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Himeyuri ―魔法嫌いの元学園最強と、幼馴染の約束から始まる魔法学園譚ー  作者: 小鳥遊 千夜
第一章 幽霊少女編

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第25想 奇跡の交響曲

前回までのあらすじ


幽霊少女・ななの願いを叶えるため、不知火燈也たちはバンドを結成した。

ひたむきに練習を重ね、少しずつ仲間や協力者も増え、ライブ本番は目前に迫っていた。


しかしその裏で、異変が起こり始める。

周囲の人々から、ななの存在と記憶が少しずつ消えていったのだ。


それでも燈也、怜花、リエラは抗い続けた。

ななの想いを忘れまいと、最後まで希望を捨てずに。


だが――その願いも虚しく、

ついに三人からも、ななに関するすべての記憶が失われてしまう。

理由も分からぬまま、ライブの当日を迎える。

 

 今日はいよいよ創立祭。本来ならライブの当日だ。

 校内は生徒だけでなく一般客も入っており、普段の何倍も(にぎ)わっていた。屋台の声、楽しげな笑い声、軽快な音楽――すべてが煌びやかに校舎を包んでいる。


 だが、燈也(ともや)の胸の中は、そんな喧騒(けんそう)とは裏腹に重苦しかった。

「俺達はどうして学校にいるんだ?」


 燈也はリエラと怜花(れいか)に問いかける。しかし、返ってきたのは困惑の表情だった。


「それが上手く思い出せないわ」

 リエラが眉をひそめ、浮かない顔を見せる。


「私も…記憶に霧がかかっているみたいで…」

 怜花も(うつむ)きながら答える。その声には微かな震えが混じっていた。


「やっぱり、お前達もか……」

 燈也もまた、胸の奥にぽっかりと空いたような違和感を覚える。

 何か――重要な何かを忘れてしまった、そんな漠然(ばくぜん)とした不安が頭をもたげてくる。

「手掛かりでもあればいいんだが…」


 燈也は窓の外を見回す。校庭の賑わいや飾り付けられた校舎、浮かぶ人々の笑顔――どれも見覚えがあるはずなのに、心の奥底に確信が持てない。


「もしかして、アレが関係してるんじゃないかしら?」

 リエラが指先で外を示す。


「そうか。今日は創立祭か…」

 燈也は(つぶや)く。思い出そうとしても、記憶は霧に(おお)われたようで手の届かない場所にある。


「準備でもしていたんでしょうか?」

 怜花が額に手を当て、少し考え込む。


「…分からねぇ」

 燈也が顔をしかめる。

「だが…なんかあった気がする。忘れちゃいけない何かが…」

 胸の奥がざわつき、手探りで記憶の糸をたぐろうとする。


「燈也さん…」

 怜花の声が震える。


「って…。怜花なんで泣いてんだよ?」

 燈也は慌てて怜花の顔を覗き込む。


「え…あれ?私、どうして…」

 怜花も自分の感情の理由がわからない。

 しかし、手を胸にあてる怜花の仕草は、記憶の欠片に触れたかのように切なげだった。


「でも、何故か胸が締め付けられる気がするんです」


 燈也はその言葉を聞き、自分の胸にも同じ感覚があることに気付く。

 何か大切なもの――かつて交わした約束や絆の残滓(ざんし)が、胸の奥でかすかに(うず)いている。



「怜花…」

 燈也の声は、驚きと安堵が入り混じった、かすかな震えを帯びていた。


「怜花ちゃん…」

 リエラもその様子をじっと見つめる。瞳に、少しだけ涙が光っている。


「ははは…私ったら、おかしな事言ってますよね…」

 怜花が手で口元を押さえ、照れ笑いを浮かべる。


「おかしくなんてないさ……俺も同じ気持ちだからな。きっと何かあるんだ。一緒に思い出そうぜ」

 燈也は肩を落とす怜花を優しく抱くように視線を合わせた。


 取り敢えず創立祭を一通り回る三人。しかし、街の喧騒や人混みの中で、記憶の断片はまだ手に届かない。


