第46想 忘却に抗う決意――夜明け前の誓い
「なぁ……もし、それが用意できたら――」
そこまで言いかけた瞬間、神奈が先に口を開いた。
「やめておくのじゃな」
静かながら、はっきりとした声音だった。
「……その先は、決して幸せな結末にはならぬよ」
怒りも拒絶もない、しかし一切の迷いも許さない、確固たる声音。
「なぜだ……?」
縋るような問いだった。
ほんの僅かでも、“可能性”があるのなら――そんな期待を込めて。
「血塗られた力で蘇る魂に、もはや“祝福”はない」
神奈は視線を伏せ、ゆっくりと言葉を紡ぐ。
「生き返ったとしても、それはもう“呪われた”魂じゃ。」
その声には、確かに悲しみが滲んでいた。
まるで、かつて同じ結末を見届けたことがあるかのように。
「それを、心から喜べる者など……おるまいよ」
「……そうだよな」
燈也は俯き、拳を握る。
――誰かを犠牲にしてまで蘇るなんて、
あいつが望むわけがない――
その答えは、ずっと心の奥にあった。
ただ、目を逸らしていただけだ。
今さらながら、その事実が胸に重くのしかかる。
希望を探していたはずなのに、辿り着いたのは“否定”だった。
それでも――
燈也の拳は、まだ解かれなかった。
諦めるには、あまりにも大切な想いが、そこにあったから。
「……魔法で、何でも出来るわけじゃないよな」
燈也の呟きは、誰に向けたものでもなかった。
積み重なった書物と、解決の糸口すら見えない現実に向けて、零れ落ちただけの独り言。
「そうじゃな」
神奈は、穏やかな眼差しで頷く。
「気休めかもしれんが……魔法とは元々、“願い”が形となったもの。
願うことを諦めなければ、あるいは――」
その先は語られなかった。
しかし、言葉が途切れたその瞬間――
――夢の最後まで――
その言葉が、脳裏に蘇る。
セレナが去り際に残した、あの意味深な一言。
「……分かってるさ」
燈也はゆっくりと顔を上げる。
「俺は諦めない。最後までな」
その声音には、確かな決意が宿っていた。
「カカカ!!」
神奈が愉快そうに笑う。
「その意気じゃ。起こしてみせよ。
“奇跡”という名の魔法を!!」
「ああ!」
燈也は再び机に向かい、山のような資料に手を伸ばす。
「奇跡でも何でも、起こしてやろうじゃねーか!」
紙の擦れる音だけが、静まり返った大図書室に響く。
外はとっくに闇に沈み、窓の向こうには星明かりが瞬いていた。
(……頑張るのじゃ、少年)
神奈はその背中を見つめ、心の中で呟いた。
(ヌシのような者が、次の“魔法”を創っていくのじゃからな……)
夜の図書室に、少年の執念だけが、静かに燃え続けていた。
***
自室の机には、資料やノートが散乱していた。
夜も深まり、外は街灯の光だけが窓ガラスに反射している。
「こんな夜遅くまで無理は良くないわよ」
リエラの柔らかな声が、静まり返った部屋に静かに響いた。
「ななちゃんの事でしょ?」
燈也の背後にそっと寄り添うように、リエラは机の上に手を置く。
「お前には全部お見通しか…」
燈也は少し驚きながらも、ふっと力の抜けた笑みを漏らす。
「何があったの?」
リエラは問いかける。
ただの好奇心ではなく、心配が滲んだ声だった。
「ななが……忘れられていってる……」
燈也は視線を落とし、指先で資料の端を軽く触れる。
苦悩と苛立ちが入り混じった表情だ。
「関係が薄かった連中から、次々と……」
言葉に詰まりながらも、燈也は現状を説明する。
目の奥には、仲間や大切な存在が徐々に消えていく恐怖があった。
「そんな……」
リエラは悲しそうな顔をした。
「親衛隊だけじゃない……いずれ俺達も……」
暗い声で、燈也は自分の胸の中を吐露した。
「だ……大丈夫よ。私達が忘れるわけないわ!それにライブまでもう少しじゃない」
リエラの声は強く、温かく、希望を含んでいた。
「……そうだよな。ありがとう」
燈也は優しく微笑む。
笑顔の端には、まだ残る決意の影。
そして――胸の中で、強く誓う。
――ななの願いを、絶対に叶えてやるんだ。
その為にも、せめてライブまでは、何としてでも……
窓の外に広がる夜景が、二人の小さな決意を、静かに包み込んでいた。
次回 『第47想 亡却の奏』
ライブ本番が迫る。
だがそ世界から少しずつ――幽霊少女・ななの記憶が消え始めている。
名前を呼べない。姿を思い出せない。
そしてついに、仲間たちの心からも、ななの存在が薄れていく。
抗えない運命に、追い詰められる燈也たち。
それでも、消えゆく想いの先に残るものは――。
絶望の中で、彼らはななの願いを叶えることができるのか。




