第22想 幽霊との邂逅〈プレリュード〉
A班メンバー:、不知火燈也、加ヶ瀬怜花、風間郷夜、リエラ
探索場所:3階 大図書室
三階にある大図書室は、夜になるとまるで誰もいない別世界のように静まり返っていた。
「しかし……高校生にもなって、お化け探しとはなぁ……」
しみじみとぼやく燈也に、リエラがクスッと笑う。
「いいじゃない。宝探しみたいで、私は結構楽しいと思うわよ?」
「宝探しって……あのなぁ……」
燈也は肩を落とすが、リエラはまるで遠足に来たかのように軽やかな足取りだ。(正確には浮いているが……)
怜花もきょろきょろと棚の上を見上げながら、少し楽しそうに微笑む。
「でも……ちょっとわくわくしますよね。私は上の方を探してみます」
「おい、あんまり遠くに行くなよ」
燈也が声をかけるが、怜花はにこっと笑って頷いた。
すると、すかさず郷夜が前に躍り出る。
「大丈夫さ! 怜花ちゃんは、この白馬の王子様であるオレ様が守るからね!」
「真面目にやれよ。不審者とかいるかもしれないんだろ?」
燈也が呆れた声を上げると、風間は両手を上げて降参ポーズ。
「ヘイヘイ……分かってますよ〜」
しばらく四人は各々の担当区域を調べ始めた。
懐中魔灯の光だけが、古い本の背表紙に淡く反射する。
「うーん……別に変わった所はないなー。」
燈也は少し離れた場所で棚の間を覗き込みながら、怜花に声をかけた。
「おーい、怜花。そっちはどうだ?」
「こっちも特には何も…。わわっ──!」
そして、次の瞬間。
「きゃー!!」
小さな車輪付きの踏み台がわずかに傾き、
上に乗っていた怜花の身体がぐらりと揺れた。
本棚の上に手を伸ばしたまま、バランスを完全に失ったその体は──
「危ない!!!!!」
燈也がすかさず駆け寄り、反射的に彼女の腰に手を回して抱き止めた。
その勢いのまま二人は床に倒れ込み──
燈也が上、怜花が下。
至近距離で見つめ合う形になってしまった。
「いっ……痛てて……大丈夫か?」
燈也が呻くと、怜花は真っ赤になりながらも困ったように微笑む。
「だ、だいじょうぶです……ただ……この態勢はちょっと……」
燈也の脳が一瞬フリーズする。
「えっ……あ、ああああーーーっ!?!?」
慌てて怜花から手を離し、バッと距離をとる燈也。
「すまん!!! わざとじゃないんだ!!」
「あはは……大丈夫ですよ。私の不注意が原因ですし」
怜花は胸元を押さえながら、恥ずかしそうに笑う。
「ほんっっっとうに悪かった……怪我はないか?」
「はい、ありがとうございます」
そこへ、反対側の棚から郷夜が顔を出した。
「おい!今すごい音がしたけど、大丈夫か?」
燈也と怜花は揃って跳ねた。
「なっ……なんでもねーよ!!」
「そっ……そうです! なんでもないです!!」
郷夜は怪訝な顔をしたが、あえて深追いはしなかった。
「お、おう……? そうか」
郷夜が肩をすくめた、そのとき。
「みんな来てっ!!!!」
図書室の入り口側から、リエラの緊迫した声が響く。
「今の……リエラか!? 行くぞ!」
燈也はすぐさま走り出し、三人も続く。
リエラは廊下を指差したまま固まっていた。
「リエラ、どうした?」
「い、今……白い人影が……廊下の向こうを横切ったの……」
怜花が息を呑む。
「まさか……本当に幽霊が……?」
郷夜は拳を握りしめ、目を輝かせた。
「よっしゃ! 怪しいヤツなら追いかけようぜ!!」
燈也達は懐中魔灯を手に、廊下の闇へと走り出した。
「リエラ、案内を頼む。風間と怜花は反対側から向かってくれ、挟み撃ちにするぞ」
「分かったぜ!」「任せてください。」
リエラが先導しながら、燈也の前を飛ぶ。
「燈也くん、こっちよ!」
不知火燈也は懐中魔灯を握りしめながら、通信機のボタンを押す。
