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Himeyuri ―魔法嫌いの元学園最強と、幼馴染の約束から始まる魔法学園譚ー  作者: 小鳥遊 千夜
第一章 幽霊少女編

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第26想 奇跡の魔法 永遠の終楽章

前回までのあらすじ


幽霊少女・ななの願いを叶えるため、不知火燈也たちはバンドを結成した。

ひたむきに練習を重ね、少しずつ仲間や協力者も増え、ライブ本番は目前に迫っていた。


しかしその裏で、異変が起こり始める。

周囲の人々から、ななの存在と記憶が少しずつ消えていく。


そして迫るライブ当日。果たしてライブは成功するのか?

 

 裏口からライブ会場へと入る燈也(ともや)達。

 目の前には、(あふ)れんばかりの観客席――満席の会場が広がっていた。熱気と期待が渦巻(うずま)き、空気がほんのり震えている。


「ねぇ、燈也くん、あれ見て」

 リエラが小さな声で指を差す。


 その視線の先には、魔法執行部や風紀委員、そして熱心なファンクラブのメンバーたち――(さざなみ)家の両親の姿まであった。


「あいつら…来てくれたんだな。それに…」

 燈也の目が一瞬で柔らかくなる。


 最前列に座っているのは、ななの姉、(ひいらぎ)ななみの姿だった。

「ななみも…」

 その姿を見た瞬間、胸の奥がぎゅっと熱く締め付けられる。


「皆、準備はいいか?」

 燈也がメンバーたちに向き直る。背中には、ななの想いと自分たちの誓いを背負って立っているという覚悟がにじむ。


「おう。いつでも!」

「はい!」

「アタシ達で最高のライブにしましょ!」

 メンバー全員の声が力強く重なり、まるでひとつの鼓動(こどう)のように会場に響く。


「よし、行くぞ!」

 皆で手を合わせる。その瞬間、ステージへ向かう足取りに迷いはない。

 ボーカルのいない穴も、今は存在を感じさせないほど、メンバー一人ひとりが気持ちを注ぎ込んでいた。


「やっと始まるみたいだな」

 ステージ(そで)で見守る魔法執行部の副部長――英明(ひであき)が、静かに呟く。


「全く、心配させるんだから…」

 部長の帝亜(ていあ)も少し安堵した様子で、ステージの上の燈也達を見つめる。

 その瞳には、期待と信頼が入り混じった温かい光が宿っていた。



「……まず会場に集まってくれた皆、本当にありがとう!」

 燈也がマイクを握り、満席の観客を見渡す。熱気でざわめく会場の中、彼の声はまっすぐに届いていく。


「今日は最後まで楽しんでいってくれ!」

 その声に、観客の手拍子が自然と重なり、会場全体が一体となる。


「さて…ライブをする前に、皆に伝えたいことがある。」

 燈也の声に、観客のざわめきが静まる。


「気付いてるヤツもいるかもしれないが、本当はもう一人、ここにいるはずだったメンバーがいたんだ…」

 言葉を聞いた瞬間、会場の空気がひんやりと張り詰める。


「俺達はそいつの願いを叶えるために、ここにいる」

 燈也は深く頭を下げる。胸の奥には、ななの想いを背負う覚悟が熱く燃えていた。


「皆の力も貸して欲しい…!」

 その声に、観客の熱気が爆発するように沸き立つ。


「うおおお!もちろんだ!」

 親衛隊(ファンクラブ)隊長の雄介(ゆうすけ)が後ろから大声で応援する。拳を突き上げるその姿に、周囲の隊員たちも呼応する。


「盛り上げは俺達親衛隊に任せろ!!」

「お前らペンライトはしっかり持ったな?」

「イエス!隊長!」

 会場の一体感は、文字通り光と熱に包まれるようだ。


「俺ら風紀委員も負けてられないぜ!」

 風紀委員たちも拳を振り上げ、笑顔でその場を盛り上げる。


「ふふふっ…今日だけははしゃぐのも許そう」

 風紀委員長・白金凛(しろがねりん)も微笑みながら、皆の高揚(こうよう)した様子を満足そうに見守る。


 燈也は深呼吸を一つして、再びマイクに口を寄せた。

「…ありがとう。それじゃあ、聞いてくれ」


 観客たちはペンライトを高く掲げ、光の波が会場を満たす。


『虹のグランツ』――

 会場に流れだした音色と共に、ななみがそっと呟く。

「この曲は…」


 観客が振るペンライトの光が一斉に煌めき、会場全体が虹色の輝きで満たされる。

 光の粒が空気に溶け込み、まるで星々が舞い降りたかのように幻想的だ。


 燈也の胸の奥にも、ななの笑顔が浮かぶ。

 その想いを背負い、仲間たちと共に奏でる――今、この瞬間こそが、夢の最後の一歩なのだと





 ***


 理事長室の机の上に置かれた水晶球が淡く光り、その中で映像がくっきりと映し出される。


「これはまさか…」

 魔法教師のドライツェンが思わず声を漏らした。普段は冷静沈着、感情を表に出さない彼の口から、この言葉が出るほど、映像の内容は衝撃的だった。


 理事長は、微笑を浮かべながら横に立つドライツェンに視線を向ける。

「おや、これ程の結果を得られるとは…若さとは素晴らしいですね。そう思いませんか、ドライツェン先生」


 理事長の声には、単なる驚き以上の温かみと誇りが込められていた。若き力が、予想以上の奇跡を見せたことへの称賛である。


 ドライツェンは一瞬映像を見つめた後、口元に僅かな笑みを浮かべる。

「…さようですな」

 普段は厳格な表情を崩すことのない彼が、この一瞬だけは柔らかい人間味を見せる。


(ふん、あの小娘が…大したものである)

 心の中でそう呟くドライツェンの瞳は、ほんの少し光を帯びていた。普段の冷徹さの裏に、確かな感嘆(かんたん)尊敬(そんけい)の念が(にじ)んでいるのを、理事長はきっと感じ取っているだろう。


