悔しさと少しの哀愁(あいしゅう)が入り混じっていた。


「風間さん…」


 怜花は小さく呟く。

 胸が締め付けられるような気持ちを抑え、手を握りしめた。


「…」


 ななはじっと郷夜を見つめ、言葉はなかった。

 けれど瞳に宿る感情は、しっかりと伝わる。


「…もういい。ありがとうな」


 燈也は優しい口調で言葉を落とす。

 その声が、静かに、しかし確かに郷夜の胸に届く。


「まだ完全に忘れたわけじゃないんだな」


 郷夜が去った後、燈也は小さく呟く。

 拳を軽く握り、心の中で決意を新たにする。


「ええ。きっと皆さんも…希望はまだありますよね」


 怜花も柔らかい口調で応える。

 その手の温もりと声が、ななの心にそっと寄り添う。


「そうだな…絶対に諦めてたまるかよ…」


 燈也は拳を固く握りしめ、目を強く見開く。




次回 『第49想 消えゆく追復曲』


ライブ本番も、いよいよ明日。

しかしななの記憶は世界から消えつつある。


仲間たちも次々とななを忘れていき、

彼女を覚えているのは、もはや燈也と怜花、リエラの三人だけ。


それでも希望を捨てず、最後まで足掻こうとする彼ら。

だが――運命は、残酷だった。


ついにその“消失”は、

主人公たちにまで牙を剥く。




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