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Himeyuri ―魔法嫌いの元学園最強と、幼馴染の約束から始まる魔法学園譚ー  作者: 小鳥遊 千夜
第三章 演劇部再建編 

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第103想 卑劣なる一手、揺るがぬ正義


 

「来るぞ!」


 燈也(ともや)が叫んだ瞬間――


 狂四郎(きょうしろう)の姿が、夜の闇に掻き消えた。



 地面が砕け、砂煙だけが残る。


「消えた?いや…」



 次の瞬間、燈也の視界の端に影。


惨滅殺(マッドネス・アッパー)


 強化された拳が空気を裂き、障壁ごと燈也を弾き飛ばす。

 衝撃波だけで地面が抉れ、亀裂が走った。


「くっ……!」


 体勢を立て直そうとする燈也。


 だが狂四郎は追撃しない。


 代わりに、くるりと方向を変えた。


 視線の先――


 スタートゲートの支柱。


「なっ……!?」


「二人まとめて相手してやる義理はねぇよ」


 狂四郎が地面を蹴る。


 一直線に、レース設備へ。


「しまっ――!」


 聖妓が叫ぶ。


獄・(クライオ・)裂氷殺(ジェノサイド)!!≫


 黒紫に変色した氷を帯びた拳が横薙ぎに振るわれる。


 だが狙いは、聖妓ではない。


 ゴォッ!!


 氷の衝撃が支柱の根元を凍結させ、亀裂を走らせる。


「やめなさい!!」


 聖妓が銃を構える。


≪グーテ・ゲレティヒカイト≫


 雷光を帯びた弾丸が放たれる。


 だが狂四郎は振り返りもせず、横へ跳ぶ。


 弾丸は支柱すれすれを掠め、フェンスへと跳弾した。


「ハッ!撃てば撃つほど、壊れるかもなァ?」


 卑劣な笑み。


「卑怯者……!」


「ハハッ!勝てばいいんだよ!!」


 再び跳躍。


 今度は魔力感知装置へと拳を振り上げる。


渾身殺(マッド・インパクト)!!≫


「させるか!」


 燈也が滑り込み――


魔断(マギ・ブレイク)≫を放つ。


 魔力の刃が狂四郎の腕を逸らす。


 だが――


 それすらも、狂四郎の狙い通りだった。


「甘ぇ!」


 空いたもう一方の腕が、逆方向へ。


獄・(ヘルズ・)狂乱殺(オーバードライブ)!!≫


 禍々しい魔力を帯びた身体で聖妓に迫る。


「っ――!」


 支柱を守るため動きを止めていた聖妓の隙を突く。


 衝撃が爆ぜ、彼女の身体が弾かれる。


「お前が守りたいのはこれだろォ!?」


 狂四郎はスタートゲートを蹴り上げる。


 金属が軋む。


「守りながら戦えるか? あぁ!?」


 燈也が歯を食いしばる。


(こいつ……最初からそれが目的か……!)


 戦うのではなく――

 “守らせる”。


 設備を盾にし、夢を人質に取る。


 卑劣。だが、二人は成す術はない。


「壊す……!」


 狂四郎が両腕を振り上げる。


「レースも! お前らの希望も!!」


 月明かりの下。


 守る者と、壊す者。


 二人は同時に地面を蹴った。



「っ!」


≪ツェデック・マゲン≫


 聖妓は停滞弾を何重にも展開し、盾のように前方へ並べる。

 だが――


 ドォンッ!!


 叩きつけられた拳の衝撃で、弾が次々と弾け飛ぶ。

 砕けた光が散り、聖妓の身体が後方へ吹き飛ばされた。


「正義がどうとか……

 そんなの、力の前じゃ無意味なんだよォ!!」


獄・(ヘルズ・マッド)渾身殺(インパクト)!!≫


 狂四郎は二人を狙いながら、わざと軌道を逸らす。


 拳がスタートゲートの支柱を掠め、

 衝撃波が魔力感知装置を震わせる。


 ガギンッ――!


 金属が悲鳴を上げる。


「くっ……!」


魔断(マギ・ブレイク)!!≫

 燈也は魔法の刃で拳の角度を逸らす。


 刃は狂四郎を切るためではない。


 設備から“遠ざける”ための一撃。


「守りながら戦えるかァ!?」


 狂四郎は嗤う。


 今度はフェンスを蹴り上げ、

 跳ね返った反動を利用して聖妓へ肉薄。


 だが、その背後には――

 凍りつきかけた支柱。


「聖妓、右!」


 燈也が叫ぶ。


 聖妓は撃てない。


 撃てば跳弾が装置に当たる可能性がある。


 一瞬の迷い。


 そこへ――


獄・(ヘルズ・)魔塵殺(カタストロフ)


 凄まじい連続打撃が放たれる。


 聖妓は銃のグリップで受け流し、体を回転させて衝撃を逃がす。

 だが足元は装置のすぐ横。


 一歩引けば、支柱が壊れる。


「正義のヒーローは辛いよなァ!」


 狂四郎がわざと支柱の真横に立つ。


「守るもんが多くてよォ!!ハハハッ!!」


 魔力を纏った拳が振り下ろされる。


 ≪魔法障壁(プロテクション)!!》


 燈也が割り込みバリアを展開する――


 衝撃が爆ぜ、三人の間に砂煙が立ち上った。


「チッ……!」


 燈也が距離を取る。


(出力が上がってる……!)


 だが何か様子がおかしい――


 狂四郎の踏み込みが、ほんの一瞬だけ乱れた。


「……?」


 拳の戻りが、わずかに遅い。


 聖妓の目が細まる。


 狂四郎自身も気付いた。


「……は?」


 呼吸が荒い。


 視界が揺れる。


 足が、思ったより前へ出ない。


次回 『第104想 薬の代償と正義の銃弾』



追い詰められた狂四郎が選んだのは、最後の奥の手。


二人はこの舞台を守り切れるのか?


そして、激闘はついに決着へ――


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