表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
Himeyuri ―魔法嫌いの元学園最強と、幼馴染の約束から始まる魔法学園譚ー  作者: 小鳥遊 千夜
第二章 魔法試験編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

36/36

第36想 第四の関門――魔法主任神奈

前回までのあらすじ


魔法嫌いな元・学園最強――不知火燈也。魔法執行部に渋々加入した彼は、幽霊調査の任務で未練を抱えた少女・ななと出会う。

彼女の願いを叶えるため、燈也は仲間たちと共に“バンド”を結成し、ライブという挑戦に踏み出す。


衝突、挫折、そして失われていく記憶――それでも想いは消えず、歌は奇跡を起こした。


次に待ち受けるのは、学園最大の試練――魔法試験。


強敵魔導ギアを倒した主人公達に待ち受けるのは第四の試練 知恵と判断力が試される。



「皆さん、次の試練に入る前に……傷を(いや)しておきますね」


 癒水(ゆみ)がそう言って一歩前に出る。

 先ほどまでの戦いを終え、まだ誰の身体にも疲労が残っていた。


 両手を静かに重ね、深く息を吸う。


『恵みの雨よ、静かに降り注ぎ、

 傷ついた心と身体を包んで――』


癒しの雨(ヒール・レイン)



 淡い光を帯びた水滴が、霧雨(きりさめ)のように降り注ぎ、一行の身体を包み込んだ。

 (かす)り傷や打撲(だぼく)の痛みが薄れ、張り詰めていた筋肉がゆっくりと解けていく。


「……助かる」

 燈也(ともや)が短く息を吐いた。


 仲間の表情にも、わずかに安堵(あんど)の色が戻る。


「やっぱ癒水の魔法は助かるわね」


「おかげで、次も全力で行けそうだぜ」


 そんな声が漏れ始めた、その時だった。


 ――コツン。


 どこか余裕を含んだ足音とともに、

 場の空気を切り替えるような、柔らかくも底の知れない声が響く。


「ほう、待っておったぞ。もう少しかかると思っておったがの。」


 柔らかな声とともに視線を向けてきたのは、

 金色の四つ尾をゆったりと揺らす女性――神奈(かんな)だった。



「次の試練はあんたか……神奈先生」


 燈也が低く呟く。

 その声には、これまでの教師たちとは違う種類の緊張が混じっていた。


「あのライブの時はありがとうございました」


 怜花(れいか)が一歩前に出て、丁寧に頭を下げる。

 神奈はその様子を見て、目を細めて微笑んだ。


「なに、わっちはほんの少し背中を押しただけじゃ。

 おぬしらが頑張ったからこそ、今があるのじゃよ」


 その笑みは優しい。


「それに……試験は手を抜かぬぞ?」


 空気が一瞬で引き締まった。


「望むところだ!」


 燈也が迷いなく応える。

 その声には、ここまでの試練を越えてきた確かな自信が宿っていた。


「では試練の内容じゃが……」


 神奈はゆっくりと手を広げ、周囲に魔法陣を展開する。


「おぬしらには、この迷宮を超えてもらう。

 勿論、中には幾重(いくえ)ものトラップを仕掛けておる」


 周囲の石柱(せきちゅう)がわずかに震え、魔力が満ちていくのを全員が感じ取った。


「おぬしたちの知識、そして判断力――

 それを、余すことなく試させてもらうぞ」


「ああ、全力で超えてやる!」


 燈也の言葉に、仲間たちも静かに頷く。


「カッカッカ!!」


 神奈は楽しげに笑うと、印を結び、術式を展開した。



『乾・坤・震・巽・坎・離・艮・兌 八方に理を刻み、陣を巡らせ道は移ろい、壁は蠢き 進む者を惑わし、退く者を拒め 理を知らぬ者、永く彷徨え』

 

≪妖術 石神八陣(せきじんはちじん)!!≫



「では、わっちは迷宮のゴールで待っておるぞ」



 次の瞬間――

 視界が白く染まり、足元の感覚が消える。


 ぐにゃりと空間が歪み、燈也達は強制的に別空間へと転送された。


『さあ!試験も大詰め!第4の試練!』


 洞窟全体に、実況の吉良(きら)の声が響き渡る。


『対するは美しき天狐――魔法主任・神奈!

