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Himeyuri~ヒメユリ~  作者: 小鳥遊 千夜


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第3想 三人の刺客

「――まだなの?燈也!!」


朝の澄んだ空気の中、自宅前に響くのは流水(るみ)の苛立ち混じりの声。

すでに身支度を整えた三人リエラ、流水、癒水(ゆみ)と違い、まだ出て来ない人物、不知火燈也(しらぬいともや)を呼び立てている。


「悪い!支度に手間取っちまった」


乱れた髪を手で整えながら玄関から飛び出してきた燈也に、流水はすかさず詰め寄る。


「まったくアンタってばいつもいつも遅いんだから」


腕を組み、ぷいっと横を向くその仕草は姉らしいと言うべきか、単なるお節介と言うべきか。


「まぁまぁ姉さん。今日はまだ時間も余裕あるんだし、それくらいにしてあげようよ」


姉とは対照的に穏やかな声で(いさ)めるのは妹の癒水だ。


「分かったわよ。癒水が言うなら、これぐらいにしておいてあげるわ。」


流水はしぶしぶ肩をすくめたがすぐに思い出したように話題を変える。


「――そういえば燈也。新しい委員会、もう決めた?」


「ああ、もうそんな時期か……俺はパスかな~。面倒くせぇし…そういうお前はどうするんだ?」


「アタシはもうクラス委員やってるから継続(けいぞく)よ。当然でしょ?」


胸を張る流水に、燈也は「だろうな」と内心で頷く。

視線は自然と癒水へと向いた。


「癒水は? なんかやるのか?」


「私ですか?……私は保健委員か魔法執行部をやろうかと思ってます」


癒水は何気ない声音(こわね)で言ったが、その一言に誰よりも敏感(びんかん)に反応したのは流水だった。


「えっ!執行部ッ!?」


大げさなほど驚いた姉の声に燈也が目を(まばた)かせる。


「なんだ?何かあるのか?」


驚きの理由が分からず、燈也は首をかしげる。


──魔法執行部

それは生徒間の魔法トラブルや争いを解決する“学園内の治安部隊”的な部活だ。


生徒が安心して過ごせる環境をつくる生徒会執行部、学校の規律を守る風紀委員会と並び、


学園の“三本柱”と称されるほど重要な役割を担っている。


特にこの学校は生徒数が多く、1〜2年生と3年生で校舎が分かれているため

3年生が所属する生徒会執行部が1〜2年生で構成される魔法執行部が担当している。

つまり魔法執行部とは事実上、1・2年生の学園全体をまとめているのだ。


「アンタ達知らないの?魔法執行部の連中は実力は確かだけど変わり者の変人集団だって噂よ!?」


流水はため息まじりに肩をすくめる。その言い方はまるで学校の七不思議でも語るかのようだ。


「変人集団?」


燈也が眉をひそめる。


「中でも今の魔法執行部の部長。あの人は桁違いよ。たった一人で複数の不良グループを壊滅(かいめつ)させたとか……

 魔法ランクもSランクに次ぐほどで、生徒会長にも匹敵する実力者らしいわよ!」


魔法ランク──

学生の力量は S、AA、A+、A、B+、B、C、D、E の9段階で格付けされている。5人しかいないS含めAA以上は数が少なく強力な力を持っている人物達だ。


「なるほどな……」


燈也は小さく息を吐く。


(おそらくAAクラスだと思うが、正直関わりたくない相手だ……。まぁ魔法執行部なんかに俺が関わることも無いだろうが……)


「分かった? だから癒水、そんな危ない所なんて入っちゃだめよ!」


姉らしい心配を込めて流水が念を押す。そして、燈也の方へ鋭い視線を向けた。


「アンタもよ。目を付けられたりしないように気を付けなさいよ」


「……わかってるよ」


軽く肩をすくめる燈也。


「ねぇ燈也くんあれって……」


 リエラが話題を変えるかのように前方を指さす。指さした先を見ると──

 そこには見慣れた金髪ライオンヘアーの男、燈也の悪友 ――風間郷夜(かざまごうや)の姿、

 そして隣には、明らか困惑している茶髪の女子生徒。


「あれは……風間か。何やってんだアイツ……」


 どう考えてもロクでもない。


「キミは運命って信じるかい?」


「あの……あなたは?」

 

