第32想 第二の関門――魔法教師キララ!
前回までのあらすじ
魔法嫌いな元・学園最強――不知火燈也。魔法執行部に渋々加入した彼は、幽霊調査の任務で未練を抱えた少女・ななと出会う。
彼女の願いを叶えるため、燈也は仲間たちと共に“バンド”を結成し、ライブという挑戦に踏み出す。
衝突、挫折、そして失われていく記憶――それでも想いは消えず、歌は奇跡を起こした。
次に待ち受けるのは、学園最大の試練――魔法試験。
第一の試練を突破した主人公に次なる試練が迫る!!
「あら、もう来ちゃいましたか?」
柔らかく、それでいて少し控えめな声が洞窟内に響いた。
奥から現れたのは、小柄で華奢な体躯の女性だった。淡い色合いのローブに身を包み、腕には教師を示す腕章が輝いている。背丈だけを見れば、生徒と言われても違和感がない。
「ようこそ。私達は魔法教師のキララ・ラズベリーと申します」
ぺこり、と丁寧に頭を下げるその仕草は、どこか初々しい。
だが、その立ち振る舞いには教師としての品がある。
「……見かけない顔だが……」
(一人なのに私達…?変わった人物だな)
燈也は腕を組み、記憶を探るように眉をひそめる。
これまでの試練担当教師とは、雰囲気が明らかに違う。
「そりゃそうだろ。今年入った新人教師だからな」
と、郷夜が自慢げに説明する。
「それにしても噂に違わず……なんと愛らしいんだ~」
言い終える頃には、すっかり鼻の下が伸びきっていた。
「あっ……あ、愛らしい……ですか?」
不意を突かれたように、キララの頬がみるみる赤く染まる。視線を泳がせ、指先をきゅっと握る様子は、やはり生徒のようにも見えた。
「全く、油断しないの。郷夜」
流水がぴしりと言葉を飛ばす。
「次の試練も甘くないわよ」
「へいへい……」
そのやり取りを遮るように――
洞窟のどこからともなく、放送音が響き渡った。
『その通り! 第二の試練は、我らが担任!
キララ・ラズベリー先生が誇る自慢のトラップが満載だ!』
実況・十文字吉良の声が反響し、岩肌に跳ね返る。
『キララ・ラズベリー先生は地質学に詳しく、鉱石系魔法を得意とされています。皆さん、足元にはくれぐれも注意して下さいね』
続けて、落ち着いた口調で解説の如月愛紗が補足する。
放送が途切れると、キララは少し照れくさそうに咳払いをした。
「えっと……それじゃあ、ルール説明をしますね」
そう言って、彼女は傍らに立てかけてあったホウキを手に取る。
装飾の少ない実用的なホウキだが、柄の部分には魔法陣が刻まれている。
「このホウキを使って、この奥にある黄金の鍵を手に入れてください」
洞窟のさらに奥――薄暗い通路の先で、金色に鈍く光る何かが一瞬だけ見えた気がした。
「途中には、私達が用意したトラップがあります。内容は……えっと……色々です」
控えめな口調とは裏腹に、明らかに一筋縄ではいかない。
「鍵を取れたら、第二の試練クリア。
……あ、怪我をしたら無理しないでくださいね」
そう言って、にこりと微笑むキララ。
その優しげな表情の裏に潜む“教師としての試験”の本気を、誰もが直感的に感じ取っていた。
「それなら、楽勝だぜ」
郷夜は胸を張り、親指で自分たちを指しながら豪語した。
「こっちはホウキの操縦に上手い不知火だっているんだしよ」
その言葉と同時に、全員の視線が自然と一人に集まる。
(俺かよ……)
燈也は内心でそう呟き、思わずこめかみを押さえた。
「はぁ……めんどくせーな」
深く息を吐き、気怠げに肩を落とす。
「まぁ試験だし、仕方ないけど」
そう言いながらも、すでに覚悟は決めている様子だった。
燈也はふと怜花の方を振り返り、少し声のトーンを落とす。
「怜花は、まだホウキに乗るのはキツイだろ?」
優しく、しかしはっきりと言う。
「ここで待っててくれ」
指先で地面を示し、無理をさせないよう配慮する。
「で……でも……」
怜花は唇を噛み、心配そうに仲間たちを見る。
自分だけ置いていかれることへの不安と、役に立てない悔しさが混じっていた。
「大丈夫よ」
その空気を和らげるように、流水が一歩前に出て笑顔を向ける。
「私達に任せて」
自信に満ちたその言葉に、怜花の表情が少しだけ和らぐ。
「……分かりました」
小さく頷き、
「気を付けて下さいね」
そう言って、ぎゅっと拳を握った。
――と、その時。
「あの、出来ればオレ様もここで待っていたいな」
郷夜が何食わぬ顔で手を挙げる。
