表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
Himeyuri ―魔法嫌いの元学園最強と、幼馴染の約束から始まる魔法学園譚ー  作者: 小鳥遊 千夜
序章

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

16/120

第15想  何も知らないお前が語るな

 

 燈也には一つだけ切り札がある。


「だが……今の俺で出来んのか……?」


 嫌な汗が頬を(つた)い、腕が(かす)かに震える。


「どうした? …休んでる暇はないぞ?」


 帝亜が次の魔法を詠唱する。


咲き乱れる氷神槍(ディバイン・ランス)


 周囲の温度が一気に凍りつき、

 帝亜の背後に数百、いや数千の氷槍が咲き乱れるように浮かび上がる。


「……迷ってる時間はないか」


 燈也は歯を食いしばり、再び魔法を重ねがけする。


≪補助魔法加速強化(アクセル・ブースト)


攪乱魔法(アンチ・ヘイズ)


 幻影を散らしながら氷雨(ひさめ)をくぐり抜け、

 帝亜に近づこうとする――が。

 一瞬の判断ミス。


「っ!!」


 鋭い氷槍が一本、足を貫いた。


「ぐ…っ、くそっ……!」


 足が止まる。

 激痛に思わず膝が沈み追撃(ついげき)が容赦なく迫る。


魔炎(デモニック)の魔神砲(アーク・レギオン)


「――ッ!!」


 至近距離で爆熱の魔弾がまともに燈也の身体を撃ち抜く。


「ぐっ……ふ……!」


 爆風に吹き飛ばされ、燈也の身体が地面を転がった。


 膝をつき、口から血が落ちる。

 呼吸は荒れ、肺が焼けるように痛い。

 それでも――心の奥底で、何かがまだ(くすぶ)っていた。


「さっきまでの威勢はどうした? やはり限界か? …ふん、()()()もバカだな。こんな落ちこぼれを助けて死んだとはな」


 帝亜の嘲笑は鋭く、冷たく、容赦がない。

 その言葉は刃のように燈也の胸を切り裂いた。


 ――やめろ。


 心が後退りする。

 諦めがじわじわと広がり、視界から色が奪われていく。


「……はぁ…はぁ……確かに……俺はバカだ……」



 弱々しい声が零れたその瞬間――

 暗闇の中で、一筋の光が差し込んだ。


 “あの人(せんぱい)”の後ろ姿が、浮かんだ。


 歪んだ記憶ではない。

 悲しい最期でもない。


 ただ、自分に手を差し伸べてくれたあの優しい笑顔。


「……けどな」


 その光を握りしめるように、燈也はゆっくりと立ち上がる。

 ふらつく足を、意地と気迫で地面に固定する。


「先輩をバカにするのは――――許さないッ!!」


 血が(にじ)むほど拳を握り締め、叫びが喉を裂く。


 身体は限界を超え、全身が悲鳴を上げている。

 だがその瞳だけは、もう微塵(みじん)も揺らいでいなかった。


 出来るか出来ないかじゃない。

 やるしかない。

 ここで逃げたら、あの人の想いを踏みにじることになる。

 怜花の言葉も裏切ることになる。


「見せてやるよ……俺の魔法を!!」


 燈也は拳を高く掲げ、魔導陣を展開した。


『術式展開――魔力、最大解放ッッ!!!』



 瞬間、燈也の体から魔力が爆発的に溢れ出す。

 黒いオーラが嵐のように吹き荒れ、地面を(えぐ)り、空気を震わせた。


「なっ……なんて魔力……これがSランク……」

「すごい……こんなの、初めて見ました……!」


 周りが息を呑む。

 その魔力量は帝亜を遥かに凌駕(りょうが)し、見るもの全てに本能的な恐怖と畏敬(いけい)を抱かせた。


「ふふ……素晴らしい……! まさかこれほどとはな……! だが――」


 帝亜は震えるどころか、笑っていた。

 対等の、いやそれ以上の強者を前に、血が沸き立つ。



黒炎の(ディザスター・)滅龍覇(ドラグフレア)!!!≫


 帝亜の左手に凝縮(ぎょうしゅく)された炎が膨れ上がり、

 やがて巨大な黒炎の塊となった。


 ゆらめく地獄の太陽。

 圧倒的な熱量で空間が揺らぎ、地面が溶ける。


「ここで何もできず終わるなら、お前も、()()()も――選択を間違えただけの負け犬だ!」


 帝亜の一撃に込められたのは、

 “()()()()()”そのものを否定する言葉。


「違うッ!!」


 トラウマの残影が脳裏に(よぎ)る。

 痛み、喪失、後悔――それでも。


 燈也はそのすべてを握り潰した。


 ――震えるな。

 ――折れるな。

 ここで負けたら、全部が嘘になる。


「先輩は……こんな俺を救ってくれた……! 先輩は……立派な人だ!!」


 右手に魔力を集中させ、

 魔力の刃を剣のように形成する。


 幻影も障壁もない。

 策も小細工もない。


 ただ、真正面から――ただ一撃をぶつける。


「口先だけでは……何とでも言えるものだ。終わりだ、不知火燈也!」


 帝亜が巨大な黒炎を振り下ろす。

 龍のような軌道を描き、空気ごと焼き尽くしながら迫る。


 炎が燈也を飲み込み、周囲の光景を真紅(しんく)に染めた。


「燈也くんッ!!」

「燈也さんッ!!」


 リエラと怜花の絶叫が響いたその時――


 炎を裂く閃光(せんこう)


 熱を切り裂き、灼熱の海を二分する一筋(ひとすじ)軌跡(きせき)


「――ッ!?」


 帝亜の表情に、初めて焦りが走る。


 炎の中心から、燈也が飛び出してきた。


 燃え盛る炎を背に、黒い剣を振りかざし――


「何も知らないお前が……先輩を語るなぁぁぁぁぁッッ!!!」


 渾身(こんしん)の力を右手に宿し、


夢幻の断斬(マギア・ブレイカ―)ッッ!!!≫


 魔力の刃が帝亜へ向かって振り下ろされる。






次回 『第16想  魔法を失った理由――俺の罪』


戦いは終わった。

だが、本当に向き合うべきものは――まだ終わっていない。


夕焼けの屋上。

並んで座る二人の間に流れる、長い沈黙。


「話すよ……俺が魔法を使えなくなった理由を」


守れなかった約束。

止められなかった“あの日”。

そして、自分で自分を縛った罪。


その告白は、彼を救うのか。

それとも、さらに深い闇へと沈めるのか。


ページは、過去へとめくられる。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