 決め顔+決めポーズという“痛いコンボ”で女子に声をかける郷夜。その対照的に女子生徒は露骨(ろこつ)に眉をひそめて後ずさる。


「おっと……自己紹介がまだだったね。オレ様は風間郷夜。風の貴公子さ!」


「え、えっと……?」


「オレ様と愛の風に乗らないかい?」

 

 燈也は額を押さえる。“風の貴公子”とか“愛の風”とかよく恥ずかしげもなく言えるなコイツ。


「あの……私彼氏がいるので……そういうのは……」


「フッ……その程度の障害、オレ様の愛で押し通してやるぜ!!」

 

 断られたのに、なぜか勝利宣言みたいな返し。コイツがモテない理由が、もう銀河規模で理解できる。


「こっ……困ります!!」

 

 全力で抵抗をする女子生徒。


「さぁ安心して、オレ様の胸に飛び込んでおいでぇぇぇぇ!!」


 郷夜は両手を広げて突撃体勢。どこに目ついてんだ、このライオン。


「いやぁぁぁぁッ!!」


「やめんかぁぁぁー!!!このバカッー!!!!」


 ズドガァァァン!!!


 郷夜が飛び込むより早く、流水の華麗(かれい)な前蹴りが郷夜の顔面を直撃した。


「ぐへぇッーーーー!!」


  そのまま郷夜は綺麗な放物線を描き朝空へと飛んでいく。


「あー。今日もすげー飛んでんなぁー……」


  燈也は慣れきった様子で空を眺める。うん、太陽がまぶしい。

  バシン、と地面に落下した風間へ歩み寄り──


「……大丈夫か?」


  倒れたライオンヘアーは、うっすら笑みを浮かべて親指を立てた。そのままパタリと沈黙(ちんもく)


「……よし。今日も平和だな」

  

  燈也はため息をつきつつ、いつも通りの朝を受け入れるのだった。




 クラスメイト達に軽く挨拶をし、自分の席に腰を下ろした瞬間──


「さぁ!今日も美少女達について熱く語り合おうじゃないか、不知火!」

  

  さっそく元気な声が飛んでくる。

  ……さっき上空まで吹っ飛ばされたばかりなのに、もう復活している辺り本当にタフだ。


「だめよ。燈也くんにバカがうつるじゃない」


  リエラがピシャリと切り捨てる。確かに郷夜がバカなのは揺るがない事実だが……


「バカとは心外だなぁ~リエラちゃん。もしかして不知火と仲が良いオレ様に嫉妬(しっと)してるかい?」


  にやり、と挑発的に笑う郷夜。……嫉妬なんてリエラがするわけないと思っていたが…


「ち……違うわよ!!!」


  頬を赤くしながら立ち上がるリエラ。あっ、これ完全にキレたパターンだ。


≪幻想の聖鎚~ミラージュ・ハンマー!!≫


  リエラが魔導書を開くと、空間が揺れ巨大な光の大槌が出現。その大槌は一瞬で標的へ振り下ろされた。ドゴォォォォオン!!!


