第35想 第三の試練後半 魔導ギア突破作戦――結束の刃
前回までのあらすじ
魔法嫌いな元・学園最強――不知火燈也。魔法執行部に渋々加入した彼は、幽霊調査の任務で未練を抱えた少女・ななと出会う。
彼女の願いを叶えるため、燈也は仲間たちと共に“バンド”を結成し、ライブという挑戦に踏み出す。
衝突、挫折、そして失われていく記憶――それでも想いは消えず、歌は奇跡を起こした。
次に待ち受けるのは、学園最大の試練――魔法試験。
試験も中盤、第三の試練を無事に攻略することは出来るのか?
圧倒的な威圧感。
重装甲の魔導ギアがそこに立っているだけで、空気が震える。
誰もが攻撃を重ねた。だが――傷一つ、つけられていない。
「攻撃がまるで効かないなんて。こんなヤツ、どうしたら……」
流水が思わずこぼした弱音。
普段は冷静で、どんな相手にも臆しない彼女が、ここまで追い詰められるほどの存在。
その様子を、見下ろす男がいた。
「諸君らの力は、この程度か?」
ドライツェンは口元を歪め、不敵な笑みを浮かべる。
嘲るようでありながら、その目は生徒一人一人を値踏みするかのように鋭い。
「んなこと言ったって、いくら何でも強過ぎなんだろ!」
燈也が声を荒げる。
腕の傷がじくりと疼き、魔力の消耗も隠せない。
「言ったであろう? この個体はSランク用の特別な相手だと……」
ドライツェンは淡々と答える。
まるで当然のことを説明するかのように。
「おいおい!! 不知火はともかく、他はSじゃないんだぜ?」
郷夜が食ってかかる。
額には汗が滲み、呼吸も荒い。
「そうよ! 無茶苦茶よ」
リエラも同意するように声を上げる。
誰一人として、今の状況が“公平な試練”だとは思っていなかった。
「一人では……な」
ぽつりと、ドライツェンが呟く。
「授業でも言ったと思うが、状況に応じて最善を探すのが一流の魔導士なのだ」
その言葉は、挑発であると同時に“ヒント”でもあった。
「状況……?」
燈也は思わず考え込む。何かを見落としているのか?
「少し喋り過ぎたな……やれ!」
考える時間は与えない、と言わんばかりにドライツェンが命じる。
「対象ヲ排除シマス」
無機質な機械音声。
魔導ギアの単眼レンズが赤く輝き、内部で魔力炉が唸りを上げる。
『さあ、再び魔導ギアが起動を始めた! 絶対絶命か!?』
実況席から吉良の緊迫した声が響く。
次の瞬間。
魔導ギアの砲口が展開し、内部に赤い光が凝縮されていく。
魔力が一点に集束する、嫌な音。
≪強化魔弾発射! !≫
解き放たれる魔力弾。
一直線に、不知火チームを狙って迫る。
≪魔法障壁展開!≫
燈也が即座に前へ出る。
だが一人では足りない。
『集え、水よ
流れて壁となり、命を護れ』
≪水護壁≫
癒水の詠唱が重なり、半透明の水の防壁が幾重にも展開される。
魔弾が激突し、水飛沫と衝撃波が視界を白く染めた。
二人がかりで、どうにか防ぎ切る。
「助かりました」
怜花が息を整えながら礼を告げる。
だが――防壁は震え、ひび割れ、今にも崩れそうだった。
「だが、長くは持ちそうにないぞ!?」
郷夜の声には、はっきりと焦りが滲んでいた。
『おおっと!! バリアが削れていく! 不知火チーム、万事休すか……!?』
実況席から吉良の煽るような声が戦場に響く。
「くそっ……!?」
防戦一方に追い込まれた燈也が歯噛みする。
反撃に出る余裕はなく、守るだけで精一杯だ。
「だったら……」
その時、流水が小さく呟いた。
次の瞬間、彼女は地を蹴って走り出す。
魔導ギアが攻撃動作に入った瞬間――
その間だけ、防御バリアが解除される。
先ほどの攻防の中で、彼女はそれに気付いていた。
砲撃後の、ほんの一瞬の隙。
『蒼海を駆ける一撃!!』
≪オーシャンアーツ壱の技 藍鯆≫
流水の身体が水流に包まれ、一直線に魔導ギアへと突き進む。
しなやかで鋭い蹴りが、その装甲を捉え――
「ほう。今度は攻撃の隙を狙ったか……判断は良い。だが……」
ドライツェンが感心したように呟いた、その刹那。
魔導ギアが流水の接近を感知する。
赤いレンズが光り、瞬時に再起動する防御機構。
バリアが再展開され、流水の一撃は弾かれた。
「――っ!」
「その程度では、魔導ギアの防御は抜けぬ……」
ドライツェンの声は冷酷で、淡々としていた。
「対象補足。反撃ヲ開始シマス」
