第103想 卑劣なる一手、揺るがぬ正義
「来るぞ!」
燈也が叫んだ瞬間――
狂四郎の姿が、夜の闇に掻き消えた。
地面が砕け、砂煙だけが残る。
「消えた?いや…」
次の瞬間、燈也の視界の端に影。
≪惨滅殺≫
強化された拳が空気を裂き、障壁ごと燈也を弾き飛ばす。
衝撃波だけで地面が抉れ、亀裂が走った。
「くっ……!」
体勢を立て直そうとする燈也。
だが狂四郎は追撃しない。
代わりに、くるりと方向を変えた。
視線の先――
スタートゲートの支柱。
「なっ……!?」
「二人まとめて相手してやる義理はねぇよ」
狂四郎が地面を蹴る。
一直線に、レース設備へ。
「しまっ――!」
聖妓が叫ぶ。
≪獄・裂氷殺!!≫
黒紫に変色した氷を帯びた拳が横薙ぎに振るわれる。
だが狙いは、聖妓ではない。
ゴォッ!!
氷の衝撃が支柱の根元を凍結させ、亀裂を走らせる。
「やめなさい!!」
聖妓が銃を構える。
≪グーテ・ゲレティヒカイト≫
雷光を帯びた弾丸が放たれる。
だが狂四郎は振り返りもせず、横へ跳ぶ。
弾丸は支柱すれすれを掠め、フェンスへと跳弾した。
「ハッ!撃てば撃つほど、壊れるかもなァ?」
卑劣な笑み。
「卑怯者……!」
「ハハッ!勝てばいいんだよ!!」
再び跳躍。
今度は魔力感知装置へと拳を振り上げる。
≪渾身殺!!≫
「させるか!」
燈也が滑り込み――
≪魔断≫を放つ。
魔力の刃が狂四郎の腕を逸らす。
だが――
それすらも、狂四郎の狙い通りだった。
「甘ぇ!」
空いたもう一方の腕が、逆方向へ。
≪獄・狂乱殺!!≫
禍々しい魔力を帯びた身体で聖妓に迫る。
「っ――!」
支柱を守るため動きを止めていた聖妓の隙を突く。
衝撃が爆ぜ、彼女の身体が弾かれる。
「お前が守りたいのはこれだろォ!?」
狂四郎はスタートゲートを蹴り上げる。
金属が軋む。
「守りながら戦えるか? あぁ!?」
燈也が歯を食いしばる。
(こいつ……最初からそれが目的か……!)
戦うのではなく――
“守らせる”。
設備を盾にし、夢を人質に取る。
卑劣。だが、二人は成す術はない。
「壊す……!」
狂四郎が両腕を振り上げる。
「レースも! お前らの希望も!!」
月明かりの下。
守る者と、壊す者。
二人は同時に地面を蹴った。
「っ!」
≪ツェデック・マゲン≫
聖妓は停滞弾を何重にも展開し、盾のように前方へ並べる。
だが――
ドォンッ!!
叩きつけられた拳の衝撃で、弾が次々と弾け飛ぶ。
砕けた光が散り、聖妓の身体が後方へ吹き飛ばされた。
「正義がどうとか……
そんなの、力の前じゃ無意味なんだよォ!!」
≪獄・渾身殺!!≫
狂四郎は二人を狙いながら、わざと軌道を逸らす。
拳がスタートゲートの支柱を掠め、
衝撃波が魔力感知装置を震わせる。
ガギンッ――!
金属が悲鳴を上げる。
「くっ……!」
≪魔断!!≫
燈也は魔法の刃で拳の角度を逸らす。
刃は狂四郎を切るためではない。
設備から“遠ざける”ための一撃。
「守りながら戦えるかァ!?」
狂四郎は嗤う。
今度はフェンスを蹴り上げ、
跳ね返った反動を利用して聖妓へ肉薄。
だが、その背後には――
凍りつきかけた支柱。
「聖妓、右!」
燈也が叫ぶ。
聖妓は撃てない。
撃てば跳弾が装置に当たる可能性がある。
一瞬の迷い。
そこへ――
≪獄・魔塵殺≫
凄まじい連続打撃が放たれる。
聖妓は銃のグリップで受け流し、体を回転させて衝撃を逃がす。
だが足元は装置のすぐ横。
一歩引けば、支柱が壊れる。
「正義のヒーローは辛いよなァ!」
狂四郎がわざと支柱の真横に立つ。
「守るもんが多くてよォ!!ハハハッ!!」
魔力を纏った拳が振り下ろされる。
≪魔法障壁!!》
燈也が割り込みバリアを展開する――
衝撃が爆ぜ、三人の間に砂煙が立ち上った。
「チッ……!」
燈也が距離を取る。
(出力が上がってる……!)
だが何か様子がおかしい――
狂四郎の踏み込みが、ほんの一瞬だけ乱れた。
「……?」
拳の戻りが、わずかに遅い。
聖妓の目が細まる。
狂四郎自身も気付いた。
「……は?」
呼吸が荒い。
視界が揺れる。
足が、思ったより前へ出ない。
次回 『第104想 薬の代償と正義の銃弾』
追い詰められた狂四郎が選んだのは、最後の奥の手。
二人はこの舞台を守り切れるのか?
そして、激闘はついに決着へ――




