第34想 第三の関門――魔法教師ドライツェン
前回までのあらすじ
魔法嫌いな元・学園最強――不知火燈也。魔法執行部に渋々加入した彼は、幽霊調査の任務で未練を抱えた少女・ななと出会う。
彼女の願いを叶えるため、燈也は仲間たちと共に“バンド”を結成し、ライブという挑戦に踏み出す。
衝突、挫折、そして失われていく記憶――それでも想いは消えず、歌は奇跡を起こした。
次に待ち受けるのは、学園最大の試練――魔法試験。
試験も中盤、第三の試練を無事に攻略することは出来るのか?
奥へと進むにつれ、洞窟の壁は次第に途切れ、視界が一気に開けた。
天井の高い広大な空間――足元は硬い岩盤で、砕けた魔石の破片が散らばっている。
その静寂を切り裂くように、金属がぶつかり合う乾いた音と、魔力が爆ぜる衝撃音が断続的に響く、――戦闘音。
ここが、第三の試練の場であることは疑いようがない。
「見て、誰かがくるわ!」
リエラが鋭く声を上げた、その直後だった。
「ひぃぃ! ギブアップだぁぁ!」
「あんなの無理に決まってんだろ!!」
悲鳴混じりの叫びとともに、数人の生徒たちがこちらへ向かってなだれ込んでくる。
顔は青ざめ、息は荒く、戦う構えすら放棄した完全な敗走。
彼らは燈也たちの存在など目に入っていないかのように、そのまま脇をすり抜け、洞窟の入口方向へと逃げ去っていった。
「全く、なんと軟弱な……」
吐き捨てるような低い声。
逃げる生徒たちの背を見下ろしながら、嘆息する人物がそこに立っていた。
黒を基調とした長身の男。
背中には黒い蛇の紋様が妖しく浮かび、ローブの裾がゆったりと揺れている。
蛇のように細い目が、逃げていく生徒たちを値踏みするように眺めていた。
――間違いない。魔法教師 ドライツェン・エクレール。
「第3試練の担当は……アンタか……」
燈也が、自然と低く呟く。
「ド、ドド……ドライツェンだぁぁ!!」
悲鳴にも似た叫びが洞窟に反響する。
ドライツェンはゆっくりと視線をこちらに向け、口元に薄い笑みを浮かべた。
「お前達か……
てっきり、とうにリタイアしているものだと思っていたが……」
蛇のような視線が、燈也たち一人ひとりを舐め回す。
「よくここまで来れたものである。
――そんな劣等生を引き連れたチームで、な」
その言葉に、郷夜がビクッと肩を震わせる。
「れ、劣等生だと……?
や、やんのかコラァ!?」
声は威勢がいいが、足は一歩も前に出ていない。
「挑発に乗っちゃだめよ!!」
流水が即座に郷夜を制し、鋭い視線でドライツェンを睨む。
燈也は一歩前に出て、真正面から教師を見据えた。
「……無駄話はやめにして、とっとと試験内容を教えろ。」
一瞬、空気が張り詰める。
「くくくっ……
良かろう。だが――
その威勢、どこまで持つかな?」
ドライツェンは目を細め、低く笑った。
「――吾輩の試験内容は、これである。」
ドライツェンはゆっくりと片腕を掲げ、指を鳴らした。
次の瞬間、床に刻まれた魔法陣が不気味に発光し、重低音とともに空間が震える。
――ゴゴゴゴ……。
地鳴りのような振動と共に、魔法陣の中心から巨大な人影がせり上がってきた。
数メートルはあろうか。
無骨な人型のシルエット。黒金属の装甲が幾層にも重なり、関節部には赤紫色の魔力が脈動するように走っている。
頭部にあたる部分には、無機質な魔導レンズが一つ――
それが淡く不気味に光ると場の緊張感が一気に高まる。
「……これは……」
燈也が息を呑む。
「……魔導ギア!!」
流水が即座に言い当てる。
直後――洞窟の天井奥から、どこからともなく拡声された声が響き渡る。
『さぁ第3の試練!対峙するは魔導ギア!