 水晶に映る映像の中、燈也たちが躍動(やくどう)する。

 その光景は、理事長室の静寂(せいじゃく)を熱気で満たすかのようだった。


 理事長はゆっくりと頷き、優雅な手つきで水晶を指す。

「若者たちの力、それこそがこの学院の未来を切り開くのです」


 ドライツェンも、静かに同意を返す。




 ***


「なな!?」

 メンバーの声が一斉に上がった。驚きと喜びが入り混じった、まるで時間が一瞬止まったかのような瞬間だった。


 ――光の中から現れたななの姿は、まるで天使のように輝いていた――

 桃色の髪は光を反射し、まばゆいオーラをまとって空間に溶け込むように浮かんでいる。その瞳には、これまでの悲しみも孤独もすべてを乗り越えた強さと優しさが宿っていた。


「ななっ!」

 ななの存在に、ななみの驚きと喜びが一気に溢れ出す。


「お姉ちゃん…」

 涙で視界が少し(にじ)むななが、震える声で呼びかけた。


「ごめんなのだ。」

 ななの言葉に、胸が締め付けられるような切なさと安堵が混ざる。


「ううん。私の方こそずっと謝りたかった。ごめん。」

 ななみもまた、涙をこぼしながらななに抱き着く。二人の間にあった時間の空白が、抱擁(ほうよう)と涙で一気に埋まっていくかのようだった。


「…良かったな、なな」

 燈也はステージの上から、静かにしかし力強く呟く。喜びと安堵が混ざったその声には、仲間としての誇りと感情が込められていた。


 ――その瞬間、ステージに光が差し込み、会場全体が暖かい感情に包まれた――


「見えてるかい?あんた」

 観客席で感極(かんきわ)まって涙を浮かべる漣清水(さざなみきよみ)が、隣の水月(すいげつ)に声をかける。


「ああ、良く頑張ったな、燈也、なな。」

 水月の瞳は、ステージの上の二人を見つめながら、父親としての優しさと誇りで満たされていた。


 暖かい光と、観客の歓声。





「ふふふっ…なるほど。蘇生魔法の代わりに、一時的に実体化させる魔法とはね。それも、ひとりでは到底足りない魔力を、ペンライトを通して観客から少しずつ集めるとは…」

 会場入り口の陰に立ち舞台を見ているセレナは、楽しげに微笑みながら語る。


「――あのペンライトが、あの子があなたに頼んで作らせたものですか?」

 セレナの声には、好奇心だけでなく、どこか懐かしさにも似た温かみが含まれていた。


 神奈は少し笑みを浮かべ、静かに答える。

「なに、わっちはほんの少し手助けをしただけじゃ。これは皆の絆が紡いだ魔法じゃよ」

 彼女の声には柔らかく、誰かの物語を見守る母のような落ち着きがあった。


「……そうかもしれませんね」

 セレナも微笑む。目の奥に、満足と感動の色が灯る。その笑みは、奇跡の一端を見届けた者の特権のようだった。


「あなた達の夢、観させてもらったわよ」

 セレナの言葉は、柔らかくも確かに響く祝福の声だった。

 空気に漂う歓声や光の渦、ペンライトのきらめき、そして仲間たちの笑顔――そのすべてが、奇跡の瞬間として刻まれていることを、セレナは静かに認めていた。


 会場の熱気と光の中で、燈也たちの夢は、確かに“ここにある”と証明されていた。




 ***


「皆、待たせたのだ。」

 眩しい光の中、なながステージにふわりと姿を現す。髪は光を受けて煌めき、笑顔は太陽のように温かい。


