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ゲームの話②

 ゲーム二週目。

 シャルロット姫の最後の表情が気になって、シャルロット姫関連のサブイベントを中心に攻略することにした。


 その一つの回想イベントの途中で、なんとシャルロット姫がダンジョンの穴に落下し、勇者プレイヤーはそれを助けようと一緒に落ちてしまった。


『あ、ありがとう。助けてくれて……』

『当然だろ。死ぬかと思ったけどな』

『え、ええ、そうね……』

『高いな』


 勇者プレイヤーはいましがた二人が落ちてきた穴を見上げた。暗い穴がずっと高くまで続いている。


『登れる?』

『無理だ。お前は?』

『私も無理よ』

『そうか。別の道を見つけよう。早くしないと……』

『ベルが一人きりだものね』


 二人が落ちたのは荘厳な雰囲気のある鍾乳洞だった。いくらか歩いたところでムービーになる。画面とコントローラーが振動し、迷宮主ボスがどこからともなく落ちて来て、画面いっぱいにその姿を現した。

 植物の魔物なのにそいつは雄叫びのようなものを上げた。

 でかでかと【ヘッジホッグ】という名前が赤文字で一瞬表示される。


『下がってろ。こいつは俺が対処する』

『わ、私だって、戦えるわよ!』

『下がってろ』


 勇者はそういっていたものの、戦闘には普通にシャルロット姫も参加していた。人数が少ない戦闘ではあるし、ボスはレベル5と、勇者プレイヤーより高い。簡単なイベントではないが、クリアできないほどではない。シャルロット姫の詠唱が中断されないように気を配ってさえいれば、火力は足りる程度。


 そういうわけで(三回やり直したが)、無事ボスを撃破することができた。


『下がっていろと言ったはずだが?』

『……いいじゃない。私がいなかったら危なかったでしょ?』

『まあな』

『へ、へえ。ずいぶん素直じゃない』

『危なかったのは事実だからな。助かった』

『! きょ、今日は槍が降るわね!』


 ……?

 なんだか妙にシャルロット姫のリアクションがたどたどしい。顔はやけに赤いし……。

 ぴこん。

 ゲームの無機質な効果音とともにシステムメッセージが表示された。





【シャルロットの好感度が100上がりました】





「ひゃっ、ひゃくぅ!?」


 思わず、大声で叫んでいた。

 好感度カンストしたぞ。ウソだろ!?

 シャルロット姫、チョロすぎじゃないか?

 100……。

 100か……。100って、どれくらいの好感度だっけ。

 二週目だけど、まだ100になったキャラ見たことないからよく知らないんだよなあ。一週目はヒロイン(キャリオ)ですら、70くらいだったのに、サブイベント一発で100……?


 あった。攻略サイトの好感度表。ええと……?


 0~19:知り合い

 20~39:友達

 40~59:気心のしれた仲

 60~89:その人のことを四六時中考えてしまう

 90~99:その人のためならなんでもできる

 100:運命の相手。これから一生、その人しか愛さない。





 シャルロット姫ってこんなキャラだったのか。

 なるほど。嫌いじゃない。





 ***





『見損なったよ、シャルロット』

『……』


 しかし、結局、またシャルロット姫は死んだ。


 数十時間のプレイを経て、僕は再びシャルロット姫が死ぬところを見届けた。

 見つけたサブイベントは手当たり次第にクリアしながら進めた。カンストした好感度は下がることなく永久不滅でカンストしたままだった(プレイアブルキャラクターではなくても好感度をチェックできるアイテムがあった)し、ツンデレは直前まで継続していた。





 ならどうして、シャルロット姫はレオンハルトたちを裏切ったのだろう?





 このゲームは、最終盤クライマックスでシャルロット姫の父、皇弟殿下ブラズがクーデターを起こす。シャルロット姫はそのクーデターに参加して、主人公たちの目の前に敵として立ちはだかり、戦って、敗北して死ぬ。


 そういうシナリオだ。


 たしかにクーデターを主導するブラズ殿下はシャルロット姫の父親ではある。シャルロット姫が敵になることへの理屈は通るが、それは二人の関係性を知らなければ、の話だ。二人は不仲である。極めて、と言ってよい。二人がお互いを認めるような発言はゲームを通して一つもない。あるのは陰口と罵倒、皮肉な応酬だけ。

 父親がクーデターを起こしたからというだけでは、シャルロット姫がクーデターに参加する理由にはならない。もちろん彼女自身が望んで参加した、などということもないだろう。シャルロット姫はツンデレで、憎まれ口こそ叩くけれど、決して好戦的なキャラクターじゃない。たしかに悪を憎んでいるけれど、それ以上に争いを憎んでいて、なによりも弱者に救いの手を差し伸べることを優先する。

 彼女は、そんな人だ。


 何かが彼女にクーデターへの参加を促したのだ。

 誰かが彼女にクーデターへの参加を促したのだ。


 キーになるのは【父親ブラズ】という要素ファクターではない。心の底から軽蔑している彼のためにそんなことをするシャルロット姫ではない。


従者ベル】でもない。彼女は最後の戦いでシャルロット姫の戦闘をサポートするために命を落としている。シャルロット姫の命令で。彼女のためにシャルロット姫が戦っていたなら本末転倒だ。ありえない。


友達キャリオ】でも、【想い人(レオンハルト)】でもない。二人と戦っているし、シャルロット姫は今までに見せたことのない強力な魔術まで使用していた。つまり、初見殺しを使ってきた。この戦闘で、シャルロット姫は二人を殺す気満々だったのだ。実際、勇者プレイヤーたちが敗北した際はそのままゲームオーバーになり、「プレイヤーたちが死んだ」と暗に示すメッセージが流れ、直前のセーブデータからやり直しになる。シャルロット姫は二人を殺したとしか思えない。


 シャルロット姫と親しい人物は多くない。

 こうなると、消去法でただ一人が浮かび上がる。

 メインシナリオにはほとんど登場せず、サブイベントも数えるほどしかない。

 目立たない脇役。

 シャルロット姫のキャラ付けのためだけに用意されたような人物キャラクター

 自らの命だけではなく、【従者ベル】も、【友達キャリオ】も、……【想い人(レオンハルト)】すら投げ出してもかまわないと思わせる人物。





 それはシャルロット姫にとってたった一人の、【ビスキュイ】に他ならない。

 クーデターに参加していない彼が、キーに違いない。

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