 彼女が作り出す迷宮、《石神八陣》!

 果たして不知火(しらぬい)チームは脱出できるのか!?』


 続いて、落ち着いた声で愛紗(あいしゃ)が解説を入れる。


『石神八陣――知恵無き者は永遠に出ることが出来ないと言われる、

 極めて高度な結界術です。

 皆さん、どうか慎重に進んでくださいね』


 光が収まると、そこはもはや元の試練場ではなかった。


 無数の分岐、刻まれた古代文字、そして静かに待ち受ける罠の気配。


 ――第四の試練、石神八陣始動。



 足元の感覚が戻ると同時に、不知火たちは石に囲まれた迷宮の中に立っていた。


 天井も壁も、すべてが無機質な石で構成されている。

 しかしただの石ではない。魔力が染み込んだように、表面には淡い紋様が浮かび、空気そのものが重い。


「……ここは異空間みたいね」


 リエラが周囲を見渡しながら、慎重に魔力を探る。

 音が反響し、どこまでが道でどこからが行き止まりなのかも分かりにくい。


「油断するなよ」


 燈也が低く言い、仲間たちに注意を促す。


「大丈夫だって。こういうのはゲームで慣れてる。サクッとクリアしてやるぜ」


 郷夜(ごうや)は相変わらず軽い調子で、迷宮の壁に手を置いた。


 ――ポチ


「……え?」


 一瞬、何かが作動するような(かわ)いた音が響いた。


「あれ、なんか……音しなかったか?」


 次の瞬間――

 奥の通路から、ゴロゴロと地鳴りのような音が近づいてくる。


「うわああああ!! 大岩だああああ!!!!」


 巨大な岩が、猛スピードで転がってきていた。


「何やってんのよ!このバカ!!」


 流水が即座に怒鳴る。


『――蒼海を駆ける一撃』


≪オーシャンアーツ壱の型 藍鯆(あおいるか)!≫


 流水の脚に水が集まり、渦を巻く。

 次の瞬間、鋭い蹴りが放たれ、大岩は粉々に砕け散った。


「助かったぁ~……」


 郷夜は腰を抜かしたように、その場にへたり込む。


「だから言っただろ。慎重に行けって」


 燈也がため息混じりに(しか)る。


「……分かったよ」


 郷夜はさすがに反省した様子で肩を落とした。


「リエラ、何か分かるか?」


 燈也が状況確認を求める。


「それが……まるで何かに妨害されてるみたい。

 感知が上手く出来ないわ」


 リエラは眉を寄せ、首を横に振る。


「対策されてるってわけか……」


 燈也は迷宮の構造を見回しながら考え込む。


「しょうがない。取り敢えず進もう」


 一行は足音を抑え、慎重に迷宮を進んでいく。


 ――だが。


「……完全に迷ったわね」


 しばらく歩いた後、リエラがぽつりと呟いた。


 同じような通路、同じような石壁。

 どこをどう進んだのか分からなくなっている。


「ああ、くそ……こうなったら!!!」


 (ごう)を煮やした郷夜が、苛立ちを込めて魔力を解放する。


『春を告げる青き風よ、その旋律で道を切り拓け。踊れ』

青き春風のワルツ(ブルー・ウィンド)