「おかえり…ななちゃん」

 怜花(れいか)が目を細め、自然と笑みが(こぼ)れる。その声には安心と喜びが滲んでいた。


「全く、待たせすぎだぜ!」

 郷夜(ごうや)が明るく声を張る。緊張も不安も吹き飛んだかのように、彼の声が会場に響く。


「ふふっボーカルが居なきゃバンドは盛り上がらないですからね。」

 癒水(ゆみ)が穏やかな笑みを浮かべる。


「これでメンバーが揃ったわね。」

 流水(るみ)も満面の笑みを浮かべ、肩の力を抜いたように言った。


 リエラもまた音響室で皆の様子を柔らかな笑みで観ている。


「それじゃあ改めていくぞ!『虹のグランツ』」

 燈也の掛け声と同時に、観客席から一斉にペンライトが光を放ち、会場は虹色に染まる。


 ――音楽が鳴り出すと同時に、会場の空気が一変した。





 マジ マジカル(マジマジカル) 夢を叶える素敵な魔法

 マジ マジカル(マジマジカル) 想いを込めて唱えよう





 歌声は、彼らの希望と願いを乗せ、観客の心を震わせる。





 ドリームロード 夢を見るのに、理由なんていらないよね

 まだ諦めるなんて もったいない 必要なのは君の勇気だけ


 出来ない事なんて、この世には無いから

 夢の欠片を抱いて 駆け出しそう マジカルハート


 シャイニングロード 時には上手くいかない事だってあるけど、

 君が信じれば夢は終わらないよ

 信じ続ける先には輝く未来が待っているはずさ だから




 マジ マジカル(マジマジカル) 挫けそうな時は唱えよう

 マジ マジカル(マジマジカル) 夢を叶える素敵な魔法



 観客の声援とペンライトの光が一つになり、ステージはまるで星空のように輝く。


「皆聞いてくれてありがとうなのだ」

 ななが深く頭を下げると、会場から歓声と拍手が渦のように湧き上がる。


「燈也達もありがとうなのだ。ななだけだったら何も出来なかった。皆がいたからここまで来れたのだ。」

 なながメンバーの方に微笑み返す。笑顔は嬉しさと誇りで輝いていた。


「お姉ちゃんとも仲直り出来た、バンドも友達も出来た…」

 ななの声は喜びに満ちている。


「もう思い残すことはないのだ…」


「なな…」

 燈也が小さく呟く。目の前の彼女は、もう未練も悔いもなく、心から笑っている――だから、別れの時が近いことを誰もが感じていた。


「……そろそろ行かなきゃなのだ」



 ななは小さく呟き、胸の奥にわずかな寂しさを抱えながらも、穏やかな笑みを浮かべる。その瞳は希望と感謝で光っていた。

 ――この魔法は永遠ではない。別れの時が、確実に近づいていた。


「ななちゃん…」

 怜花は思わず息を飲み、涙が(ほほ)(つた)う。指先を握りしめ、消えゆく彼女を必死に目で追う。


 その瞬間――


「アンコール!アンコール!」

 雄介の声が会場の静寂を切り裂くように響き渡った。観客のざわめきが一瞬でひとつの波となり、会場全体を揺るがす。


「日向くん…」

 同じく親衛隊の愛紗(あいしゃ)は雄介を見上げ、瞳を輝かせる。


「あ…アンコールです」

 彼女が小さく頷くと、その声に呼応するかのように、ファンクラブの隊員たちも一斉に声を上げる。ペンライトの光が会場中で揺らめき、虹色の波紋となってステージに降り注いだ。


