第101想 復讐に燃える不良と、正義に憧れた少年
自分のアジトへと戻った狂四郎だが怒りは収まらず、拳を握る。
「クソがッ!!」
彼の叫びと共に、拳が壁を叩きつけ、鈍い衝撃音が響く。
薬の効果が切れ始めていたせいか、身体は痺れ、拳には血が滲む。
だがそれでも狂四郎の目は殺気に満ちていた。
「……おい、どういうことだよ」
低い声で詰め寄るのは、例の“部活動設立レース”で演劇部を潰そうと企んでいた男子生徒達だ。
「お前、俺たちの頼み聞いたんだろ?」
「なのに結果はどうだ? あの女、普通にピンピンしてるじゃねぇか!」
狂四郎のこめかみに、ピキッと青筋が浮かぶ。
「あぁ?」
低く、喉の奥から這い出るような声。
「俺が……負けたって言いてぇのか?」
「事実だろ!」
男子生徒は引き下がらない。
「ボス気取りでさ、偉そうにしてたくせに――」
その瞬間。
「――調子乗んなよ、雑魚が」
狂四郎の足元で、瓦礫が砕け散る。
いつの間にか取り出していた薬を一気に飲み干し、身体から異様な気配が噴き上がる。
≪超化殺!!≫
筋肉が不自然に膨張し、魔力と薬物の混ざった歪なオーラが漂う。
「な……なにを……」
男子生徒が後ずさる。
狂四郎はゆっくりと首を傾げた。
その目は血走り、焦点がどこか定まっていない。
「俺に文句言える立場だと思ってんのか?」
怒鳴るわけでもないのに、底冷えする声だった。
にやり、と口元が歪む。
次の瞬間――
≪渾身殺!!≫
鈍い衝撃音と共に異常に強化された拳を振り下ろす。
男子生徒は悲鳴すら上げられず、地面に叩きつけられた。
受け身も取れず、息が止まったように動かない。
「ひっ……!」
一緒にいた生徒たちは倒れた仲間を顧みる事もせず、一斉に逃げ出した。
狂四郎は倒れた生徒を見下ろし、吐き捨てる。
「今回は邪魔が入っただけだ……。俺が弱ぇわけじゃねぇ」
拳を握り締め、歯を食いしばる。
「不知火……それにあの女……」
瞳の奥で、怒りが濁る。
「次は逃がさねぇ。必ず潰す……」
その時――
ドン、と地面を踏み鳴らす重い足音が、背後から響いた。
狂四郎が振り向く。
アジトの入口に立っていたのは、六堂仁。
大柄な体躯。浮き上がる筋肉。
カーリーパーマのボンバーヘッドが、薄暗い光の中で揺れる。
腕を軽く組み、ゆっくりと歩み寄る。
「おいおい、フィーア。いや……狂四郎」
低く太い声。
「暴れすぎじゃねぇか?」
その一言だけで、空気がさらに重くなる。
「ゼクスか……なんだよテメェ」
狂四郎は不機嫌そうに唸る。
ゼクスと呼ばれた仁は倒れている男子生徒を一瞥し、鼻で笑う。
「見りゃわかるだろ、さっきの騒ぎ、」
一歩、距離を詰める。
「女と不知火には手を出すな……」
拳を軽く握る。それだけで関節が鳴る。
「ああ? なんでだよ?」
狂四郎が睨み返す。
仁の口元が、ゆっくりと歪んだ。
「あいつは俺の獲物だ……。それに――」
視線が鋭く細まる。
「女はともかく、不知火はSランク所持者。俺に膝をつかせる程の野郎だ。
調子に乗ってると痛い目を見るぞ?」
その言葉には、誇張がない。
実体験に裏打ちされた重みがあった。
だが――
狂四郎は鼻で笑う。
「はぁ?元Sランクとかだからなんだよ!」
薬で膨れ上がった腕を広げ、仁を睨みつける。
「俺は誰が相手でも関係ねぇ!強くなるためなら手段は選ばねぇ!
