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Himeyuri ―魔法嫌いの元学園最強と、幼馴染の約束から始まる魔法学園譚ー  作者: 小鳥遊 千夜
第三章 演劇部再建編 

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第102想 暴走する狂気――それでも正義は退かない


 レースも明後日に迫る中。

 月明かりに照らされたレース会場――学園外周の特設コースは、

 昼間の喧騒(けんそう)が嘘のように静まり返っていた。


 だが、その静寂を壊すように――


「……へへ」


 不気味な笑い声が闇の中に響く。


「ただ、あの二人をぶっ飛ばすだけじゃ、俺の気は済まねぇ。あれだけコケにしてくれやがったんだ。

 徹底的にぶっ潰してやる。そうあいつらの夢も全部な。」


 小木狂四郎(こききょうしろう)は、魔法アイテムを抱え、コースの支柱に近づいていた。


 スタートゲート、障害物、魔力装置――

 どれも明日のレースには欠かせないものだ。


「これを壊しゃ中止」


「中止になりゃ……アイツらの夢も終わりだ」


超化殺(オーバードーズ)


 薬を噛み砕くと、身体が一気に膨れ上がる。


 腕に浮かぶ血管。荒れる呼吸。


「さぁて……まずはここから――」


 ガンッ!


 支柱に拳を叩き込もうとした、その瞬間。


「――そこまでよ」


 凛とした声。


 狂四郎が振り返ると、月明かりの下に金髪ツインテールの少女――真条聖妓(しんじょうせいぎ)が立っていた。


 短銃を構え、まっすぐこちらを睨んでいる。


「……来やがったか。正義女。」


「お前に仕返しする前に、ここをぶっ壊して、絶望した顔を拝んでやろうと思ったが、丁度いい。

 ここでお前もレースもまとめてぶっ壊してやるよ!!!!」


「どこまでも最低なヤツね。このレースは皆の努力と覚悟で出来てる」


 一歩、前に出る。


「それを壊すなら――」

「私は、絶対に許さない!」


 狂四郎が唾を吐くように言い放つ。


「ヒーロー気取りか?くだらねぇ…」


 短銃を構えたまま、聖妓は淡々と答える。


「正義は、行動で示すものよ!」


 引き金にかけた指が、わずかに締まる。


≪グーテ・ゲレティヒカイト≫


 銃口の周囲に、雷を帯びた弾丸が次々と展開される。


 弾丸同士が繋ぎ、まるで裁きの陣列のように宙へと浮かび上がった。


「ケッ、生意気な――!!」


 狂四郎は地面を蹴り、獣のように距離を詰める。


惨滅殺(マッドネス・アッパー)!!≫


 薬で強化された拳が、唸りを上げて振り上げられる。


 一撃で壁を砕きかねない、まさに暴力そのもの。


 だが――


≪ツェデック・マゲン≫


 空間に停滞弾が展開され、拳の進路を“押し曲げる”。

 ほんの一瞬のズレ。だが、それで十分だった。


「なにっ!?」


 狂四郎の拳は空を切る。


「力に頼りすぎよ!」


≪ジャスティス・リフレクション≫


 放たれた弾丸が、地面、フェンスを跳ねる。


 跳弾、跳弾、跳弾――

 逃げ場を奪うように、狂四郎を包囲していく。


「クソがぁ!!」


 怒号と共に、狂四郎の目から理性が消える。


狂乱殺(ヘルズ・レイジ)!!≫


 身体のリミッターが外れ、筋肉が異様に膨張し衝撃と

 獣じみた咆哮が、夜の会場を震わせる。


「壊してやる!! 全部だァ!!」


 だが――

 聖妓は、一歩も引かなかった。


 足を踏みしめ、銃を構え直す。


「――正義は、退かない!」


 その瞳には、恐怖よりも強い決意が宿っている。


「この場所は……明日を目指す人たちのものよ」


 夜のレース会場で――

 正義と狂気が、正面から激突する。


「ハァァァァッ!!」

 狂四郎の足が、地面を砕く。


渾身殺(マッド・インパクト)!!≫

 正拳が突き出され、衝撃波が空気を震わせる。


「くっ……!」


 聖妓は停滞弾で軌道をずらすが――


「チィッ!」


 完全には止めきれない。

 拳の余波が聖妓の身体を吹き飛ばし、地面を転がる。


「どうしたァ!?

 お前の正義はそんなもんかよォ!!」


裂氷殺(アイス・ジェノサイド)!!≫

 氷属性を帯びた腕が振り下ろされる。


「――っ!」


 間一髪で避けるが、地面が凍り、足を取られる。


「しまった…!!」


≪ツェデック・マゲン≫

 即座に停滞弾を盾として展開。


 だが――

 バキン、と音を立てて砕かれる。


「ハハッ……防御も限界かァ?」


 狂四郎は嗤う。

 完全に間合いを支配していた。


「もう終わりだァ!!

