表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
Himeyuri ―魔法嫌いの元学園最強と、幼馴染の約束から始まる魔法学園譚ー  作者: 小鳥遊 千夜
第一章 幽霊少女編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

13/36

第13想  出会いの円舞曲

前回までのあらすじ


夜の学校で幽霊調査を始めた燈也たちは、人気のない廊下を進む中、音楽室の近くで白く揺らめく怪異を目撃する。


それは本当に幽霊なのか、それとも別の存在か。

正体不明の“白い影”を追い、燈也たちは音楽室の扉を開く。

そこで待ち受けていた真実とは――?


 


 捕縛(ほばく)した影の正体を確かめようと、皆が懐中魔灯(かいちゅうまとう)の光を向ける。

 すると闇に沈んでいた輪郭(りんかく)が徐々に浮かび上がり――小柄な少女の姿へと変わっていった。


「こいつが噂の幽霊?」

 皆が息を呑み、燈也が低く呟く。



「普通の女の子にしか見えないですが……?」

 加ヶ瀬怜花(かがせれいか)は光の加減を変え、慎重にその子の顔を覗き込んだ。


 少女はむっとした顔で(にら)み返す。

 セミロングのピンク髪、ビヨンと立ったアホ毛には小さなハートの飾り。

 サイドテールが小動物のように揺れ、八重歯(やえば)がきらりと覗いている。


「がるるるるる」



 喉の奥から子猫のような威嚇(いかく)声。

 小柄で可愛らしい外見とのギャップに、皆が一瞬きょとんとした。


「確かに……一応威嚇してるみたいだが特に危険な感じはしないしな」


 高天原帝亜(たかまがはらてぃあ)が慌てて叫んだ。


「バカ!油断しちゃダメよ。学校に張り巡らされてる感知魔法にも反応してないヤツよ。十分に怪しいわ」


 帝亜が警戒の姿勢を崩さず戦う構えを見せる。


「悪霊め!皆は騙せたようだけど、私の目は騙させないわよ。今正体を暴いてやるわ。我が左手に秘められし悪魔よ!今こそ、その力を示s……」


「落ち着け……帝亜」


 工藤英明(くどうひであき)(あき)れながら制止する。


「ふぎゃ!?」


 帝亜は肩をすくめて黙った。


 英明が少女へ近づき、真剣な表情で声をかける。


「おい、少し話を聞かせて貰おうか?」


 少女はビクッと肩を跳ねさせ――


「ひっ!!?」


 怯えたように後ずさりし、そのまま俊敏(しゅんびん)な動きで工藤の腕から逃れた。


「あっ……おい!?」


「な……なぜ逃げる……」


 日向雄介(ひゅうがゆうすけ)がため息交じりに言う。


「そりゃあんだけ(にら)みつけたような顔で話しかけられたら怖がられるだろ……」


「く……不覚……」


 英明が肩を落とす



「やれやれ……だらしねーな。オレ様が女の子の扱い方ってのを見せてやるよ」


 風間郷夜(かざまごうや)が胸を張り、朗らかに笑う。

 胸の前でパッと笑顔を作ると、少女にそっと手を差し伸べた。


「いいか?まずはにっこりスマイルで優しく話かけるんだ。さぁリトルハニー。大丈夫オレサマはキミの敵じゃない。ほらお近づきの証にお菓子をあげるよ~」


 少女がじりっと動き、郷夜に距離を詰め――


「おっ……動き出した。いけるか?」


 次の瞬間、


「ぎゃあああああああああ」


 郷夜の腕に噛みついて逃げた。


「うん……やっぱりダメだったな」


 怜花が小走りで少女の前に立ち、優しく手を胸の前で合わせる。


「あの、驚かしてしまってごめんなさい。でも私達は貴方に危害を加えるつもりはないんです。お話だけでも聞かせて貰えませんか?」


「怜花でもダメか……?」


 少女は怜花をじーっと見つめ、警戒心をまだ解かない。


 数秒の沈黙(ちんもく)の後――


「……お前達何者だ?」


 怜花は柔らかく笑みを返す。


「すみません。名乗っていませんでしたね。私は加ヶ瀬怜花です。」