「ぐへぇ!!!」


  盛大にハンマーを食らい机ごと吹っ飛ぶ郷夜。……朝からうるさいな、ほんと。


「本当に懲りないな……」


  燈也は小さくため息をつく。だが次の瞬間、瓦礫(がれき)(机)から郷夜がムクリと起き上がった。


「へへ……こんなのオレ様にはスキンシップみたいなもんさ」

  

  あの威力を“スキンシップ”で片づけるのは人としてどうなんだ


「ある意味すげーよ……お前」

  

  あれだけの攻撃を食らい直ぐに立ち上がる根性は凄い。まぁ同時に少しは()りろよと思う所であるが……。


「そういや、女の子っていえば……昨日ななみとかいうちょっと変わった子に会ったんだが風間は何か知ってるか?」


  その一言に、郷夜の目がギラッと光った。


「なにぃぃぃーーッ!!!」

  

  机が揺れるほどの勢いで立ち上がる。


「ななみと言ったら“学園のアイドル”じゃねぇか!?知らねぇのかよ不知火!?」


「……え、そうなのか?」


「ちょっとどういう経緯(けいい)なの?」

  

 リエラまで前のめりで質問してきた。普段はクールなくせにこういう時だけ妙に食いつく。


「ああ……帰り道にな。まあ少し厄介に巻き込まれててそれを助けただけだ」


燈也は昨日の出来事を簡潔(かんけつ)に話した。


「……くそぉ~~!!」


郷夜は頭を抱えて教室の床を転がる。


(うらや)ましいにもほどがあるッ!!


 学園のアイドルと自然に出会ってしかも助けるなんて……お近づきイベントを素でクリアしやがって……!」


「そんな大した話じゃねえよ……」


燈也は苦笑するが、郷夜は胸ぐらを掴まんばかりに迫ってくる。


「いや大した話だろ!?あの子に声かけられたら男子百人は即落ちるレベルだぞ!?」


(……そこまでか?)


確かに柊ななみは可愛かったし、見た目も明るさも人懐っこさも印象的だったが……。


「そんなもんか?めちゃくちゃフレンドりーでアイドルって感じは全然しなかったけどな。まぁいきなり抱きつかれた時は驚いたが…」


「な……抱きつかれただとッ!? て、てめぇ……!!」


郷夜が椅子をひっくり返しながら叫び、


「な、な、な……抱きつかれた!? ……この変態っ!! 浮気者っ!!!」


リエラは顔を真っ赤にして大爆発した。


「いやお前ら何言ってんだ!? そんなんじゃねえっての!!っていうか、なんでリエラが怒ってんだよ!?」


リエラの小さな拳が燈也の腕や肩をポカポカと叩く。痛くはない──物理的には全く。だが心には結構くる。


(何で怒られてんだ俺?……しかも“変態”って……変態は風間だけで十分だろ…)


そんな燈也の心の叫びを無視するように


「ふっ……乙女心は複雑なのさ。」


郷夜が腕を組み、どこか悟ったように頷いた。


「お前が言うなぁぁぁぁ!!!」


燈也は叫ばずにはいられなかった。このドヤ顔が実にムカつく。


「でさ、不知火よ……」


雑談のテンションで郷夜が近づいてくる。


「それで……どうだったんだよ?」


「どうって……何がだ?」


「惚けんなって。抱きつかれたんだろ?」


郷夜はやけに低い声で(ささや)き、口角をいやらしく吊り上げる。


「……だから何がだよ?」


「そりゃあ……感触とか……匂いとか……ぐへへへへ……」


「お前……」


燈也は呆れたというより、もはや軽く引いていた。


(さすが本物の変態……発想の次元が違う……)


「ほう……吾輩(わがはい)の授業だと言うのに何やら楽しそうな話をしておるな?吾輩にも聞かせてもうおうか?」


背筋をなぞるような低い声が、教室の後方から響いた。


次の瞬間、その場にいた全員の空気がピシッと凍りつく。

どうやら風間は気づいていなかったらしい。始業のチャイムがとっくに鳴っていたことにも、そして黒い気配が背後に立っていたことにも。


「ひっ……ひぇぇぇぇぇぇ。すいませんでしたああああああっっー!!!!」


全身を震わせながら、郷夜は悲鳴とともに椅子へダッシュで滑り込んだ。

まぁ、郷夜がビビるのも無理はない。


教壇(きょうだん)の前に立っているのは、黒ローブに黒スーツ、そして蛇のような細い目付き。この世の陰という陰を凝縮(ぎょうしゅく)させたような男の名は“ドライツェン・エクレール”。