不知火チームは、この強敵をどう攻略するのかァ!!』
実況・十文字吉良の声が、興奮気味に反響する。
続けて、落ち着いたトーンの声が重なる。
『魔導ギア――
空気中に漂う魔素をエネルギー源として稼働する、無人の魔導オートロイドです。』
如月愛紗の解説が始まる。
『本来は警備や建設現場で使用される事が多いですが、
戦闘用に特化したタイプは、実戦にも投入される、れっきとした魔導兵器ですよ。』
「さよう……」
ドライツェンは黒光りする魔導ギアを横目で眺めながら、満足げに口角を上げる。
「普段は学園の警備等を担当しているが――今回は試験用に調整した特別製なのである。」
魔導ギアの装甲がきしりと音を立て、内部の魔力回路が明滅する。
「これを導入したせいか……
今年はリタイア者が随分と増えてしまったのであるが――」
くく、と喉を鳴らし、愉悦を隠さず続ける。
「それもまた、試練に相応しいであろう?」
その笑みは、教育者のものとは程遠い。人が追い詰められる様を楽しむ者の顔だった。
「まぁ、安心したまえ。」
ドライツェンは淡々と付け加える。
「これでも抑えてある。――死にはせん。」
蛇のような目を細める。
「……だが、早めのギブアップはオススメするのである。」
「相変わらず……性格の悪い先生だぜ。」
燈也が低く吐き捨てるように言う。
「くく……褒め言葉として受け取っておこう。」
ドライツェンは軽く肩をすくめ、手を振り下ろした。
「では――」
魔導ギアの全身に魔力が走り、駆動音が一気に高まる。
「試練開始である。」
その瞬間、魔導ギアのレンズが赤く輝き、重々しい一歩を踏み出した。
ドン……!
数メートルはあろう巨体が、ゆっくりと一歩を踏み出す。
その一歩だけで地面が震え、砕けた小石が跳ね上がった。
人の意思を感じさせない、無機質な動作。
だが確実に――標的は定められている。
『戦いのゴングが今、鳴り響きましたァ!!』
十文字吉良の高揚した声が、洞窟内に反響する。
『これは強敵です。
魔導ギアは攻撃力・防御力ともに高水準。
皆さん、十分注意して下さいね。』
如月愛紗の落ち着いた忠告が続く。
赤く輝くレンズが、不知火チームを順にスキャンする。
次の瞬間、ギアの腕部に刻まれた魔法陣が淡く光り始めた。
――来る。
「行くぞ! 皆!」
燈也の号令に、迷いはなかった。
「はい!」
怜花が一歩前に出て、魔力を集中させる。
『――照らせ!』
≪初級光魔法 ルクス≫
純白の光が刃となり、一直線に放たれた。
闇を切り裂くような軌跡を描きながら、魔導ギアへと突き刺さる――
だが。
ギィンッ、と高い金属音が響き、光は透明な障壁に阻まれて弾かれた。
「……!」
間髪入れず、燈也が地を蹴る。
≪補助強化魔法!!≫
身体能力を極限まで引き上げられた拳が、唸りを上げて突き出される。
――ドンッ!!
衝撃波が走るが、魔導ギアの前面に展開されたバリアは微動だにしない。
「……駄目か。」
燈也が歯噛みする。
「……だったら、これはどう?」
流水が鋭く目を細め、郷夜へ視線を送る。
「いくわよ、郷夜!!」
「任せろ!」
郷夜がニヤリと笑い、魔力を解放する。
『春を告げる青き風よ、その旋律で道を切り拓け。踊れ』
≪青き春風のワルツ!!≫
渦巻く風が刃となり、カマイタチの連撃となって魔導ギアを包み込む。
装甲を削るような音が連続して響き――
その直後。
『蒼海を駆ける一撃!!』
≪オーシャンアーツ壱の技 藍鯆≫
流水が床を滑るように踏み込み、水を纏った流麗な蹴りを叩き込む。
風と水の連携攻撃。
確実に決まった――はずだった。
「……え?」
「無傷ですって!!」
流水の声が弾む。
魔導ギアは、そこに立ったまま。
装甲に傷一つなく、バリアも健在だった。
本体どころか、バリアすら突破できていない。
「なぁ……流石に強すぎないか?」
郷夜が乾いた笑いを浮かべ、肩を落とす。
その様子を見て、ドライツェンが愉快そうに口元を歪めた。
「当然である。」
腕を組み、悠然と言い放つ。
「なんせ、Sランクのいるチームが相手なのだからな。
一番強い設定の個体を選んでおいたのである。」
「くそ……やっぱり性格悪いな!!」
燈也が睨みつける。
「くくっ……褒め言葉として受け取っておこう。」
薄く笑うその姿は、まるで試験生が追い詰められるのを楽しむ観客のようだった。
「こんな相手……どうすんのよ!?」
流水の声に焦りが混じる。
鋼鉄の巨体を前に、常識的な攻撃が通じないことは誰の目にも明らかだった。
「まずは、バリアを破壊する。」
燈也は短く告げ、前に出る。
その腕に、禍々しくも澄んだ魔力が収束していく。
≪魔断!!!≫
魔法無効化の性質を持つ魔力の刃が、燈也の腕を覆う。
一歩踏み込み、迷いなく振り抜いた。
――ガギィンッ!!