「結局手掛かりはなしか…」

 燈也の声には焦燥(しょうそう)(にじ)む。


「……はい」

 怜花が俯く。


「必ずあるはずなんだ……なのに何故見つからない……」

「くそ!」

 拳で壁を打ちつける燈也。痛みと苛立ちが胸を締め付ける。


「ちょっと、こんな所で何してるの?」

 冷たい声。鋭く、けれどどこか心配も含んだ声が三人の耳に届いた。声の主は魔法執行部部長――高天原帝亜(たかまがはらてぃあ)だ。


「お前か……今は忙しいんだ、放っておいてくれよ」

 燈也は思わずぶっきらぼうに突き放す。


「あら随分な言い草ね。今日だってあなた達の為に準備してあげたのに……」

 帝亜の瞳は揺るがない強さをたたえ、だがその奥にわずかな困惑も感じられる。


「は?何の事だよ?」

 燈也は首を傾げる。何かを知らないはずの事を言われ、混乱していた。


「からかってるの?それとも寝惚(ねぼ)けてるのかしら?」

 帝亜の声は鋭くも、(さと)すように落ち着いていた。


「だから、何のことだよ?」

「今日はライブの日でしょ?昨日、会場の設営を頼んできたのに忘れたの?」

 帝亜は指を会場方向へ伸ばす。カラフルな装飾と豪華なステージが目に飛び込んだ瞬間、胸の奥がざわつく。


「ライブ…?何言って…」

 言葉が詰まる。けれど、ふと――脳裏に小さな光が差し込む。霧が晴れていくように、失われた記憶が一筋ずつ形を取り戻していく。



「そうだ……なな!!」

 燈也は声を張り上げる。全身の血が熱く流れるのを感じた。


「ななちゃん!」

 怜花とリエラも同時に思い出す。胸の奥にあったざわめきが、確かな記憶の形となって蘇った瞬間だった。



「私達、こんな大事な事をどうして……」

 怜花の声には、戸惑いと悔しさが混ざっていた。まるで胸の奥にぽっかり空いた穴を埋めようとしているような響き。


「……あんなに忘れないって約束したのによ……」

 燈也は頭を抱え、視線を伏せる。言葉にできない後悔が胸を締め付ける。


「落ち込んでる暇はないんじゃない?まだ約束は果たされてはいないんだから。」

 帝亜が、柔らかくも力強い声で言った。その瞳は優しい眼差しをしていた。



「そうだな…まだ俺達にはやらなきゃいけないことがある。」

 燈也は深く頷き、拳を軽く握りしめる。胸の奥に再び湧き上がる決意。


「はい!」「ええ!」

 怜花とリエラも力強く応え、目に光を取り戻す。


「サンキュー!部長さん!」

 燈也は笑顔で帝亜に向かって感謝を告げる。


「しっかりやりなさいよ。ふふふ……夢の最後まで」

 帝亜の笑みは柔らかく、しかし確固(かっこ)たる力を帯びていた。



「ちょっとどうしたの?会場は向こうよ?」

 ライブ会場とは真逆の方向に進む燈也にリエラは軽く首を傾げ、少し心配そうに声をかける。


「何かが聞こえるんだ……俺達を呼んでいるような……これはまるで……」

 燈也は顔を上げ、前方を見据える。胸の奥で小さく響く鼓動が、目の前の道を指し示している。


「…歌?」

 リエラも何かに気付いたようだ。


 三人はその音色に(いざな)われるように駆け抜ける。廊下の人混みや喧騒は気にならない。まるで世界が二人だけのために開けているかのように、自然と体が前へ進む。


 ――その先に、俺達を呼ぶ何かが待っている――


 燈也の心に確かな確信が(とも)(とも)る。遠く、微かに音が聞こえた。





 ずっと1人で眠っていた、夢を見ていた

 届かない夢を見ていた ずっと

 明けない夜をどれほど越えただろう

 呼んでる気がした 見えた気がした

 微かに光る この道の先には皆が待っているそんな気がしたんだ






 その歌声に、燈也たちは息を呑む。まるで胸の奥の記憶に触れるかのような、懐かしくも暖かい旋律。


「…これは……」

 怜花が目を(うる)ませ、小さく息をつく。





 例えこの身が消えたとしても

 繋いでくれる仲間がいるから

 夢は終わらない