青龍魔術学園でも名の知れたベテラン教師だ、ウェーブのかかった黒髪と、ちょび髭、何かを企んでいそうな薄い笑み。そしてランクは一流魔導士の証であるGS。

その高い実力と近寄りがたい雰囲気、さらに「〜である」口癖が相まって生徒からは恐れられ、嫌われ、遠巻きにされる存在である。


「……では今日は魔導士にとって基本中の基本である属性について話していくのである。しっかり理解するように。」


先ほどまで郷夜を威圧していた視線などなかったかのようにドライツェンは淡々と黒板へ向かい杖を走らせる。


「まず“基本属性”と呼ばれる七つ。火、水、風、土、雷、光、闇。

これは諸君らも知っておるな。これらには相性があり、有利にも不利にも作用するのである。」


黒板に杖で円と矢印が描かれていく。


火 → 風 → 土 → 雷 → 水 → 火

光 ⇄ 闇


「こ、これくらい俺でも知ってるぜ……」


郷夜が小声でぼやくが、もちろんドライツェンには届かない。届いたとしても無視されるだろう。


「相性は基本ではあるが絶対ではない。個々の力量差、魔法の応用、戦場の状況次第で(くつがえ)すことも可能である。

 また人には得意属性が一つ以上存在する、そこにいる風間なら風属性といったようにな。」


突然名前を出された郷夜はピクッと肩を揺らす。


「得意属性を極めるもよし、属性を増やして相性補完をするもよし、

あるいは魔法の幅を広げるもよし。選択肢は多岐(たき)にわたるのである。」


「さらに上には二つの属性を合わせたり、そこから派生した属性を扱う者も存在するがヒヨッコの諸君にまだ早い領域なので今回はそこまで説明せぬが……

覚えておくべきは、属性とは相性だけでなく、場所や環境でも強弱が変わるということだ。」


「環境……?」


誰かがつぶやく。


「その通り。魔法の源である“魔素(まそ)”の量は場所により大きく変化する。

魔素が多ければ魔法は強まり、逆に少なければ威力も落ちる。」


ドライツェンは杖を置き、ゆっくりと振り向く。


「よって、数ある魔法や属性を、“状況に応じて使いこなしてこそ”、一流の魔導士であるといえよう。」


蛇のような目で教室中の生徒をゆっくりと舐め回す。


「中には例外もいるがな……」


ドライツェンの意味ありげな視線が燈也の席でぴたりと止まった。


「……燈也くん、起きてってば……」


リエラはここ数分、机を揺らしたり、袖を引っ張ったりとあらゆる手段で起こそうと奮闘(ふんとう)していた。


「吾輩の授業中に居眠りとは……実に良い度胸であるな……」


ドライツェンが杖を持ち上げ軽くひと振り。

黒い霧のような魔力が集まり闇の蛇がスルリと生成された。


「――へ?」


次の瞬間、蛇が燈也の身体に巻きつく。


「うわあああああああッ!!?」


蛇の締め付けによる痛みに加え、寝起きの混乱が重なり、燈也は椅子ごと跳ね起きた。


「だから言ったのに……」


リエラは呆れつつも、妙に慣れた口調でため息をつく。


「やれやれ……まったく油断も隙もないのである。」


