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スクエラの話①

「クリム? ねえクリム?」

「……」

「おーい」

「……」

「ダメだこりゃ」

「……」


 クリムは遠い目でどこかをみている。物思いにふけっているようだ。昔のことを思い出そうとして、隅々まで思い出しているらしい。


 昔のことか。

 そういえば、最初にクリムに会ったころ、クリムはよくこんな目をしていた。そう。絵を描いていた時は大体こうだった気がする。


 懐かしいな……。





 ***





 第一印象は最悪だった。


「おはつに、おめにかかります、スクエラ・エイコーンです」


 赤いスカートを持ち上げて会釈する。

 可愛くできたと思った。何週間も練習した中でも会心の出来だと思った。

 両親と相手方のご両親は目を細めて笑ってくれた。


 だが、肝心の相手はというと。


「クリムです」


 ほぼ無表情で会釈を返しただけ。

 私の渾身の挨拶をみても顔色一つ変えない。

 それが婚約者、クリムとの初対面だった。


 その後も親たち同士で話が盛り上がっていたが、彼は終始黙っていた。

 私と話をするつもりなどない様子で、黙々と目の前の料理を食べている。当然目も合わない。

 ……いくら興味がないからって、こんな態度を取ることはないでしょ!


 だから、第一印象は最悪だった。





 ***





 第一印象は大事だ、とよく言われる。

 けれど、私はあまり信じていなかった。私がおてんば娘だと言われてあまりよい印象をもたれることがないせいだと思う。

 だから、私も彼のことを許す……というか悪いイメージを持たないでおこうと思った。ひょっとしたら彼は、緊張していただけかもしれない、と。


 しかし、その予想はまるきり間違っていた。

 数日後、私が再度訪問したときにそれがわかった。

 第二印象も最悪だったからだ。


「……何してるの?」


 親同士で話があったのだろう。私たちはクリムの部屋で遊ぶよういわれた。部屋につくなり、クリムは私に目もくれず一直線に自分の机にむかい、画材を手に取った。

 そんな彼をみて、私はあっけにとられて質問したのだ。


「絵だよ」

 彼は答えた。

「絵をかいてる。みればわかるでしょ」

 クリムは私をみもせず、そう言った。私はカチンときたが、何か言い返す前にクリムが言った。

「座ったら?」

「どこに座ったらいいの」


 そこで彼はようやく顔を上げ、部屋を見回して顔をしかめた。座る場所などなかったからだ。彼が今座っている机か、ベッドくらいしかない。椅子は二つも無かった。


「えっと……、ごめん」

 彼はベッドを指さした。

「そちらにどうぞ」

「……」


 私がベッドを振りかえってから視線を戻すと、クリムはすでにこちらを見ていなかった。怒鳴りたいのをぐっと我慢した。彼に嫌われたら、まずいことになる。私は婚約を破棄されて、この家を追い出される。私はそんな風に思って、手をぎゅっと握って我慢していた。


「……」

「……」


 クリムは何も言わない。

 私も、私から口を開くのがなんだかシャクで、黙っていた。

 ただ黙っているだけの時間が過ぎていった。クリムが紙に絵をかく音だけが部屋に響いている。





 私はそのまま、じーっと待っていた。しかし、何もすることがない。クリムも何も言わない。絵をかき終わる気配もない。


「ねえ、なんの絵を描いてるの?」

 ついに、私は立ちあがってクリムの絵をのぞきこんだ。顔が描きこまれていない人物画だった。

「誰の絵なの、これ」

「見ないでほしんだけど」

「じゃあ、おしゃべりしてよ」

「……」

 クリムは答えない。私はもう一度尋ねた。

「誰なの、これ?」

「……わかんない」

「?」


 ふざけているのかと思った。しかし、声のトーンはそんな感じではなかったし、クリムは口をとがらせている。「どうせ信じないくせに」とでも言いたげな顔だ。


「……ふぅん」


 クリムが説明しないので、私はその絵をまじまじとながめた。椅子に座った少女の絵だ。少女、といっても私ではない。顔こそ描かれていないが、別人であることくらいはわかる。服が違う。身長が違う。髪の長さが違う。

 けっこう上手いな、と思った。


「上手ね」

「……」


 クリムは答えなかった。

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