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Himeyuri ―魔法嫌いの元学園最強と、幼馴染の約束から始まる魔法学園譚ー  作者: 小鳥遊 千夜
第一章 幽霊少女編

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第26想 海鳴りのディソナンス

 

 図書館に入ると、空気がひんやりと変わった。

 大きなステンドグラスから差し込む光が床に七色の模様を描いている。

 背の高い本棚が並び落ち着いた雰囲気で溢れている。


「……広いな。」


 つい()れる燈也の声。


「燈也さん、何か見つかりました?」

 少し先の棚で怜花が振り返る。

 

「いや……全然ダメだな。ななの方はどうだ?」


「こっちもないのだ〜……」


 ななは大きな本に埋もれながら、両腕をばたばたさせている。


 燈也、怜花、ななの三人が資料を探していると――

 ふわり、と香のような気配が近づく。


「ほう? 珍しく勉強熱心じゃの?」


 柔らかい声とともに現れたのは、金の狐耳と四本の尻尾を揺らす天狐――神奈(かんな)

 魔法主任と図書館の管理者でもあり学園一の知識を持っている。

 黒地(くろじ)稲穂模様(いなほもよう)の和服が似合いすぎており、年齢不詳(ねんれいふしょう)の落ち着いた眼が印象的だ。


「神奈先生か…最近起きた事件とか、心霊関係が載ってる本はあるか?」


 燈也が訊ねると、神奈は細い目をさらに細め、楽しげに頷く。


「ふむ、それなら向こうの棚に記事のスクラップや魔導書があるはずじゃ。

 オカルト関連も、その辺りにまとめてあるぞ」


「そうか、助かる。ありがとうよ」


 礼を言う燈也に、神奈はたっぷりとした尻尾を揺らしながら続けた。


「しかし、何故そんなものを調べておるのじゃ?」


「……別にいいだろ、そのくらい」


「まぁ、確かに。言いたくなければ詳しくは聞かぬが…」


 そこで神奈はふと眉を上げた。自分の尻尾を触っている小さな手に気づいたのだ。


「――おや? 何をしておるのじゃ?」


「わ、わわっ……ごめんなさいなのだ!」


 慌てて手を離す少女。小柄で、見慣れぬ顔だ。


「別に構わぬよ…。」

 神奈はクスクスと笑ったあと、少女を見つめる。

「しかしおぬし、見かけぬ顔じゃな。そなたの名は?」


 人見知り気味に、少女は小さく名乗った。


「なな……です、なのだ」


「カカカッ! 良い名じゃ」

 神奈は愉快そうに喉を鳴らす。


「わっちは神奈。魔法主任で、歴史を教えておる。

 大体はこの図書館におるゆえ、困ったことがあれば声をかけると良い。」


「ありがとうなのだ」


 ぺこりと頭を下げるなな。その仕草を見て、神奈は興味深そうに目を細める。


(ふむ……なるほど。なかなか面白そうな子じゃの)


