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Himeyuri ―魔法嫌いの元学園最強と、幼馴染の約束から始まる魔法学園譚ー  作者: 小鳥遊 千夜
第三章 演劇部再建編 

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第100想 弱きを踏み潰す者は、正義を許さない


 夕方。校舎裏のさらに奥、人気の無い倉庫前。


 先ほど聖妓(せいぎ)に叩きのめされた不良の一人が、地面に座り込みながら通信端末を握りしめていた。


「くそ……クソが……!」


 震える指で呼び出しをかける。


「お、俺です……力を貸して下さい……!」


 それからしばらくして。


 重い足音が、ゆっくりと近づいてくる。


「……来た……」


 不良たちが慌てて立ち上がる。


 現れたのは、一人の男子生徒。

 茶色の髪、鋭くはないが濁った目。

 制服の下には、不自然なほど多くの魔法アイテムを身に着けている。


 ――小木狂四郎(こききょうしろう)


 その正体は謎の組織”十月花”の一人。


「俺を呼び出すってことはよ……」

「それなりの理由があるんだよな?」


「す、すみません、狂四郎さん……!」



 不良達が状況を説明する


「女にやられただと?」


 鼻で笑う。



「情けねぇな」


 不良が必死に食い下がる。


「でも、あいつ……本当にムカつくんです!」


「魔法使えねぇくせに、正義とか語って……!」


 その言葉に、狂四郎の表情が一瞬だけ歪んだ。


「弱いくせに調子に乗りやがって…」


 ぎり、と奥歯を噛む音。


「この学園は、力が全てだって教えてやる」


 炎属性の魔力が、指先で小さく揺らぐ。


「“正義”だかなんだか知らねぇが……」


 口元を歪め、笑う。


「俺が粉々に砕いてやる…」


 不良たちは安堵したように頷いた。


「ありがとうございます……!」

「さすがです、狂四郎さん!」


 狂四郎は、校舎の方角を見据える。


「ハハッ…邪魔な芽は、早めに摘むに限ってな。」



 夕暮れの帰り道。

 校舎を離れ、住宅街へ続く細い通学路。


 聖妓は一人、鞄を肩に掛けて歩いていた。


「……嫌な予感がする」


 その直感は、すぐに現実になる。


 ――ガッ。


 前方に、重い音を立てて何かが落ちた。

 アスファルトに、砕けた空き瓶。


「そこまでだ、正義ちゃん」


 低い声。

 路地の影から現れたのは、禍々しい殺気を放つ男――狂四郎。


 茶色の髪、歪んだ笑み。

 細身の身体に不釣り合いな発達した腕。


「あなたは誰?」


「よく聞けよ」


 街灯の下、顔を上げ――


「俺は小木狂四郎!!」


 声が夜気を切り裂く。


「この学園で、弱ぇ奴を踏み潰してきた男だッ!!」


「昼間、俺の手下に随分好き放題してくれたらしいな…?」


「あなた達が先に絡んだんでしょう」


 聖妓は短銃クロス・ライトニングを構え、きっぱりと言い切る。

 足は半身、重心は低い。完全に戦闘姿勢だ。


「弱い人を脅すのは、悪よ」


 その言葉に、狂四郎の顔が歪む。


「はっ……噂通りの正義気取りだなァ、魔法も使えねぇくせによ……」


「魔法が使えなくても――」


 聖妓の視線が鋭くなる。


「間違ってることを止める資格はあるわ」


「けっ……ムカつくんだよ、そういう目!」


 狂四郎はポケットから小瓶を引き抜き、

 躊躇なく中身を煽った。


超化殺(オーバードーズ)!!≫


 筋肉が軋む嫌な音。

 肩幅が広がり、腕が異様な太さへと変わる。


(薬……身体強化系ね)


 聖妓は距離を測り、指を引き金に添え直す。


「行くぞォ!!」


 狂四郎が地面を蹴る。

 一歩が異様に速い。


惨滅殺(マッドネス・アッパー)!!≫

 下から跳ね上がる拳。


「っ!」


 聖妓は横へ跳び、ギリギリでかわす。

 拳が空を裂き、背後の街灯が根元から折れた。


(威力が段違い……!)


 着地と同時に発砲。


≪グーテ・ゲレティヒカイト!!≫


 弾丸が展開し、光の輪となって狂四郎の脚を絡め取る。


「チィッ!」


 狂四郎は無理やり踏み込み、

 拘束を引き裂くように突進してくる。


「遅ぇんだよ!」


 横薙ぎの拳。


 聖妓は銃を盾代わりにして受け流すが、

 衝撃で腕が痺れる。


(重い……!)


