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Himeyuri ―魔法嫌いの元学園最強と、幼馴染の約束から始まる魔法学園譚ー  作者: 小鳥遊 千夜
第一章 幽霊少女編

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第45想 死者を呼ぶ禁忌――代償と覚悟の夜


 大図書室は、すでに夜の気配に包まれていた。

 高い天井から吊るされたランプだけが、机の上を淡く照らしている。


 他の生徒たちは、とうに下校した時間だ。

 広い室内に残っているのは、ページをめくる音と、燈也の荒い息遣いだけ。


 机の上には、所狭しと本や資料が積み重なっていた。

 魔法史、禁呪目録、神話、失伝儀式――

 どれも(ほこり)と時間の匂いを(まと)った、重たい書物ばかりだ。


「……くそ!!」


 燈也は思わず声を荒げ、机を叩いた。


「こんなんじゃ……ダメだ!」


 何度読み返しても、答えは見つからない。

 世界を正す方法ばかりが書かれていて、

 世界に抗う方法は、どこにも載っていなかった。


「……頑張るのは結構じゃが……」


 不意に、背後から声がした。


「焦っては、上手くいかぬぞ?」


 燈也は肩を震わせ、振り返る。

「……神奈先生」


 そこに立っていたのは、大図書室の司書であり魔法教師の――神奈(かんな)だった。


「何やら、随分と悩んでおるようじゃな」


 神奈は、机の上に広がる本の山を一瞥(いちべつ)し、柔らかな目を向ける。


「わっちに分かることなら……相談にのるぞ?」


 その声は、静かで温かかった。


 燈也はしばらく黙り込み、視線を落とす。

 言葉にしてしまえば、後戻りできなくなる気がした。


 ――それでも。


「……死者と会える方法って……ないのか?」


 迷いを押し殺し、燈也は問いかけた。


 空気が、わずかに張り詰める。


「ほう……」


 神奈は目を細め、燈也の顔をじっと見つめた。


()()……ではなさそうじゃの?」


「……ああ」


 燈也は視線を()らさず、真っ直ぐに見つめ返した。


 その瞳に宿る覚悟を、神奈は見逃さなかった。


「ふむ……」


 神奈は(あご)に手を当て、少しの間考え込む。

 やがて、静かに口を開いた。


「……あるには、ある」


 燈也の胸が、大きく脈打つ。


「じゃが……」


 神奈は言葉を区切る。


「わっちのように霊力の高い者ならともかく、常人には……」


「まず、“()()”ことすら出来ぬじゃろう」


「それこそ……」


 一拍(いっぱく)置いて、神奈は告げた。


蘇生術(そせいじゅつ)でも使わぬ限りな」


「……蘇生って、まさか……」


 燈也は思わず声を上げた。


 神奈は小さく頷く。


「……そうじゃ」


 その声には、わずかな重みがあった。


「時間支配、犠牲と並ぶ――()()()()の一つじゃ」


 ――三大禁忌(さんだいきんき)

 使用が制限された魔法やアイテムは数多く存在するが、

 その中でも三大禁忌魔法は別格だ。


 世界の根幹(こんかん)に干渉する程の術であることから、

 使用は絶対禁忌とされ、魔法協会によって厳格に封じられている禁術。


 触れることすら許されず、

 使用者すれば永久に投獄される――

 それほど危険な存在。


「……まさしく」


 燈也は、喉を鳴らしながら呟いた。


「禁断の技ってわけか……」


「けど……実際に、死者を蘇らせるなんて出来るのかよ?」


 自分で口にしておきながら、その言葉の重さに胸が(きし)む。

 死者を甦らせる――それは神話の領域であり、人が踏み込んではならない神の御業(みわざ)だ。

 禁術と呼ばれているとはいえ、本当に“そんなものが存在する”など、にわかには信じがたい。


「……()()()ではない」


 静かに、しかし断言するように神奈が答えた。


「え……あるのか?」


 思わず声が裏返る。

 燈也は目を見開き、神奈の顔を凝視した。


「肉体を蘇らせる程度であれば、熟練の魔法使いなら可能じゃろう……」


 淡々と語られるその内容は、逆に現実味がなく恐ろしい。


「じゃが、肝心の“()”となると話は変わってくる」


「……どういうことだ?」


 燈也は首を傾げる。


「ヌシも知っておろう。魔法は無限に使える力ではない。

 必ず、相応の対価が必要となる」


 神奈は一冊の分厚い書を指でなぞりながら続ける。


「魂を呼び戻す……すなわち“()”そのものを捻じ曲げるとなれば、それに見合う代償が要る。

 例えば――多くの、生贄じゃな」


 その言葉を聞いた瞬間、燈也の背筋に冷たいものが走った。


(つまり……誰かを蘇らせるには、誰かが死ななきゃいけないってことか……)


「生贄、か……」


 乾いた声が喉から(こぼ)れる。


「そりゃあ……禁止にされるわけだな」


「その通りじゃ」


 神奈は小さく頷いた。


「まぁ、禁止されておらずとも、そもそも人間に出来るものではないがの。生贄を用意できたとしても

 並の魔力では、話にもならん」


 燈也は唇を噛みしめる。

 必要とされる力は、人の身には余る。

 だからこそ“()()”として封じられているのだ。




次回 『第46想 忘却に抗う決意――夜明け前の誓い』


世界から――消えゆく少女。

誰も、ななの存在を覚えてはいない。


「……諦めるわけにはいかない」

燈也は拳を握り、夜の図書室に一人立ち尽くす。

禁忌の術――そんな間違った力に頼らなくてもきっと希望はあるはずだ。


奇跡を信じる少年と、背中を見守る仲間たち。

記憶の彼方で揺れる、忘れられた願いを救うために――

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