 四本の金尾がざわりと揺れ、神奈はどこか(たの)しげに二人を見守った。



 図書館を出た瞬間、三人の口から同時にため息がこぼれた。


「はぁ……結局、特に何も見つからなかったな……」


 燈也が背伸びをしながらぼやく。怜花も肩を落とし、


「困りましたね。知っている生徒もいませんでしたし……」


 と控えめにため息をついた。


 燈也は横を歩くななをちらりと見る。


「なぁ、何か覚えてることとかはないのか?」


 ななは少し考え込むと、ぽつりと答えた。


「家の場所なら……覚えてるのだ」


「マジかよ! 早く言えって! 場所はどこなんだ?」


 急に声が大きくなった燈也に、ななは遠慮がちに指をさす。


「この先の……海鳴り公園を下った先、なのだ……」


「だったら学校終わってから行ってみようぜ。何か分かるかもしれないからな」


 しかし、ななはそこで立ち止まり、小さく首を振った。


「ななは……遠慮しておくのだ」


 歯切れが悪く、どこか怯えたような声音だった。


「どうしてだよ?」


「帰れないのだ……」


 俯いたまま、ななはさらに小さく呟く。


「帰っても……意味がないのだ……」


 その言葉を残したまま、ななはくるりと背を向け、駆け出してしまった。


「お、おい! ……ったく、行っちまった」


 燈也は少し呆れ、少し気にしたような顔でため息をつく。


「ななちゃん……」


 怜花は心配そうにその背中を見送った。


「変なヤツだな……。しょうがねぇ、俺たちだけで行くか」


「……そうですね」


 怜花はまだ気にかけながらも頷いた。


 ――放課後。


 二人は、ななが言っていた海鳴り公園へ向かって歩いていた。


「ヤレヤレ……最初から位置だけでも聞いておけばよかったぜ」

 燈也がぼそりとこぼすと、怜花は落ち着かない様子で指先をもじもじさせる。


「本当に……私たちだけで良かったのでしょうか? やっぱり、まずかったんじゃ……」


「考えすぎだって。きっと親と喧嘩でもして、帰りづらいとかだろ。良くあることさ」

 燈也は軽く笑ってみせる。


「それに、他に手がかりがないんだ。行くしかないだろ?」


「それは……そうですけど……」

 怜花の不安は完全には晴れないままだった。


 やがて、目の前に広がる海鳴り公園の入口が見えてくる。

 潮風が緩やかに吹き、遠くで波の音が響いていた。


「おっ、海鳴り公園だ。ななが“この先を下った所”って言ってたな。さっさと行こうぜ」


 二人は住宅街の細い道を下り、目的の場所へ向かう。


 だが、辿り着いた先を見た瞬間——怜花が足を止めた。


「あれ……? 空き地……?」


 広がっていたのは、ぽっかりと空いた更地。

 雑草が風に揺れ、古い地面の跡がむき出しになっている。


「……場所はここだよな?」


「変ですね……道を間違ってしまったのでしょうか……?」


 二人が戸惑っていると、不意に後ろから声が飛んできた。


「あら? あんた達、柊さんの知り合いかい?」

 振り向くと、買い物袋を下げた近所のおばさんが立っていた。


 燈也と怜花は顔を見合わせる。


「残念だけど、もういないよ。引っ越しちまったからね」


「引っ越した……?」


 怜花が一歩前に出る。


「あの……詳しく教えて頂けませんか?」


「ああ、いいよ。引っ越したのは半年ぐらい前だったかしらねぇ」


 おばさんは袋の持ち手を持ち直しながら、ため息混じりに言った。


「なんでも、事故で夫と次女を亡くしてしまったみたいでね。それはもう、大変な騒ぎだったのよ」


 怜花の顔から血の気が引いていく。


「丁度あんた達くらいの、元気で可愛い子だったんだけど……本当に残念だわ」


「え……次女……?」


「その事故のショックで、残された奥さんと娘さんも入院してしまったらしいのよ。

 それで病院の近くに引っ越したってわけ」


 そう話し終えると、おばさんは「気をつけて帰るんだよ」とだけ言って去っていった。


 二人だけが、空き地の真ん中に取り残される。


 怜花が震える声で呟く。


「そんな……まさか……」


 燈也は拳を握りしめ、喉に引っかかった息を必死に押し出した。


 ——どういうことだ?

 まさか……いや、そんなはずがあるわけ——


 胸の奥に、嫌な予感がじわりと広がっていく。


 吹き抜けた風が、空き地の雑草を揺らした。





次回 『第27想 応援の前奏曲』


なながこの世に留まっていた理由――

それは「姉と仲直り」という、たったひとつの未練だった。


その想いを知った燈也は決意する。

彼女の夢を叶えるため、バンドをやろう、と。

歌なら素直になれない彼女でも伝えれると思った。


こうして燈也たちは、未来へ向かうための第一歩――

メンバー集めを始めることになる。


交差する想い、集まっていく仲間たち。

音楽が繋ぐ、新たな物語が今、動き出す――。




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