機械音声と同時に、魔導ギアの視線が流水へと固定される。
巨大な鋼鉄の腕が唸りを上げ、振り上げられた。
≪強化鋼鉄衝撃! ≫
「きゃっ!」
衝撃波と共に、流水の身体が吹き飛ばされる。
「大丈夫!? お姉ちゃん!」
癒水が悲鳴に近い声を上げ、すぐさま駆け寄る。
「ええ……大したことないわ。でも、このままじゃ……」
流水は歯を食いしばり、悔しさを押し殺すように言った。
無傷ではない。だがそれ以上に、突破口が見えないことが痛かった。
「何か手段はないんでしょうか?」
怜花が不安を隠せない表情で問いかける。
「そんなこと言ったってよ……不知火の魔法でも、バリアを壊しただけで大して効いてなかったんだぜ?」
郷夜が肩を落として言う。
「そうね……私達で、流水さんや燈也くん以上の攻撃力を持ってる人はいないし……」
リエラもまた、唇を噛みしめる。
現実は残酷だった。
「確かに……俺一人では……」
燈也も視線を伏せる。
仲間を守り、先陣を切ってきた自負があるからこそ、なおさら歯がゆい。
チームに、重苦しい沈黙が流れる。
「どうする? リタイアするかね?」
ドライツェンの声は静かだった。
だがその問いは、刃のように鋭く、不知火チームの胸に突き刺さる。
魔導ギアは今も低い駆動音を響かせ、逃げ場のない圧力を放っていた。
沈黙が落ちる。
その沈黙を破ったのは、怜花だった。
「なら……皆でやったらどうでしょうか?」
控えめながらも、芯のある声。
その言葉に、仲間たちの視線が一斉に集まる。
「どういうこと?」
流水が首を傾げる。
「先生も言ってましたよね。状況に応じて、最善を探すのが一流だって。それに……この試験は、チーム戦じゃないですか?」
そうだ――これは個人の力量を競う場ではない。
“仲間とどう戦うか”を試す試験なのだ。
「チーム……」
燈也が小さく呟く。
その言葉と同時に、胸の奥で何かが噛み合う感覚があった。
「皆で力を合わせれば……きっと」
怜花はそう言って、仲間たちを見渡した。
不安と疲労の中に、それでも信じようとする瞳で。
「……そうだな」
燈也はゆっくりと頷く。
その瞬間、仲間たちの表情が変わった。
曇っていた瞳に、再び光が宿る。
「見せてやろうぜ! オレ様達のチームワークを!」
郷夜がいつもの調子で笑い、拳を握る。
強がりではなく、今度は確かな決意があった。
「いいわね! やってみましょ」
流水もまた、前を見据えて力強く頷く。
「私も精一杯支援するわ」
リエラが胸を張る。
「力を合わせれば、きっと勝てます!」
癒水の声は優しいが、その中に揺るぎない信頼があった。
「皆さん……ありがとうございます」
怜花は深く頭を下げる。
その背中は、もう一人で抱え込む者のものではなかった。
「礼を言うのはまだ早いわよ」
流水が微笑む。
「具体的にどうするの?」
リエラが問いかける。
「俺に一つ作戦がある……皆、耳を貸してくれ」
燈也は仲間を集め、短く、しかし的確に指示を伝える。
それぞれの役割。それぞれの動き。
個々の力を、一本の刃に束ねるための作戦。
「よし……それじゃあ、手筈通りに頼むぞ。皆!!」
燈也の号令と共に、仲間たちは一斉に駆け出した。
迷いはない。互いを信じる覚悟が、足取りを軽くしていた。
「試合続行か……実に面白い」
ドライツェンは不敵に笑う。
その視線の先で、魔導ギアが再び重々しく動き出した。
「対象ヲ排除シマス」
無機質な宣告。
胸部の砲口が展開し、赤い光が急速に収束していく。
≪強化魔弾発射!≫
轟音と共に放たれる魔力弾。
先ほどよりも威力が上がっているのが、空気の震えだけで分かる。
「頼むぞ! 癒水!」
燈也の叫びに、癒水は一瞬の迷いもなく前へ出た。
「はい!」
『集え、水よ
流れて壁となり、命を護れ』
≪水護壁≫
瞬時に展開された水の防壁が、迫り来る魔力弾を正面から受け止める。
激しい衝突音。水が蒸発し、視界が白く揺らぐ。
だが、防壁は崩れない。
「更に……!」
癒水は続けて魔法を唱える。
『泡となり、霞となり 争いの目を曇らせよ』
≪幻泡霧!!≫
無数の魔法の泡が生み出され、魔導ギアの周囲を包み込む。
泡は割れながら霧状に広がり、視界を徹底的に奪っていく。
――今だ。
≪魔斬!≫
霧の中を切り裂くように、燈也が踏み込む。
腕に纏った魔力無効化の刃が、魔導ギアの展開したバリアを正確に捉えた。
パキィッ――!