 他のメンバーも次々と自己紹介をしていく。

 少女は順番に視線を移し、全員をじっと観察していた。


 やがて、ぽつりと小さな声が落ちる。


「じー……」


 そして。


「……ななだ」


 怜花が安心したように微笑んだ。


「よろしくね。ななちゃん」


「ななちゃんはこんな時間に学校で何をしてるの?」


 少女――ななは困ったように眉を寄せ、(そで)をぎゅっと握りしめた。


「それが……気づいたらここにいて帰ろうにも帰れなくて…」


「えっどういうことです?」


「家出でもしてるのか?」


 ななは首を横に振る。


「ななにもよく分からないのだ……お姉ちゃんのコンサートに向かう為に魔法艇(まほうてい)に乗って……気が付いたらここに居たのだ」


 帝亜が悲鳴を上げた。


「ぎゃああ!ほらやっぱり幽霊なのよ」


「お前は落ち着け……」


 英明が帝亜をなだめる。


「分からないって……記憶喪失(きおくそうしつ)ってやつか?」

 燈也は真剣に問う。


 雄介が腕を組んで頷く。

「そうかもな。嘘はついてないみたいだしこのまま学校に置いておくのも…」


「警察に連れていくのは?」

「どう説明するつもりなの?」

「だよな……訳アリみたいだし……」


 皆が困ったような様子で考え込む。


 怜花は顔を上げた。


「見たところうちの生徒だと思いますし調べれば何か分かるのではないでしょうか?問題はそれまでの間どうするかですが…」


 燈也が深く息をつき、皆を見回す。


「誰か預かれるヤツはいるのか?」


 郷夜が即座に手を挙げた。


「ハイハイ!そういう事ならこのオレ様が……」


「うん……アイツは当然無しとして他に誰かいないか?」


「ごめんなさい。私は一人暮らし専用なので」

「俺達は男子寮だからなぁ……」

「帝亜は……まぁこの状態だと無理だろうしな」


「ねぇ燈也くん、うちはどうかな?」


 リエラが呟く。


 燈也はこめかみを押さえながら小さくため息をつく。


「……仕方ないか、流水姉にでも聞いてみるか?」


 夜も深まり、住宅街にひっそりと灯る明かり。

 燈也が玄関を開けると、いつもの匂いと、いつもの騒がしい声が迎えてきた。


「ただいま~ちょっと相談があるんだが……」


 靴を脱ぐ間もなく、奥から勢いよく影が飛んできた。


「お帰り~!会いたかったわよ!」


「わわっ!」


 水色のロングヘアを揺らし、

 豪快すぎる突進で抱きついてきたのは――“漣 清水(さざなみ きよみ)”。

 世界を飛び回る看護師で、不知火燈也にとっては保護者、つまり“義母”に当たる人物だ。


 (ほほ)をすりすりしてくる清水に、燈也は苦笑いを浮かべた。


「元気してた!?……って、あら?」


 清水の目が燈也の後ろに隠れる小さな影へ向く。


 その直後、奥からもう一人の声が追いかけてきた。


「はっはっは、清水。気持ちは分かるが、続きは奥で話したらどうだい?」


 清水の夫――“漣 水月(さざなみ すいげつ)”。


 外科医として名を馳せているが、普段はおっとりした空気を(まと)っている。


「お帰り、燈也」


 水月はふわりと笑いながら、

 ななの気配に気づき、柔らかく視線を向けた。


「おや? その子は……?」


 燈也は、小さく息を整えて話し始めた。


 ――ななが記憶喪失であること。

 ――帰る場所もなく、不安定な状態であること。

 ――しばらく預かれないかという頼み。


 清水と水月は顔を見合わせる。


 水月は穏やかな声で言った。


「記憶喪失……ふむ。保護が必要なのは間違いないね」


 清水は腕を組み、きっぱりと言い切った。


「いいじゃない!部屋は空いてるし、うちは困ってる子を放っておく家じゃないわよ!」


 水月も笑みを深めて頷く。


「僕も賛成だ。」


「というわけで――ななちゃん、だっけ? ゆっくりしていきなさい!」


 清水が満面(まんめん)の笑顔で手を差し出す。