 すぐさま後転し、距離を取る。

 足元に小型円盤を二つ、さりげなく転がした。


 狂四郎はそれに気づかず踏み込む。


 ――パチッ。


「なっ――罠!?」


 足元から雷光が弾け、

 一瞬だけ狂四郎の動きが止まる。


 聖妓はその隙を逃さず、連射する。

「貰ったわ!」


 弾丸が肩、脇腹、太腿に命中するが――


「ぐっ……!」


 倒れない。


 むしろ狂四郎は、口角を歪めて嗤った。


「効かねぇ……効かねぇよ!そんな攻撃ッ!!!」


 薬で痛覚を押し潰している。


 狂四郎は瓦礫を掴み、投げつける。


「くっ!」


 聖妓は撃ち落とすが、

 その一瞬の隙に間合いを詰められる。


「反応が遅ぇよ!!」


 ――ドンッ!!


 腹部に衝撃。

 息が詰まり、身体が宙を舞う。


 夜道に、重い衝撃音が響いた。


「がっ……!」


 アスファルトを転がり、壁に背中を打ちつける。

 視界が一瞬、白くなる。


 それでも銃は離さない。


「ハハッ、どうした?テメェの正義はこんなもんかァ?」


 狂四郎が(あざわら)う。


「まぁ…魔法も使えねぇ割には、粘った方だがな…」


 一歩、また一歩。

 拳には炎と闇が絡みつく。


「だが――ここまでだ」


 振り上げられる、決定打の拳。


「あばよ。……正義ちゃん」


(まずい……この距離じゃ――)


 聖妓は歯を食いしばり、

 最後の一発を撃つ覚悟を決めた、その瞬間。


「――そこまでだ」


 低く、落ち着いた声。


 夜の空気が、凍りついた。



 次の瞬間、狂四郎の拳を横から弾き飛ばす衝撃が走った。


「なっ!?」


 間に割って入ったのは、紺色の髪に赤いメッシュの少年。


「……遅くなったな」

 不知火燈也が(しらぬいともや)、聖妓の前に立つ。


「不知火……!」


「下がってろ…!」


 短く言い、狂四郎を見る。


 その視線に、狂四郎は思わず一歩引いた。


(こいつ……空気が違う)


「チッ……助っ人かよ」


 燈也は構えも見せず、ただ静かに言った。


「これ以上やるなら、俺が相手になる」


「薬で強くなったつもりかもしれねぇが……」


 一瞬、狂四郎の背筋に冷たいものが走る。


(あいつらが話してたSランクの用心棒か…この状況でやり合うのは流石に分が悪い。)


 聖妓も気づく。

 狂四郎の呼吸が、わずかに乱れていることに。


「チッ……今日はここまでだ」

 狂四郎が舌打ちする。


「覚えとけよ、正義女」

「次は――」


「次は無いわ」

 聖妓が、きっぱりと言った。


 狂四郎は一瞬睨み返し、闇の中へ、消えていった。



 燈也は、振り返る。


「大丈夫か?」

 倒れた物陰に寄りかかり、息を整える聖妓。

 手に持つ短銃がまだ微かに震えている。


「……あの、ありがとう、不知火」

 聖妓は顔を少し赤らめ、視線を逸らしたままぽつりと言う。



「だけど、別に感謝なんてしてないんだからね!

 アンタに助けられたからって……勘違いしないでよ!」

 ツン、と頬を膨らませ、腕を組む聖妓。


「相変わらず素直じゃねえな。」


「……うるさい!バカ」

 聖妓は叫びながら、照れ隠しに短く舌打ち。


「でも……助かったわ。まあ、次は自分でやれるように頑張るから」

 そう言い残し、聖妓は背を向けて歩き出す。

 跳ねるツインテールが、夕日の光に揺れた。



 燈也は小さく苦笑しながら、その背中を見送った。

「あの分なら大丈夫そうだな…」





次回 『第101想 復讐に燃える不良と、正義に憧れた少年』


部員不足に追い込まれる演劇部にレース開催日が迫る。


そんな中、聖妓の覚悟に心を動かされた少年が名乗りを上げる。


想いは、少しずつ繋がっていく。


だが――

狂四郎の復讐は、まだ終わっていない。


部員は集まるのか?

レースに間に合うのか?

そして、闇は再び牙を剥くのか――。







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