硝子のような破砕音と共に、バリアが砕け散る。
「よし! 今だ! 怜花!」
燈也の叫びに、怜花は一歩前へ出る。
『光よ、束ね 逃げ場なき輪となれ』
≪縛光結界≫
光の紋章が展開し、幾重もの光の鎖となって魔導ギアを絡め取る。
強大な出力を持つ魔導ギア相手では、拘束時間はごく僅か。
それでも――動きを止めるには十分だった。
「今のうちに、皆さんお願いします!」
怜花の声が響く。
「合わせて! 二人とも!」
流水が即座に指示を飛ばす。
「ええ!」
「任せろ!」
リエラと郷夜が同時に応える。
『光はここに』
『水は流れを与え』
『風は加速する!』
『今ここに交わり、奇跡となれ――』
≪三源共鳴魔法!!≫
水、光、風、三つの属性の魔法が完全に同期し、ひとつの巨大なエネルギー塊となって魔導ギアへ叩き込まれる。
爆発的な衝撃波が広がり、魔導ギアの装甲に無数の亀裂が走った。
「よっしゃあ!魔導ギアのボディにヒビが入ったぜ!」
郷夜が叫ぶ。
「燈也くん! チャンスよ!」
リエラが声を張り上げる。
「ああ!」
≪補助魔法! 魔力強化!≫
燈也は魔力を一気に腕へ集中させ、地を蹴った。
一瞬で間合いを詰め、魔導ギアの懐へ飛び込む。
「これで……終わりだ!!!」
≪魔斬!!≫
振り下ろされた魔力の刃が、魔導ギアの中枢を正確に捉える。
断ち切られた装甲。内部から噴き出す魔力の光。
次の瞬間、魔導ギアのレンズは赤い輝きを失い――
重々しい音を立てて、その場に崩れ落ちた。
完全停止。
「やったぜ!」
郷夜が拳を突き上げる。
「皆のおかげだ……ありがとう」
燈也は仲間たちを見渡し、心からの感謝を口にした。
疲労はあった。
だが、それ以上に確かな達成感が、全員の胸に満ちていた。
『凄い!! 不知火チームが、あの魔導ギアを撃破しました!! 実に見事です!』
実況である吉良の歓喜の声が、試練の場に高らかに響き渡った。
「さあ、これで文句はないだろ?」
燈也は肩で息をしながらも、まっすぐドライツェンを見据えて問いかけた。
「ああ……次に進むと良い。」
ドライツェンは腕を組んだまま、表情一つ変えずに淡々と答えた。
まるで当然の結果だと言わんばかりの、冷えた声。
「それだけかよ。もっと褒めてくれてもいいんじゃねぇのか?」
郷夜が調子に乗ったように、ニヤつきながら口を挟む。
次の瞬間――
ドライツェンの蛇のように細い目が、鋭く光った。
「甘えるな。」
低く、重い声。
「試練はまだ終わってはいないのである。
その程度で満足するようでは、いずれ必ず死ぬぞ……」
言葉そのものよりも、その“確信”が込められた視線が恐ろしかった。
郷夜は一瞬で背筋が凍りつく。
「ひぃぃいい……」
情けない声を上げ、反射的に燈也の背中へと隠れる。
「せいぜい、気を抜かぬようにやるのだな。」
それ以上は何も言わず、ドライツェンは顎で通路の先を示した。
不知火たちは一礼もそこそこに、第四の試練へと続く道を進んでいく。
足音が次第に遠ざかり、やがて完全に聞こえなくなった、その時――
誰にも届かぬほど小さな声で、ドライツェンはぽつりと呟いた。
「……くくく……」
その口元が、わずかに歪む。
「まさか、あれを倒すとはな。
実に見事であったぞ。」
先ほどまでの冷酷な教師の顔ではない。
そこにあったのは、期待を裏切られなかった者だけが浮かべる、満足げな笑みだった。
黒いローブの裾が静かに揺れる中、
ドライツェン・エクレールは一人、壊れた魔導ギアを見下ろしながら、そっと笑みを深めていた。
――次の試練が、彼らをどこまで成長させるのか。
それを思うこと自体が、彼にとっては何よりの愉悦だった。
次回予告 『第四の関門――魔法主任神奈』
魔導ギアとの死闘を制し、辛くも第三の試練を突破した不知火チーム。
しかし、安堵する暇もなく立ちはだかる――第四の試練。
待ち受けるのは、
青龍魔術学園が誇る魔法主任――神奈。
力も、速さも、根性も通じない。
求められるのは、知識と判断、そして一瞬の選択。
無数の石柱が組み上げる、理を持った迷宮。
踏み違えれば即座に罠が発動し、進路は完全に封じられる。
――知識に無き者は、決して抜けられない。