硬質な音と共に、魔導ギアを覆っていたバリアに亀裂が走る。
次の瞬間、まるで硝子が砕けるように、バリアが粉々に弾け飛んだ。
『これは凄い!!不知火選手、魔導ギアのバリアを一発で破壊したぞォ!!』
十文字吉良の興奮した実況が洞窟に響き渡る。
「よし!」
燈也が叫ぶ、その瞬間。
「今ね!」
リエラが前に出る。
両手を掲げ、澄んだ声で詠唱を紡ぐ。
『祈りは光、誓いは刃。
私の願いよ、その姿を槍として結べ。穿て』
≪神魔の幻槍≫
光と魔力が交錯し、光の槍が形成される。
槍は一直線に魔導ギアへ――
「まだまだ行くぜ! こいつもオマケだ!」
郷夜が追撃に出る。
『怪我したくなきゃ、今のうちに下がりな
風は止められないからさ』
≪緑の疾風斬破!!≫
唸りを上げる竜巻が発生し、槍と共に魔導ギアを飲み込む。
風と光が交差し、凄まじい衝撃波が洞窟内を駆け抜けた。
「ほう。だが……」
ドライツェンは腕を組み、わずかに感心したような視線を向ける。
――煙が晴れる。
しかし。
魔導ギアは、びくともしていなかった。
「へっ……」
郷夜の喉から、間の抜けた声が漏れる。
「対象ヲ排除シマス」
次の瞬間、無機質な機械音声が響き渡る。
魔導ギアの砲口が展開し、赤い光が収束していく。
≪強化魔弾発射!!≫
「危ない!!」
燈也が叫ぶ。
≪魔法障壁展開!≫
咄嗟に展開された障壁に、魔弾が叩きつけられる。
轟音と衝撃――だが完全には防ぎきれない。
「くっ……!」
燈也の腕をかすめ、血が滲む。
その瞬間。
『集え、水よ 流れて壁となり、命を護れ』
≪水護壁≫
癒水の魔法が発動し、水の防壁が仲間達を包み込む。
「義兄さん、大丈夫ですか!」
「ああ、ありがとう」
燈也は一旦距離を取り、態勢を立て直す。
「これ以上はさせないわ!!」
流水が踏み込み、鋭く息を吐く。
『沈め。砕け。深海の連撃――』
≪オーシャンアーツ弐の技 黒鯱!!≫
連続蹴りが叩き込まれる――
しかし、その直前。
バシュッ……!
魔導ギアの周囲に、再び防護バリアが展開される。
「そんなっ……! もうバリアが……!」
流水は即座に距離を取り、歯噛みする。
「くくっ……」
ドライツェンの低い笑い声が響く。
鋼鉄の巨体は、何事もなかったかのように再び赤いレンズを輝かせる。
「一体……どうしたら……」
絶望と焦りが、戦場に静かに滲み始めていた。
次回予告 『第35想 第三の試練後半 魔導ギア突破作戦――結束の刃』
魔導ギアの圧倒的な防御と火力に追い詰められる不知火チーム。
個の力では通じない――求められるのは、仲間との連携。
燈也の指示のもと、一つの作戦に賭ける。
鋼鉄を砕くのは、魔法か――それとも、信じ合った者たちの“結束”か。