 鋭い風の刃が放たれ、迷宮の壁を斬り裂いた――はずだった。


「ちょっと!何やってんのよ!」


 流水が慌てて止めに入る。


「いやさ、面倒くさいからさ。この壁、全部ぶっ壊せばいいかなって」


 郷夜は悪びれずに笑う。


「……あれ?」


 しかし、攻撃したはずの壁を見て、郷夜は目を見開いた。


 傷が――消えている。


「壁が瞬時に直ってる……。何らかの魔法か」


 燈也が冷静に分析する。


「だったら……」


 壁が魔法で構成されているなら、無効化できるかもしれない。

 そう考えた燈也は、腕に魔力を集める。


魔断(マギ・ブレイク)!!≫


 魔法無効化の一撃が壁を切り裂き、確かに傷が走った。

 だが、それも数秒後にはゆっくりと塞がれていく。


「燈也さんの魔法でも……ダメみたいですね」


 怜花が残念そうに呟く。


 その時――どこからともなく、楽しげな笑い声が響いた。


「カッカッカ。無駄じゃ」


 神奈の声だ。


「力技では、その石神八陣は敗れぬ」


 外から術で様子を見ているのだろう。

 声だけが、迷宮全体に反響する。


「それだけではないぞ。迂闊(うかつ)に壁を攻撃すると……」


 次の瞬間。


「なっ……今度は水が溢れてきたわ!!!」


 勢いよく押し寄せてくる濁流(だくりゅう)に、流水が思わず声を張り上げる。


 迷宮のありとあらゆる場所から水が噴き出し、瞬く間に足元を濡らしていく。


 力では突破できない。

 判断を誤れば、罠は容赦なく牙を剥く。



魔法障壁(プロテクション)