どう見ても便乗である。明らかにサボりたいだけだ。
「先に言い出したのはアンタでしょ!」
流水が即座に睨みを利かせる。
「さっさと来なさい!」
有無を言わせぬ一喝。
「ひえっ……」
郷夜は肩をすくめ、
「分かったよ……」
と、しぶしぶホウキを手に取った。
「よし、行くぞ」
燈也の号令とともに、メンバーはそれぞれホウキに跨ると、ふわりと身体が宙へ持ち上がった。
「行くぞ!」
短く声を掛け合いながら、指定された通路へと進んでいく。
洞窟の奥へ、四本のホウキが滑るように消えていった。
その後ろ姿を見送りながら――
「アハハハ」
キララは楽しそうに笑い、
「頑張って下さいね~!」
元気いっぱいに手を振る。
その笑顔の奥には、これから待ち受ける本格的なトラップへの自信が、しっかりと宿っていた。
「そろそろ奥だが……」
燈也の声が、洞窟の壁に反響する。
一行は慎重にホウキを進め、岩肌が次第に開けていくのを感じていた。
次の瞬間――
「見て。あの、たくさん飛んでるのって……まさか……」
流水が息を呑み、指を差す。
洞窟の最奥は、まるで巨大な空洞だった。
天井は高く、淡く光る鉱石が星のように埋め込まれている。その広い空間を埋め尽くすように、鳥の群れのような影が無数に舞っていた。
いや――違う。
羽ばたいているのではない。
金属音を微かに鳴らしながら、空を漂っている。
「あれは……」
「ああ、鍵だな……」
燈也が目を細める。
色とりどりの鍵。
銀、青、赤、緑、紫――大小さまざまな鍵が、まるで意思を持つかのように宙を飛び交っている。
「どうすんだよ……不知火~」
郷夜が思わず声を上げる。
想像以上の物量に、流石の余裕も揺らいでいた。
「確か鍵は“黄金”だって言ってたな」
燈也は周囲を一瞥し、すぐに判断する。
「しょうがない。手分けして探すぞ」
「分かったわ」
流水が即座に応じ、ホウキの向きを変える。
一行はそれぞれ散開し、飛び交う鍵の群れの中へと突っ込んでいった。
――しかし。
「ああ、もう……これも違うわ」
流水が掴んだ鍵を放り投げる。
金色に見えたそれは、光の反射で輝いていただけの真鍮製だった。
「こっちもダメだぜ」
郷夜も肩を落とし、空振りの手を振る。
鍵の数はあまりにも多い。
しかも動きは不規則で、近づくとすり抜けるように逃げていくものもある。
(これは……根気勝負だな)
燈也が歯を食いしばる。
その時――
「見て! あそこに……金色に光るのがいるわ!」
リエラが鋭く声を上げる。
視線の先。
鍵の群れの奥で、一つだけ明らかに違う輝きを放つ存在があった。
鈍くも重厚な黄金色。動きも他より素早く、逃げるように旋回している。
「よし、追い詰めるぞ!」
燈也の号令が飛ぶ。
「はい!」
「任せろ!!」
三人が一斉に動いた。
黄金鍵は逃げるように高度を上げるが――
『疾き風よ、オレ様に従え 紫に染まり、渦となれ』
≪疾風の紫旋風!!≫
郷夜がホウキの上で身をひねり、魔力を解き放つ。
爽やかな旋風が渦を巻き、周囲の鍵たちを一気に吹き飛ばした。
ガシャガシャと金属音を立て、邪魔な鍵が四方へ散っていく。
「よし! 邪魔なヤツは追っ払った! 不知火、チャンスだぜ!」
「分かってる」
燈也は静かに息を吸い――
「これで終わりだ!!」
≪補助魔法・加速強化≫
足元に魔法陣が走り、身体が一気に前へと引き出される。
「――取った!」
燈也の手が、逃げ切れなかった黄金鍵をしっかりと掴んだ。
「やりましたね!」
癒水がぱっと表情を明るくし、
「流石です、義兄さん」
柔らかな微笑みを向ける。
「まあな」
燈也は照れ隠しのように視線を逸らす。
「オレ様達にかかれば、楽勝だったな」
郷夜も腕を組み、満更でもなさそうに笑った。
「……それは、どうでしょうね。まだ終わりではありませんよ」
水晶玉で様子を見ていたキララは、楽しげに笑みを浮かべた。
次回予告 『第33想 晶界迷宮発動!――鍵を取ってからが本当の地獄でした』
鍵を手にし、第二の試練を突破した――
誰もが、そう思った。
だが、それは“序章”に過ぎなかった。
笑顔で見送るキララ先生。
その裏で静かに紡がれる、魔法の詠唱。
発動したのは、地形そのものを支配する迷宮魔法――
《晶界迷宮》
道は歪み、洞窟が侵入者を排除する逃げ場なき結晶の牢獄が牙を剥く。
第二試練の“本番”は、ここから。
果たして不知火チームは、無事に突破できるのか――?