ドライツェンは満足げに腕を組み、蛇はそのまま燈也の肩にとぐろを巻いて監視役に収まった。

燈也は眠気など瞬時(しゅんじ)に吹き飛ばされ、蛇の冷たい視線を背中に感じながら、真面目に授業を受けざるを得なくなった。


「む……もうこんな時間か。」


壁の時計を確認したドライツェンが、杖をコツンと床に付く。


「今日の授業はここまでである。

復習しておかぬ者は、次回痛い目を見るであろう。」


蛇の目がギラリと光ったように見えて、燈也は、次回は絶対に寝ないと固く誓うのであった。




授業から解放され、燈也とリエラは中庭のベンチへ避難するようにやってきた。

春風が心地よく、陽ざしもぽかぽか。絶好の昼休み日和だ。


「はぁ~~~……やっと昼休みだぁ……」


燈也が背もたれにぐったりともたれかかる。

ドライツェンの蛇に締め上げられた肩がまだ微妙に痛い。


「よく言うわね。さっき思いっきり寝てたくせに」


リエラがジト目で(にら)んでくる。


「うるせーよ。そんなこと言うなら昼飯やらねーからな?」


「――っ!? ちょ、ちょっと! そういう(おど)しは卑怯(ひきょう)よ!!」


「冗談だっての。っておい! 弁当引っ張んな!!」


はた目にはどう見ても仲の良い痴話(ちわ)ゲンカ……にしか見えない。

もっとも、そんな微笑(ほほえ)ましい光景は長く続かなかった。


「……お前が、不知火だな?」


不意にかかった声に、二人はぴたりと動きを止めた。


 振り返ると、見知らぬ三人組が立っていた。


真ん中に立つ緑髪(りょくはつ)の少年が一歩前に出る。右には熊のように大柄な少年、左には小柄な白衣の少女。

 いずれもただ者ではない雰囲気を放っている。


「誰だ……お前ら?」


 燈也は自然と腰を浮かせ、視線を向ける。


「燈也くん、気を付けて!」


 リエラが思わず手を伸ばした。


「強い……はっきり分かるくらい強い魔力を感じるわ!」

  

 彼らは確実に普通の生徒ではない。

 昼の穏やかな空気が、一瞬にして緊張感へと変わる。



「俺は“工藤英明(くどうひであき)”……、魔法執行部副部長をしている」


 静かに名乗ったその男は、燈也と同じ二年生。ベスト型の制服の左腕には魔法執行部の腕章。

 深く沈むような暗緑(あんりょく)の髪に、鋭い眼光その(たたず)まいはまるで抜刀(ばっとう)前の侍のようで、(まと)う魔力も只者(ただもの)のそれではない。

 彼は学園でも数少ないAAランク所持者であり部長と肩を並べる実力者だ。


「同じく魔法執行部2年“日向雄介(ひゅうがゆうすけ)”。」


 英明の横に立つ大柄な男が名乗りを上げる。

 ワイルドに逆立つ茶髪、制服の上から羽織る“NANAMI”と書かれた半被(はっぴ)と左腕に魔法執行部の腕章、そして頭に巻かれた鉢巻(はちまき)

 温厚そうな糸目とアイドルオタクな雰囲気にもかかわらず、身に宿した魔力は重鎧(じゅうがい)の騎士を思わせるほど重厚だった。ランクはB+とはいえ、素の体格と魔力量は圧巻だ。


