第106想 部活動設立選抜レース、開幕――夢を掴むのは誰だ(1)
――レース当日。
朝の空気は、いつもより張りつめていた。
校内放送が鳴り響き、魔法競技用フィールドの開放が告げられると、生徒たちが一斉に動き出す。
観客席へ向かう者。
出場チームとして控室へ向かう者。
そして――“賭けられた未来”を背負う者たち。
魔法競技フィールド前。
広大なコースを囲むように、生徒たちが集まり始めていた。
「うおお……思った以上に人いるな」
郷夜が腕を組み、楽しそうに口笛を吹く。
「これだけ注目される条件なら当然でしょ」
流水は涼しい顔で言いながら、視線はしっかりとコースのスタート地点に向けられている。
「……聖妓、緊張してなければいいけど」
「だ、大丈夫ですよ。きっと……」
癒水は胸の前で手を組み、小さく祈るように呟く。
「フフ…演劇部チームの力、期待しているぞ。」
白金凛は柔らかく微笑みながら、観客席の手すりに肘を置いた。
その隣では――
「せーぎちゃんっ! ともっちーっ! がんばれーっ!!」
柊ななみが両手を大きく振り、声の限りに叫んでいる。
「ビビビー!」
一緒に抱えているビビデバビルと共に周囲の生徒からも視線を集めるほどの元気さだ。
「ちょ、ななみちゃん。落ち着いて。」
リエラが苦笑しつつも、視線は真っ直ぐフィールドへ向けられている。
「……でも、来てよかった」
その表情は穏やかだが、内心の想いは誰よりも強かった。
「聖妓さん、燈也さん。頑張って下さいね。」
怜花もまた演劇部の勝利を祈っている。
そんな応援席の少し後方、
人混みからわずかに距離を取るように、一人の女子生徒が立っていた。
長い黒髪を背中に流し、腕を組んだまま無言でフィールドを見つめる――
光野黒子。
元・演劇部員。
(……まだ、やるつもりなのね)
冷めたような視線。
だが、その瞳の奥には、“残り火”が、かすかに揺れていた。
(でも無理よ……どうせ)
そう思いながらも、視線は自然と聖妓へと引き寄せられる。
――正義を掲げ、退かないあの背中。
「……馬鹿ね」
黒子は小さく呟いた。
けれど、その足は、
最後までここを離れるつもりはないようだった。
歓声、期待、疑念。
さまざまな想いが交錯する中――
レース開始の合図が、
まもなく鳴り響こうとしていた。
観客席の熱気は、すでに限界を超えていた。
魔法光、応援魔術、歓声が渦を巻き、スタートエリアを包み込む。
『さぁさぁ皆さん!大変長らくお待たせしました―!』
テンション高くマイクを握るのは、放送部の――十文字 吉良。
『本日は!“部活動設立権”を賭けた特別レース!』
『勝てば設立!負ければ夢は泡と消える!いやぁ~実に学園らしいイベントですねぇ!』
観客席から笑いと歓声が上がる。
『今回の参加チーム数は――なんと15!これにはビックリですね。』
その隣で、腕を組み冷静にコース全体を見渡しているのは――
魔法執行部員の如月 愛紗。
『ええ。各チーム、目的も実力もまちまちですが……』
『その分、予測不能な展開になるでしょう』
『さすが解説は真面目だ!』
『愛紗さん、個人的に注目してるチームはありますか?』
一瞬の沈黙。
如月は視線を走らせ――
不知火燈也、そして真条聖妓たちが待機するスタート位置で、わずかに目を止めた。
『……“覚悟”を持って走るチーム、ですね』
その一言に、観客席がざわめく。
夢。意地。再建への執念。
それぞれの想いを背負ったチームが、同じスタートラインに立つ。
『それではチーム紹介だ!』
スタートラインに並ぶのは、
それぞれの部の未来を背負った第1走者たちだ。
『まず目を引くのは、全員ホウキの異色集団、演劇部チーム!第1走者は、相沢恒一!』
ホウキの後部に火の魔法装置が取り付けられ、
ロケットのような噴射音が鳴る。
「火力特化のスタートダッシュ型!」
「真条聖妓を中心にしており、その実力は未知数だ!」
その視線の先、
アイテムを携え静かに立つ部長の姿が印象的だった。
観客の生徒たちもざわめく。
「おい、不知火の姿もあるぞ。」
「Sランクまで出場してるのかよ!?」
次回 『第107想 部活動設立選抜レース、開幕――夢を掴むのは誰だ(2)』
いよいよ――部活設立を賭けたレース当日。
ギリギリで参加資格を掴んだ演劇部チーム。
だが会場には、
同じ夢を抱くライバルたちが集結していた。
譲れない想いが、今ぶつかる――




