第2想 いとこの義姉妹と愛すべき悪友
桜並木を駆け抜けると、視界が一気に開ける。
その先にそびえる巨大な建物こそ燈也たちが通う青龍学園がある。正式名称は “青龍魔術学園”。
四大魔法学校のひとつとして名を馳せる名門であり、いくつもの学校が合併した国内でも指折りのマンモス校だ。
その校舎は、近代的なガラス張りの外壁と、魔法設備が整っている。
自由と個性を重視しており、種族や家柄に問わず幅広い生徒が集められていて、
制服は紺に稲妻をイメージした黄色を基調としたブレザーが特徴。
走り疲れながら教室に辿り着く燈也。中ではクラスメイトたちが、朝のテンションそのままにワイワイと騒いでいる。
「はぁ~疲れた」
燈也は自分の席にぐったりと倒れ込み、机に額を押しつけた。
努力の甲斐もなく、今日も華麗なる遅刻である。
「よう、不知火~。今日も重役出勤だな」
後ろから聞き慣れた、ちょっと鬱陶しいぐらい明るい声。
振り返ると、制服の前を開けた黒のタンクトップ。金髪に黒メッシュのチャラさ全開男“風間郷夜”が立っていた。
クラスメイトであり俺の悪友、一言でまとめるならバカだ。
「風間か……何のようだ?」
燈也が面倒くさそうに顔を上げると、郷夜は胸を張り自信満々に言う。
「連れないな~。親友のオレ様が折角良い情報を持ってきたってのによ……」
訝しげに聞き返す。この男が「良い情報」と言って碌なことがあった試しはない……。
「良い情報?」
「ふふっ、聞いて驚け! なんと隣のクラスに銀髪ロングで氷みたいにクールな超絶美少女の転校生が来たらしいぜ!!」
(流石は女好きの風間だ……。どこからそんな情報を仕入れてくるのか……。)
「ってなわけで一緒にナンパしに行こうぜ。」
まあ、そんなことだろうと思った。これ以上なく風間らしい結論だ。
「……断る」
「ノリが悪いな~。それじゃあオレ様一人で楽しいデートと洒落込んでくるかな」
(こいつの自信はどこから湧いてくるんだ……?少なくとも俺はこいつがナンパ成功した瞬間なんて一度も見たことないんだが……)
燈也は心のツッコミを飲み込み、適当な相槌で流す。
「……頑張れよ」
「フッ……任せな!この“風の貴公子”と呼ばれるオレ様にかかればちょろいもんさ。」
なお——呼んでいるのは本人だけである。
「ああ……ぶん殴ってやりてぇ…」
「ん……?なんか言ったか?」
「なんでもねーよ」
燈也が郷夜の話に返していると——
「コラァァァァ!!燈也ァァァァ!!」
燈也でも郷夜でもない、怒りMAXの甲高い声が響き渡り、乱暴に教室のドアが蹴り破られる。
「あんた、また遅刻したわねぇぇぇ!!!」
「ゲッ!?るっ……流水姉ッ!」
その怒号を聞いた瞬間、燈也の背筋が凍りついた。
教室の入口に立つ少女“漣流水”。その姿を認識した途端、燈也の顔色はみるみる青ざめていく。
燈也と同じ高校2年生。燈也のいとこであり、出張続きの両親に代わって漣家を取り仕切る“実質的な姉貴分”。
海のように澄んだ青髪は片側だけインテークヘアにまとめられた長髪で、揺れるイルカのアクセサリーがトレードマーク。強気で負けず嫌い、加えて格闘技もやっているため、燈也は頭が上がらないのだ。
「今日という日は許さないわよ!」
流水が燈也の首元ををガシッとつかむ。
「いや……今日は色々あったんだよ」
「そんな言い訳が通用するわけないでしょうが!!」
締め付けが徐々に強くなる。ヤバい。リアルで呼吸が……視界が……暗く……。
「お~!夫婦喧嘩とは……相変わらず熱々だな、お二人さん」
この修羅場にも関わらず郷夜は呑気に茶々を入れてくる。
「なっ!!!そんなんじゃないわよ。誰がこんなヤツと!!」
「またまた照れちゃって……。どうせ家でもイチャイチャしてんだろ?」
真っ赤な顔で慌てて否定する流水をニヤニヤと笑いながら茶化す郷夜。
やめてくれ…それ全部俺に来るんだから……。と内心思う燈也だが言えるほどの余裕はない。
燈也の願い虚しく、郷夜はさらに踏み込む。
「もしかして、今日遅れたのも夜に二人で色々やってたからだったりして……」
「なななっ……!!!!んなわけあるかぁぁああああああ!!!!」
流水の怒りが臨界突破した。
次の瞬間、彼女の足元で水が渦を巻くように立ち上がり、螺旋状に脚へまとわりつく。
魔力で水を硬化させた、流水お得意の蹴り技だ。
「ぐへぇえええええ!!!」
郷夜は渦巻く水流に弾き飛ばされ、美しい放物線を描いて吹っ飛び、床へ豪快に落下する。
「わわわわっ!お姉ちゃん!暴力はダメだよ~」
騒ぎを聞きつけ、隣のクラスから現れた少女“漣癒水”。
姉の流水とは顔立ちがよく似ているが、柔らかいタレ目が印象的で、肩までのセミロングの髪には波を模したリボンをあしらっている。
控えめ、穏やか、そして回復魔法が得意という、姉とは真逆の性格。燈他を“義兄さん”と呼び慕っている。
「大丈夫よ。まだ息もあるしちゃんと手加減してるから。……多分」
「そういうことじゃないんだけど……えっ?多分!?」
癒水がノックアウトされている郷夜に心配そうに駆け寄る。
「あ、あの…風間さん?……大丈夫ですか?」
「ハハハ!全然平気さ。心配してくれてありがとう癒水ちゃん。キミの優しさはまさにナイチンゲールのようだ。」
癒水の顔を見ると郷夜は瞬時に復活し、勢いよく彼女の手を握り、瞳をギラリと光らせる。
「ああ、麗しき白衣の天使よ。オレ様だけの天使になってくれないか?」
「あの……」
癒水は完全に困惑。
だが当然、この光景を流水が見逃すわけもない。
ズズンッ……と空気そのものが重くなる。
流水の髪が魔力を帯びてうねり、広がり、その姿はまるで深海で目覚めた海の怪物。
「かぁ・ざぁ・まぁぁ?アタシの前で妹を口説くなんて良い度胸してるじゃない?」
「ひぃぃぃ!!」
「まぁまぁ、お姉ちゃん。押さえて!押さえて!」
土下座する郷夜の横で、癒水は必死に姉をなだめる。
だが一度キレた流水の怒りは、嵐のように凄まじく、簡単には収まらない。
(やばい…完全にスイッチ入ってる……!)
怒りの矛先は郷夜に向いている。
ならば——ここから導き出される結論はただひとつ。
三十六計、逃げるに如かず!
郷夜が囮になっている今こそ、脱出の最大のチャンスだ。
「よし……今のうちに」
燈也はそっと席を離れ、気配を殺すこともなく全力で教室から走り出した。
その直後。
「うぎゃあああぁぁーーーーーー!!」
郷夜の断末魔が廊下まで響き渡った。
「風間…お前の犠牲は無駄にはしないぜ」
燈也は心の中で敬礼すると、そっと教室から距離を取った。
次回予告 『第3想 星空に夢を重ねて』
屋上で時間を潰すことにした主人公はそこで、朝出会った少女と再会する。
星の似合う少女の名前は加ヶ瀬怜花――主人公が幼少期に遊んだ少女であった。