「えっと……魔法執行部1年“如月愛沙(きさらぎあいしゃ)”です」


 最後におずおずと名乗ったのは、まだ幼さの残る小柄な少女。

 長いオレンジのツインテールに、制服の上からぶかぶかの白衣が揺れ、巨大なアホ毛がぴょこんと揺れている。

 その外見の通り、彼女は飛び級で入学したIQ200の天才少女で、魔法ランクはB。


 三人の視線が一斉(いっせい)に燈也へ向けられる。


「我ら魔法執行部は、“お前を連れてこい”と命じられている。大人しく同行してもらおうか?」


「ちょ、ちょっと燈也くん!? 魔法執行部に呼ばれるなんて……な、何をしたのよ!」


「知るか! 俺だってさっぱり分かんねーよ!」


 リエラの疑いの視線が痛い。だが本当に身に覚えは一ミリもない。

 魔法執行部、それも部長に呼ばれるなんて、むしろ理由を教えてほしいくらいだ。

 燈也は深く息を吐き、三人に向き直る。


「それで、魔法執行部が俺に何の用だ? お前らに呼ばれる筋合いはないはずだぜ?」


「俺たちは“連れて来い”としか言われていない。詳しいことは——部長に自ら聞くんだな」


 英明の声は冷静だが、拒否を許さない強さを帯びていた。


「はぁ? ふざけんなよ。こっちは昼休みなんだよ! 用があるなら本人が来いってんだ!」


 理由も知らされず、初対面の三人組にいきなり連行されるなど、ごめんである。警戒(けいかい)するのは当然だ。


「話は終わりだ。行くぞ、リエラ」


 燈也はベンチから立ち上がり、リエラの手を取ってその場を離れようとした——。


「交渉決裂か……仕方ないな……」


 英明はため息ひとつすると、懐から札を取り出し低く重い声音で、彼は術式を紡ぐ。


(ひのと)の四 (とり)の十、五黄、、開け鬼門。魔導招来(まどうしょうらい) 鉄甲滅絶(てっこうめつぜつ)…』


道術 封縛(どうじゅつふうばく)の四十——禁札封陣(きんさつふうじん)


 その言葉と同時、足元から黒い鎖が()き上がるように伸び、札が風に舞うように周囲へ展開する。


「これは……結界か!?」


 一定範囲の空間が鎖と札に囲われ、ゆっくりと閉じていく。まるで巨大な(おり)に閉じ込めれたかのような圧迫感。

 一瞬でここまでの規模を展開できるとは相当の実力者であるのは間違いない。


(本気になれば突破はできる……だが、道術は解析(かいせき)に時間がかかる。それに——)


 ちらと視線を向けると、三人の気配は完全に“戦う”つもりのそれだった。


「くそ、こいつら……」


「手荒な事はしたくなったんだが……我々も仕事なのでな、力づくでも来てもらう」


「陣形は分かっているな?日向、如月」


「おう!」


「はい!」

  

 二人は力強く頷き、ライセンスを取り出した。

 即座に転送光(てんそうこう)が走り、それぞれの手に武器が実体化していく。

 

 雄介の手には、雷を纏った巨大な斧型の大剣“ライオットセイバー”。

 

 愛紗は宝石を先端に仕込んだ杖、精霊杖“スピリットエレメンツ”と、補助デバイスのグローブを装着。

 

 そして英明の手には、黒い(さや)に収められ鋭気(えいき)を放つ名刀“(かすみ)”。

 

 その場の空気濃度が一気に上がり、肌がびりびりと震える。


「……簡単には出してくれそうにないな」


 燈也は(なげ)くように呟く。三人の魔力の高鳴りが、否応(いやおう)なく伝わってきた。


「燈也くん、気を付けて!」


 リエラが背中にしがみつきそうな勢いで声を上げる。


「ああ、分かってる。……リエラ、お前は下がってろ」


「待って、一人じゃ危険よ! 私も——」


「いや。こいつらが何を企んでるのか分からない上に、おそらく強い。だから……」

  

 燈也が静かに振り返り、目だけで告げる。

 リエラは唇を()んだが——


「……分かったわ」

 

 しぶしぶ数歩後ろへ下がった。


 燈也はゆっくりと前へ歩き出し、結界中央で三人に向き合う。

 空気がまるで電流のように震えた。

 英明が刀の柄に手を添え、目を細める。


「話は終わったか……?」


 雄介はライオットセイバーを肩に担ぎ、愛紗は杖の宝石を輝かせる。

 三人が同時に戦闘態勢へ移行した。

 

「―――これより任務を執行する!!!」



次回 『第4想 VS魔法執行部』


 主人公・不知火燈也の前に立ちはだかるのは、《魔法執行部》から送り込まれた三人の刺客。


 突然の拘束命令。

 結界に閉じ込められ逃げ場のない危機的状況。

 そして——迫り来る凶悪な魔術の嵐!


 果たして燈也の運命は!?

 魔法執行部との激突、その行方は──!


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