「ほ、本当に……いいのか?」


 ななはおそるおそる問う。


「もちろん大歓迎だよ」


 水月が優しく頭を()でると、ななは跳ねるように笑った。


「わーい!よろしくお願いしますなのだ!」


 みんなが温かく迎えた。

 燈也だけは腕を組んだまま、つぶやく。


「ふん……騒がしいのが増えただけだ」


 次の瞬間――


「痛っ!? いきなり噛むな!!」


 ななが燈也の手にぱくっと噛みついていた。


「ははははっ!可愛い子だねぇ」


 水月がほっこり笑い、清水は腰に手を当てる。


「燈也、女の子泣かせるからでしょー? もっと優しくしなさい!」


「いや泣いてないだろ!?」


 流水家に笑いが広がり、

 ななが仲間入りした夜は、ひどく(にぎや)やかに幕を開けた。


 夜も遅く、風呂を済ませた清水と水月がそれぞれ部屋に戻った時。

 燈也は歯を磨きに脱衣所へ向かう。


「さて、寝る前に歯だけ……」


 扉を開けた瞬間――


「なっ……!」


 そこには上着を脱ぎかけのななが。


「えっ……?」


 そして――


「きゃああああああああ!!」


 閃光(せんこう)のような蹴りと謎の投擲物(とうてきぶつ)が飛んできた。


「悪かったって!落ち着け!うお!? 痛ッ!」


 直後、漣流水(さざなみ るみ)漣癒水(さざなみ ゆみ)の姉妹が走ってきて。


「なに、女の子の着替え(のぞ)いてるのよ!!」


義兄(にい)さん、それは……流石に」


 散々な言われようだった。


「誤解だって……俺はそんなつもりじゃ……」



「でも“見た”のは事実でしょ?」


「いやまぁ……そうだけど……って、なんでお前が怒ってんだよ?」


 流水の頬がほんのり赤い。


「う、うるさいわね……!」


 ゴンッ!


「痛ッ!? 殴るなって!」


「痛てて…酷い目に()ったぜ…」


 何とか誤解を解き、自室に戻りリエラに話す


「女の子の着替えを覗いたんだから当然の結果よ。このヘンタイ!」


 どうやらリエラも騒ぎを聞いていたらしくご乱心(らんしん)だ。


「だから誤解なんだって…」


 (とほほ…、完全に信じてもらうにはまだまだしばらくかかりそうだな)


「…ねえ燈也くん」


 話が一段落すると先程とは違い、真剣なトーンで話しかけてくる。


「言わなくてよかったの? あの子が“幽霊かもしれない”って」


 燈也は小さく息を吐く。


「幽霊なんて信じてねぇよ」


 そして真剣に続けた。


「それに……余計な不安を与えても仕方ねぇだろ。言うなら正体を突き止めてからのほうがいい」


 リエラも納得したようにうなずく。


「それもそうね」


「それじゃあ私は自分の部屋に戻るわ。お休みなさい」


「ああ、お休み」


 リエラは少しだけ安心した笑顔を残して、部屋へ戻っていった。



「さて俺も寝るかな」


 その時――窓の外から微かに聞こえる歌声が耳に届いた。


(……歌?)


 透明で

 まるで純粋(じゅんすい)な祈りのようで

 人の声とは思えない響き。


 庭を見ると、月明かりの下でななが歌っていた。


 淡い光がその体の周囲を漂う。

 その輝きは――まるで天使の羽がほのかに揺らめくようで。


 燈也は思わず見入った。


(いや…そんなわけないよな…)



 燈也は目を細め、決意を噛みしめるように(つぶや)いた。



「だが、お前の正体も目的も――俺が暴いてやるさ」



 月が静かに照らす中、ななの歌声は夜空に溶けていった。






 

次回 『第14想 動き出す夜想曲』


 記憶を失った“なな”の少女の謎を追うことになった燈也たち。

 そんな彼らの前に現れたのは学園の風紀を守る風紀委員長――白金凛。

 そして、魔法教師にして図書室の監視人――神奈。


 少しずつ“なな”の中に潜む謎への手掛かりが集まっていく――。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