ましてやメンツを丸潰れにされてこのまま引き下がれるかよ!」
二人の視線がぶつかり合う。
狂気と、戦闘狂。
仁は拳を軽く握りしめ、力強く地面を踏む。
「はぁ…忠告はしたぞ。」
声が低く、迫力に満ちている。
狂四郎は嗤い、復讐の炎を瞳に宿す。
「ハハッ!不知火も、正義女も、俺が地面に這いつくばらせてやる!」
仁は深く息を吐き、歯を食いしばる。
その圧倒的な筋肉と怪力、戦闘狂としてのオーラを背に、仁は路地を去った。
狂四郎の視線だけが、残された闇に向かって燃えている。
翌日、校庭の片隅で演劇部再建の作戦を話し合う聖妓と燈也達。
そこへ、昨日不良に絡まれていた男子生徒が息を切らしながら駆け寄ってきた。
「せ、聖妓さん……!」
男子生徒は必死に声を張る。
「……何?」
聖妓は、少しツンとした表情で振り返る。
「昨日……あなたが、不良を……倒すのを見て――」
男子生徒の目が輝く。昨日、目の前で繰り広げられた聖妓の戦いぶり、
銃やアイテムを駆使して不良をねじ伏せる姿が忘れられないのだ。
「……その手で……戦って、人を守る……その姿に感動しました!」
男子生徒は胸を張る。
聖妓は驚いたような顔で聞いている。
「僕は……小松翔太。一年生です!是非演劇部に入れてください!」
自分の意思を込めて名乗る。
「魔法はあまり得意では無いですが、
僕も……あなたのように、誰かのために戦える人になりたいんです!」
男子生徒は少し照れながらも、声を震わせず言い切る。
燈也が微笑みながら聖妓の肩を叩く。
「良かったな、真条。」
聖妓は、眉をぴくりと動かす。
「……ふん。……まぁ、あなたの熱意、少しは認めてあげる」
その目には厳しさと同時に、ほんの少しだけ期待の光が宿る。
小松は力強く頷く。
「ありがとうございます…!全力で頑張ります!」
聖妓は腕を組み直し、短銃を軽く掲げて言った。
「……やるからには、絶対成功させるわよ」
小松は決意を込めた目で答え、部員として加わることを誓った。
次の日、残りの部員集めに奔走する主人公達。
だが成果は得られずレース開催日が迫っていた。
「……もう時間、ないわね」
腕を組んだ聖妓が、短く吐き捨てるように言った。
「部員を後二人、顧問も確保しなくちゃならないと…」
燈也は苦笑する。
怜花は掲示板を見上げながら、小さく頷いた。
「はい……でも、まだ諦めるわけにはいきません」
三人は、今日も校内を歩き回っていた。
教室。校庭。部室棟。
声を掛けては、断られる。
「ごめん、レースとか怖くてさ」
「今さら新しい部活はちょっと……」
「演劇部? もう終わった部でしょ?」
その言葉が、何度も胸に突き刺さる。
「……くっ」
聖妓が拳を握りしめる。
「どうして、誰も本気でやろうとしないのよ」
「努力すれば、やり直せるって――」
「真条…焦るな。」
燈也が静かに制した。
「焦るほど、視野が狭くなる」
「……分かってるわよ」
そう言いながらも、聖妓の声には苛立ちが滲んでいた。
怜花は二人の間に立ち、控えめに微笑む。
「でも……少しずつ、前には進んでいます」
「昨日助けた男の子も、入部してたいと言ってましたし」
「ああ」
燈也は思い出す。
緊張しながらも、必死に名乗ったあの少年の目を。
「少しずつだが想いは、確実に伝わってる」
夕暮れの廊下。
窓から差し込む橙色の光が、三人の影を長く伸ばす。
「……まだ、終わってない」
聖妓が顔を上げる。
「正義は、最後まで戦うものよ」
「部員が集まらないからって、諦めるなんて出来ないわ」
「……だな」
燈也が笑った。
「それにお前は中学の頃から、いつもギリギリで困難を乗り越えてた。」
「なっ……!」
聖妓が顔を赤らめ、怜花が小さく笑う。
「ふふ……でも」
「だからこそ、ここまで来れたんですよね?」
「だな。だから今度だってなんとかなるさ。」
燈也が頷きながら微笑む。
レースは、刻一刻と近づいている。
部員は、まだ足りない。
状況は、決して楽ではない。
それでも――
三人は歩みを止めない。
演劇部再建という賭けに、全てを懸けて。
次回 『第102想 暴走する狂気――それでも正義は退かない』
レース開催が迫る中――
静まり返った夜の特設コースに、狂気が忍び寄る。
「夢ごとぶっ潰してやる……!!」
十月花メンバー。小木狂四郎が忠告を無視して
レース会場を破壊しようとしたその瞬間、現れたのは――真条聖妓。
正義と狂気が、月下で激突。
そして狂四郎は禁断の薬に手を伸ばす。
理性を焼き切り、限界を超えた力を解放。
レースは守れるのか?――そして夢は砕かれてしまうのか?