 燈也が即座に詠唱し、淡く光る防御壁を展開する。

 半透明の膜に水流が激突し、激しい音を立てて弾かれた。


「ふぅ……」


 燈也が短く息を吐く。



「ほら見なさい。そんな方法が上手くいくわけないのよ」

 流水が腕を組み、郷夜を(にら)みつける。


「いえ…、そうでもないかもしれません」


 その時、癒水が静かだが確信を帯びた声で口を開き、ある一点を指差した。


「あれを見て下さい。義兄(にい)さんがさっき攻撃した箇所が、別の個所に出来てます」


 一同が癒水の示す方向へ視線を向ける。

 そこには、確かに先ほど燈也の魔法が命中したはずの“傷”が、まるで移動したかのように残っていた。


「これはおそらく……迷宮の壁が動いているんです」


「壁が動くだって!?」

 郷夜が目を見開き、声を上げる。


「ええ。壁そのものが常に位置を変え、侵入者の感覚や記憶を惑わす仕掛けになっているのでしょう」


 癒水は迷宮を見回しながら、冷静に推理を続ける。


 ――動く迷宮。

 燈也の脳裏に、その言葉が重く響いた。


「それじゃあ、一生出られないじゃない!」

 流水が苛立ちを隠さず叫ぶ。


「いえ。何かの法則が分かれば、脱出の糸口は必ず見えてくるはずです」


 癒水の声は落ち着いていた。

 そうだ……神奈先生も、解説の愛紗も言っていた。この試練は“知識”を問うものだと。


「その法則をどうやって見つけるんだ? 魔法も効かないようだし」

 郷夜が頭を掻きながら尋ねる。


「迷宮内に、何か手掛かりが用意されているのではないでしょうか?」

 癒水はそう答える。


「手掛かりと言ってもなぁ……」

 燈也は腕を組み、周囲を見渡す。どこを見ても無機質な石壁ばかりだ。


「あの……」


 控えめな声が響き、一同の視線がそちらに集まる。


「手掛かりかどうかは分かりませんが……そこの壁に、模様(もよう)みたいなのが描かれていませんか?」


 怜花がそう言って、静かに壁の一部を指差した。


 近づいて見ると、確かに石の表面に不自然な刻印がある。

 装飾とも違う、意味ありげな図形――


「丸が……三つ?」


 燈也が呟く。

 それは単純だが、妙に目を引く模様だった。


「どういうことだ?」

 燈也が仲間たちに問いかける。


「さあ?これだけでは何も…」

 リエラは肩をすくめ、首を小さく傾げる。物知りな彼女にも、この模様の意味は(つか)めていないようだった。


「見て! 向こうにも似たような模様があるわ」

 今度は流水が通路の先を指差す。


 壁面に刻まれているのは、先程と同じく円形の印。

 だが――


「今度は……丸が四つ?」


 燈也が数え、呟く。

 三つ、そして四つ。偶然にしては、あまりにも規則的だった。


「……」

 誰もすぐには口を開かず、迷宮の静寂(せいじゃく)だけが漂う。


「もしかしたら……数字がヒントなのではないでしょうか?」

 沈黙(ちんもく)を破ったのは癒水だった。


「数字?」

 郷夜が聞き返す。


「はい。壁に描かれている丸の数が、進むべき“順番”を示しているのかもしれません」


「でも数字通りに行くと、来た道とは反対方向になるわよ?」

 流水が即座に指摘する。


 確かにそうだ。

 これまでの経験則では、“正しそうな道”は直感的にゴールへ続くように作られている。

 だがこの迷宮は――常識を裏切る仕掛けを平然と使ってくる。


「いや、それでも試してみる価値はある」


 燈也は一瞬目を伏せ、決意を固めたように言った。

「行ってみよう」


「そうね。他に手掛かりもないし」


 流水も頷き、仲間たちは覚悟を決めたように足を進める。


 それから彼らは、壁に刻まれた模様を一つ一つ確認しながら進んでいった。

 五つ、六つ、七つ――

 進むほどに、意図的に“迷わせる”ような分岐が増えていく。


 だが彼らは、方向には惑わされなかった。

 左右、前後、上下――そんなものはどうでもいい。

 重要なのは順番。数字の流れだけだ。


「……これで丸が九つだ」


 燈也が壁の模様を見上げながら呟く。


 石神八陣。

 八を超えるということは、本来想定された“陣”の外側に踏み出すということ。


 次の瞬間――

 通路が途切れ、視界が一気に開けた。


 ようやく辿り着いたのは、先程までとは明らかに違う、広く静かな空間だった。

 天井は高く、中央には淡く光る陣が浮かび上がっている。


 ――ここが、終点。


「……癒水の考え通り、この先がゴールみたいね」

 流水が周囲を見渡しながら言う。



「おっと……ここから先は進ませないぜ!」


 迷宮の通路、その先に立ちはだかる一人の男。

 岩のように逞しい体躯(たいく)が、行く手を完全に塞いでいた。


「誰だ? お前は?」

 燈也は一歩前に出つつ、警戒を隠さず問いかける。


「俺は六堂仁(ろくどうじん)。――お前が噂のSランクだな?」

 男は口角を吊り上げ、獲物を見つけた獣のような笑みを浮かべる。

「会いたかったぜェ!」


 大柄な体に、異様に目立つカーリーパーマのボンバーヘッド。

 盛り上がった筋肉は、制服の上からでも分かるほどで、ただ立っているだけで圧迫感がある。

 理屈より拳。思考より衝動。

 その存在そのものが「戦うため」にあるような男だ。


「俺に何の用だ?」

 燈也は視線を逸らさずに聞く。


「ちょいと……手合わせして欲しくてなァ」

 六堂は指を絡め、パキパキと骨を鳴らす。

 その仕草一つで、戦闘狂であることが嫌というほど伝わってくる。



次回予告 『第37想 筋肉は魔法を嘲笑う――十月花からの刺客 六堂仁』


迷宮の最深部――

石神八陣のゴールを目前にして、不知火チームの前に立ちはだかる影。


現れたのは、謎の組織《十月花》の一人。――六堂仁。


「魔法?そんなもん効くかよォ!!」


魔法を弾き返す異常な筋肉、拳一つで魔力をねじ伏せる圧倒的な力の前に、

不知火チームは苦戦を強いられる。


「攻撃が……通らない!?」


圧倒的なフィジカル、正面突破を許さぬ怪物のような存在に、

一行は追い詰められていく。


だが――一人では越えられなくとも、仲間がいる。


仲間と共に最強の壁に挑む。


迷宮脱出か、完全敗北か。

石神八陣、最後の関門で――激しく火花を散らす!


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