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Himeyuri ―魔法嫌いの元学園最強と、幼馴染の約束から始まる魔法学園譚ー  作者: 小鳥遊 千夜
第一章 幽霊少女編

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第41想 第41想 繋ぐ音色――胸の奥の約束


 燈也は、胸の奥に芽生えた衝動(しょうどう)を抑えきれず、口を開いた。


「……そうだ」


 ななみが、不思議そうにこちらを見る。


「俺達のライブを……観に来てくれないか?」


 その言葉に、音楽室の空気が一瞬止まる。


 ――繋いでやりたいと思った。

 ――すれ違ったままの、二人の心を。


 このまま何もせずに終わらせたくなかった。

 後悔の先に、ほんの少しでも救いがあるのなら――。


 燈也は、まっすぐな眼差しでななみを見つめていた。


「ライブ……?」


 ななみは、燈也の言葉を反芻(はんすう)するように小さく呟いた。

 その視線は床へ落ち、指先がぎゅっと握りしめられる。


「でも……」


 迷いの色は隠しようもない。

 それも無理はないだろう――妹を失った記憶と、音楽。

 それらは彼女の中で、今もなお強く結びついているはずだ。


「お前が音楽に抵抗ある気持ちは分かる……」


 燈也は、真剣な表情で一歩踏み出す。


「だが……」


 その先の言葉を探すように、一瞬だけ言葉を切る。

 強く踏み込みすぎれば、逆に傷つけてしまう。

 それでも、今は引けなかった。


 その時――。


「あの……私からもお願いします」


 怜花が前に出て、深く頭を下げた。


「……!」


 ななみが目を見開く。


「あなたに聞かせたい曲があるんです。」


 怜花の声は震えていたが、そこに迷いはなかった。


「頼む」


 燈也もまた、一歩踏み出し、深く頭を下げる。


「ひと目だけでいいんだ!」


 その必死な姿を、ななは黙って見つめていた。

 胸の前で手を握りしめ、何かを堪えるように。


 しばらく、沈黙が流れる。


 ななみは二人を見つめ、そしてゆっくりと息を吐いた。


「……分かったわ」


 その声は、決意を含んでいた。


「ライブ……楽しみにしてるね」


 その一言で、張り詰めていた空気が一気にほどける。


「ありがとうございます」


 怜花はほっとしたように、再び頭を下げた。




「ありがとう!期待に応えられるような、良いライブにしてみせる」


 燈也も顔を上げ、真っ直ぐにななみを見る。

 自分に言い聞かせるように、そして約束するように。


「……ふふ」


 ななみは、柔らかく微笑んだ。


「お礼を言いたいのは……私のほうだよ」


 その笑顔は、先ほどまでの寂しさをほんの少しだけ和らげている。


「ありがとうね」


 音楽室に、優しい余韻(よいん)が残った。

 それは、止まっていた時間が、わずかに動き出した証のようだった。



 ***


 夕暮れに染まり始めた中庭。

 校舎に囲まれた静かな空間に、ベンチがぽつんと置かれている。


 そこに並んで腰掛ける三人の間には、少しだけ気まずく、それでいて温かな沈黙が流れていた。


「なな、悪かったな……」


 先に口を開いたのは燈也だった。

 視線を落とし、噛みしめるように言葉を続ける。


「ごめんなさい、ななちゃん」


 怜花もまた、申し訳なさそうに頭を下げる。

 二人とも、旧音楽室での出来事が胸に引っかかっていた。


 ななは、そんな二人の様子を見て、小さく首を振る。


「……別に、二人は悪くないのだ」


 静かな声だったが、はっきりとした口調だった。


「いけないのは、ななの方なのだ」


「違います」

 怜花が、食い気味に否定する。

「ななちゃんが悲しい想いをしていたのに、気付いてあげられなかった私が悪いんです」


 その声は震えていた。

 後悔と自責の念が、ありありと滲んでいる。


「いや……」

 今度は燈也が顔を上げる。


「悪いのは俺だ」


 二人の視線が、彼に集まる。


「俺はななのことを、ちゃんと信じてやれてなかった……」

 拳をぎゅっと握りしめる。


「もっと真剣に考えていれば、あんなに辛い想いをさせずに済んだかもしれない」


 一拍置いて、低く言った。


「……本当に、すまない」


 その言葉には、誤魔化しのない後悔が込められていた。


 ななは少し驚いたように目を(またた)かせ、それからゆっくりと微笑む。


「燈也が信じられなかったのも、無理はないのだ」

 責める調子は、まったくなかった。


「でも燈也は……お姉ちゃんをライブに誘ってくれた」


 ななの声が、ほんの少しだけ柔らかくなる。


「なな一人じゃ、出来なかったのだ」


 胸の前で手を握りしめ、続ける。


「だから……二人には、感謝してるのだ」


 その微笑みは小さかったが、確かに温かかった。


「ななちゃん……」


 怜花が、思わず呟く。


「俺はもう、お前を疑わない」


 燈也が立ち上がり、ななを真っ直ぐに見る。


「お前を信じる」

 力強く、断言する。


「ライブ、絶対成功させようぜ!」


「私も、精一杯頑張ります」

 怜花も深く頷く。


 夕暮れの中庭に、三人の決意が静かに重なった。






次回予告 『第42想 小さな勇気、大きなごちそう』


夕暮れの漣家。

テーブルいっぱいに広がる、ななの“力作”料理。

その光景に胸を打たれ、迷いを振り払う燈也。


「俺に出来ることを、やるだけだ――!」


だが、平穏な日常は長くは続かない。

新たな試練が、三人の前に静かに迫る――。



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