第11想 幽霊調査
前回までのあらすじ
魔法執行部に加入した燈也は、新顧問・立花セレナから部長の伝言を託される。
指定された時間と場所――夜の学園へ向かうと、そこには怜花や郷夜、そして魔法執行部の面々が集結していた。
静まり返った校舎に漂う不穏な気配の中、燈也の“執行部員としての初任務”となる幽霊調査が、今始まる。
魔法執行部に書かれたメモの通り、集合場所である夜の学校の校門前までやってきた燈也。
時刻はすでに完全に夜。普通の生徒なら誰もいない、不気味なほど静かな時間帯だ。
「で…なんでお前達まで来てるんだよ!?」
振り返ると、当たり前のように両脇りょうわきにリエラと加ヶ瀬怜花かがせれいかが並んでいた。
「私は燈也くんのパートナーよ? 一緒に来るのは当然でしょ」
リエラは腰に手を当て、自分が来なかった場合の方が問題だと言わんばかりに胸を張る。
「私も“見ている”って約束しましたからね」
怜花は柔らかく微笑む。夜の薄暗い中でもその笑顔がはっきり分かるほど、穏やかでまっすぐな表情だった。
「……お前らには負けたよ」
どう考えても断れないと悟り、燈也はあっさり白旗を上げた。
そこへ――
「おいおい、不知火ぃ? いつの間にそんな可愛い子ちゃん達と仲良くなったんだ?」
そこに郷夜がひょっこり現れ、さっそく怜花へとロックオンする。
「へーい。オレ様は風間郷夜かざまごうや、不知火の親友さ。よろしくな、お嬢さん」
さっそく怜花にキラキラした笑顔を向けてくる。
「私は加ヶ瀬怜花です。こちらこそ、よろしくお願いします」
怜花は丁寧にお辞儀じぎをした。
「へぇ~怜花ちゃんって言うのかい? 名前まで可愛いとか反則だね。どう? お近づきの印に、これからディナーでも…」
まるでドラマの主人公かのように流れるような動作で誘う風間。怜花が困っているのにも気づかない。
「あ、あの……」
怜花は一歩下がり、視線が泳ぐ。
「おい、それぐらいにしておいてくれ。っていうかお前まで何で来てるんだよ?」
燈也が割って入り肩を掴つかむ。
(魔法執行部とは無関係のはずだろ、お前…)
しかし郷夜は余裕の笑みを崩さない。
「それがさ、オレ様の下駄箱げたばこにこれが入ってたんだよね」
誇らしげに取り出したのは――どう見てもラブレター。
ハートのシールまで貼ってある。あからさま過ぎて逆に怪しいレベルだ。
「手紙?」
燈也は封筒ふうとうを受け取り、中を読んでみる。
「えーと……“郷夜くんへ。今日の夜、校門前で待ってます”……?」
その瞬間、郷夜の顔が“来た!”とばかりに輝いた。
「フッ……モテ過ぎってのも困るぜ」
星でも飛んでいるのではと思うほど、キラリとウインクまで決める。
そこへ――
「待たせたわね」
冷静な、しかし芯のある声が響いた。
振り向くと、メモを書いた本人――魔法執行部部長・高天原帝亜たかまがはらてぃあが現れた。
後ろには工藤英明くどうひであき、日向雄介ひゅうがゆうすけ、如月愛紗きさらぎあいしゃ、セフィリアの四名も続く。
「あら? 加ヶ瀬さん達まで来てくれたのね」
帝亜が怜花に気づき、柔らかく微笑む。
「あの……ご迷惑でしたか?」
怜花が少し不安げに尋たずねる。
「そんなことないわ。むしろ助かるわよ。人手が欲しかったところだし。
リエラさんもよろしく」
「もちろんよ」
リエラは胸を張って答える。
「別に要らない思うけど…?」
セフィリアが悪態をつく
「なんですって!」
二人の仲は相変わらずのようだ。
「さて、それじゃあここに呼んだ理由だけど――」
帝亜が切り出そうとしたその瞬間。
「ちょい待った。オレ様を忘れていないかい?」
郷夜がずいっと前に出てきた。
「この手紙でオレ様を呼んだのは、どこのハニーだい?」
ラブレターを掲かかげ、なぜか決めポーズ。誰も求めてない。
帝亜は眉間に皺しわを寄せる。
「なにそれ? 私達は知らないわよ?」
「おいおい、冗談がキツイぜ。確かに“ここ”って書いてあったんだぜ?」
「あっ……お前、これ宛名あてなが違うぞ」
燈也が冷静に突っ込んだ。
「え……?」
郷夜は慌てて封筒を奪い返し、震える手で読み返す。
そこにはしっかりと――
“香山かやまくんへ”
と書いてあった。
「……」
郷夜の目がぐるぐる回り始め、次の瞬間には腕全体がぶるぶると震え出した。
(……流石に哀れ過ぎる)
「……ドンマイ」
燈也がそっと肩に手を置く。
「チクショォォォォー!!!」
絶叫しながら郷夜は闇の中へ走り去っていった。
「えーと……それじゃあ、気を取り直して本題に入るけど……」
帝亜は大きくため息をつき、表情を整えて改めて前に向き直った。
「あなた達をここに呼んだ理由。それは――【学校に出没する《幽霊》の調査】よ」
「幽霊?……そういや昼間に聞こえた噂話……あれも」
燈也には思い当たるものがあった。
「そう。数日前から報告が急増してるの。夜になると校舎内を彷徨う“白・い・影・”。声だけの怪現象。備品の自動移動。…まぁ、ありがちな話ばかりなんだけど」
帝亜は肩をすくめながらも、すぐ真剣な表情に戻した。
「でもよ。幽霊なんて迷信だろ?本当にいるわけが……」
燈也が眉をひそめると、帝亜はわざとらしく咳払いした。
「私だって幽霊なんて信じてないわ。でもね、こうして生徒の話が集まる以上、放っておけは置けない。だから調査が必要なの……あ、言っとくけど怖いとかじゃないわよ? 全然」
「ひひ……」
誰かのニヤついた声が背後から聞こえる。
「ヒトデだあああぁぁーーー!!」
「……ッッッ!!!???」
帝亜の喉のどから、悲鳴とも無音ともつかない息が漏もれた。完全に固まっている。
(っていうか…なんでヒトデなんだ……?)