「ほら部長さんもご一緒に」

 愛紗の声に促され、帝亜が微笑みを浮かべて手を振る。


「もう…しょうがないわね…アンコール」

 帝亜の優しい声が、会場中に温かく響く。


「アンコール!アンコール!」

 観客、風紀委員、親衛隊――全員の声がひとつになり、空気を震わせる。


「いくわよ!!」

 音響担当のリエラも力強く叫ぶ。その声に触発(しょくはつ)され、周囲の観客も一斉にペンライトを振り上げた。光の渦がステージを包み、まるで夜空に星が降り注ぐかのような幻想的な光景が広がる。


 ――皆、分かっている。――だが、それでも彼らは最後まで諦めない。精一杯の声援を、想いを、全力で届ける。


 会場は歓声と光に包まれ、誰一人として立ち止まることはない。


 ――これは、ななへ向けた最高のアンコール――



「これは…」

 ななは目を大きく見開き、会場の光と声援に圧倒されながらも、どこか信じられないような表情を浮かべる。


「何を(ほお)けてるんだ?まだ終わりじゃないだろ?」

 燈也が優しく肩に手を置き、彼女を前に押すように促す。瞳には、彼女への信頼と期待が揺るぎなく宿っていた。


「そうですよ。最後まで歌いましょう」

 怜花も微笑みを浮かべながら、ななを励ます。言葉の一つ一つに、仲間としての確かな想いが込められている。


「皆一緒に歌うのだ!」

 ななは大きく深呼吸し、力の限りの笑顔を浮かべてステージ中央に立つ。胸の奥に溢れる熱い想いが、全身を駆け巡る。


 ――観客のペンライトが一斉に揺れ、虹色の光がステージを包み込む。光と声援が一体となり、まるで夢の世界が現実に変わったかのようだった――


『虹のグランツ(アンコールバージョン)』

 マジ マジカル(マジマジカル) 夢を叶える素敵な魔法

 マジ マジカル(マジマジカル) 想いを込めて唱えよう


 会場中が声を合わせ、ペンライトが光の海となる。

 燈也たちの歌声と観客の合唱が、まるで天に届くかのように共鳴する。


 出来ない事なんて、この世には無いから

 夢の欠片を抱いて 駆け出しそう マジカルハート


 最後のサビを全員で歌い上げる瞬間、会場全体が光に包まれる。

 ――歓声も拍手も、涙も笑顔も、すべてが一つになり、時が止まったかのようだった――


 歌い終わった瞬間、光の渦が静まり、会場には温かい余韻が残る。

 観客の目には涙が光り、ステージの仲間たちも互いを見つめ、深く息をつく。


 燈也はそっと拳を握り、心の中でつぶやく。


「なな…お前の想い、ちゃんと届けたぞ――」


 怜花も、リエラも、そして会場の全員も、同じ気持ちでうなずく。


 ――夢は終わらない――

 ――魂は続く――

 ――想いは紡がれ、ここに生き続ける――


 光と声と魔法が一つになったその瞬間、誰もが知った。

 この世に、叶わない夢なんて、ないのだ――


 会場を包む余韻は、まるで優しい波のように観客の心を揺らし、ステージの仲間たちもまた、互いの手を握り合い、笑顔を交わした。



 ――そしてななの最後の歌は静かに始まる。――


 『すれ違う心』


 ごめんねの言葉 どうして言えなかったの

 気持ちは同じはずなのに いつも喧嘩してばかりだった


 ――ななの声が会場中に広がる。涙と笑顔が入り混じった観客の目に、彼女の想いが真っ直ぐ届く――


 素直な言葉 言えずにすれ違ったまま

 別れてしまったけど、叶うなら 仲直りしたいよ


 本当の言葉 想い 魔法に込めて今 あなたに届けたいから


 勇気出して 繋がる想い信じて

 支えてくれた仲間とあなたに

 ごめんなさい ありがとう


 ――ペンライトの光がさらに強くなり、消えてゆくななを明るく照らす。――


 月日が流れても どんなに変わっても

 思い出はずっと消えない 例えこの身が消えたとしても


 切れない絆が 悠久の彼方にもう一度

 巡り会える架け橋 なるのを信じているよ


 永久に響く 友情メロディー どんな道でも 決して諦めないで