「こちらA班。B班、C班聞こえるか?」
すぐにノイズ混じりの応答が返ってきた。
『何かあった?』
「ああ、リエラが怪しい人影が廊下を走っていくのを見つけた。現在追跡中だ。」
『了解よ。私達もすぐに向かうわ。A班はそのまま追跡を続けてちょうだい』
リエラが廊下の角を指し、ひそやかに告げる。
「燈也くん。人影はあっち側に行ったわ」
「よし、風間達も向かっている筈だ。このまま追い詰めてやろう」
その時だった。
「――見つけたぜ!」
郷夜の叫びが響き、全員の緊張が一気に高まる。
「へへっ…怜花ちゃんにカッコイイ所を見せてやるぜぇ!」
郷夜が勢いよく飛び出す――が。
「ぐへっ!!!」
鈍い衝撃音と共に郷夜が後ろに吹っ飛んだ。
燈也が駆け寄る。
「大丈夫か?」
「ああ、なんとかな。アイツ只者じゃないぜ…」
怜花が心配そうに覗き込むと、郷夜は痛む腹を押さえながら眉を寄せて呟いた。
「…だが一つだけ分かったことがある…」
「姿こそ暗くて見えなかったが…なんか柔らかい感触がしたぜ」
「は…??」
燈也が呆然とした表情で答える。
そこへ別班から通信が入る。
『おーい!こちらB班。例の人影は見つかったか?』
「すまん…逃した。だがまだ遠くには行ってないはずだ」
『下の階へと繋がる道も全て抑えてある!このまま追い詰めるぞ!』
緊張が校舎全体を包みこむ中、今度は帝亜から通信が飛び込んだ。
『こちらC班。不知火クン聞こえる?人影が現れたわ』
「場所はどこだ?」
『旧音楽室の方よ』
「分かった。俺達も向かう。」
燈也は班全体を振り返り、短く指示を飛ばす。
「人影は旧音楽室の方にいるらしい。一度分かれて挟み撃ちにしよう。」
郷夜も前のめりで頷く。
「なら、オレ様は階段から向かうぜ。」
再び帝亜の声が響く。
『不知火クン、人影がそっちに向かったわ』
その直後――
「あっ…燈也くん!いたわ!あいつよ!」
リエラが指さす先、薄闇の廊下の中央に、人のような白い影が立っていた。
「待ちやがれ!!」
燈也が走り出す。
影は怯えたように後ずさりし、別の廊下へ逃れようとした――が、そこには郷夜達が構えていた。
「へへっ……無駄だ。もう逃げれられないぞ!」
包囲が完成する。
「さぁ、観念して正体を明かしやがれ!」
だが影は静かに身構えた。戦意を露わにして。
「大人しくする気は無いみたいだな」
郷夜が前に出て拳を握りしめた。
「ここはオレ様がやる!へへ……」
勢いよく飛びかかった瞬間――
「ひでぶっ!?」
逆に吹っ飛ばされ、床を転がる。
「風間っ!リエラ、怜花、援護を頼む!」
「任せて」「やってみます」
リエラの光が集束し、怜花が短く詠唱する。
≪拘束魔法≫
床から青白い鎖が立ち上がり、影の動きを捉える。
「うおおおー!!!」
影が暴れ狂うが――
≪初級結界魔法 縛光結界≫
怜花が結界を展開し、影の動きを一瞬だけ止めた。
「今です、燈也さん!」
最後は燈也のタックルが決まり、影は壁へ押しつけられた。
「捕まえたぞ!!」
郷夜もすかさず飛びつき、腕を押さえ込む。
「コラ!暴れんじゃねぇ!」
影がもがき、声を漏らす。
「触るな!」
郷夜が振りほどかれ吹っ飛ばされる。
「くっ…」
その時――怜花が息を呑んで叫んだ。
「皆さん、あれを!」
人影を覆っていた白い布が床に落ち、影の正体が懐中魔灯に照らされる――
「こいつが噂の…幽霊!?」
次回予告 『第23想 出会いの円舞曲』
夜の校舎で遭遇した“白い影”――その正体は、記憶を失った一人の少女だった。
自分が誰なのか、なぜ学校にいるのかすら覚えていないという彼女は、何かを恐れるように口を閉ざす。
保護を任された燈也は、この怪しい彼女の正体と目的を暴くことを決意する。
―――これは運命の導きか、それとも新たな災厄の呼び声か。