 魂は続いていく、想いは紡いでいく





 ――歌は、彼らの胸の奥に直接響いていた。忘れていた何か、埋もれていた記憶、そして――ななの存在を確かに感じさせるものだった。




 夢の最後まで共に奏でよう

 この世には叶わない夢なんてないから





 暗い闇の中、歌声はさらに強く、力強くなる。彼らを呼ぶように、希望を示すように。


 誘われるように足を進めた先にあるのはバンド仲間達と練習した空き教室であった。だがその部屋には当然待っている人などいなかった――


「…そうだよ…な。いるわけないよな…」

 そう思いつつも燈也は心の奥で、あいつ――ななの姿を探す。もう分かっているはずなのに、それでも足は自然とその方向へ向かっていた。


「燈也さん…」

 怜花の声が、少し震えて聞こえた。


「悪い…なんでもない。よし、会場に向かおうか…」

 燈也は自分を落ち着かせるように笑みを浮かべる。胸の奥で、確かにななの存在を感じながら。


「はい、ななちゃんの分まで頑張りましょう。」

 怜花が小さく微笑む。瞳には、燈也と同じ覚悟の光が宿っていた。あの子のために、最後まで諦めない――その意思が確かに伝わってくる。


「私も全力でサポートするわ。」

 リエラも頷く。三人は、無言のうちにあの子の想いを背負う決意を共有したかのようだった。


「ありがとう、二人とも…」

 燈也は自然と笑みを浮かべる。拳を握り、心の中で誓う。あいつのぶんまで、絶対にやり遂げてやる。


 だが、その思いを三人だけが抱いていたわけではなかった。


「おいおい……オレ様達も忘れてもらっちゃ困るぜ?」

 後ろから、聞き慣れた悪友の声が響く。振り返れば、そこには――


「風間!それにお前らも…どうしてここに?」

 目に映ったのは、郷夜(ごうや)だけではなかった。流水(るみ)癒水(ゆみ)、バンドのメンバー全員が、確かな笑みを浮かべて立っていた。



「今日はライブでしょ?メンバーのアタシ達が来るのは当たり前じゃない。」

 流水は力強く胸を張る。


「思い出したのか…」

 燈也は驚きと共に目を見開く。


「ええ、だから駆けつけなくちゃって思って…」

 癒水も、自然な笑みを浮かべて頷く。


「そういうことだ」

 郷夜も両手を広げ、仲間たちの輪に入ってきた。


「お前ら…ありがとう!」

 燈也は感謝の気持ちを胸に込めて叫ぶ。


「礼なんてよせよ。オレ様達だって、自分がやりたいことをやってるだけだ。お前と同じでな」

 郷夜が軽くウィンクをする。その余裕の笑みに、場の空気が一瞬で温かくなる。


「あの子の為に何かしてあげたいのは私達も同じよ。」

 流水が柔らかく微笑む。


「私達も仲間ですからね。」

 癒水も穏やかに笑う。


「おまえら……」

 燈也は胸の奥が熱くなるのを感じた。仲間たちの視線と笑顔、そのすべてが、ななの想いの延長線上にあるのだと気づく。


 ――なな、お前の想い、ちゃんと俺達に届いていたぞ――

 ――だから今度は、俺達がお前に届ける番だ――


「よし、皆で最高のライブにしようぜ!!」

「おー!!!」


 腕を掲げる仲間たちの声が重なり、教室に力強く響いた。



次回  『第26想 奇跡の魔法 永遠の終楽章』


ななの記憶を失っていた燈也、怜花、リエラ。

帝亜の言葉を手がかりに、失われた想いを取り戻した三人は、

歌に導かれるように、かつて練習を重ねた空き教室へと向かう。


――だが、そこにやはり“なな”の姿はなかった。


失われたはずの絆。

それでも、同じように記憶を失っていた仲間たちが、ひとり、またひとりと集まり始める。


これは、運命に抗った者たちが起こした奇跡なのか。

それとも、想いが繋ぎ止めた必然なのか。


ななのために――

彼女の願いを音にするために、バンドは再びひとつになる。

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