 君がそばにいれば 届く気がしたよ

 支えてくれた仲間とあなたに

 ごめんなさい ありがとう


 ――ななの歌声は会場全体を包み込み、時が止まったかのような感覚を生む――

 ――燈也は拳を握り、目頭を熱くしながら呟いた。


「――この光景を俺は絶対に忘れない」


 ――そして、光の中へと消えていくななの最後の表情は、満面の笑みだった――

 ――その笑顔は、会場の全員の心に、永遠に刻まれた――


 観客の歓声、ペンライトの光、仲間たちの誇らしげな表情――

 ――すべてが、ななの願いと想いを紡ぐ奇跡の証となった――






 ***


 とある病院の静かな一室。

 桃色の髪が柔らかく枕に広がる女性が、ゆっくりとまぶたを開けた。


「目を覚ましたのですか?」

 看護師の声が穏やかに響く。優しく微笑むその表情は、安心を運ぶ風のようだった。


「ええ……長い夢を見ていた気がします。」

 女性は目を細め、まるで夢の余韻(よいん)を確かめるかのように天井を見つめる。

 その声は落ち着いていて、どこか遠くを見つめているようだった。


「どんな夢を見ていたんですか?」

 看護師は興味深げに寄り添い、声のトーンを少し柔らかくする。


 女性は静かに呼吸を整え、空を仰ぐように視線を遠くに向けた。

「娘に会ったわ……その夢の中で、あの子は笑っていたの。」


 その言葉とともに、部屋の空気が柔らかく震えたように感じられた。

 笑顔の記憶が胸の奥に蘇り、ほんの少しの暖かさが彼女の心を満たす。


 女性の手がそっと胸に触れる。まるで夢の中の温もりを確かめるかのように。

「ありがとう……」

 小さく、けれど確かに心の奥から漏れた言葉が、静かな病室に優しく響いた。


 窓の外の光が、桃色の髪を淡く照らす。

 ――夢の中の笑顔は、確かにここに届いていたのだと、彼女は思った。




 ***



 ライブの翌日、教室はいつも通りの賑わいを見せていた。


「おーい。ななみのかあちゃん退院したんだってよ。」

 郷夜が、いつもの軽口とともにクラスの小さなニュースを届ける。

 普段ならくだらないネタでしかないのだが、今日はどこか心が温まる話に感じられた。


「まあ、良かったですね。」

 癒水が柔らかく微笑む。


「なら今度退院祝い持って行かなくちゃね!……ってどこいくのよ、燈也」

 流水が席を立つ燈也に話しかける。


「悪い、少し席外すよ。」

 燈也はそのまま教室を抜け、屋上へと向かった。


 屋上に出ると、朝の光が淡く校舎を包んでいた。

 風がそよぎ、髪や制服を軽く揺らす。


「良かったな…なな。」

 燈也は空に向かって静かに呟く。胸の奥で、まだ余韻の残るライブの熱気が蘇る。


 すると、かすかな風のざわめきに混じって――


 ――色々ありがとう。燈也と出会えて本当に良かったのだ――


 耳を澄ませば、あの子の声が風に乗って届いたような気がした。


「…!?気のせいか…いや…」

 燈也は目を閉じ、信じる心を胸に集中させる。


 届くはずのない声に向かい、彼は小さく返す。


「俺も楽しかったよ…ありがとう、なな。」


 風に乗って消えていくその声に、胸が締め付けられるような感覚と同時に、温かい安心感が広がった。

 ――燈也は信じた。この言葉はきっと、彼女に届いていると。


 少しだけ時間が止まったような静寂の中、屋上には風と光と、二人だけの想いの余韻がそっと漂っていた。


次回 『第27想 夢の果てに』


ライブは成功し、幽霊少女・ななの未練はついに晴らされた。

別れの中で託されたのは、確かに結ばれた“絆”。


そして――日常は、静かに次の局面へと動き出す。

迫り来る新たな試練、その名も《魔法試験》に謎の組織“十月花”。


音楽で奇跡を起こした彼らは、今度は何を果たすのか。


夢は終わらない。

新章――魔法試験編、開幕。

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