第1話:恋と刺身包丁の間で
伊勢エビ美、16歳。
見た目はちょっと艶っぽい普通のJK。でも体のどこかに、ぷりっぷりの甲殻と甘みを秘めた禁断の身を宿す、禁漁区生まれの伊勢海老ハーフである。
そして彼女には夢がある。
「普通のJKライフを送りたい!」
できれば、いつも笑顔が爽やかすぎる憧れの先輩、鰤崎 魚心と両想いになって、放課後に手を繋いだり、帰り道でアイスを分け合ったり、
もちろん刺身包丁は向けられたくない――そんな、ささやかで切実な夢だ。
しかし――
「……エビ美、今日も美味しそうだな……」
放課後の教室、振り返った彼の瞳には恋心と、もう一つ……腹を空かせた獣のような光が宿っていた。
「え……あ、あの、先輩……今日の放課後、一緒に帰れますか……?」
「もちろんだ……。その前に……ちょっと、いいか……?」
彼の手には、何故か銀色に光る出刃包丁。
「せ、先輩!? えっ!? ちょっと、そういうプレイですか!?」
「違う……違わない……俺はお前が好きだ……! だけど腹も減ったんだ……!!」
恋と食欲が理性を引き裂く。
エビ美は慌てて教室を飛び出す。
「ぎゃーー!! 先輩、落ち着いて!! 私まだバージンでお造りにはなりたくないーー!!」
果たしてエビ美は、
恋されるのか。
調理されるのか。
日本中の料理人と、空腹のイケメンから逃げながら、
今日もぷりぷりの身を守り抜く!!