燈也が目を細めた瞬間、帝亜の背後からひょっこりと影が現れる。
「ふふふっ……セレナ先生だぞ〜」
「先生までどうしてここに?」
「仲間外れは寂しいじゃない?それに私は魔法執行部の新しい“顧・問・”なんだから問題は無いと思うけど?」
「アンタが顧問かよ……」
燈也の眉がピクリと跳ね上がる。
“なんでよりにもよってこの人が”と言いたげな顔だ。
「不満なのかな?」
セレナは笑顔のまま、しかし目だけが鋭くなる。
「いや別に……俺はただの助っ人だから誰が顧問でも構わねぇよ」
「それより、部長さんよ。どうやって“白い影”を探すつもりなんだ?」
その瞬間、帝亜の肩がビクリと震えた。
(あ、これガチで怖がってるやつだ……)
「……? 顔色悪いが大丈夫か?」
英明がのぞき込むと、帝亜はびくっと後ずさりした。
「だ、大丈夫に決まってるでしょ! ぜ、全然怖くないし!!」
声が半音上ずっている。
「流石、部長さん! 凄いです!」
愛紗が純粋無垢じゅんすいむくな瞳でキラッと褒ほめた。
帝亜は一瞬で背筋を伸ばし、ドヤ顔を作る。
「フッ……当然じゃない」
自信満々に胸を張った、その直後。
「わぁっ!!」
「ひっ!!?」
セレナが背後から手を伸ばして驚かせると、帝亜は情けないほど高く跳び上がった。
(完全に怖がってるな……)
燈也は心の中で静かに突っ込む。
帝亜は息を荒げながら必死に平常心を取り戻し、ひとつ咳払せきばらいして本題へと入る。
「はぁ……はぁ……と、とにかく。何か“正体不明のもの”がいる以上、単独行動は危険よ。これから班に分かれて校内を調べるわ」
校舎の奥から吹き抜けてくる風が、夜の冷気をさらに強くする。
窓ガラスがキィ…とわずかに鳴った。
「皆さん、気をつけていきましょう!」
怜花が皆を鼓舞こぶする。
「大丈夫! ハニー達はオレ様が守るからね!」
いつの間にか戻ってきていた郷夜が、胸に手を当ててキメ顔。
「お前いつの間に戻ってきたんだよ……」
「良いじゃねぇか。オレ様だって可愛い子ちゃんとイチャイチャしたいんだよ」
「……ったく。遊びじゃねぇんだぞ」
燈也は呆れ、リエラは苦笑い。
怜花は相変わらず微笑んだままだ。
「こんな連中で……本当に大丈夫、なんだよな?」
「大丈夫ですよ、燈也さん。大勢の方が楽しいですし」
怜花の柔らかい声に、燈也は僅かに肩の力を抜いた。
「……まぁ、お前が言うなら」
帝亜は気持ちを切り替えるように手を叩いた。
「それじゃあ――愛紗、皆にアレを」
「はい! じゃじゃ〜ん! その名も“どこでも無線機~!”ですっ!」
愛紗が得意げに、側面に青白く光るラインが見える、腕時計のようなものを配り始める。
魔導製品っぽいが市販さているようなものではない。
「使う時は真ん中のボタンを押してください。」
燈也は眉を寄せた。
「色々……大丈夫か?」
「はい! 自信作ですから!」
「いや、そういう意味じゃ……まぁいいか」
愛紗の満面の笑顔に押されて、もう何も言えなくなった。
ふと燈也は、周囲にいるべき人物の姿がないことに気づく。
「あれ? ……そういえば」
「なにかしら?」
「ななみの姿が見えないんだが。何かあったのか?」
帝亜の瞳が、一瞬だけ揺れた。
さっきまでの大げさな反応とは違う、静かな揺れ。
「あら、気になるのかしら?」
「そんなんじゃねぇよ。真面目に答えろ」
帝亜はかすかに笑い、そして伏し目ふしめがちに呟つぶいた。
「……大したことじゃないわ。ただ――あの子、可愛いでしょ。夜なんかに出歩いて、また変なヤツに絡まれたら困るのよ」
「それに――今は“思・い・出・さ・せ・た・く・な・い・”のよ」
「どういう意味だ?」
燈也は言葉の裏を探ろうとするが、帝亜が遮さえぎる。
「なんでもない。忘れなさい」
即答だった。
その表情は、どことなく脆く見えた。
「お前らしくないな」
「うるさいわよ、工藤」
帝亜は話題を完全に切り上げるように、パンッと強めに手を叩いた。
「それじゃあ。私達C班は1階。B班は2階。A班は3階を調べるわ。――いい? 気を抜かないで」
夜の校舎は、息を呑むほど静かだった。
そして――
校舎の奥の闇で、確かに“誰か”が笑った気がした。
次回予告 『第12想 幽霊少女の序曲』
班に分かれ、静まり返った夜の学園で幽霊調査を始めた燈也達。
闇に包まれた校舎、軋む廊下、現れる白い人影の姿。
それは本当に幽霊なのか、それとも――。