 正義サマよォ!!」


 拳を振り上げる狂四郎。


 その瞬間――


「そこまでだ」


 低く、しかしはっきりとした声。


「……あ?」


 次の瞬間、狂四郎の身体が横から吹き飛ばされた。


魔断(マギ・ブレイク)!!≫


 魔力の刃が空気を裂き、狂四郎を叩きつける。


「――チッ!」


 転がりながらも受け身を取る狂四郎。


 その前に立ったのは――


「遅くなったな」


 燈也が、聖妓の前に立つ。


「不知火……燈也……!」


 息を整えながら、聖妓が名を呼ぶ。


 燈也は一度だけ振り返り、短く言った。


「ここからは二人だ」


 狂四郎は舌打ちし、歪んだ笑みを浮かべる。


「てめぇ…また邪魔をしに来やがったか…!!!」


「……クソが……クソクソクソ……!」


 視線の先には、不知火燈也と真条聖妓。


 二人に挟まれた状況を、嫌というほど理解していた。


(だが、今回は奥の手がある。二回も引き下がるなんて俺のプライドが許さねぇ。何としてでも勝つ。)



 舌打ちし、震える手を制服の内側へ突っ込む。


「……まだだ」


 取り出したのは、小さなアンプル。

 どす黒い液体が、不気味に揺れていた。


「おい、まさか――」

 燈也が一歩踏み出す。


 だが遅い。


「黙れェ!!」


 狂四郎は迷いなく、それを首筋へ突き立てた。


 ――ブシュッ。


「ぐ……あ、あァァァァァァッ!!」


 血管が浮き上がり、全身が不自然に膨れ上がる。

 筋肉が軋み、骨が悲鳴を上げるような音が響く。


超化殺(オーバー・ドーズ)!!≫


 再び薬による、強制的な肉体強化。


「ハァ……ハァ……ッ!」


 次の瞬間――


(ヘルズ・)狂乱殺(オーバードライブ)!!≫


 先ほどよりも禍々しい魔力を帯びた身体から殺気と

 衝撃を放ちながら、獣のように咆哮する。


「オオオオオオオオオッ!!」


 もはや人の声ではない。


 地面を踏み砕き、狂四郎が跳ぶ。


獄・(ヘルズ・)魔塵殺(カタストロフ)!!≫


 魔力を帯びたの拳が、嵐のように振るわれる。


「チッ――!」


 燈也が迎撃に入る。


魔断(マギ・ブレイク)!!≫


 魔力の刃が直撃――するはずだった。


「……効かねぇよォ!!」


 狂四郎の腕が、刃を弾き飛ばす。


「なっ……!?」


「ハハ……ハハハハ!!

 どうしたァ!?

 さっきまでの余裕はよォ!!」


獄・(クライオ・)裂氷殺(ジェノサイド)!!!≫

 黒紫に変色した氷を帯びた腕が地面を叩きつけ、衝撃と冷気が爆発する。


「くっ……!」


 氷で阻まれ燈也が後退する。


 その隙を――狂四郎は見逃さない。


「次は女だァ!!」


 一瞬で距離を詰める。


「――ッ!」


 聖妓が銃を構える。


≪ツェデック・マゲン≫

 停滞弾で動きを止めようとするが――


 バキンッ!!


 強化された肉体が、それを力任せに破壊する。


「正義ィ!?

 そんなもん、力の前じゃ意味ねぇんだよ!!」


 拳が振り下ろされる。


(――まずい)


 聖妓が歯を食いしばった、その瞬間。


「させるかよ」


 燈也が真正面から割り込み、両手をかざす。


魔法障壁(プロテクション)!!≫


 半透明の障壁が展開され、直後――


 ドォンッ!!


 拳と障壁が激突し、衝撃が炸裂する。

 衝撃波が周囲へ広がり、三人の足元の砂利が吹き飛んだ。


 燈也と聖妓は同時に後方へ弾き飛ばされる。


「チッ……直撃は避けやがったか、だがそれも無駄だ。」


 狂四郎は肩を回しながら、歪んだ笑みを浮かべる。

 その目は、もはや理性の色を残していない。


「どうせ、ぶっ壊してやるんだからなぁ……全てを……」

「レースも……お前らも……!」


  夜の会場に、狂笑が響く。

  ――その時。

  「そうか……レースだ」


  ぼそりと呟いた声は、どこか冷静だった。


(何もバカ正直にこいつらをやる必要はねぇ――)


  狂四郎の口元が吊り上がる。


次回予告 『第103想 卑劣なる一手、揺るがぬ正義』


追い詰められた狂四郎が選んだのは、卑劣な一手。


狙いは――レース会場そのもの。


守りながら戦うという、最悪の状況。

二人はこの舞台を守り切れるのか?




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